6,暗澹
閲覧ありがとうございます。
至らない点があるかと思いますが楽しんでいただけますと幸いです。
「おはよう」
皆が無言でこちらを見て来る。久しぶりだ。あざ笑うような、汚いものを見るような視線を感じるのは。
それに加え、私の容姿が全く変わっている事にも皆何か言いたげなようだった。
誰とも視線は合わない。以前は私が、合わせようとしなかったが今は皆の方からそらしている気がした。
私は自分の机に向かった。変わらずにその場には置いてあったが、大きく太く黒い文字で「死ね」と書いてあった。机の中はゴミ箱にされていたようで、紙くずが詰め込まれていた。私はそれらをどうするわけでもなく、ただ平然と席に着いた。
すると登校して来た杏がこちらに気づいたようで駆け寄ってきた。
「ひなた!学校来るなら連絡してよ!心配してたんだよ!」
「……」
杏はそう言って私を抱きしめて来た。そして耳元でこう言った。
「この前、カフェの前で会った時はごめんね。私、桃と大河くんに脅されてるの」
私は杏の言葉を信じていいのか、わからなかった。正直、杏が今は怖い。
「それってどういう……?」
「私はひなたが好きだから」
杏はそう言うと行ってしまった。脅されてるとは?だからこの前は少し恐い態度だったのかな。それとも全部嘘?自分が悪者にならないために?私の中では、大河と桃は関わりたくないツートップだ。
そんな事を考えていると視線を感じた。梢だ。私は見ないふりをしようとしたが梢に手招きされた。「話があるの」とトイレに連れていかれた。
「……あの事皆に言わないでね。私から先生をとらないでね。あの画鋲事件から先生、少し変なんだから。先生、中川さんの事好きなんじゃないかって思う。私、先生の事愛してるから、わかるの。やっと両想いになれたと思ったのに」
「絶対ないよ。私の事目の敵にしてるだけだって」
「違う。先生はああ見えてすごく純粋なの。素直になれなくて、気になる人をいじめたくなるタイプなの。だって、私と話している時と、中川さんの話をしている時、全然目が違うもの。私には先生しかいないの!先生だけなのよ!」
「そんな……」
「中川さんなんてずっと学校に来なきゃ良かったのに……!」
梢は泣きながらトイレから出ていった。
静かに始業のチャイムが鳴り響く。
私の心の中は真っ暗だった。元々暗かったのにもっともっと深い闇に沈んでいく。
教室に戻ると大島先生が来た所だった。
「皆さん座って。ホームルーム始めるわよ」
久しぶりの空気だ。大島先生が出席を取り始める。
「えーっと、今日も人形さんはお休みね」
「います」
「あら、いたの」
先生は私の反応を見て凄く嬉しそうに微笑んでいた。梢が言っていたのは大島先生の、この表情の事なのか。クラスメイトの皆は私達のやり取りをみてクスクス笑っていた。母が昨日の夜も、今日の朝も学校に連絡を入れていたから、今日私が登校して来ることを大島先生は知らないはずがない。確信犯だ。大島先生の私に対する想いは恋とか愛では絶対にない。梢が言っていたようなものでは絶対にない。きっと私の事が好きなんじゃなくて私をいじめるのが好きなんだと思う。私が人形だから。きっと桃や大河も同じだ。
昔の楓の件も大島先生が絶対に意図的に仕組んだのだ。だってこんなにひどい事を平気でする人だもの。私は何も言い返せずうつむいていた。怖かった。こんな自分が嫌いだった。どんどん自分がみじめになっていく。自尊心が削れていく。この場から消えてしまいたかった。私は何のためにここに居るのだろう。
久しぶりに学校に来たにもかかわらず、担任の大島先生と交わした会話はこれだけだった。
ホームルームが終わり次の授業までの空き時間が来た。この空き時間もまた苦痛だった。一番関わりたくないツートップが私の所に近づいてきた。自分の手が震えているのが分かる。
「おい!」
「……なんでしょう」
「なんでしょうじゃねぇよ!何で学校来てんだよ」
「……」
大河が、ものすごい剣幕で話しかけて来た。そして私の前髪をグッと掴んでこう言った。
「何イメチェンしてんだよ?俺の顔殴った事も、桃を泣かせたこともぜってぇ許さねぇからな!」
「……やめて」
私は大河の手を払いのけた。大河はあざ笑っている。
「大河くんかっこいい!!」
こんな状況にときめいている桃はどうかしていると思う。
「やめなよ」
そこに杏が来た。意外だった。
「ひなた大丈夫?」
杏が手を差し伸べて来る。杏は味方をしてくれるの?桃と大河に脅されてるからって言ってたのは本当だったの?杏は何を考えている?
この状況に驚いているのは私だけではなかった。大河も桃も空いた口がふさがらないというようだった。
「ちょっと、杏?!」
桃はこういうのが精一杯のようだ。「何裏切ってんのよ」という気持ちが目に見えてわかるような表情だ。
私は杏が差し出してくれた手をとった。
……ドンッ!!
私は転倒して尻もちをついた。
「あはははっ!!」
「杏、最高!もう裏切られたかと思ってびっくりしたじゃん」
「お前天才だよ!人形の自信に満ちた顔見た?大爆笑だわ」
「あははははっ!」
杏は握った私の手を思いっきり引っ張り、私が立ち上がった所で突き飛ばしたのだ。そして今、桃と大河と一緒に大笑いしている。
「ひなた面白い!そういう所、好きなのよ。あはははっ」
信じなければよかった。杏はきっとこれを実行させるために、朝から優しいふりをして私に近づいてきたのだ。杏はいつから私に対してこう思っていたのだろう。初めから……?
「ほら、立ちなよ。いつもみたいに笑って!人形っ!」
私は以前のように作り笑いさえすることが出来なくなっていた。
今まで自分が犠牲になればいいと思っていた。そしたら皆が幸せになれると思っていた。でも違った。私が居なくてもクラスは変わりないのだ。
そして、一度、楓や田中さん、樋口さんといる楽しさを幸せを知ってしまったからだろうか。今まで見たいにもう笑顔で何でも「いいよ」とは答えられない。私は壊れてしまったのか。私は泣いている。心が泣いている。表情も泣いている。
私が人形で、いじめられっ子で、クラスの皆は傍観者。こんな以前と全く変わらない、むしろ酷くなっている教室を変えるには私が変わるしかなかった。
受け入れる事はもうできない。このままここに居たら死んでしまう。殺されてしまう。私に今できる事は逃げる事。
私は鞄を持って駆け出した。大河と桃と杏を無理矢理押しのけて。
「ちょっと、何すんのよっ!」
後ろの方で桃の怒ってる声がする。私は後ろを振り向かなかった。ずっと校則を守り、走らなかった廊下を全力で走る。なんて気持ちがいいのだろう。時々人にぶつかりそうにはなったが、謝りながらも全力で走った。昇降口を目指して。
「おい、待てよ!!」
「人形!逃げんなよ!」
「ひなたっ」
三人が追いかけて来たようだ。怖い。息がどんどん上がっていく。
私は階段を降りる時、足を滑らせてしまった。もう少しで昇降口だったのに!
大河が追い付いてしまった。私に馬乗りになり、胸倉を掴んでくる。
「ムカつくんだよ、お前!」
必死で抵抗しても男の人の力には全然かなわない。動けない。桃と杏も来てしまった。そして携帯のカメラを二人でこちらに向けている。
「さすが大河くん!ではでは撮影会はじめまーす!」
「やだ!やめて!やめてよ!誰か助けて!!」
大河が私の制服を無理矢理破こうとしてくる。杏と桃は楽しそうだ。周りに生徒はいっぱいいる。皆こっちを見ているはずなのに誰も助けてくれない。
私は必死で叫んだ。必死で抵抗した。でも全然かなわない。誰の耳にも届かない。誰の心にも届かない。
「ひなた!!」
遠くの方から、私を呼ぶ、私の大好きな優しい声がした気がした。
ブックマーク、評価よろしくお願いいたします。




