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悪役令嬢は素敵なお仕事  作者: 奈月沙耶
第二話 中華乱世の悪役令嬢
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46.正当で正統な天子

 思考といえばようの戦略もどうなんだろうと思う。

 はもはや混乱の極致で、今後のなりゆきと、今は黙って注視しているだろう諸侯らの動向によって天下は大きく変わる。


 壅は現在、絶好の立ち位置と時機を目の前にしているのに、古式ゆかしくわざわざ天子を表に立たせてこれを支える態で天下を我が物にしようとしている。

 だがこのやり方は完全に時代を逆走している。壅は十年前にこの方法を取るべきであったのだし、今だからこそ十年前のように武力で押し切り煒を併呑してしまえばいいのに。


 壅王は、時代の趨勢に即した政治的センスが欠けている。それは我が父上にもいえることで、古いタイプの壅王と父上が近くに存在したから、天子と煒国はこの十数年を生きながらえたのだ。


 することもないので、牢獄の中でつらつらとわたしはそんなことばかり考えていた。


 天子という権威を頭上に掲げることで諸侯らは互いに睨みをきかせ均衡を保ってきたが、今やこのシステムはもう古い。天子の権威は失墜し、抑止力になりえない。

 天子を戴く封建制に代わる新しい制度を打ち出した者が天下を取る。現在のパワーバランスからいって実行可能なのは壅かこうなのだけど……


 それにしてもわたしの処刑はまだかしら? 牢番もまったく顔を見せなくなり、わたしのことは完全にほったらかしだ。なにか異変があったのだろうか?

 外の状況が気になり始めてさすがにわたしものんびり構えていられなくなる。このまま忘れ去られて獄中死というのはさすがになあ。


 心配になってきたとき、

子豫しよさまっ」

 なんと子宇しうが現れた。

「無事だったのね、子宇。よかった。子游しゆうは?」

「わたしが無事なら子游だって無事に決まってます」

 早口に返事をしてから柵を握って子宇は涙ぐんだ。

「子豫さま、必ずお助けします。もうしばらく……」

「そんなことはいいのよ、わたしを助け出そうだなんて考えないで。そんなことより外はどうなっているの? 壅軍は?」

 今はとにかく情報が欲しい。


「煌の軍隊が国境を越えこっちに進軍してるんです、その対応で都の壅軍も大慌てで統制がとれなくなってるみたいで宮中はまた大混乱です」

「なんですって? 煌はいったいどんな口実で侵攻してきたの? 壅軍に捕らわれている天子を救出するとでも?」

 子宇は少し言葉を詰まらせ、それからまた早口で話し始めた。


「壅に国を売り渡すような叡公子は正当ではない、煌にこそ新たな、正当な天子様がおいでになると……」

 まったく意味がわからない。わたしが黙っていると、さらに早口になって子宇は言った。


淑華しゅくかさまのお子です。淑華さまがお産みになった男児こそ天子だと」

 声も出せずにわたしはただ瞠目した。

「煌軍を率いているのはあの赬耿ていこうです」

 ていこう。


「赬耿の主張はこうです。壅にかくまわれて育ったかん王家の清蓉せいよう公主に誑かされて、叡公子は、公子のお子を身籠っていたそう淑華しゅくかを追放した。煌が身柄を保護し無事に出産。この男児こそ罪なき正当で正統な天子であって、罪深い叡公子を廃し、淑華さまのお子を君主に立てるのだと」


 時系列がおかしいし、その男児は淑華姉上と蔡怜さいれいの間に生まれた子どもに決まってる。

 それをあの男は、いけしゃあしゃあと。

 わたしの脳裏に、食えない男の不敵な笑い顔がよぎる。


「よく、わかったわ……。それで、淑華姉上は?」

 あんな男にいいように利用されて姉上が黙っているわけがない。

「淑華さまは産後、お亡くなりになられたと……でもっ、でも今、子游が確認しに煌に向かっているので。必ず淑華さまの消息を」


「……ええ、そう。そうね、よくわかったわ。お願いね、何かわかったら必ず知らせてちょうだい。わたしを助けようとしなくていいから、事実を知らせてさえくれればそれでいいの」

 子宇は涙目になって頭を垂れ、後ずさるように牢獄から出て行った。


 残されたわたしはごつんと土壁に後頭部をぶつける。

 赬耿、あの男。やってくれた。やってくれたわ。

 お腹に力が入らずかすれた息しか出てこない。それでもわたしは笑い続けた。

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