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悪役令嬢は素敵なお仕事  作者: 奈月沙耶
第一話 悪役令嬢恐喝する
33/84

31.さようなら

 その後はとりたてて語るほどのこともないが、報告しておきましょう。


「うちの娘は過激すぎて」

「うちの娘は美少女だけど陰キャですしなあ」

「それを言うたら。うちの息子はうじ虫じゃ」

 なんてやり取りがあったかどうかは知らないが。


 大方はシャルル殿下の根回しのおかげで、アンリは立太子と同時にボリュー伯爵令嬢シルヴィーを娶った。翌年にはご高齢の父王の後を継いで即位、アンリ国王となった。


 わたくしはといえば、痴情のもつれで凶行に及んだくらいではもちろん極刑にはならず。生来善良であったはずが心を病んで狂乱に至ったことはまことに嘆かわしいと、終生辺境の修道院で心静かに暮らすことになった。平たくいえば幽閉だ。


 田舎暮らしはともかく、いじる相手がいないのに三日で飽きてやっぱりシルヴィーを軽く刺しておけば良かったと後悔したけどもう遅い。

 本を読んだり刺繍をしたり編み物をしたり飾り文字を書いてみたり。あらゆる暇つぶしに興じている間には、ほんのたまに、かつての友人たちが訪ねてきたりもした。


「あの人は相変わらず頼りなくて」

「絞めれば?」


「この間なんていかがわしい場所で散財してきて」

「潰せば?」


「もう顔を見るのも嫌なんです!」

「沈めちゃえば?」


 片手間に何かやりながらわたくしがただ相槌を打つだけで、彼女らはなにやら憑き物が落ちた顔つきで、また再び良妻の仮面を被って王都に戻っていくのだった。なんですの? わたくしはどす黒いものの落とし場所なんですの?


 極め付きはシルヴィーだ。

「もう、あの晩のイザベル様の凶悪な顔を思い出せば、それより怖いモノなんて何もないですよ」

 わたしあなたがいないと何もできないのオーラを計算で発動できるようになっていながら、持ち前の天然な愚鈍さで計算高さを隠し続けているあざとい王妃は、国民からもそれなりに支持されているようだ。


「それは何よりですけどシルヴィー、わたくしがここにいるからって調子に乗りすぎないことね。わたくしの腕はいつでも王宮まで伸びてあなたの心臓をわしづかみできるのよ?」

 ヒッとシルヴィーは何年経っても変わらない怯えた蛙みたいな顔になる。ああ、面白い。あんまり面白いので、アオガエルを刺繍したハンカチをプレゼントしてあげたら、感極まって涙ぐんでしまった。あらあら、まったくいくつになっても。


 新国王に即位したばかりの頃、なぜだがアンリも一度だけお忍びでやって来た。

「良い国とはどんな国だろうか?」

「そりゃあ国民がおもしろおかしく笑って暮らせる国じゃありませんの? 知りませんけど」

「俺はそんな国を作れるだろうか……」

「あなたの顔面パワーだけで道々は明るいのではなくて? あまり余計なことはせず庶民目線な王様を目指せばそれでいいのでは。せいぜい下町をご視察なすって」

 その後、下町に白馬に乗った正義の味方が出没したかどうかは知らない。


 やがて退屈が極まったわたくしは、アンリ国王下の宮廷でクーデターを起こすには、のシミュレーションに夢中になった。うん、やはり悪だくみは頭の使いがいがある。

 そうこうするうちに、クーデター計画を記した書面をわたくしの部屋で発見した修道院長に密告され、尋問を受けることなく毒杯を賜ることになった。

 せっかくお目こぼしで平穏な余生をおくっていたのに、逆恨みのように簒奪計画を練っていたとなれば、それはね。親類縁者に累を及ぼさずさくっと処刑してくださるなんてありがたい。ま、こっちの計算通りですけど。


「まったく、懲りないひとだね」

 処刑の日の朝、やはり片田舎で悠々自適に生活されているシャルル殿下が忍んでいらした。あの断罪の夜も、そして今日も。悪役令嬢わたくしの退場を見送ってくださるのがこの方だというのは面白い縁だ。


 これで退屈な日々ともおさらばだわ。鉄格子の入った小さな窓から覗く青い空を小鳥が横切る。〈イザベル〉の人生は平和すぎた。次はぜひ乱世の物語に行きたいわね。

 毒酒が並々と注がれた杯を捧げ持ち、わたくしはにっこりと微笑んだ。

 それではみなさま。さようなら、さようなら。




                第一話 終

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