第7話『ユニは"超回復"を使えるようになった!』
「魔王様、これもっときついヤツないですか?」
強化リングを着けてからしばらく経った。
最初は歩くのだけでもきつかったのに、段々と慣れてきて朝から夕方までしっかり修行できるようになっていた。今では1時間連続して走るのだって余裕だ。
あとは、魔王さまの真似をしてパンチをしたり、キックをしたりしている。
ちなみに魔王さまは毎日鑑定してくれているものの、その結果は教えてくれない。
1人でチェックして「ふむふむ」言っているだけだ。
だから、具体的にどのくらい成長したかはわからないのだけど、でも確実に成長していることはわかる。
「ユニ。回復魔法の具合はどうだ?」
「とくに変わった様子は…ないですけど…」
「でも、強化リングは軽くなってきているんだよな?その場合、考えられるのは肉体が強化されたか、回復魔法が強化されたか、そのどちらもか、だ。」なるほど、成長の中身は気にしてなかった。
「そうだな。強化リングは腕と足にも着けられるんだ。どこから着ける?」
「じゃあ、残り4つ着けます。」と用意されたリングを全部着けた。予想外だったのか「えっ?」と魔王さまは驚いている。
「何か1つずつだと、体のバランスが悪くなりそうなんで……」
「そうだけど、かなりきついよ?外そうか?やめとこっ?ねっ?」むしろ心配してくれているようだった。
「外すかどうかは一度やってみてから決めてみたいです。」
「何この子?めちゃくちゃストイックなんだけど。」
魔王さまは少し優しすぎる気がする。あたしのことを一番に考えてくれているのは嬉しい。
でも、あたしはもっと早く強くなりたい。もっとどんどんレベルアップしてみたい。
しばらくして魔王さまの言っていることが正しく理解した。めちゃくちゃきつい。
そこで魔王さまの言葉を思い出す。「魔法はイメージが大切」。
体の、特に筋肉が回復するイメージで過ごしてみる。
◇
合計5つの強化リングをつけた修行を続けて3ヶ月ほど経った頃。
明確な変化が起きた。
1日の終わりのトレーニングを終わった後に、魔王さまが鑑定をするのがルーティーンだ。
この日の鑑定後は、珍しく魔王さまからコメントがあったのだ。
「回復の魔法レベルがめちゃくちゃ上がってんなぁ。お!"超回復"が使えるようになっているぞ!」魔王さまくらいになると各魔法の強化され具合もわかるようだ。
「おぉー!"超回復"!なんか凄そう!」
初めて既存魔法が進化した。"超回復"か……何かありとあらゆるものを回復できそう!
「超回復ってのはだなぁ、トレーニングした後に……」と魔王さまが得意気に説明していたけど、その途中で我慢できず、魔法を使ってしまった。
「"超回復"!!」
(ムキッ)
何と体がムキムキになってしまったのだ!!!大袈裟かもしれないが、体が2倍くらいサイズアップした気がする。
「おーい、話聞けー!簡単に言うと、筋肉が回復して体が強化されるんだけど、遅かったかー。
実は超回復って普段から起きていることなんだ。ダメージを受けた筋肉が回復するときに前よりも強くなる仕組み。この魔法の"超回復"はその回復度合いを高め、すぐに効果を出すもの。
まぁ、アマゾネス的な感じの方向性もありなんじゃない?強そうだし……
ほら、今日は体をいっぱい動かしたから……ね!
あと、回復の加減がちょっと強すぎたかなー。うん、きっとそうだ。そうに違いない!
だから、その……どんまい…っ!」
魔王さまは気を遣って、1つ1つ言葉を選びながら話しているようだった。
「……魔王さま、コレどうにかならないですか……?」
「あんな過酷なトレーニングでも泣き言を言わないユニが泣いているだと…っ!?」
正直、体の奥からパワーが漲っているのがわかる。たぶん、同じ人間で同じ年の子になら誰にも負けないと思う。
ただ、ちょっと可愛げのかけらもないんだよなぁ。少し女の子が憧れる肉体ではなかった。
「うん。あたしも先に説明しておくべきだった。新しい魔法って嬉しいもんな。今回だけ特別だからね。」
とあたしに魔法をかけた。すると、超回復を使う前の状態に体が戻る。
「魔王さま、これは……?」
「魔法で時間を巻き戻した。あまり使いたくないんだが…"時空間魔法"ってやつだ。」
魔王さまの魔法は正直何でもアリだ。"魔法の王"で魔王さまって呼ばれていると言われても不思議ではない。それにしても"時空間魔法"ってさすがにヤバくないですか?
「時空間魔法ってなんですか?」
「時間と空間を操る魔法だな。ある程度の時間なら巻き戻せるし、指定した空間を操ったりできるけど、色々とストレスが多いから使いたくないんだへど……今回は特別だぞ♪
自分の理想の肉体をイメージしながら、ちょっとずつ、じわじわ回復する感じでやってみ。」
さっきと同じように体の内側からパワーが漲る感じはするけど、見た目はそんなに変わらない感じがする。
◇
「今日から戦闘訓練を行うっ!」
そう、今まで体術系の修行は体力トレーニングとパンチやキックなどの基本的な動作しか行ってなかった。それが、今日からは何と魔王さま相手に実践形式で戦うのだ……!
「やっぱり、強くなるには実戦が一番だよね。これはあたしとマルコの2人ともの意見なんだが、レベル2からレベル4になったときのやり方は、やっぱり良くないと思ってね。
ステータスだけ上がっても本当の意味で強くなれない。と思うんだ。戦闘には技とか駆け引きとか、純粋な肉体や魔法の強さ以外のものが必要になる。
もちろんレベル上げのときはマルコがアシストはするけど、同じレベルの相手は自分で倒せるようにならないとね。
訓練では魔法と体術のどちらも使うこと。相手との距離が5m以内のときはできるだけ体術で攻撃すること。最後に全力で……違うな。殺す気で来い!」
魔王さまの普段着の描写がなくて申し訳なかったのだが……
魔王さまは12歳くらいの少女で、髪型は金髪のツインテール。そして真っ黒な王国のお嬢様が着るような服装をしている。
その魔王さまは、あたしが修行中に着ている動きやすい服装に着替えた。これは魔王さまも本気ってこと?
「一応、手加減はするけど、ダメージ回復の魔法を常に使っておいてな。相手にダメージを与えられるように工夫して魔法を使うのも修行だから。
大丈夫!大丈夫!死にそうになってもちゃんと復活させるから!」
怖いよ!いや、普通に怖い!
「気にせずに思いっきり来いっ!」
こうしてガチで命がけの修行が始まった。
◇
戦闘訓練が始まっても、体力トレーニングがなくなる訳ではない。
ここ数日で修行の内容はだいぶハードになったと思う。
魔王さまは結構褒めてくれるのだけれど、相手が魔王さまだからか全然手応えがない…
「魔法も体術も実戦が大事。」というのはわかるけど、戦闘訓練では自分が強くなった実感があまりないから、あんまり好きではない。
かなり贅沢なんだけど、戦闘訓練は結構憂鬱な時間なのだ。
そして、魔王さまにこのことがバレた。
「ユニ。もしかして戦闘訓練、嫌いか?」正直、かなりギクっ!ってなったし焦った。
「……正直に言うと、あまり好きじゃないです……」と伝えると、魔王さまは「…そうか、ちょっと待っててな。」とだけつぶやいて、どこかに行った。
実は魔王さまも悩んでいたのだ。強さに差があり過ぎて、何回もあたしは死にそうになった。瞬時に回復してくれるものの、あまり積極的に死にたいとは思わないし、下手したらトラウマになる。と。
しばらくすると魔王さまが帰ってきた。そこには料理人のシブタニさんもいた。
「よしっ!相手をシブタニに変えて、訓練再開だっ!」
えっ?ちょっと待って?代わりがシブタニさん?レベル10なんでしょ?
「魔王さまのお願いだからな!しばらくは俺が戦闘訓練の相手をするぜ!」
何でシブタニさんはノリノリなの?
「あたしよりも適任だと思ってな。もちろん手加減はしてもらう。あと、シブタニは前からユニの成長が気になっていたみたいだからな。
シブタニ。ユニは既に体力だけでいうと魔法学校卒業レベルくらいにはなっている。そんくらいの人間の稽古をつける感じでやってくれ!」
そして、シブタニさんとの戦闘訓練が始まりボコボコにされた。
◇
魔王さまと比べると確かにシブタニさんが相手の方が充実した訓練になる。普段よりも攻撃が多くできたせいか、めちゃくちゃ疲れた。正直、体力トレーニングがかなりしんどく感じるくらいに。
今日の修行が終わったときには、もうくたくたになっていた。立てないし鼻で息ができない。
「どうだ?シブタニは?」
「強すぎです……でも、何か魔王さまより手応えを感じるので、少し楽しいです。」と答えると「……ごめんな。」と魔王さまは申し訳なさそうだった。
もっと強くなりたくて、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「魔王さま……そういえばあたしの"呪いの魔法"って使えないんですか……?」
「呪いの魔法は少し特殊でな。使えるようになるためにはレベル8以上になる必要があるんだ。
で、呪いの面が強く出ているけど、ようは魔法の結果が悪くなれば"呪い"、良くなれば祝福"になるんだ。
だから、実はマルコの呪いも