第一話
今日から高校生活が始まる。
僕が通う事になった黒曜高校の校庭には僕達新入生を歓迎してくれているかの様に満開の桜が咲き誇っている。でも桜を見た僕の頭の中で真っ先に思い浮かんだ言葉は綺麗とか優雅とかそういう物ではなく、アメリカシロヒトリだった。
あいつらは桜が散るタイミングで一緒に落ちてくる事もある最悪の──っと、そんな事を言っている場合じゃない。
校舎の玄関へ向かうと僕と同じ新入生が貼り紙の前に群がっていた。クラス発表。小中学生の頃もドキドキしたけど、高校生活初のクラス発表は更に鼓動が高鳴る。今後の生活に影響を及ぼすかもしれない、期待と不安が入り混じる一つのイベントだ。
僕のクラスは──五組か。
僕の苗字は輪島。
わ行はどうあがいても出席番号が後ろに来るのでこういう時に名前がとても見つけやすい。
中に入り内ばきに履き替えると真っ先に目に入ったのはとてつもなく広いエントランスホール。
この黒曜高校は世界的に有名な企業、高嶺グループが設立した高嶺学園大学の附属分校である。
高嶺グループとは今や日本……いや、世界の誰もが知るほどの超一流企業。金融から始まりITや物流、エネルギーや機械など、とにかく幅広い業界で世界トップシェアを誇る企業だ。
そんな企業がこの高校を作ったんだ。校舎がここまで大きくてもおかしくは無いのかもしれない。
その広さに圧倒されていた僕は我に帰ると一年生の教室がある四階へと向かった。
☆
凄い……。廊下が広ければ教室一つも大きい。
僕が通っていた中学校とは大違いだ。きっとこんなに広い高校は他に無いだろう。周りをキョロキョロしながら歩いていると目当ての教室に着く。上を見てみると『一年五組』のプレート。
落ち着け……。落ち着くんだ僕……。
まずは教室に入るシュミレーションだ。
教室内の人数は──およそ十人程度。
この人数の教室にハイテンションで入るのは大きな間違いだ。きっと初日で緊張している皆からしたら頭がおかしい奴だと思われるはず。
この事から導き出される答えは何もせず静かに──
「あれ? 輪島じゃん!」
「うわへっ!?」
突然声をかけられて変な声が出てしまった。なんで僕の名前を知っているんだろう。
振り向くとそこには見覚えのある女子生徒。
「こ、小松さん!?」
「やっほー」
中学生の頃の同級生である小松珊瑚。僕が暗い性格なら彼女はその反対。常に明るいおてんば娘だ。生きる世界が違う。
「なんでここに?」
「なんでって……。アンタと同じ理由よ。この高校はアタシ達と同じ人しか居ないんだから。さ、こんなところでボサっとしてないで教室入ろうよ!」
勢いよくガラガラと扉を開ける小松さん。後に続いて教室に入ると黒板に目を引かれた。
『新入生の皆さんご入学おめでとうございます』
表には出さないが黒板アートを見てとてもテンションが上がった。
「見て見て輪島! これ凄くない!? 写真撮って良いかな!? 良いよね!」
そして頭がおかしい奴を一人発見した。
☆
「今日からこのクラスの担任を務める大聖寺里英です。皆さんこれから一年間、よろしくお願いしますね」
大聖寺先生が一礼すると教室内から拍手が起こる。それにしても大聖寺って凄い苗字だな。
「さて、早速皆さんにも自己紹介をお願いしたいところなのですが、その前に入学式があるため体育館に移動してもらいます。それでは出席番号順に廊下に並んで下さい」
『はーい』
先生に促されゾロゾロと廊下に並ぶ最中に視線を感じた僕は振り返る。そこに居たのは一人の女子生徒。透き通った肌にふんわりとした肩まで届く水色のミディアムヘア。庇護欲が湧く可愛らしい容姿をした彼女はこちらと目が合うとさっと目を逸らした。
彼女の事をずっと見ていたかったが変に誤解されては困るのでなるべく意識しないように正面を向く。
それにしても優しそうで可愛らしい子だったなあ。でもなんで僕の事をずっと見てたんだろう。
うーん……思い当たる節が一つも──
はっ! まさか小松さんとのやり取りを見て僕も頭がおかしい奴だって思われたとか……!?
そんな……。初日からあんなにも可愛い女の子にひかれるなんて……
さようなら。僕に桃色の高校生活……
───────────────────────────
最後までお読みいただきありがとうございました。
もしもこの物語が気になったり面白いと感じていただけた
方がいらっしゃいましたら、ブクマや下の☆を付けていただけると、とても励みになります。