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『少女世界攻略記録』  作者: けゆの民
『少女世界攻略記録』<終章>
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834◇智慧の理想郷を掲げた魂魄


「よしよし、じゃあ次はね──」


和気藹々と話していた次の瞬間、ノアの視線が真剣なものへと移り変わる。

一瞬の隙も見逃さないような鋭い目。天空を翔ける女王としての目。


「……っ!」


『観測』を発動していない私では。重ねて『舞踏城(タンゼンシュラウス)』の効果時間外の私ではその瞬間移動に耐えきれるわけがない。

100倍の速度が乗算され、更に『観測』という反則を重ねてようやくコンマ以下の刹那を瞬間へと拡大していた私が何もなしで対応出来るわけがない。


あっという間すらなく背後に回られ、警戒(・・)の声が聞こえる。


「ソフィアさんが来る」


思考を真面目なものへと組み換える。

ああもう、なんで休憩しようと追い出されたこのタイミングで休憩の真逆みたいな人が来るかなぁ。

心の中での愚痴はそのままにアリスに事実だけ伝える。


アリスからの返答は一言。


──今の花奈には(・・)無害だから安心して。


は?何言ってるの?報連相って言葉の大事さ、知ってる?と文句の百個や二百個ぶつけたくなるような心持ちが追加される。


アリスからの忠告はさておき、『観測』を10%程度まであげて臨戦体勢にはしておく。

ここまでならノーリスク・ハイリターンだからね。やるだけ得ってことよ。


片瀬花奈という人物の立場を再計算する。

公には伯爵であり宮廷魔術師でしかない、ということから立場としては警戒対象(あちら)のほうが上。

なら礼儀としてはこっちから名乗るのが正解かな。

いやでもあっちがどういう意図で私達に接触してきたか次第。


ノアがいなくなった方角を見ると、そこには修道服に身を包んだ女性がいた。

年齢は概算で20歳以上ってところ。そしてその割には背が高め……多分170cmは越えてる。正確には171.6かな。


「初めまして、トラウィス王国宮廷魔術師末席に座らせてもらっています『夢幻空間』──片瀬花奈です。こんな郊外までご足労ありがとうございます」


暗に『帰れ、今私はノアと遊んでるんだよ』って感情を乗せようか悩んだもののギリギリで取り下げる。

初手での敵対は良い手じゃないからね。未知の人物とのコミュニケーションによって人類は栄えてきたわけだし。


あと個人的に気になってるのは、ソフィアさんの足下が光ってない?ってところ。

歩いたところが光るの、確かに宗教家っぽいな……と思いつつ目を合わせる。


「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。きっと神々も今日の出会いを祝福してくれるでしょう」


あ、これ予想以上にガチガチの宗教家だな?と推測を立てる。

今まであった人がセリア(職業だけ)、教皇(どうにかできた)、ロンラさん(とても優しいひと)だからな……

お堅い感じの宗教人類──天世(あまのとき)を含めても──あんま会ってない。


故に、警戒レベルはそこそこ以上に高めで。

あとノアへの言動もふまえると、ちゃんと腹黒いっぽいのよね。


そうだよね、と考えていると『観測』君が魔術を検知する。どうやら常時発動中の魔術らしいけれど、効果は……へぇ、MP光合成(光でのMP回復)。面白いじゃん。


「そちらもご丁寧な挨拶ありがとうございます。生憎と全神教について詳しくないので、ご無礼を働いてしまうかもしれませんがお手柔らかにお願いします」


宗教的マナーなんか知ってられるかよ、っていう意見はとりあえずメインとしてある。

まあそれはそれとして、宗教を大事にする気持ちはかなりわかる。いつでも不変な自分の精神的支柱があると、人生は大分楽になったりするからね。

特に辛いことがあった時とか。


「『あまねく万物に神々は宿る』──それが私達全神教共通の教えです。私達から何かを押し付けるなんてことはありませんので、お気軽に接して下されば幸いです」


あ、これ……じゃなかった。この人ある程度政治的にも優秀だな?

この言葉に乗って『わーいありがとね!じゃあこれからはタメ口で!』とかやったら、今度は政治的立場から抹殺するつもりだ。

わかっててやってるなら、かなりの曲者でしょ。


一応この人、ノアの上司でもあるけど王族らしいので。


「ご歓談中の乱入、誠に申し訳ありません。しかし折角私達の国(ソルム神国)に来てくださったノアの“ご友人”を、何もなしで帰してしまうのはこちらの恥となってしまうので、このような場を借りて挨拶をと思いました」


長い長い、いやそれが正しいんだけど長い。

さっきまでこっちはわいわいがやがやIQ2のティーパーティーを楽しんでたんだ、急に現代文の試験始まっても対応しきれないって。


「なるほど、お心遣いありがとうございます。本来ならば私のほうから出迎なければいけないというのに申し訳ありません」


「お気になさらないで下さい。こういう非公式の場でないと気軽に話せないでしょうから」


ニコリと笑みを浮かべてから、ちらと遠く──町のある方向──を見る。

ああ、なるほど。この人さてはアリスがいないタイミングを狙ったな?


「改めまして、ソフィア・アルカディア・ソルム──このソルム神国の第一王女として世界に仕えさせて貰っています」


なんでこの世界の王女、やばい人が多いんだろう……

ねぇアリス?と愚痴を軽く虚空へと飛ばしながら、智慧の理想郷ソフィア・アルカディアさんと相対する。


「えっ!?ソフィアさん、良いんだ!その名前──アルカディアの部分、すごく秘密にしてなかった?」


え?そうなの?

確かにアリスから事前に貰った情報ではソフィア・ソルム……王族だってことしかなかったけど。


「良いのですよ。これから親交を深める相手に──しかも、ノアのお友達になってくれるような方に隠し事は良くないですから」


ふーん、と『観測』由来の分析を飛ばす。

ノアが友達でいる以上、いつか自然にバレると踏んで先に明かしてきた──そんなところでしょう、という結論。

そうすれば恩も売れるし、信頼度も稼げるし、相手がどれぐらい情報を知ってるかの制御にも使えるし一挙両得的思考。


そんな分析結果が弾き出される。

うわぁ、面倒臭いタイプだぁ……アリスに全部ぶん投げちゃダメ?


まあいいや、気分を切り替えて行こう。エンカウントしちゃった以上、自然災害に撥ね飛ばされた気持ちでやっていくしかない。


「ご過分なお気遣い、本当にありがとうございます」


敬語らしきものを重ね過ぎて最早不自然にすらなっているのは意図してのこと。でもルール違反ではない以上相手に文句(イチャモン)は付けられない。


『限定空間制御』で近辺に護衛がいないことを把握してから、相手が王女でもあるということを利用する。


「なら──王国宮廷魔術師第六席(・・・)の前に単身で現れる。その危険性を聖乙女円卓筆頭様に御見せできればなと思います」


込めた意思は、折角だしちょっと遊ぼうというもの。

あんまり私とノアと──そして、何よりアリスを舐めるなよ?という意思を重ね重ね織り混ぜて。


相手が光によってMPを回復するのならば、まやかしの夜で全てを包み隠せばいい。

私の『追憶の世界(ロスト・ワールド)』は……魔法世界は年中無休の極夜だからね。


そろそろ夏に差し掛かりそうな炎天下を、真冬の新月夜へと移し変える。

やっぱりこの気候が一番過ごしやすいな、と思いながら纏う雰囲気を意図的に調整していく。


目指すはアリス・フォン・トラウィス。

底知れぬ怪異、人類の臨界点、異常の極点を参考に組み上げていく。


──あまりにも言い方が酷い。


本人から苦情が飛んできたけどしょうがない。

というか、苦情を言いたいならもうちょっと本領(・・)を発揮してから言って欲しい。


「星も月もない夜……?」


「はい。私の魔術師としての名は『夢幻空間』。私達の住む空間を自在に上書きし、実像と虚像を有耶無耶にするのが役割ですから」


そして実際私が戦闘で運用されるとしたら、そういう感じになる。

自分達にとって有利なフィールドを形成して、相手にとって不利なフィールドを作って、と後方全体支援係的な。


今でこそ前線で殴ることが多いけれど、私ぐらいの実力が平均になったとしたら──間違いなく後方での戦場調整と戦況分析がお仕事。


未だ自らがいる場所こそが奇跡の出発地点だ、とでもいうように薄い光を放ち続けているソフィアさんを見る。


つまり、と言葉を区切ってから彼女は口を開く。


「人類の進歩と文明の発達を影へと落とした写像風景。歴史の積み重ねをあなたは好むということでしょう。数多の神々に祝福されたからこそ生まれた“現在(イマ)”を大切にするのはとても大事ですから」


話が通じてるんだか通じてないんだかわからないなぁ、この人。

ああいや、私の話を理解しているかどうかでいえば、百パーセント通じてる。通じてない選択肢があり得ないほどに通じてる。

問題は、通じた上で応じようとしているのかがわからない。


言葉のやり取りは行われていても、意志疎通が行われているかは別のことだから。


「そうですね……」


何を話そうか、どうしようか、と数瞬の間思考(なやみ)を発生させる。

私にしか出来ないであろうアプローチを使って、確かめてみたいことがある──要は完全に興味本意でやってみたいことを決める。


もちろんそれは今後に繋がることで。


「『夢幻空間』と呼ばれている私ですが、様々な夢幻(・・)を知るために──太古の神話や信仰を調べていた時期があるんです」


太古の神話。それは全神教なんていう新しい時代の宗教じゃない……天世(あまのとき)の宗教群。

様々な軋轢と奇跡、その双方を生み出し続けた思想の権化。


「私も立場上ある程度は詳しいので、ご質問があれば遠慮なくお願いします。邪険に扱ったり異教だと罵ったりはしないと確約しますから」


……全神教という宗教の性質がちょっとずつ見えてきてる気がする。


別に全神教を否定するつもりではありません、単純な思考実験として聞き流して下されば結構ですという前置きを挟む。


「ありがとうございます。それでは──」


続けた言葉は単純な話。

唯一の経典(おしえ)、それに真っ向から逆らう内容。


「神様が一柱しかいないとしたら。そんなことを考えた昔々の人達です」



 

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