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『少女世界攻略記録』  作者: けゆの民
『少女世界攻略記録』<終章>
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826◇エンシェント・ウォーキング・デッド

シルクエスさんの言葉を聴き、少しだけ視点を上げる。


──そうそう、私はよく視点を上げるって表現を使う。

別にその言葉自体に深い意味合いがあるわけじゃあない。

少なくとも今こうして使っている分には、ただただ『観測』の出力を上げていこう、というニュアンス以外の意味は存在していない。

『観測』の出力を上昇させれば、自然とその視点は俯瞰的なものになるわけで。

俯瞰的、ってのは上から物事を見下ろす……という感じでもあるから、視点を上げるって言葉を使っているだけ。


第三部とやらを解放したところで、第二部の……つまり今までの嵐やら電撃やらが使えなくなったわけではないらしい。


あと平然と第三部を使うのやめて欲しい。端的にどこまであるのか読めない。

これで第五百三十四部までありますw!とかで、かつ威力やら範囲やらが強化されていくとしたら……考えるまでもなく詰みだよね。


「それで?そういう事情……逆に言えば、大隊長か国王様、或いは官庁長官しか知らないんでしょ?一介の宮廷魔術師兼、伯爵に知らせる話じゃなくない?」


……シルクエスさんの言いたいことは薄々見えてきている。

確かに模擬戦で私の実力を確かめたかった、っていうのもきっとあるんだろうね。段階的に強くしていくあたりにそういう意図が見える。


例えば最近調子に乗りすぎてるから黙ってろ、みたいなことが言いたいことのメインだった場合、こんな変に拮抗してるように見える状態は作らなくていい。最初から最大火力で瞬殺しとけば、それで(へこ)ませられる。


でもこうして、実力を試すように徐々にギアを上げてる以上、それがメインじゃないことはわかる。まあこの後ボコボコに殴られる可能性はあるけどね?


ともかく、実力を試すって意図と……さっきからちょくちょく挟まる「雑談」が、それだけじゃ終わってくれなさそうなことを示す。


「第二王女様が何処からか見出だしてきた『夢幻空間』。この国で最も底が見えない彼女が今の今まで本気で隠していた、というのなら……我々がそれを発見する手段なんてありません」


……アリス、本当に何者?

国の存亡がかかる程度じゃあ本気を出さない大隊長達にすら「底が見えない」と評価されるの、天才って枠組みに入れていいのかすら怪しくない?


「我々がいくら探しても、『夢幻空間』という人物の──ハナ伯爵の来歴は、見つからないのです。表向きの文章を信じるわけにはいかず、第二王女様の残した資料には『森に現れた』と残され、他大多数の調査では『王都への入場』が最初の記録となるのです」


まあ、そりゃそうでしょ。どう思考をひねれば『異世界転移』なんてことが思い付くんだ、って話。

イシュタムみたいに天整統が生きていたような時代から生存していたならまだしも、数千年も経過したお伽噺。


たかが一人の隠していた願望なんて、残ってるわけがない。そしてそれを想像出来るとは思わない、思えない。


「で?私に来歴でも語って欲しいと?」


「願わくは、ですけれど。夢幻の魔法を用いる魔法使い、その発想の根源を知りたいとは思います。それも重要ではありますが……もう一つ重要なことは、貴女が何物かと言うことです」


その二つ、同じ質問にしか見えないけどね。

来歴を知りたい、というのと何者か知りたい、という疑問。

それに、ただの上司に思想や価値観、発想の根源だなんて話したいと思う?それも今の今までにたすら静観してた人に。


──花奈、二節で『観測の瞳』を発動させて。


アリスからの突然の指令。それに従わない理由は当然なく、私は最大の手札の一つを部分的に解放する。


──ラスティ、花奈の解放を上手く隠して。


首飾りが振動し、肯定の合図を私へと伝える。



「『■の証明(■■者)深■の■■(■■者)』──■■全魔法『|■■の■《アスト■■■・■■ィテ■■》』」


穴空きの観測。世界を具に見届ける観測という異能。

20%くらいなら、数時間は何の弊害なしで使えるでしょうという私の推測と──アリスの予測が噛み合う。


『観測』の出力を強化したことで、自然と夜がやってくる。

真っ白いだけの訓練用空間は、その明度を落としていく。


感情分析だったり、文脈把握だったりというものをアリスに任せられるという確信が持てた私は、20%の出力を本来の用途として……つまり、空間分析へと走らせる。



──空間上における魔素の移動を観測。

座標は私の心臓と同座標、移動魔素は25,000。使用魔素は500。なるほど?随分と低燃費な魔法だ。

変化の方向性は重力操作、正確には重力素の仮定とその強度操作。

発動時刻は現在を起点として、1.764秒後。


対抗「魔法」の構築。魔素の流動性の更なる減少、或いは停止を提案。

否定、手札を必要以上に晒す必要はない。それは『夢幻空間』の範疇を越えることになる。


ならば、こうするのが楽かな?


「──『空星(からぼし)』」


発動時刻調整。発動期間0.03秒。

構成要素、魔法腐食と魔法否定。


「呪域『箱庭理喪郷(エデン・ブレイク)』、神域『匣裏理想郷フラジール・リアライズ』」


チラリ、と世界が切り替わる感触。

まあ0.03秒なんて一瞬にもほどがある。人類が視覚で認識してから、脳に送られて情報として処理されるのに普通ですら0.1秒以上かかるもんだからね。


ステータスなんて意味わからないものがなければ、反応しようとした時には手遅れってものよ。


私を押し潰す方向に強められようとしていた重力は、そんなことあり得ないとでも言うように霧散する。


最近使ってなかったけど、呪域も神域も案外便利なものよね。

呪域も神域も、どっちも魔法否定をしてくれる便利な概念。その性質上、魔法を消し飛ばしていくって使い道がメインなんだけど……


強い魔法だと、消しきれないことが多い。

多分アリスの槍とかだとそうなるのよね。消し切る前に私に直撃する。


で、強いかどうかの基準が多分使用魔素の分量なのよね。まあそこら辺はわからないけど。

だから言い方は悪いけど、変にケチろうとしてる人に強い。


……自分でも神域だの呪域だの、よくわかってないからあんまり偉そうなこと言って間違えると嫌だけどね。


「……魔銅の事件時の“模擬戦”で見せてもらったものですね。威力も理論もあり得ない位に強化されてはいましたが」


ああー、使った使った。使った記憶がある。

最早懐かしい領域に片足どころか全身どっぷり浸かってる感覚だけど、あったよね。


「それで第三第大隊長としては、私に何を望んでいるの?」


「……まあいいでしょう。仮に私が死んだら、後を継いでください。勿論当分死ぬつもりなんてありませんが、万が一の保険はかけておくべきですから」


「それだけ?」


「『夢幻空間』の存在が余りにも怪し過ぎるので、人類にとって益になるかを判断しに来ただけです」


うわぁ、露骨に消し飛ばしに来やがった。

とっとと隠居して『少世界』に引きこもるってのも一つの手かもしれないね。


「それを話してくれた、ってことはお眼鏡に叶った。そういう意味で捉えても?」


「当然です。今頃セルトスさんが第二王女様のところへ説明をしに行ってるでしょう」


うわぁ、大隊長が出しゃばってくると色々面倒なんだなぁ。

もしかしてこれ、退職するまで続けなきゃいけない感じ?アリスと駆け落ちして文字通りの「世界の果て」にでも逃げようかな。


「なるほどね」


雑な相槌を打ちながら、後でちょっとアリスに訊いとこうかなと考えを回す。

この人、確かに人類の為に動いているのは間違いなさそうなんだけど、どういう視点か全くわからないんだよね。

簡単に言えば胡散臭い。


「じゃあ、ちょっと質問。まずこの魔法の射程は?」


ここまで色々私の手札を切らせた上に、なんか都合を押し付けられたんだし、そっちの都合も少しは教えろよムーブ。

答えてくれなくても問題はないんだけど、そういう意志を伝えるための行動。


「射程距離は視界内ですよ。見えるなら20キロでも30キロでも」


ほら化け物じゃん。私ですらそんな射程範囲ないよ。

いや頑張れば空間把握くらいならうっすら出来るかもしれないけど、そこを起点に魔術法を使うなんて無理。


「次、シルクエスさんは第二王女様をどうしたい?」


「望むべくは女王様になって欲しいですね。あの能力を活用すれば、数千年の間栄華を極める王国を作ることも可能ですから」


「本人が嫌だと言ったら?」


「あの優しい第二王女様(・・・・・・・・)が放置するとは思えませんから。まあ、やりたくないならそれで結構です。それはそれで結果論として存続出来ることになるでしょう」


なるほどね。アリスの政治的手腕とかは限りなく高く買ってるけど、それはそれとして最悪やんなくてもいいと。

この人の言うことをどこまで信じるか、って別の問題はあるけど。


「じゃあ最後。シルクエスさんは私を何者だと思っている?」


ここまでの会話で、シルクエスさんは奇妙なほどに一人称を使っていない。使っていたとしても、それは「我々」だとか「大隊長」だったりとはぐらかすような言い方で終わっている。


そこに何か意図があるんじゃないか、と(うたぐ)りたくなるのは……ただの(さが)だから許して欲しい。


「──文明外存在。視野が魔術文明らしくないですよ」


核心一歩手前。そう、事実に辿り着く一歩手前で止まってしまう。

そこから先には踏み込めないだろう、確信には至らないだろうと無意識下で選別を行う。


何も知らない大人程度に、私の天世(あまのとき)を──天国(きれい)だとすら思えたあの世界を踏み荒らされて堪るか。

無意識の内に、子供のような癇癪が蓄積していく。


アリス達はいい。天整統もいい。おじいちゃんだって構わない。

まあイシュタムなら、わからなくはない。古代の英雄なら理解してあげなくもない。


けれど、魔術文明に生きているだけの存在には──それ以上、踏み込ませない。


子供らしい幼稚な考えだとは思うけれど、生まれたての私にはこの程度すら高尚なものだから。


「未来から来た異星人だとでも?」


「科学文明時代からやってきた、と言われた方がまだ説得力がありますよ」


残念ながら私の文明は、故郷はそんな新しくない。

たかが数千年の遡逆で辿り着けるような未来じゃない。


「仮にそうだとしたら排除する?古き残骸が現代に残るな、って」


「しませんよ。それに──夢幻の魔法を使用する科学文明の住人なんて、異常存在(エネステラ)以外あり得ません」


「へぇ、ここで警報音(・・・)でも鳴ったらどうするの?」


イシュタムがやってたんだ。他がいないとは限らないでしょ。

まあシルクエスさんがイシュタムを知ってるかは別問題だけど。


「あれは自然ではなく、魔法の一つですからね。『夢幻空間』なら、それこそ誤報を発生させられもするんじゃないですか?」


「本当にそれが誤報なのか。はたまた真実なのか。真相なんて解剖でもしない限り──いや、例え解剖したとしてもわからないものよ。そういうエネステラだ、としてしまえば全て解決するからね」


念のため、何か良い情報がないかとスマホを……もとい、イシュタム謹製の便利辞典を引く。

シルクエスさんについて、もしくは宮廷魔術師筆頭について何かわかればいいけど……って、あるんだ。


真面目に読む時間は後回しにして、何か面白い情報は……ふぅん?


「あと、イシュタム・コヨルシャウキ。あのエネステラと戦ったことがあるのね?」



──────

『属性賢者』シルクエス。或いは旧称を『幻想賢者』シルクエス・ヘキサルキア──それは、現代におけるトラウィス王国の宮廷魔術師筆頭である。

直属の部下である宮廷魔術師団員や宮廷魔術師に対してすら、自らの実力を隠し続けている。

魔法『魔導回路万象目録』を用いた環境改変、視界を射程とする超遠方からの一方的な魔法行使、そして何よりも周囲の魔素を循環させることで実現させている実質的な永続戦闘。


攻撃能力でいえば魔法文明において「中の上」付近ではあるものの、継戦能力という観点だけで見ればクロルマ・ルスペなど最上級にも引けを取らないだろう。


《所感》

いやいや、まさか見せ札をいくつか切っても殺し切れないとは思わなかった。

精神も安定している上、本質的に自らの魔法研究に傾倒しているから厄介なことこの上ない。

後先考えず殺すことだけに専念すれば、可能な道筋は少なくないが……それを為したところでボクの益にならない。むしろ、自分が死んでも混乱が発生しにくいように国を調整しているとでも言うべきか。


魔法『魔導回路万象目録』に収録されている第壱部から第参部。

それらは確かに小回りと連発が許されており、対処が面倒なものの、まあそれだけである。


仮に本気で相対する者がいるとしたら、備えるべきは“その次”にある『終章禁呪』だ。

魔法文明時代に造られた『禁呪』とは別物であるものの、効果は──


──────


そこまで読んで、私はスマホを仕舞う。

ネタバレなんてされたくないからね。


「……それも知っているんですね。ティーミール令嬢から……いや、その口振りは違うでしょう。さては本人から聞きました?」


あ、私がイシュタムと戦ったこともバレてるんだ。

いや問題があるわけじゃないけど、そこそこ以上に高い情報収集能力はあるという確信を持てる。


「あの古臭い観察オタクは倒したわよ。そして。仮に聞いていたとして、あのイシュタムの発言を信じるとでも?」


正直なところ。イシュタムは今後私の人生で倒したことが印象に残り続ける敵だと思う。

人類という存在が下振れたらああなるだろうな、というモデルケース。最悪のケースを想定しろ、となれば間違いなく仮想人格をイシュタムにするであろう存在。


「なるほど、わかりました。これで大隊長としての職務は終わりです」


よ、ようやく終わった……長いのよ。っていうか戦闘時に戦闘以外のことを考えさせないで欲しい。

疲れるし、何より勝負として複雑になる。


結局シルクエスさんの本気も見られなかったし、徒に私が手札とか出自のヒントをあげただけだし。

白昼から模擬戦したメリットがあんまなかったような……


これが仕事か?


はぁ、と心の中で軽くため息を吐く。

一応胡散臭かったり裏がありそうでも直属の上司ではある。最悪アリスの権力を使ったら……いやぁ、流石にキツそうだなぁ。理由のでっちあげが出来なさそう。


「──なので、宮廷魔術師筆頭として全力を出しましょう」


……さて、モチベを取り戻す時だ。

『観測』としてもそうだし、同時に私としても興味関心なある話。


これまで世界に秘匿し続けてきた宮廷魔術師筆頭の全力。

暴いて、分析して、物にして、既知に変える。楽しそうじゃない?


「お互いのことを考え、時間は10分としましょう。勿論それで決着が着かなくても終わりです」


こくり、と首肯を返事代わりにする。


モチベを上げろ、テンションを上げろ、手札を開示していけ?


──花奈、ここは全力のほうが良い(・・)。ある程度なら、治療法はどうにかなるかもしれないから……全力で。


そんなアリスからのお墨付きを貰ったので、『観測』をガンガンに回す準備をしていく。


「『虹■の■(■■者)は何処までも■■に』」


「『■■確定証■(■■記■)■■操■場(■■実験)狂■の双■(真理■■)は果てへ■■』」


「──■■全魔法『■■の■アストロール・マスィティス』」


出力を上昇させる。まあ10分程度なら60%まで上げても実質ノーリスクでしょ!

普段なら怪しいかもしれないけど、今この瞬間は私のテンションも上がってるわけだし問題ない。


「──『終章禁呪』開帳!」



 

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