825◇『王国第三大隊長』シルクエス
「なら私はその“上澄み”に入るのかな。魔法陣なんて使ったことない──『異次元の魔法使い』だからね」
魔法陣という概念。
使おうと考えたことはあるけど、書き方も何もわからないから、いざ使おうとしたら雰囲気だけペカペカ光らせる、みたいな「魔法陣生成魔術」でどうにかすることになる模様。
そんなことを言ってると格好つかないので、ここはそんな劣等技術使いませんでしたよアピール。表現を変えるなら、魔法の天才アピール。
実情としては、多分『観測』のお陰かつ天世の漫画・アニメ・小説のお陰。
「取りあえずはこう、かな」
『追憶の世界』の創造を用いて、電撃の方向を誘導する。
といっても、どこぞのクトゥルフ世界の魔法ではなく、電撃という性質を利用する形。
ファンタジーの貴族子息が使う魔法ランキング三位くらいに入ってそうな電撃だけど、電気を飛ばしてるって事実は変わらないんだから……そのまま電気の性質をいかしてあげればいい。
雑に絶縁体設置、とかでもいいんだけどもっと単純なのは電位が低かったり高かったりするものを用意すること。
今回は後者を採用させて頂きました、っと。
そしてシルクエスさんの今のところの攻撃には弱点がある。
それは電撃以外、具体的な空間指定を持たせた攻撃がないこと。
熱砂旋風は全体攻撃だし、岩山攻撃自体は「地面から生える」という都合上、そこに至るまでワンテンポ空白が生じる。
というわけで、そうされたらどうすればいいのかの観戦がてら使う魔術はそれ。
相手が空間座標を指定して攻撃してこないなら、それをやってみせる。相手の苦手なことを押し付ける。
「即興補完魔法──」
狙うは一点、シルクエスさんの丁度眼前。
顕現させるは「爆破」という現象そのもの。
流動する魔素の流れに気付いたのか、少しだけ表情を変えたシルクエスさんが魔術法を行使する。
「──『存在減衰障壁』」
「『エクスプロージョン』!」
青色の粒子がばらまかれると同時に、辺りに轟音が響く。
ここが異世界みたいな場所でもなければ、近所迷惑として近隣住民あたりから訴えられてそうな轟音。とてもじゃないけど、模擬戦とかいう名前で実行しちゃいけない規模の爆破。
熱砂も大嵐も剣山生成も止まり、煙と土埃だけが空間を占める数秒が流れる。
「予想よりは低威力でしたね。これなら『複層障壁』でも事足りたかもしれません」
そう言いながら、無傷で出てきたのはシルクエスさん。
青色のエフェクト──恐らく、体を覆う防壁のようなもの──を淡く光らせながら、土煙を一瞬の『大嵐』で払い除ける。
ひらひらと手を振り、残った土埃を飛ばす仕草。
人からの視線に敏感な『観測』が、変化を感じとる。
取るに足らない有象無象の魔術師から、「魔術師」として一人前に相応しい存在への視点変化。
わかりやすく言い換えるならば、私を「魔術師」と認めた視線が送られてきた。
「まあ流石に何も対策を用意してないわけないよね」
その反応からもわかるとおり、というか予想するまでもなく、シルクエスさんは大量の手札をまだ隠しているはず。
私だって『定義』に『渾然の夢狭間』関係に『叡知の図書』関連にと隠し持っているんだから、あっちだって何かしらはあると見て変じゃない。
私の場合、『定義』以外は基本補助的な効果が主だから汎用性というか主軸としては今でもほぼ最高峰だけど……あっちはどうかわからない。
私はアリスの必ず負ける、という言葉とリルトンの警告をかなり重く見てるからね。まさかこれだけで終わるとは見ていない。
正直、リルトンが「警告を挟む」ということは本当に重く見ている。
あの人のスタンスとして、例え何かでミスをしても──最終的にアリスが幸せならば良いというものがある。
つまり、過程も含めて全て完全正解である必要なんてどこにもない。私が行動選択を間違えることを許容しているし、何なら促進しているまである。
なのに、注意したということは──私の行動次第で、一撃で“詰み”に持っていかれる可能性があるということ。舐めてかかると、最終目標が達成不可能になるということ。
故に、シルクエスさんには……大隊長の手札には“即死の罠”があるということ。それが戦闘としてなのか、精神的な問題なのか、それとも社会的になのかはわからないけどね。
「環境変更型の魔法使いや魔術師を相手取る場合、術者本人を狙うのはある意味で定石ですからね。何の対策もしなければ狙撃主にでも狙われて死んでしまいますよ」
それはそう。私の周りだとラスティとかね。
ラスティ、大体どれぐらいまでなら狙撃出来るんだろう。
──んー、まあそれは銃に依存しますね。まあ何でもあり、最適な環境で、って言うなら……20kmは余裕ですね。
化け物か?いや、仮に風なしだったとしても化け物でしょ。実質ハーフマラソンの開始地点からゴールテープ用意人を狙撃出来るようなものでしょ?
「……でも今みたいに直接空間座標して攻撃してくる人、そんないないでしょ」
「しかし、いないわけではないでしょう?それこそあなたが一番良い例ですよ。それに魔法文明時代ではそれが普通だと言われていますから」
太古の文明がそうだったから現代でも対応出来るようにしようぜの精神、流石の一言なんだよなぁ……
「完全に影響が消えているのならいいですが、魔法文明やそれ以前に開発されたものが、所々で幅を効かせている状況で備えを怠るというのは……王国の大隊長として、良くないことですから」
数十年前の戦争で危なっかしい爆弾がどかどか使われていたから、いつ降ってきてもいいように対策する、とかならわかるよ?
でも数千年前の存在していた滅亡済文明では普通だったから、ってそれを現代でも対策し続けるってのは……心配性にもほどがある。悪いこととは言わないけどね。
「第一隊大隊長は純然たるステータスで。第二隊大隊長は武器を扱う技術で。第三隊大隊長は魔法で。第四隊隊長は例外処理で。それぞれが真に王国一を名乗れる実力を持つことで、万が一にでも人類を滅ぼさないようにするのです」
アリスすら知っているか怪しい裏の事情を今、聞かされている。そう直感する。
これは政治であって政治には含まれない、闇に葬られた歴史の残骸のようなもの。
「随分と深いところまで知っているのね。王国の事情について……いや、人類の事情について」
普通、「王国一を名乗れる実力を持つことで、人類を滅ぼさないようにする」なんて言い方はしない。そこに当て嵌まるべき単語は「人類」ではなく、「王国」である。
或いは最大限譲歩するとしても、「各国間の平和」である。王国一を名乗れることが人類存続に繋がるだなんて、普通の論理が働いている間は認められるものではない。
それでも使われるとしたら、何かしらの絡繰があるということ。わからないけれど、例えばこの人類のルーツを知っているだとか、そうでもなければ天整統あたりの真の目的を知ってるとか?
まあ何でもいいんだけど、何かしら裏事情がないと出てこない発言。
加えて、それを私という人物にする意図。
「大隊長や国王、官庁長官なら誰でも知っている話ですよ。第二王女様は……あの方は底が読めないので、どこまでご存知かはわかりませんが」
アリス、だそうよ。大隊長は何故か知らないけど人類存続の為に動いてたらしいけど……知ってた?
──当然。それくらいなら推測出来た。大隊長や高官が、本当の緊急時にはあり得ないほど協力していたことからもわかる。
「第二王女様ならわかってるかもよ?あの人の側で色々してるけど……あそこまで優しい人は、私知らないから」
「──『大嵐』、『山峰』、『凍結』、『雷霆』」
環境が何の前触れもなしに切り替わる。
暴風に電撃、剣山は変わらずに……変わったのは炎属性。
熱砂が吹き荒ぶのではなく、氷晶の吹雪へと姿を変える。
熱砂ではなく、白い吹雪へと変わったことでホワイトアウトが発生する。
即ち、視界が封鎖されるということ。『限定空間制御』でもなければ、どこから電撃が飛んでくるのかもわからない。
なんなら、足元すら見えないから……気付いたときには剣山の餌食になってる可能性もあったかもね。
まあ、よりによって『観測』持ちの私にやってもねぇって感じではあるけど。
まあそれでも肉眼ってツールが使えなくなった以上、少しは『観測』君の出番を増やさないといけないわけで。
「──第参部開帳」
はぁ、と私は心の中でため息を吐きつつも口角を上げる。
未知を既知にする。秘匿をつまびらかにする。欺瞞を暴き、真実へと貶める。観測し、それらを分析する。
きっと面白いことになるでしょう、と。




