823◇『属性賢者』シルクエス
突如として始まったシルクエスさんとの模擬戦。
まだその内情というか、意図が読めていないけれど……どうやら後継を探そうとしているらしいことは言われている。
まあそれが本心か、ってのはまた別問題なんだけどね。
さて、そんなことを考えて脳を活性化させ『観測』のほうを少しだけ……うん、本当に少しだけ動かしていこう。
まずは四方八方から飛んでくる各属性の槍。
それらひとつひとつの速度は高々aglが4桁後半あれば回避できる程度で、そこまで面倒臭いものでもない。
まあ全属性あるせいで、弱点属性があったり使用属性が片寄っていたら嫌だな、って程度。
「……にしても、前回と全く違うじゃない。『属性決壊』だっけ?あれが児戯に見えるわね」
ざっと見たところ、属性槍は秒間10本くらい。
それが6属性で毎秒60本、60fpsのゲームなら毎フレームどっかから魔術槍が飛んでくるって言い換えられる感じ。
そして気のせいじゃなければこの槍、きっちり食らうと面倒臭いことが発生しそうな雰囲気……魔素の入り方をしてる。
具体的に言うなら、見た目よりダメージが大きい。
「それでも他の宮廷魔術師団員より優れて見えたでしょう?『属性賢者』らしい働きを見せられれば、あの場においては十分なんです」
うん、そしてこの槍──アリスの使ってるものと同じだ。
アリスが汎用性高めの魔術として使っている『魔術-5-5-1』とか。ああいうのと全く同じに見える。
「ちなみに『夢幻空間』の予想は正解です。正確には私の魔術を改良したものが、第二王女様の魔術ですから」
……心を読まれてるみたいで気持ち悪いな。
その思考に私が至る、というのが推測出来ること自体には納得出来る。納得出来るんだけど、それはそれとして見透かされるのは腹立たしい。
日常的にそういうのをやってくるのは三人四人程度で十分なのよ。
さて。アリスの魔術の槍そのままならば、かなり魔素の消費が激しいのを私は知っている。
アリスは膨大な分量の杖で誤魔化していたけれど、基本的にあの属性槍は一本消費する度に千単位で魔素が……mpが消えていく魔術である。
故に、秒間60本とかいう馬鹿げた分量を放っていたら早々に魔素切れ回復が入ると思ったんだけど……
魔術槍の暴風に晒されたまま、凡そ2分。
『舞踏城』と観測で逃げ続けているけれど、一向に途切れる様子がない。
私としては『舞踏城』の時間制限以外消費するものは一切ないから、長期戦なら勝てるけど……
前提。あのアリスがこの程度で必敗を宣言する筈がない。
攻略法としては、何も正直に槍の嵐を避け続けなくてもいい。数秒間だけ何とか耐え凌いで殴り飛ばせばそれで勝てる。
だとしたら、あり得る可能性は2つ。
殴り飛ばせない手品のタネがあるのか、それともまだ本気じゃないのか。そのどっちかに限定される。
「目覚ましついでの準備運動に最適だったわ」
思ってもないことを話し、その背後で呪祟の槍を形成していく。
本数としては比べるべくもない。秒間60本なんて分量ではなく、累計三本。
正直なところ、当てるだけ飛ばすだけのやる気のない攻撃。
けれど、三本を並べれば一本くらいは相手に届く。
それに対してどういう行動を選択するのか、それを見れれば十分だという情報収集目当ての行動。
まあ呪祟槍は消耗が本当に零だから、雑に使えるってのもあるよね。
「知らない魔術……いや、技能です。一応弾いてみましたが、特に何かあるようには感じられませんね」
それほど速くもない呪祟の槍が向かった先。一瞬だけ青色の障壁のようなものが展開され、確かに防がれる。
その間も魔術槍の雨は途切れることなく、降り注いでいるわけだけれど……おかしい。まあ確かに属性賢者と呼ばれる理由はわかる。
宮廷魔術師筆頭と呼ばれ、実力を隠していると宣言する理由もまあ、わかる。
『観測』と『追憶の世界』で全天を監視しているからこそ、何も考えずに避け続けると詰む魔術槍の豪雨も避けられているし、全く途切れる気配がない継戦能力も十分の水準を越えている。
むしろ私の知ってる人で、これを越えられるのはそういないと断言出来る。
私だって『舞踏城』がなければ、一方的な防御を続けるしかなかっただろうし……
私やラスティなら、半無限に。セリアなら長期戦を。アリスなら耐え凌ぐことはまあ出来るくらいの雰囲気。
でもあのアリスのことだから、『不思議の国』や持ち前の何かしらを使って──つまり、準備をしたら、この程度に必敗するとは思えない。
「環境構築万能型魔法『魔導回路万象目録』。これは予め準備している魔術を連打する魔法だ。世界構築型万能魔法である『追憶の世界』に比べると、汎用性は高いと言うことは出来ないでしょう」
その発言の瞬間、槍の密度が文字通り倍増する。
そして追い詰める為の詰ませ筋が激烈なものとなり、滲み出る悪意を隠しきれなくなってきている。
四手先、五手先で詰ませるのではなく、徐々に袋小路に追い詰めていくような戦術への切り替え。
端的に言えば、アリスやリルトンがよく使う戦術への切り替え。
「私のより小回りが効くというのに、よく言うものね」
確かに私の『追憶の世界』より、出来ること……発動させられる魔術の種類自体は少ないのかもしれない。だけど、その全てをアホの燃費で使えるとしたら──その汎用性は限りなく上昇していく。
『追憶の世界』を活用して、どれくらいシルクエスさんのもとに魔素が流れ混んでるかを見れば、そんなのは容易にわかる。
色をつけて見るならば、最早大渦と称せるほどの魔素の動き。
それが回復に発動にと使われているのだから、自動的にそれが他者の魔術使用の妨げになっているんだろうね。
「襲え、砕け、噛み千切れ!《三点再臨》」
雑な詠唱を混入させ、相手の勘違いを誘発させつつ分裂数を上昇させる。
……うん、やっぱり魔素の流れがシルクエスさん中心で回っている。ろくでもないな、これ。
正直なところ、これ……今後私も採用しようかなって考えるくらいには面倒臭い戦術ではあるのよね。
例えるなら、テストに筆記用具を使って答えてください、ただし使う筆記用具は5秒毎に取り替えて下さい。みたいなノリ。
まあ出来ないことはないんだけど、無駄に時間かかるし面倒だし、絶妙にやりたいことが出来なくなるタイプの制限。
うん。アリスやリルトンが──特にこれは、リルトンとかが使いそうな戦術ね。
今も降り注いでる属性槍も、アリスのもの……いや、アリスがシルクエスさんを見て模倣したもの。
「王女二人の魔法戦闘教育をしたことは?」
周囲に電撃の火花を飛ばし、飛んできた雷槍の軌道を制御しながら問いかける。
アリスの魔術に、リルトンの詰めろ。あの二人の特徴をどちらも持った上で、半無限の継戦能力を持った相手への問いかけ。
「お生憎機会に恵まれませんでしたから。まあ、魔術戦闘教育ならありますが」
あの程度魔法戦闘じゃない。本物の……本気の戦闘教育なんてとてもじゃないけどやっていない、と称するシルクエスさん。
ああいや、少しずつこの人の本性が見えてきたな。
数千年続いている王国で宮廷魔術師筆頭という役職を賜っている存在にして、アリスやリルトンに対してあの戦術を選択肢として提供した存在。
そして、隠し切れず滲み出ている自身の魔法への絶対的自信。
「へぇ、天職は戦闘員ってより研究者でしょ。それも狂ってつくタイプの」
私の『観測』や、イシュタムの観察ではない。
ただただ、自身の魔法研究の為に邁進し続けるタイプの人類。
故に、きっと宮廷魔術師筆頭になったのは権威のためでも金銭のためでもない。
自由な研究環境と時間が確保され、そして前線に出てくる必要がないからだ。
言い換えるなら、王城で研究をしていればいいから──さっき言った言い分を使うことで、動かなくていいことが多いから。
そういった理由の為だけに、筆頭まで登り詰めた。
戦闘開始以前から発動していた10%の全力。
世界を創造した秘神の能力が演算を行い、その結果を出力する。
「確かに、魔法の腕前には自信がありますよ。これでも王国一を名乗れるくらいにはあります。宮廷魔術師筆頭になったのも、研究の為ではありますね」
杖がカラカラと小気味良い音を立て、地面と衝突する。
「しかし──同時に、王国の未来を案じる。それも成立するのです。第弐部開帳」




