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『少女世界攻略記録』  作者: けゆの民
効率主義と理想主義と博愛主義
84/1376

82◇天才と英雄と親友と

◇◆ハナ視点◆◇





あれから何時間が経ったのだろうか、それとも数瞬も経っていないのだろうか。

時間の感覚すらも置き去りにし、私は狂気の塊と謁見していた。

永劫とも思える一方的な暴力が終わり、私は雁字搦めの威圧の束縛から解放される。


「はぁ…はぁ…」


解放された瞬間に私は膝を付き息を切らしていた。

それから数秒経過して初めて私は自分が何をしていたか、そして何をしようとしていたのかを悟る。


周りの風景は前とは違う様に荒れ果てている。

所々が凍結し炎上し水没し陥没している。

そして一番目立つ事に球体があった付近で数本のビルらしき建築物が今この瞬間にも崩れていく。


そしてこの地獄を囲う結界にもたれ掛かる形でアリスが倒れている。


…え?


「アリス!!」


「……ハ……ナ…?」


「少し待っててね!」


私は詠唱を破棄して回復魔術(ヒール)を掛けようとするがその段階になって初めてmpが0である事に気付く。

なら…

私はバックから迷宮で取ってきたhp回復ポーションを取り出す。


「これ飲んで!」


しかしアリスからの返答はない。

瞳孔は…良かった。開いてない。

息は…してない!?

残りhpは?調べる方法がない。

こういう時に鑑定魔法みたいのが使えれば…!

hpポーションは振りかけても使える?mpポーションが違う(できない)から恐らく無理。

意識のない状態でポーションは…飲めない、普通は。

ごめん!アリス。

私は口移しでポーションをアリスの口の中に押し込む。

アリスがむせて咳をする。

…本当によかった。


「…ハナ?」


状況から判断するにこの惨状を引き起こしたのは多分私。それはビルが証明してる。

だけど不思議な事に『追憶の世界(ロスト・ワールド)』が発動された形跡はない。

その証拠にステータス減少もhpの消費も起きていない。


「…戻ったんだ………」


「戻ったって?」


どうやら私は意識を失くしていたらしい。

突然私がアリスの言葉に反応しなくなり…それと同時に球体が黒に変色して…それで私が暴れたらしい。

何故か詳細は教えてくれないけど。

改めて聞こう。


「あの中にあるのは?」


「…王権の象徴『孤神の球体欠片』…」


あれで…欠片(かけら)


「欠片っていうことは…」


「…他の欠片はない…それに欠片が後何個あるのかもわからない…」


「それでアリスは…ここに何しに来たの?」


「…あれがちゃんとあるかの確認…こんな事は…初めて…」


突然轟音がしたので後ろに振り返るとビルが完全に倒壊していた。

そしてその中心には何事もなかったかの様にそれは佇む。



私は怒りを全力で込めてそれを睨む。

恐怖が何だ。威圧が何だ。

そんなことよりお前が私にアリスを傷付けさせたなら…いつか復讐(リベンジ)してやる。



そして周りの結界が解除され…

元の美しい庭園に戻り…


《称号『呪縛を垣間見た者』》


何か不穏な物が増えた。

なにこれ?


─────

『呪縛を垣間見た者』

この世界の破片を手にし体感し自我を取り戻した者に敬意と感謝を込めて何者からか贈られる称号


状態異常『◼️◼️◼️の◼️◼️◼️』に耐性が出来る(極小)


─────


効果の意味が全くわからない。まあ恐らく悪い効果じゃないでしょ。

ならいつも通り放置で。

それよりもよっぽど放置出来ない事が大量に起きたしね。


「アリス、大丈夫?」


「…問題…ない…」


凄く問題ありそう。

現在のアリスの状況を整理しよう。

①王権の象徴が何かヤバい

②(私に)殺されかけた(推測)


…明らかに問題がある状況。


「ホントに大丈夫?」


「…大丈夫。それじゃあおやすみ」


そう言ってアリスは自室の方角に向かう。


私は覚束ない足取りで自分の部屋に戻る。

今日だけでアリスと2回戦った。

1回目は模擬戦だしお互い手加減もしていた。

2回目は私の意識はなく恐らく手加減や縛りはなかったんだろう。

アリスの消耗の様子が戦闘の激しさを物語っていた。


私は申し訳ない事をしたし取り返しのつかないことをしてしまった。

球体の時とは別ベクトルの負の感情が私の心を渦巻く。

あれが発していたのが他者に対する侮蔑や怒りなどの感情だとしたら、今私が抱いているのは自身への嘆きや失望だろう。


謝っても許されない。アリスは私に怒ってる。私が余計な事に首を突っ込むからこうやって大惨事になる。

こうやって異世界の人を私みたいな異物が不幸にしていく。

アリスがあの時言っていた『影響を与える』っていう言葉の意味が今本当の意味で理解できた気がする。


気が重いけど明日以降に差し支えるし寝よう。


それじゃあ…今日も一日お疲れ様でした。

それではお休みなさい…



朝。

時間に余裕があるので王城を散歩。

無意識でアリスを探してしまう。

…30分位歩いたけど遭遇できなかった。

しょうがない。学校に行けば嫌でも会えるか。


「あ…アリス…」


「…ハナ…?」


「おはよう?」


「…おはよう…」


珍しく私たちが微妙な雰囲気を出しているのを察してなのかクラスの人達と距離がある。

どう切り出すべきか…

普通に謝る?

違う。それだと誠意が伝わらない気がする。

アリスの得になる様な事をする?

それだと物で誤魔化すみたいにどうしてもなっちゃう。


こういう時に限って私の頭は動かない。

元の世界でまともな交友関係を築けてなかった弊害がこんなとこで。

申し訳ないけど今の私の優先度は

アリス>セリア>他の人

って感じになってる。

私は聖人じゃないから関係ある人全てを大事になんて出来ないし、そんなに器が広くない。


落ち着いて思い出して行けば、私はアリスに迷惑かけてばかりだ。

魔銅関係のこともそうだし今回の事件もある。

それに私が異世界人だって事を秘密にしてくれてる。

それなのに私はその努力を踏みにじる様な行為を平然と繰り返す。

どんどん自己嫌悪が循環していく。


「どうしたんですか?」


「セリア、ちょっと…ね?」


事の顛末を話す訳にはいかないので適当に濁す。


「よく判りませんが取り敢えず謝ってみればいいんじゃないですか?」


「でも…」


「許して貰えなかったらその時に考えればいいんです。それよりもここで謝らなければ許して貰える確率は0です。でも謝ればその確率は0から動きますよ」


「そうだね…わかった。謝ってくる。アドバイスありがとね」


そう言ってセリアの下を離れてアリスの席に向かう。

いつもなら何て事ない距離なのに今日に限ってとてつもなく長く感じる。


「アリス…昨日は本当にごめん!」


「…少し人が多い…外…行こう?」


アリスの提案のままに外に向かう。始業15分前に校庭に向かう私達が物珍しいのか周りからの視線を浴びる。

しかし外に出てその数多の視線を払い…


「…ハナは私に何をして欲しい…?」


「勿論許して欲しいけどそんな都合のいい…」


「そうじゃない」


アリスは珍しく少し口調を荒げて言った。

それはまるで『そんなどうでもいいことじゃない』と言いたげに…


「仮に私が許すとしよう。問題は許し方」


「今のハナの言い方だとまるで『私が全て悪い』と言いたげに聞こえる」


「だって魔銅も昨日のも全部私が…」


「私は自分の道は自分で決めるしその責任は全て自分で持つ」


その宣言はこの魔法世界に生きる大国の一王族としての威厳を醸し出す。


「魔銅も昨日のもハナは確かに悪かったかもしれない…でもそれは本当に100%ハナが悪い?

魔銅は私がもっと対処できた。そして昨日のは私がハナを向かわせなければ問題なかった」


「つまり…」


アリスはそこで言葉を区切り、自分を戒める様に言う。


「私にも責任はある」


私はそんなアリスの言葉に救われた様な気持ちになり…それと共に僅かな不安を感じる。


「ハナが全部背負う必要はない。だからそもそも私は昨日の件について一欠片足りともハナに不満を抱いてない」


アリスは何でこんなに私に構ってくれるのだろうか。

私が『異世界転移者』だから?アリスが私と接し続けることで利益になるから?


「ハナがそれでも『許して欲しい』って言うならそれでもいい」


私が一方的に『親友』だと思ってただけ?

またこのパターン?


「でも私としては『許す必要がある事件』なんて一つも起こってない」


なら私はこれからもこの関係を続けるためにアリスにとって利益になりそうな情報や現代知識、そして魔術魔法を…


「どうせハナの事だからこれからは私の利益になりそうな事しかしないとか考えるんでしょ?」


…っ。


「でもそれは本当に対等な友人と言えるの?」


それは…


「それは一種の奴隷じゃないの?」


「私は奴隷なんて欲しくない。立場上私が何かを願えばそれを叶えてくれる存在なんて溢れる程いる。でも私の秘密を全て話してもなお私に意見して、対等に接してくれる人はハナしかいない」


「私はハナとはまだ対等な関係でいたい」


「ハナは…どう思う?」


私、私は…


「私もアリスとは対等な関係でいたいよ…」


「でも私はアリスを傷付けた…それに私はこの世界の異物だ。本来あるべき人達と対等だなんて許されるの?」


「ハナは『許されるの?』と問うた。でも誰に許して貰うの?神?異世界人なんだからそれこそそんなものに許される必要ないでしょ?」


「それに…」


アリスは一旦話を区切り時間を確認する。


「確かに私は昨日の出来事でハナに下半身を斬られ四肢を欠損させられた…」


待って!そんなこと私知らない!

え?私はそんな…え?

脳が情報を理解するのを拒む。


「待って!私はそんな酷…」


…い事をしたの!?

そう続けようとしたが物理的に手を使って口を塞がれる。


「わかってる」


「…でも…それでも私はハナを殺そうとは一切思わなかった」


「だからハナじゃなくて象徴の方を狙った」


「その結果難易度が上がったけどね」


「…でも自分の命が懸かった場面でもハナを殺そうとは思わなかった…いや、思えなかった」


「それは異世界人だからとか国とって利益になるからとかじゃない」


「純粋に私がハナを生かしたかったから」


「それが例え私の命を奪う危険性を上げる事に繋がっても…ね?」


「ハナの言葉を借りると…」


「ここは夢の世界らしい。全てがハッピーエンドになるお伽噺の世界らしい」


ようやく口から手を離して貰えた。


「それは…」


「ならこのお伽噺の主人公は私ではなくハナ」


童話の主人公(アリス)はそう断言する。


「主人公が死ぬ物語なんてつまらないでしょ?」


「私は所詮脇役。だから脇役の出番()を犠牲に主人公が生きられるなら脇役としてこれ以上ない活躍じゃない?」


「アリスは脇役なんかじゃない!」


それにそんな命の使い方はだめだ。

アリスみたいな人を犠牲に私は…


「アリスは私より頭もいいし魔法も使える。それに器も広いし性格もいい。そんな人を差し置いて私が主人公なんてありえない!」


私の本心からのアリスの評価を伝える。


「………社交辞令を有り難う御座います?」


私の突然の言動に困惑したのか、少し間が開く。


「いや、社交辞令じゃないよ。私は自分とアリスならあらゆる面でアリスの方が優れてると思う。私が優れてるのは異世界転移による僅かな知識だけ。そしてその知識に関しても時期に私をアリスが超えていく」


「その僅かな知識が重要。1から10にするのは凡夫でも出来るけど…0を1にするのは天才でもそうそう出来る事じゃない」


「ハナの知識が例え元の世界では一般教養だとしてもこっちでは斬新で革新的な考え…」


「私の頭脳は確かに優秀かもしれない。でもそれは皆が1から10にする所を1から15に出来るだけ。無から有は作り出せない」


そう…?

私から見ればアリスは無から有どころか100も1000も作り出せそうなんだけど。


「…私としてはハナは凄いと思うけど…」


「ハナが私の方が凄いって言うならそれはそれで認める。でもその上で言わせて貰う。主人公はハナ、貴女しかいない」


何で…?


「別に主人公は天才でなくてもあらゆる人を凌駕する必要もない」


「お伽噺の主人公に必要な素質はたった一つ」


「最終的にハッピーエンドを手繰り寄せる力」


「私はそれだと思う」


そう言ってアリスは教室に戻る。

時間を見ればもうすぐで始業。

急がないと遅刻しちゃう…








◇◆


そうして少女の生活は日常へと戻る。

されど今までとは変化する。

その親友の言葉は少女に強く響く。

今度の親友は普通ではないかもしれないが、それは確かに『親しい友』である。

一度は『偽の友』に騙され全てを疑うその少女は異世界に舞い降りてかけがえのない本当の友を得る。

これを機に少女は成長する。

歪んだ友の価値観は正常に返り咲く。

正常は正義と常に定義されるとは限らないが正常は最も普遍的であり安全な物ではあるだろう。


人が変われば世界も変わる。


とある少女は天才で在ったが故に孤独であった。

友とは何か、対等な関係とは何か、その疑問を抱えて生きてきた人生は一人の異邦人によって崩される。

初めての存在に戸惑いながらも唯一の友と距離を詰める。

それが一般的な進度ではなかったとしても彼女等は彼女等なりの方法で関係を深める。

誰しもが周囲に合わせる必要などない。


──『少女世界攻略記録』より引用








章タイトルに込められた意味は『転換』です。

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