81◇『異世界転移チート』
氷の槍と銅の槍が飛び交い相殺される。
極彩色の剣が片割れから飛び立てば…
片割れは舞踏会の様に踊り避ける。
魔術の祝福が世界を抱擁しようと言うのなら…
神の領域に至る呪いがそれを拒む。
世界の叡知である【大賢者】とこの世界の異物である転移者。
その戦いは一刻一刻と激しさを増していく。
しかしどんな戦いにも終わりはある。
その要因はほんの僅かな差により生まれる。
──この不毛な戦いが始まってから早30分。
溜めていた杖のmpも大分消耗し、私のhpもかなり減っている。
しかし。
「これで終わり!」
度重なる試行と効率化により、ハナの…いや、あれの行動癖を読み切り、0.1秒にも満たない──されどこの戦いにおいては致命的な隙に全力をつぎ込む。
ここまでの辛さから最早言葉を選ぶ余裕もない。
…でもこれで終わり。
私は頭を回転させすぎた弊害による軽い頭痛を抑えながらも、今の杖に残った全mpを使い巨大な氷雷の槍を回避不可能になる速度かつ配置で射出する!
確かにそれは腹部に刺さり、ハナが吐血するのが見え…崩れ落ちる。
慌ててポーションを用意し、mpでhpを回復しつつハナの元に駆け寄る。
ハナが元に戻ってたら治療しよう、そしてここに連れてきたことを謝ろうと思いながら、ハナの元まで後一歩というところまで歩みを進めたその時。
「…アリス…」
雷の抜けた氷槍を腹部に突き刺さりながらか細く、そして今にも消え入りそうな声で私の名を呼び…次の瞬間には…
「アハハッ」
…狂気に染まった表情で嗤う。
その表情に緩んでいた気を引き締め直す。
「【■トラ■・オ■■ス】…制限体」
「…え?」
その次の瞬間。
数瞬前まで確かに存在していた私の右腕が消失する。
私は反射的に『回復之姫』を使い、切れて宙を舞う右手を左手で回収しながら切断面と融合し、そして何が起きたかを考える。
今ハナはなんて言った?
私には何も音声が聞き取れなかった。
なのにはっきりと『何か』が発動されたと認識出来た。そんなもの思い当たる節は…
…神すらわからない技能。
ハナが『自己紹介』の時に言っていたやつだろうか。
そこまで考えた段階で今度は下半身が吹き飛ぶ。
最早神経が麻痺して、痛みとかは感じないがそれでも回復しなければ数秒でhpが尽き、その次の瞬間には呆気なく死ぬだろう。
生憎私はハナの様に死から舞い戻る方法なんて習得してないので素直に『回復之姫』を使い回復する。
特殊職業に由縁を持つ魔術はmpの消耗が激しいから余り使いたくないが…この際そんなことは言ってられない。
少しでも状況を把握しようと、ハナの方角を見ると、ハナは『純白の十字教会』を振り抜いた姿勢で止まってる。
もしかして居合い抜き?
技能も魔術もなしにただ剣を振るだけでこれだけの距離に攻撃を?
そんなの物理法則下では不可能に決まっている。
正確に言うならば、元のハナの体では無理に決まっている。
なら、どういう原理で?
確実に正体不明の技能は関係してる。
でもどういう効果かは全くわからない。ステータスの超上昇?
そんな単純な物じゃないだろう。
私は超速の抜刀を察知しようとするが叶わず、手を切り落とされる。
…本格的にhpが減ってきた。幾ら切断面を繋げたり、四肢を生やしたりしたとしてもhp自体が回復するわけではないから…
「『鴉机の変界』」
私はmpとhpを変換し、hpを回復させる。
…そう言えばあの時、ハナは『制限体』…って言っていた。
あれはどういう事?
今のハナだと制限されてないのは使えない?
それとも…『孤神の球体破片』だとリソース不足?
あり得ない選択肢を思い浮かべながらも私は考え続ける。
どう考えても前者だろう。
ならハナの実力不足に感謝するしかない。
まあその不足してる実力であっても、現に今の私は手も足も文字通り出せないけれど。
さて、下らない事を考えている場合じゃない。
まず状況を整理しよう。
第一にハナは操られている。
次に『孤神の球体破片』が元凶らしい。
それでハナは正体不明の技を使う。
勝ちの目は絶無だけど0じゃない。
今こうして私がここに存在出来ている以上対抗手段はある。
それにあの抜刀で頭を狙ってこないのも、そしてあの神速抜刀を撃つのに間隔があるのも謎だ。
今のハナの実力なら幾らでも私を殺す方法があるはずだ。
態々下半身や右腕を狙わなくてもいい。
じゃあ何故…?
それにハナ本人は今までとは打って変わって全く動かない。
そこまで考えたその時、ハナの表情が辛そうに歪むのが見える。
そして次の瞬間予定調和かの様に右足が切られる。
私は回復し、代えの杖を取り出しながら推測を立てる。
これはハナが『孤神の球体破片』からの操作に抵抗してるんじゃないか、と。
だからこうなってるんじゃないか。
その推測に私は少し折れかけていた気持ちを奮い立たせる。
ハナが頑張っているんだ。
こんなとこで私が諦める訳にはいかない。
「『雷の帝怒』!」
私の使える魔術の中で、最も速い魔術を自分への戒め代わりに放つ。
舞い散る雷に対して不可視の攻撃で、それら全てを撃ち墜とすハナ。
…杖を変え、同時に気持ちを入れ替えて、私は改めてハナを観察する。
表情が歪むのが攻撃の合図。
何処を狙うかは基本わからないけれど、今までの傾向から右側が多い。
なら…表情が歪んだ瞬間に左側に飛び出す!
…今!
回避が幸いして少し髪が切られるだけで済んだ。
もう少し精度を上げないと近付いた時に回避しきれない。
私は別にここでハナと剣豪ごっこがしたい訳じゃないから…急いでハナを戻さなきゃいけない。
それにこの状態がハナの体にとって悪い状況なのは明白。
これでもしも戻らなかったりしたら……今はわからないけれど、それは私の最大魔術の効果に賭けるしかない。
そしてその魔術を発動させるためにはハナに近付く必要がある。
だからこんな遠距離でも当たってる様じゃぜんぜんダメ。
──回避が間に合わず、指が切り落とされる。
後数回といった所だろうか…近付いてもある程度避けられる様になるまでは延々と精度を上げる。
勿論私のmpは膨大とはいえ有限だから、長時間続けるわけにはいかない。
検証のためちょくちょく壁や槍を置くが普通に貫通されて四肢欠損する。
…障害物による妨害は無理か。
待って。この状態はある意味『神からの祝福』ではないだろうか。
だとしたら『空法の正八胞体』が使える…でもそのためには『法規星の世界演算』の詠唱を何処かでしなければいけない。
◇
…あれだけ有った杖の残りも後3本。
つまり、自由に使えるmpは後15000。
私自身に残るmpはあの魔術のために取って置かなきゃいけないし…『法規星の世界演算』は詠唱出来たから…そろそろか。
刃が舞う暴風圏内に近付いて行く。
徐々にタイミングが間に合わなくなり、私の体が切り刻まれ始める。
痛みは無視し致命的な傷だけを回復していく。
後10m…
花刀の舞を左右に動く事で避ける。
後5m…
暴力的なまでの威圧を受け立ち向かい進む。
後2m…
いよいよ見てからの回避が間に合わなくなる。
その証拠に小指が欠ける。
後1m…
顔を見る余裕もないので直感で即死の刃を避ける。
そして避けられなかった太刀筋が四枚の障壁をほぼ同時に砕く。
────今!!
そしてハナに向かうと見せかけた私は別の方向に魔術を撃つ。
「『魔術-0-0-3』!」
私の杖の残りmpのほとんどを消費し『孤神の球体破片』に攻撃をぶつける。
それに勘づいたハナはどこからともなく建物を生やし『孤神の球体破片』を守る。
やっぱりそれが弱点か。
建物を魔術が巻き込み破壊し、謎の力が建物を再生していく。
その拮抗は私の注ぎ込んだmp空しく建物の再生の勝利に終わる………でも、これは見せ札。
私は『不思議の国』を発動させ次の杖を持つ。
そしてこの杖を触媒に発動するは神より授けられし四次元上の整図を表すその魔法。
「『空法の正八胞体』!」
流石に神より与えられた魔法は強大で、建物の再生を崩し、内部に残る球体に襲いかかる。
しかし、それをハナは謎の力…恐らく即興補完魔法か想像補完魔法を使い、凌ぐ。
ここで決めきれなかったのはかなり辛い。
幸いにもこの状態のハナでも即興魔法シリーズはノーリスクで出来る行動ではなかったらしく何もしてこない。
今のハナにしても隙が出来る様な強力な行動だが、それは確かにその威力を発揮し、『空法の正八胞体』は均衡状態に持ち込まれる。
『空法の正八胞体』はmp消費が重く、今の私だと精々7、8秒が限界。
なら私の負けで、ハナの勝ちなのだろうか。
それは今の魔法が本当の意味での最終手段だったらそうだったのだろう。
…でも残念、それは切り札。
見せ札を開示し、切り札は失われ…最後に残るは反則手のみ。
mp消費の激しい『空法の正八胞体』はその役目を十分に果たしたので解除する。
私は補完魔法の隙を利用し、久しぶりにポーションを使う。
残りmpは2000。さて、どうしたものか…いや、そんな事はとっくの昔に決まってる。
今しかない。この隙に全部決めよう。
私はハナに近付き魔術の詠唱を始める。
ハナも回復したのか、刃の暴風が再び吹き荒れる。
ハナが構える。ここからはハナに懸かってる。
お願いだから私を殺さないでよ?
「旅人は不思議の中心へと舞い戻る」
右足が斬られる。
「その世界は創られ改変されようとも…」
左手が消える。
「不思議の国は不滅である」
左足の感覚がなくなる。
残った右手を花に向けて最後の詠唱をする。
「不思議の国より愛を込めて貴女に花束を!」
元来の詠唱とは真逆の意味を込めながらその魔術を発動させる。
されど、その詠唱には本来の意味も含まれて──
「『永劫の不可思議』!!」
ハナの内部の『不可思議』の要素…『孤神の球体破片』を取り出し、あるべき場所に戻す。
願わくば消滅させて置きたかったけれど、そんな余裕はない。
それは最後の足掻きと言わんばかりに、ハナに剣を振り抜かせ、私の体を吹き飛ばす。
私は吹き飛ばされながらも杖を取り出し、体の損傷をなけなしのmpで回復させられるところまで回復し…庭園の結界に全身を強打して意識を失った。
もしかしたら戦闘シーンは付け加えるかもしれません。
あ、勿論結果とかは変わりませんよ。
唯、杖を消費する過程と詠唱過程をもう少し丁寧に描写しようかな、と思いまして。




