75◇情けアリアリ、手加減万歳の模擬戦闘
「3…2…1…開始!」
何かされる前に逃げられる様にはしておく。
アリス相手だったら初手でコンクリに埋められても驚かないからね。
「『舞踏城』!」
この模擬戦は最大10分までなので10分間aglを100倍に…つまりmpを1000消費する。
残りmpは2868。
ここまでは必要経費だからしょうがないけどこっからは節約していかなきゃ。
「……『魔術-1-3-2』『魔術-2-3-2』…『魔術-3-4-1』…『魔術-4-3-1』…『魔術-5-3-1』…『魔術-6-3-2』」
私は不可視の風の刃を大きく動くことで安全に……
─────っ、危な!
まるでこう避ける、と判っていたかの様な位置に風刃が飛んできていた。
幸いにも近づかれれば風の音と風自体のお蔭で場所はわかる。
やっぱりアリスは油断ならない相手…
さて、他にも魔術を発動させてた筈…そう思ってアリスの方を見る。
アリスは自分の背後に5本の剣を漂わせ、そしてその全てに風を渦巻かせながら余裕の表情でこちらを見る。
なにそれかっこいい。
やっぱアリスが主人こ……
予備動作なしで剣が振り下ろされる。
私が全速力で逃げてもギリギリの速度で火を纏った剣が飛び込んでくる。
それを直感で避けて、追撃のように土剣と氷剣が…追撃のようにじゃないね。
明らかに逃げる位置を予測されてるね。
未来予知ができるのかって位正確に避けた先を予測して剣を撃ち込んでくる。
未来予測並の剣撃…ならぬ剣劇を避けきれず、氷の剣にかすり、hpが減る…うん、普通に痛いんだよなぁ…
流石にやられっぱなしという訳にはいかないので少し反撃させてもらおう!
まずは時計…改め変質魔金の懐中時計のスキルを使う。
───
《甦造恐怖》
mpを100使用して相手に恐怖を抱かせる。相手が魔銅の存在を認知している場合その由来を把握している程効果が増大する。
相手が視界に入ってる事が必要
同じ対象には10分間使用不可
再使用まで2分間必要。
『魔法更始:詠唱組成』
詠唱をし発動する現象を明確に言葉にする事で消費mpを軽減もしくは効果を増大させる
───
どんな感じになるかの検証と共にいざ使用!
「私は貴女に恐怖を与える!」
そう言うと『私に何かさせる』のが嫌なのか攻撃が激しくなり…後剣の本数が全部一本ずつ増えてる。
えぇ…まだ増えるんですか。
「人間の根源たる感情の一つ!原初の暗闇を思い出せ」
詠唱は全部適当だから毎回変わる事になるんだろうなぁ。
まあそっちのほうが相手が混乱するしいっか。
火と氷の剣を全速力かつ無作為軌道避けながらそう考える。
下手に考えると予測される。なら完全脳死で避ければ…!
予測通り検討違いの方向にアリスの剣が飛んでいき、私がきちんと避けるべき本数が1本にまで減る。
それを適当に躱しつつ、詠唱を続ける。
「これより与えるは不可避の恐怖だ!存分に味わえ!」
最後にかすりながらも4本の剣を避けて、アリスを見ながら堂々と目を見て宣言する。
「《甦造恐怖》!」
時計に封じられた魔術が宣言と共に発動し、その途端アリスの動きが鈍った。
…とは言っても一歩も動けないとかがんじがらめに拘束されるとかそう言うことではなさそう。
滅茶苦茶上手い人がかなり上手い人になった位の鈍り…
つまり私にとったらどっちにしろ厄介。
まあ助かる点といったらあの化物染みた未来予知の精度が落ちてる事。
…むしろそれぐらいしか変わらないってこのスキル使いずらい?
mp消費は変わってなかったから威力が上がってるはずなんだけど…
果たしてこれはアリス(の恐怖耐性)がおかしいのかそれともこのスキルが弱すぎるだけなのか…
まあ今度宮廷魔術師団員に試せばわかるか。
ごめん、実験台にして。まあでも尊い犠牲だしコラテラルダメージだよコラテラルダメージ。
喰らえ!副次的犠牲パワー!
そんなどうてもいいことを考えながら衰えても尚剣筋に陰りが見えない炎風を纏う剣を避ける。
残りmpは2798。
単純計算で考えれば2768位しか残らないと思うんだけど…
こういう場面で意外と自然回復が役に立つ。
新鮮な感情だぁ…そんな事考えてる暇はないんだけどね。
というわけで次のスキルはこれ!
《三点再臨》
mpを100消費して自身の背後から三本『魔銅の手』を出現させる。『魔銅の手』は使用者の意思で手の可動域に従って動作する。
という事で…
私は土…というか最早金属の剣とも言えるそれを杖で弾きながら詠唱を始める。
「封印されし悪魔の如き金属よ」
「…『魔術-5-4-1』!『魔術-5-5-2』!」
アリスは次は攻撃魔術が来ると思ったのか防御用っぽい魔術を二つ使って装備と防備を固める。
「忌々しくも現世に蘇れ!」
「…『魔術-5-5-1』!」
「《三点再臨》!!」
まず魔銅の手と氷の槍がぶつかる。
三本の手の内一本が槍で折られ一本が氷の壁を突き破る際に勢いを失い…
…そして最後の一本がアリスの周りを漂う10本の剣に弾かれる。
でも弾かれただけじゃまだ無力化できてない。
説明文を読めばわかる通りこの手は使用者の手の可動域に従って動作する。
つまり…
そうして私は剣に逸らされた魔銅を『剣との接触部分』をその『手』の間接として曲げる。
アリスは急な事で対応出来なかったのか氷の鎧を突き破られ…
…ギリギリで火と雷の剣を消費して魔銅の手をへし折る。
これだけやって漸くアリス側の剣を少し減らしただけか。
さて、まだまだ試合は終わらない。
残りの剣は6本。
私の残りmpは2704。
どうしたものか…
たかが学校主催の模擬戦だって言うのに妙に真剣な空気が漂う。
チラッと横を見るとセリアや他のクラスメイトが戦いを真剣に見てるのがみえる。
これは負けられない…色んな意味でね。
「…『魔術-16-3-1』」
アリスがゆっくりと、そして魅せる様に詠唱し、雷と炎を纏う一回り大きい剣…すなわち大剣が虚空から出現する。
折角剣壊したのに今度は何か混じった剣が出てきてるし。
ならこっちも何かしないと…でも使えそうなスキルは他にない…いや、あった。
最近使ってないし使ってた頃は本来の使用用途とは別にレベリングに使ってたスキル。
その名は…【重複魔術】!
思いっきり忘れてたわ。
まあでも思い出せたんだからセーフ…だよね?
「封印されし悪魔の金属よ…現世に再び蘇れ!」
「…!…『魔術-5-4-1』」
全く同じ詠唱から私の行動を予測したのか防御体制を整える。
でも今回は少し違う。というかアリス相手に同じ手を二回も使わない。
100%対策される上に利用される!
関の山だ、
「そして重なり積み上がり効果を増幅させよ!【重複魔術】!」
実を言うと【重複魔術】はこの世界に来て初めて覚えた普通じゃない技能だ。
「…っ、『魔術-5-5-4』!」
僅か一文の詠唱でさっきと違うことを悟り、急遽違う魔術に…おそらく汎用性の高い魔術に変えたアリス。
「《三点再臨》!!」
私が出した魔銅の手は合計30本。
逃れられるなら逃げてみなさい!
氷の壁で1本。水の剣2本が纏ってる風で一本逸らす。氷の剣2本で4本の手を対処。
そして強そうな雷炎剣で4本を焼き切る。
それでも後20本ある。
30本ともなると私はほぼ制御不可能なので場所を決めてそこに直進させる位しかできない。
これで手みたいに動かせたら強そうなんだけどね。
私の脳のキャパがね…残念なので。
そう考えるとアリスはどうやって10本の剣をあんなに綺麗に操れるの?
しかも《甦造恐怖》で恐怖が入ってた状態で。
流石スペックの化け物。
残った20本の内15本をアリスに向けて直進させる。そして5本は自分の守備のため動かさない。
しかし剣に守られていたアリスに手が触れた瞬間アリスが霧散する。
これが『魔術-5-5-4』の効果?
だとしたらどこに…
いや、こう考えよう。
この状況で私がアリスならどこに行くか。
なら選択肢は一つ!魔銅の魔の手が伸びない…
「後ろにいるんでしょ!」
そう言って急いで振り返り残った5本を伸ばす。
雷炎剣とぶつかり相殺される…
あれ?いつの間にその剣…まさか無詠唱…あ、そういえばアリスのステータスに『詠唱破棄の~』みたいのあったなぁ。それだわ。
まあ今まで使っていなかったってことはmp消費の増大みたいなデメリットがあるはず。
つまり、少しでもアリスを不利な状態に追い込めたわけだ。
それにしても、アリスはやっぱり何でもありだなぁとつくづく思う。
でもこんだけ魔術遣えばアリスのmpも大分削れてる筈…
私のmpもかなり削れたけど。
なんなら私の残りmpは1721だけど。
さて、本格的にどうしよう。アリスの事だ…一回やった事は完璧に対処されるだろう。
つまり魔銅の手の量産攻撃はもう効かないと考えて方が良い。
他に打つ手はあるかな?
……ないね。どうしよう?
取りあえず逃げながら考える……
待てよ。今はアリスを守る剣がない…いける!
敢えてこれを使って…
───
『魔法更始:詠唱破棄』
消費mpを3倍にし詠唱を省略出来る
───
何も詠唱破棄は第二王女様の専売特許じゃないんでね!
奇襲性を上げて…使うのは2つ。
まず『影姫の誕生』を使い自分の半分の強さの分身を作る…残りmp1000弱。
そこから【重複魔術】も使って分身と本体…つまり私から《三点再臨》を使ってそれぞれ3本の手を出す!
これで残りmpは400弱。
さて、それらをどう動かすだけど…
まず分身は基本制御不可能だからほっておくとして。
…よし、上手く行った!
残存mpの大半を使った甲斐在ってアリスを銅の手が塞ぐ空間に閉じ込めることに成功した。
ならここに新しく銅の手を…
「…『魔術-5-5-1』」
危な!
今までとは違う、速度重視かつ使い捨て、そして名前的に剣シリーズよりも威力の高い正真正銘『切り札』が飛んでくる。
…咄嗟に銅の手を無詠唱で使ってしまったので残りmpが100を切った。
それは使おうと思ってた魔術が使えないことを意味するわけで…
やばい。もう何もできない。
それにアリスも此方の隙を見て魔術を撃とうとしてる。
恐らく私が何か詠唱でも始めたら無詠唱で撃つのだろう。
まあ詠唱も何もmpがないから何も出来ないんだけどね。
「…」
「…」
何かを覚悟する様にアリスは目を閉じる。
何をしてくる…?剣関係の魔術による手数増加?
それともさっきの初見殺しかつ見敵必殺魔術を使う…?
そうでもなければまだ使ってない魔術を…
「……私の負け…模擬戦ありがと…ハナ…」
え?何でアリスが降参するの?
「アリス?何で降参…」
「…私は『魔術-5-5-1』で完全にmp切れ…」
「私もmp100すらないよ?」
「……え?でも余裕そうだった…」
余裕じゃないですね。ただmp切れて打つ手がなくなってどうしようかと達観してただけなんだよなぁ。
まあ結果的には(ほぼ引き分けだけど)勝てたならいっか。
…流石にこれは勝ったカウントはしたくないから心の中では引き分けにしとこ。
それにアリスもまだ大量に使ってない魔術もあったし私も制限があった。
それにmpが切れたっていうのも本当か怪しい。
その上武器に制限がかかってたんだからお互い全力が出せない試合だった…うん。いっそ無効試合でも良いくらいだね。
その後の学校は特にトラブルもなく終わった。
セリアに一緒に勉強しようって誘われたけど断った。
これでも私は宮廷魔術師だからね…
つまり事務作業もとい仕事が大分溜まってる。
その処理をしなきゃ……
やってること的にどう見ても花奈さんは魔王サイドだし、第二王女様は勇者サイド…なんでもないです。




