57◇集成カウントアップと終生カウントダウン
「《魔銅復古》」
そう言うのと同時にエネステラの回りに銅色の粒子が漂い始めた。
恐らくこの粒子に触れると魔銅を大量に摂取した人と同じ様に混乱するのだろう。
「なら近距離に近付かなきゃいいだけ!」
そう言ってもう一度即興補完魔法を組み上げようとした時…
「《贋作製作》」
そう言ったエネステラの周囲から魔銅粒子は消えて…その代わりエネステラがもう3体…
まあ有り体に言うなら分身を作った。
その分身の1つは銅製の弓を持って今にもこちらを狙撃しようとしている。
そして2体目は盾を持ち本体を守るように立つ。
最後の3体目はこちらに近付いてきながら鞭を構える。
これは流石に予想外…どうしようか…
ここで神域を使えばいいんじゃないかと思ったけど、あれはどう見ても『科学的な製品』だ。
あの研究所に行った感じからわかるけど全エネステラは良い意味でも悪い意味でも『科学製品』なんだろう。
まあ効く奴もいるかもしれないけど…取りあえずこいつには無駄だろう。
だとすると神域は実質無駄…何なら私の視界が若干塞がれるからデメリットしかない。
なら私が出来る事は…
鞭持ちの個体が近寄ってくる。そいつの持ってる鞭に向けて『回転弾丸』付きの推進力のある冷蔵庫を跳ばす。
そしてぶつかって分身を吹き飛ばすと同時に冷蔵庫を爆破。
これで吸収されての回復を封じる。
そんな事をしてると弓持ちがこっちに向かって弓を撃ってくるから──
その銅製の矢を(元の世界の)自室のドアを複数枚重ねた物で止める。
そして弓持ちに向かって手榴弾を数個投げつつ空いてる手でポーションの栓を抜いて3本飲む。
それで分身が怯んでいる隙に本体と盾持ちに近付いて…
「即興補完魔法『テレポーテーション』!」
この限られた空間の中だけで通用する論理を用いてテレポートする。
…数mも動いてないのにこれだけでmpが6000強削れた。
残りmpは合わせて13000ちょっと…多分行ける…かな。
そんな感じでmp状況を気にしつつ本体の背後に回り込んだ私は切り札となりえる『魔法』を唱える。
「即興補完魔法『空間切断』!!」
その『魔法』の名前通りエネステラの肩から袈裟斬りの形に空間が切断された。
私の想像力不足かそれともmp不足か、それともその両方か原因となって、切断された空間はすぐに戻ったけど…
…それでもエネステラにとっては痛手だったらしい。
身体中から異音を鳴らし、煙が手足から吹き上がる様は控え目に言っても深手を負ってる様にしか見えない。
エネステラが傷を再生している間にポーションを2本飲み……これで無限迷宮で取った強いほうのポーションがなくなった。
さて、私が切れる切り札はもう全部切った。
こっから先はまだ何も思い付いてないし切り札もないけど……
「…『魔術式保管書庫』『氷の帝花』」
そう、私は別に一人で戦ってる訳じゃない。生憎かなりの大型魔術だったらしく、今の魔術でアリスのmpが0になったっぽいけど、セリアが魔術を使って戦線離脱させてくれてる。
さて、体の至る所が凍り付き身体中から異音が鳴り響き…四肢から煙が上がっているエネステラの残りhpは幾ら程だろうか?
そして極め付きにはさっきのアリスの魔術で出来た傷を修復しようとしない…修復するほどの余裕もhpもないが正解だと思うけど…
それに嬉しい事は立て続く物で、さっきのアリスの大型魔術で分身は消滅したっぽい。
まああのアリスのことだからそこまで計算したんだとは思うけど…ともかく、だ。
これで正真正銘、正々堂々1対1。
さあ最終ラウンド、お互いのリソースが尽きたここが正念場!
残った魔銅との因縁を一瞬で断ち切ってやる!
戦闘開始直後と比べると若干遅くなった気がしなくもない速度──されど油断すれば一撃で首を切り落とされる速度で剣が迫る。
その剣を避けて、回避先を予測したかの様な位置に振り下ろされる鞭を『純白の十字教会』を使って巻き取ってその武器ごと遠くに投げ捨てる。
これで厄介で軌道の読みにくい武器はなくなった。まあ私のメインウェポンもなくなったけど…うん、余り使ってなかったことをふまえると収支でプラス!
そこまで考えた時。
猛烈に悪寒がして全速力で飛び退いた。
「『聖銅剣』」
そう機械音声が聞こえるのと、私の髪の一房が切り落とされるのはほとんど同時だった。
この期に及んでまだ奥の手があったの!?
あの聖銅剣とやらはどうやら自身の体の一部の銅を使い一時的に剣の射程を馬鹿みたいに伸ばす技らしい。
剣の長さが延びたのに速度が上がってる影響か、一回使う度に剣は元の長さに戻るけどそれでも近寄りづらくなったのは変わらない。
恐らく数m後ろに『純白の十字教会』が落ちてるだろうけどそれを拾いに行こうものなら首ごと切断される。
でもそれは逆にあいつが鞭を取りに行けないのも同じ。
なら変な事される前に近付いて倒しきるだけ!
「神影より我が断章を紡いだ虚像を産み出せ!」
詠唱の隙を見せた瞬間に相手が近寄ってくる。私はその場で跳び上がって詠唱時間を稼いで…
「『影姫の誕生』!!」
私の分身が4体出て…
「────『聖銅剣』」
その分身の内2体が一瞬で斬り飛ばされた。
自分の姿をした人が斬られるのは…ってそんな事考えてる暇ない!
本体である私はギリギリあの剣の射程外から詠唱する振りをする。
残りの分身2体が善戦し相手の剣を封じこめた。
今しかない。
「即興補完魔法『エクスプロージョン』!」
そう言うとエネステラはあの威力を覚えていたのか多少のダメージ覚悟でその場を離脱しようとする。
残念ながら私のmpはほぼなく、偽詠唱なので何も起きない…それで次はどう…
「《焼身転化》」
…まだ何かあるの!?
真っ赤な赤銅色に変わった剣を掲げ当たり一体を蒸発させた。
それ即ち、分身が消滅したことも同時に意味する。
しかしそれはエネステラにとっても代償なしで発動できる様な物ではないらしく、全身の銅が溶け始めている。
そして一方残りの私のmpは103…つまり2つ物を精製するのが限度。
逆説的に考えれば後2つでこれを倒せば問題ない。
さらに言うならこの瞬間に『舞踏城』の効果時間が残り30秒を切った。
これが切れても勿論終わりなので後30秒以内に2つの物で相手を倒せばいい…割りときつい気がするけど気のせいか。
取りあえずこのままmpが100を切ると2つ目が生成出来なくなって不味いから『限定空間制御』を解除。
まず手元にクレルモンの形だけ再現した剣を精製…これで残り1つ、そして残り25秒。
こちらの時間制限に気付いたのか。
それともさっきの 《焼心転化》 のせいで相手にもほとんど時間が残ってないのか急に近付いてきた。
そんな相手の攻撃を数合避けたりクレルモンで逸らしたりしながら隙を伺って…残り10秒。
隙を見付けたので後ろに回りつつ爆弾…普段ビルの爆破に使う威力が高い方を精製しそれを持ったまま近寄り、そのままエネステラの顔前に投げて爆破……残り5秒。
自分が使った爆弾で体が爆破され千切れるという味わいたくない感触を味わいながらも自動的に『死帯享楽』が発動し体が繋ぎ合わさっていく………残り3秒。
煙の中相手の姿を目視で確認し、コアが剥き出しになってる事を確かめつつ、振り向きざまの破れかぶれの攻撃を一歩下がり回避する…………残り2秒。
エネステラの顔が抉れているお陰で何処を見ていてもコアが剥き出しになってることを良いことにクレルモンを全力で投擲し……………残り1秒。
コアに深く、深くクレルモンが突き刺さりエネステラが確かに倒れる……
………………残り0秒。
『討伐対象の討伐を確認──《緊急避難》解除』
そして待望のアナウンスが流れ…長きに渡る死闘が幕を閉じた。
『舞踏城』の効果時間が切れ、それと同時にhpも僅かしか残ってない私はhpを削らない様に細心の注意を払いつつ膝から崩れ落ちる。




