1◇異世界転移ってもう少し予兆があるものだと思ってた
初投稿です。
注意:1話ということもあり、かなり長めとなっています。
「私の名前は片瀬花奈!中学三年生で趣味はゲーム!点数のとれる教科は数学?と英語!」
見知らぬ場所、見知らぬ風景、圧倒的大自然。
目まぐるしく変わり過ぎた自らの置かれている現状から逃避するように……つまり、現実逃避のために高らかに叫ぶ。
そして、自分の行動に疑問と羞恥を覚えて、自分自身を殴りたくなる衝動を抑えながら呟く。
「さてと、現実逃避はやめて状況を整理しなきゃね」
はぁ、と溜め息が漏れる。
こういう時は落ち着いて一個一個分解していくとどうにかなったりするのよ。
そう。確かいつも通りに学校から帰ろうとした。
そこまでは覚えている。授業が終わり、もうすぐこの学校も卒業か……なんて考えながら一歩踏み出した。
うん、如何にもよくある日常風景だ。具体的に言うならアニメとかだったら11話にありそうな感じのあれ。
微妙な寂しさとその他諸々の感情が胸にぶわぁっ、て来るやつ。
で、その結果知らない場所にいる、というわけだ。
本当に意味がわからない。いやどういうこと?って感じ。
薄々勘づいてはいるのよ。というか、その“何となく”が信じきれてないからこうやって現状整理っていうのを丁寧にやってるわけで。
そうそう、一応『教室からの出立』と『大自然への人間不法投棄』の間にも物語はあったりする。
…………
……
…
目を閉じた記憶がないというのに目を開く、なんて稀有な体験をする。
視界に広がるのは一面の白い空間。
あー、これは。小説やアニメで最近流行ってたそういうのかな?
『気付いたか』
「誰?通報するよ」
というわけで、流れとしては察せたものの罵倒は脊髄反射の賜物なので私の意思は関係ない。
とりあえず後々の証拠のことを考えてポケットをまさぐる。こういう時は写真を撮っとけば後々の証拠に使えるからね。
そして今気付いた、スマホがない!やばやばじゃん。通報できない。証拠もつくれない。
一回も使ったことがないイソスタも、虚無みたいなことしか呟いてなかったフォロワー50くらいのツウィッターも使えない!
ついでに言うなら家族と公式からしか通知が来ない緑アイコンSNSも使えない。いやまあ元々使ってないようなものだったけどね。
つまり現状を軽く整えると、目の前の犯罪者が私みたいな美少女に欲情する変態だったら一発でアウトってこと。
え?美少女じゃない?
………まあ、それはそれ、これはこれよ。
自分が良くて平均ちょい上程度の顔しかないのは理解しているし。
有名宇宙的恐怖神話TRPGのステータスを参考にするなら……12か13くらいじゃない?
……ゲームとかのデータ消されてないかな、そもそもスマホ自体を壊されていたらどうしようもないなぁ……
現実逃避ついでに、毎日ログインボーナスの心配をする。こんなよくわからない事故だか事件だかで1,000日の連続ログインが途切れられてもいい迷惑。
特にこれがドッキリとかその類いなら迷惑どころの騒ぎじゃない。訴えたら全然勝訴できるんじゃないか?
『起きて第一声がそれか』
ファミチキください、みたいに響く感じで届く雑音をノイズキャンセリング機能付き鼓膜でシャットアウトする。
手帳にデータ復元コードあるかなぁ……
スマホが壊れてても最悪それだけあれば命は助かる。憲法25条とかで定められてる生存権は満たせる。
あっ良かった。手帳は有った。
もしなかったら近くにいるであろう暫定犯罪者を訴えるとこだった…
いや、まあ十中三十くらいで誘拐されてるんだし訴えたらお金もらえるのでは?
『まあ良い、今からお主には所謂「別の場所への転移」…つまり異世界転移の様な物をしてもらう』
まあとにもかくにも、よ。
どうにかして此処から出なきゃいけないってのは変わらない。テレビ局がセットするにもそこそこお金がかかりそうなあれそれをどうにかしなきゃいけないわけだ。
取り敢えず私をさらった愚かな犯罪者のご尊顔でも拝むか……
あれ?
というか今、完全に聞き逃しちゃいけないこと言ってたよね?
「異世界転移って言ったよね?」
『そうだ 、今から異世界転移の様な物をしてもらう』
ヤバイ人に拐われたなぁ……悪質なタイプの新興宗教とかかな?
良くみるとなんか後光がさしてるし。自力でスポットライトとか買ったんならわざわざ出費ご苦労様。
まあでも私は数学が得意って事情するぐらいだからね!
これぐらいじゃあ信じられないのよ。理知的人類だからね!
よくよく見ていけば粗が見つかるはずよ。
さてどうしよう……でもまあ流石にこのパターンは想定外かなぁ。
身代金誘拐ならまだしも、悪質新興宗教パターンは色々やばい。
とりあえず犯罪者側の言い分でも聞きますか。
『漸く話を聞けるようになったな』
普通、こんな状況に直面して話を聞こうって思える人はいないと思うんだけど。
むしろ話を冷静に聞ける人がいたらすごいと思う。
「名前はよ」
私は犯罪者相手でも、未開の地に生きる原住民相手でも意志疎通を取ろうとする寛容な精神の持ち主だからね。
そしてその意志疎通には名前を聞くことが必須!
古事記にも書いてある。日本書紀は知らない。
『名前など言う必要がない。強いて言うなら……っともう時間がない』
は?
お前が始めた物語だろうが。
『お主にはこっちの都合で転移してもらう。適当に技能とか選んどいたからもう行ってこい。ステータスとかは適当にすれば見れるから』
説明が急に乱雑になったなぁ……
威厳と同時に色々大事なものがぶっ飛んだ気がする。
にしても、そんなに焦ってどうするんだろう?
あ、身代金要求とか?やっぱり『異世界転移』のふりした高度な誘拐?
なら確かに急がなきゃいけない……かなぁ?
それに私の両親、そんなにお金ないよ?
200円とか300円なら出してくれるかもしれないけど。
プレミアムフライデーセールとかで身代金25%offとかにならない?
今なら主婦達のお財布事情を考慮してくれる家庭的な誘拐犯、ってことで情状酌量があるかもよ?
「何言ってるかわからないけど出来るもんならやってみたら?」
どうせテレビかドラマかに巻き込まれたんでしょ、とばかりに100%の虚勢を込めて発言する。
すると、何やらファンタジーモノでよく見るような形の魔法陣っぽい物が出てくる。
──あ、これはやったかもしれない。
そんな思考が出来たのも僅かな間。
それは大量の光を放ち、あまりの光量に目を開けていられなくなり──
気付いたら森にいた。
「私の名前は片(略)」
はい、そんなわけで現在地点です。
控えめに言ってやらかした感はある。
どちらにせよ、もうちょっと真面目に動くべきだった気がしなくもないけど……
「で、ここホントに異世界?」
そう。ここは本当に『異世界』なのかって問題がある。
しかしその問題はいとも容易く解決へと導かれてしまう。
うーん、と悩むために上を見ると、月が三つあった。
お互い衝突とかしないのかな?
もしそれで大爆発とかされると非常に困るんだけども。
それはそうと、だ。一つ確実に言えることがある。
「ここ、本物の異世界ってことじゃない?」
久しぶりの頬がひきつる感覚。
ということはさっきの暫定犯罪者のことを考えるなら、本当ににステータスとか見れるってことよね。
方法の説明がネットのまとめ記事レベルに乱雑だったけど。
ステータスって言えばいいの?
まあ物は試しって言うからね。
大した期待なんて寄せていなかった。
ただ、そうなれば少しは面白いかな?と思っての軽はずみな行動。
「ステータス!」
有り体に言ってしまえば、記念受験みたいなノリ。
効果なんてまあないでしょ、と考えながらもテレビでやってる星座占いを地味に見てしまうような感覚。
それがこの瞬間、ぐるりと覆される。
~~~~
名前:?
種族:人類種
lv1(ボーナスポイント:+10)
職業:無職
hp…10/10
mp…10/10
str…5
vit…5
dex…5
agl…5
luc…2
「特殊技能」
【御伽之城主】lv1
「称号」
『唯一之取得者』
~~~~
おーけーおーけー。
突っ込みどころしかないけど、一応出てきた。出てきてしまった。
……まずだけども、『名前:?』って何?
流石に異世界転移らしきものに巻き込まれてて、名前欄が空欄ってケースはあんま見たことない。
私の記憶がバグってたとかでもなければ『片瀬花奈』っていう何だかんだお気に入りの名前があるんだけど。
そして『職業:無職』って何?そんなワザワザ宣言してくることか?せめて学生って書いて欲しい。
更に突っ込みをしていこう。
【御伽之城主】ってなんだろう?
そんな恥ずかしい役職になった覚えはないんだけど。
あの犯罪者に色々と文句言いたいところ。
はい、じゃあ最後に。
「どうしてこの異世界転移、夜かつ森の中スタートなのかなぁ……」
私は辺り一面の暗闇を見渡し、街灯一つない状況を見て溜め息を吐きながらそんなことを思う。
まあ悔やんで、うだうだしてもしょうがないか!
取り敢えずこれから何するか考えよう。
①テレビか何かだと信じてひたすら撮れ高が上がるような行動をする。
②一応異世界だと信じて堅実に慎重に生きる
③夢だと信じる
これくらいかなぁ……
①は月を見た感じウソっぽいし、もし①だとしてもそもそも完全に一般人である私に撮れ高を期待するテレビ局側があれ。もっと有名芸能人かインフルエンサーを配役に選んでくれ。
③だったらここまでリアルな感覚はないだろうし…もしかしたら明晰夢みたいな奴かもしれないけど……まあ、とりあえず②と仮定して進もう。
ちなみに堅実に生きるとは言ってない。
まあ現実味がないからしょうがないよね。
流石に色々とやばくなったら考えざるを得なくはなると思うけど。
そう考えて歩き始めてから数分。
周りの景色が木一辺倒から変化しないなぁ、とか思いながら歩いていると緑色のファンタジーの定番みたいな奴がでてきた。
要約するならゴブリン、って呼べそうなやつ。
色々生物学的にどうなってるんだろう、と思わなくもないけど残念ながら今の私は非力人類。襲われた瞬間に物理的に殺されるか精神的に殺されるかの終焉二択を突きつけられる運命にある。
幸いにも、こっちにはまだ気付いてないみたいだし……ばれないように避けていけば、どうにか……どう、にか。
あれ、これ目があってない?
その微妙に濁った瞳孔、きっちりと私を認識している気がするんですけれど、そこら辺どうですか?
逃げなくちゃ。普通に死ねるな、これ。
一周回ったのか、最早自分を俯瞰的にみることに成功していた。
というかあのゴブリン、メチャクチャ速くない?
10mは離れていた筈なんだけどもう5mくらいになってね?
「待って、ストップ、Selten」
「グギャギャ!」
ダメだこれ、ワンチャン言葉が通じる可能性を考えたけど全く通じてない……くそう、一応ドイツ語も試したのに。
焦ったことが因果して、そんなバカみたいなことを考えている内に、ゴブリンに接近される。
その当然の結末として、その手に持つ木で出来た粗雑な棍棒が人類に──つまり、私に向かって振り下ろされる。
その速度は走る速度とは比べ物にならないくらい緩慢なものではあった。
敢えて弱った獲物をいたぶるかような動き。
本来ならば、万全ならば避けられていたかもしれない攻撃──即ち、害意。
初めて向けられた純粋な殺意に足がすくんで動けなかった。
そして、その結果は次の瞬間に……予想された通りにおこる。
「痛っ!」
声には出したものの、それは反射によるもので。
実際は脳内物質か何かの影響で痛いとは感じられなかった。
しかし服越しでも赤く染まる腕がきっちりとその怪我の存在を主張してくる。
不味い不味い不味い。絶対に色々よろしくない!
焦りのあまり、視界に入ってる情報を再度認識しながら考える。
な、何かないの!?
この状況を打開できる方法は!
落ち着け、落ち着こう、絶望的状況でこそ思考を止めるな!
この『異世界転移』が本物だと仮定しよう。その時私にあって然るべき──いや、真実だと信じるべきことが一つあった。
どうせ嘘、じゃない。
すがらないで死ぬよりは、すがってから死ぬほうがまだいいでしょ!
数分前に見たステータス。
そこに乗っていた一つの単語。
おとぎ話の城を預かる、なんて大層な名前が付けられていた技能。
何かが出来るはず。「特殊技能」なんて名前を冠しながら何も出来ないなんてことがあればそれはもうルール違反!
何か特殊な事ができるはず……
私はその「特殊技能」で何が出来るのを強く知りたい、と念じながらさっきの『ステータス』を開く要領で願う。
──故に、希望は叶えられる。
~~~~
【御伽之城主】lv1
現在使用可能技能一覧
『舞踏城』
a人にn分間aglとdexをm倍する
(a,n,mは1以上の整数)
mpをa×n×m消費
無詠唱可
使用後5n分間のリキャスト
~~~~
「よ……し?いや待て待て待て!」
出うわっ、なにこの数式仕様。やめてよこんな異世界味ないの!
もうちょっと平和にやろうよ!なんかこう、違うじゃんねぇ!?
突然突き付けられた数式と変数に心が踊り、同時に怒りも沸いてくる。
っていうか、そんなことより早く使わないと、えーっと…mpは10しかないから、mを3、aを1、nを3にして……発動!
「『舞踏城』!」
──体の中から何かが抜ける感覚。
もしかしてこれが『魔術』?
『【御伽之城主】の使用回数が一定回数を越えたのでlvが2に上昇しました』
なんか聞こえたけどそれどころじゃない!
何かが抜けた感覚に続き、体が軽くなる。
……っけど足りない。
頭を回せ、思考を回転させろ、状況を観測しろ!
これでようやくゴブリンと同じくらいの素早さになった。
想定解決法は二つ。倍率を上げるか基礎値を上昇させる。
前者は実行済み、故に考えられるのは後者!
……そうだ!さっきのステータスにあった「ボーナスポイント」っていうのを全部aglに振ればいいんだ!
ボーナスポイントを全部aglに振って、これでaglは大分上がったはず!
お、よしよし、なんか体が軽くなった。
よし、後はこのバフが切れる前に逃げ切れれば………
走ること数分。
緑の醜悪な小鬼が視界から消える。
ふう、なんとかなった……のかな?
もうゴブリンも見えないし、森も一応抜けられたし。
そうだそうだ。
折角だし落ち着いてステータスをもう一回見てみよう。
もしこれ以降もこんな世界線だとしたら、じっくり見とくのは絶対得になるからね。
~~~~
名前:?
種族:人類種
lv1(ボーナスポイント:+0)
職業:無職
hp…3/10
mp…1/10
str…5
vit…5
dex…5
agl…15(+10)
luc…2
「特殊技能」
【御伽之城主】lv2
称号
『唯一之取得者』
~~~~
ちゃんとボーナスポイントが反映されてるね。
なんか【御伽之城主】のレベルもあがってるし、何が変わったんだろう?
~~~~
【御伽之城主】lv2
現在使用可能技能一覧
『舞踏城』
a人にn分間aglとdexをm倍する
(a,n,mは1以上の整数)
mpをa×n×m消費
無詠唱可
使用後5n分間のリキャスト
(残り787秒)
『十二時の鐘』
味方にかかっているデバフと敵にかかってるバフを解除する
mp(解除する数×200)を消費
~~~~
『十二時の鐘』、ねぇ……どうやって使えと?
mpが足りないせいでどうしようもないし、そもそもこれ複数人に掛けられるまでmp上がるの?
現在mp、最大値がそもそも100なんだけど。
◇
そんなことを考えながら適当な方向に歩いていると、視界の先に街が見えてきた。
如何にもファンタジー中世って感じ、かな?
「意外と小さいなぁ」
東京と比べて建物の高さが。
そんな言葉が漏れてしまう。まあ630mとかある東京と比べるのがアウトってのはそうなんだけど。
「そうかい?私はここより大きい街を見たことないんだが」
「うぇいっ!?」
急に話しかけられたから驚いて変な声がでた気がする。まあいいや、人生恥さらし製造機は今に始まったことじゃない。
落ち着いて話しかけてきた方を見ると、商人のような格好をした男が立っていた。
「驚かせてしまったのならすまない。私はレントル商会のケルトと言います。この王都を小さいと言ったお嬢さんはどこの出身かと思いまして」
あ、やっぱ商人だった。
それにしてもどうしよう。
初手発言ミスったなぁ……まあ適当に誤魔化すしかないか。
というかここ王都なの?
「いえいえ、この王都が小さいと言ったわけではなくて自分の出身地の集落が小さいなぁと思いまして」
普通に王都の街並みを小さいなぁ、とか言われたら……私の場合なら東京を小さな街だなぁ、とか言われたらってことだから。
怒らないまでも多少なりとも心証が下がると思うので、慌てて付け足す。
「見ての通り私は田舎からここに来たもので普通の街がどれくらいの大きさか知らないんですよ」
一応補足的なことを言って、信憑性を上げておく。
こういう地道な努力はそんなに嫌いじゃないからね。
「ああ、言い忘れていましたが私の名前はハナといいます。何か有ったらレントル商会を利用させていただきますね」
私、片瀬花奈渾身の言い訳タイムもなんとか無事にのりきれたので、自己紹介がてら恩返しできる普通の人アピールをする。
「それは有り難う御座います。ところでつかぬことをお訊きしますが王都へ入るための身分証って持っていらっしゃいますか?」
あっ……
そんな物必要なのか。どうしよう。
もしかして異世界に来て街に入れずに餓死する?
食料調達のために森に戻るか?なんてことを考えながら視線を来た場所に向ける。
すると、何かを察したのか商人さんが助け船を出してくれる。
「もしお持ちでなければ私の紹介という形で仮の身分証を作ってもらう、というのはどうでしょう?」
へへへへ、善意には全力で媚を売るタイプの人類ですどうも。
「それは有り難いので是非ともお願いしたいのですが、どうしてそこまで面倒を見てくれるのですか?」
だけど私は完全な無償の善意なんて信用しないぞ。
何か裏があるはず。いや裏って言う程のことじゃないかもだけど、何かしらあってもおかしくない。
仮に私を王都にいれた世紀の大犯罪とか犯したら責任を被ることになるからね。
「ここで会ったのも何かのご縁ですから。それにもしこれで貴女が商会をご利用頂けたら利益にもなりますしね」
異世界人、チョロいのか……?
その後も雑談を続けていると、この国の名前はトラウィス王国だということや王様の名前はウィシュト王だということがわかった。
まあ王様の名前なんてあまり日常会話では使わないから覚えてなくてもいいか。
まあ頭の片隅に座らせて置く位にしておくしか出来ない。
宝の持ち腐れどころか生ゴミの持ち腐れ感。
そんなこんなで数分歩いていると、王都の城壁に近づいた。そのままの流れで入場門に到着。
「身分証を提示してください」
「すみません。この子は私の連れでして、田舎から出てきたばかりなんですよ。入ったらすぐに身分証を取らせるんで仮の身分証を発行してくれませんか?」
「ケルトさんの紹介なら信用できますし大丈夫です。あっすみませんが銀貨1枚払ってください。規定ですので」
「はい勿論です。規定は守りますよ」
そう言うとケルトさんは兵士に銀貨を1枚あげ……えっ?
「ちょっ、ケルトさん?そこまでして頂かなくてもいいですよ。私が払いますんで」
「そうは言ってもハナさん、地方と王都では通貨が違いますよ?王都の通貨持ってるんですか?」
それはそう。
でもなんか、こう……
「すみません、持っていません。稼いたら直ぐに返しますので今回だけ宜しくお願いします」
「大丈夫ですよ。元々そのつもりでしたし。これが仮の身分証です。どこかのギルドでちゃんとした身分証は作れますよ。私はちょっと時間がないので申し訳ないですがここで別れさせて下さい。今日の宿はこのお金で何とかしてください。それではまた」
そう言ってケルトさんは走って……走ってない。
多分ステータスのaglが高いだけだなこれ。
まあ兎に角、道の奥に消えていった。
ちなみに渡されたお金は銀貨5枚だった。
というか本当にagl速いな。
さて、ギルドに行って身分証を発行してもらえばいいわけだけど……ギルドってどこだろう?
……よし!適当に歩いてたら見つかるでしょ。
そういえばケルトさんは普段どこにいるのか聞いてなかったな。やらかした気がする。
勤めてるらしいレントル商会ってところにいけば会えるかな?
……まあそのレントル商会とやらの場所も知らないけど。
それにしても、この街やっぱり人が少ないなぁ…まあ日本と比べるのがおかしいんだけど、私のイメージではもっと屋台や売り場みたいのがあると思ったんだけど。
でも元の世界の中世みたいに道端に排泄物とかゴミとかが落ちてるわけでもないし、やっぱ魔法による差かなぁ。
それか夜だってこともかなり関係はして……もしかして夜にはやばい何かしらが襲ってくるとか?
でもそれならケルトさんが出歩く理由も、そして私に注意しない理由もわからないから、多分違うはず。
そんなことを考えながら道なりに歩いていると、教会らしき物が見えた。
折角だし入ってみよう。
ヤバそうだったら逃げればいいしね。
「失礼します」
そう言ってから教会に入ったけれど誰もいなかった。
シスターみたいな人がいるわけでもないのに鍵すらかかってない。無用心?
でもそれはそれとして、やっぱり静寂な雰囲気だなぁ。
私の家は別に特定の宗教を信じてる訳じゃないけど、やっぱりこういうとこに来ると何か『それっぽさ』みたいのを感じる。
トポスって言うんだっけ、こういうの。
「すいませーん。誰か居ませんか?」
誰もいないっぽい
……しょうがない、また今度にしよう。
さてさて、気分を変えて今度こそギルドを探そう。
再度道なりに沿って歩いていると王城についた。
……え?ギルドどこ?あと宿どこ?
「すみません。ギルドとこの辺りの宿の場所を教えてください」
私は恥を忍んで城の周りの兵士に聞いた。
言われた通りに進むと「ルフイエの宿」という名前の宿があった。
というか何なら意外と単純な道のりだったし、多分さっき彷徨ってる間に一回ここ通ってる。
一文字違ったら海底に有りそうな宿だなぁ。
そんなどうでもいいことを思いながら、宿に入って部屋を取る。
3日で銀貨4枚だった。
これは高いのか?
一応ご飯もついてるけど。うーん、わからないなぁ。
相場についての知識が無さすぎる。
まあいいや、ギルドに行くかぁ……夜だけどまだやってるでしょ。
宿から出て数分歩いた場所にギルドはあり、私は数分間の徒歩を楽しんだ。
つまるところ、今の私の目の前には私冒険者ギルドがらしきそれがあるわけだけど。
もしかして異世界系ラノベで定番と化したイベント「冒険者から絡まれる」みたいのがあるかも?
そんなワクワクとドキドキを心の隅のほうに抱えながら扉を開ける。
「初めまして、冒険者ギルドにようこそ。登録の方はこちらに依頼の方はあちらにお願いします」
そ、そっちパターンだったか……!
王都だからかギルドも丁寧だなぁ。
最初が小さな街とかだったらまた違ったかもしれない。
まあ小さいところよりは利便性とかも高いだろうから、文句なんてのは当然ないのだけれども。
「すいません。ギルドに登録したいんですけれど」
「それなら、この記入用紙に必要事項の御記入をお願いします」
なになに?名前、性別、年齢、職業、技能……これ全部書かなきゃいけないの?
「これって全部書かなきゃいけないんですか?」
「技能や職業は隠したいと考える冒険者もいらっしゃいますから強制はしていませんが、パーティーを組む時にそれを見て判断される方がほとんどなので、本当のことを書く冒険者も多いですよ。」
「ありがとうございます」
名前は……ハナ でいいか。
漢字で書いたり、名字を書いたりしてありがちな変な誤解とかされたら嫌だし。
性別は女、年齢は15、職業は……無職って書きたくないよね。プライドとかそこら辺的に。
よし、空欄にしよう。
それで最後に技能だけども……私の【御伽之城主】って「特殊」技能なんだよなぁ。
なんか怖いし、しょうがないけどここも空欄で。
「これでお願いします」
受付の人は職業も技能も空欄だったことに少し驚いたのか目を少し見開いた。何かしら書いとけば良かったかなぁ。でも流石に嘘はかけないし。
そこまで人間終わってる自覚はない。
「それではこれでカードを発行しますが開始ランクはFからでよろしいですか?」
えっ?そういえばランクって最低何?
よくある感じならFかG位かな?
「すいません、ランクについて教えてください」
受付の人の目が完全に見開いた。どうも、田舎出身です。
その後二、三分続いた説明を要約するとこんな感じ。
最低ランクはF で街の雑用や弱い討伐系統の依頼をやって、そこからE.D.C.B.A.S.EX っていう順番で上がっていくらしい。
最終的には皆Cランクくらいまでには行くけれど、C以上はあんまりいなくて冒険者の上位10%位らしい。
それ以外も細かい事項とか色々説明してたけど……まあ要するにテンプレ通り。
つまりは冒険者同士の私闘は自己責任だし、ギルドは見つけ次第止めはする……うん?微妙に違う?まあいいか。
私闘するつもりないし。
あと特筆すべきなのは、ギルドは別に国並みの権力がある訳じゃない……ってこと位かな?
「もし、戦闘に自信がないようでしたら、ギルドの訓練所を利用したら如何でしょうか。勿論何かあった時のためにギルドの物がつきます。本来は銀貨1枚必要なんですけれども初回ですので無料で構いませんよ」
おっ、それは単純にありがたい話。
何故ならばも何も、まず私は今lv1の上に日本でぬくぬくと温水で育ってきた一般人だから、恐らくこの世界のlv1より圧倒的に弱い。小突かれただけで瀕死になる自信がある。
だから返事は一瞬で決まった。
「よろしくお願いします」
それから少しだけ手続き……貸し出し申請用紙的なのを書いて。
「では此方にどうぞ」
そう言われて案内された先にはなにやら厳つい男の人がいた。
どう話しかけようかと悩んでいると……
「よう、俺がここのギルドマスターのリユニオンだ。この施設の詳しい説明は受けたか?」
うわ~っ、如何にもギルドマスターっぽい人、来た~!
「いえ、受けてないです」
「なら説明してやろう。この訓練所は正式には『低等級怪物仮想戦闘体験装置』っていうんだが、まあ…そんな長ったらしたい名前はどうでもいい。重要なのはゴブリンやフォレストウルフとかのモンスターと戦う訓練ができる、ということだ。これの便利なとこはアイテムや素材は手に入らないが経験値は入るというとこだ。あと出てきてから五分立つと自動的に消える所も最初のうちは役立つな」
長い長い長い。要約してくれ。
普通の人間はそんな長いのを一気には飲み込めないって。
「でもそれなら皆外に出なくならないですか?」
無限にここだけでレベルアップできるじゃん。
経験値効率は最悪だけど、安心安全にレベルをあげられるなら私はここで努力チートするのも厭わないよ?
「残念だが普段よりもらえる経験値は凄く少ない上に同じモンスターで貰える経験値に上限があるから無理だな」
ああ、やっぱり無理だよね。
「そういえば、ここでケガした場合どうなるんですか?」
「別に治ったりはしない。が、俺は回復魔術も一応使えるから無料で治してやろう」
ケガしたら痛そうだけどこんなに安全そうな場所、他にないしなぁ。
「じゃあお願いします。とりあえずゴブリンをお願いします。あ、一番弱いのってゴブリンであってますよね?」
「ああ、その通り一番弱いぞ。少し待ってろ?よし。あと30秒したら出てくるからそこの円の範囲に入っとけ」
「あ、はい、分かりました」
そうして示された円状の空間に入って少し待つと、さっき見たゴブリンが出てきた。来る……!?
さっきの奴より動きが遅い?
相変わらす醜悪な声を出しながら殴りかかってくるゴブリンを技能も使わずにいなしているとギルドマスターが話しかけてきた。
「攻撃しないのか?」
あ、攻撃手段がないことに今気付いた。
しょうがないから5分間ゴブリンの動きを観察するしかないなぁ。
──そろそろ5分間位経っただろうか。
ゴブリンの動きも大分読めてきて暇に成ってきたなぁ。
「あっ」
5分経過したらしくゴブリンが光の塵となって消えていった。
「なぁ、なんで一回も攻撃しなかったんだ?」
「ゴブリンの動きを観察するためです。ちょっと試したいことがあるので後ゴブリン二匹、追加でお願いします」
「ああ、わかった」
また少し待つと、ゴブリンが二匹出てきた。うん、想定通り。
少しは辛いかと思ったけど、二匹が協力してこなかったのと、さっきのゴブリンで行動を読んでいたのが幸いしたのか難なく五分経ってしまった。
「次、三匹でお願いします」
「まだやるのか?まあいいが。よいしょっと」
よしよし、出てきた。
……やっぱり簡単だなぁ。
基本的に真っ直ぐ殴りかかってくるか、ジャンプしてから殴りかかってくるかの二択しかないからめちゃくちゃ簡単だし、これで最後にしようかな……
──《固有魔術『限定空間制御lv1』を習得しました》
何か変なのがでてきた。
mp足りるかわからないけど使ってみようっと。
《『限定空間制御』を使用するには魔術名の詠唱が必要です》
あっ、そうですか。
それじゃあ遠慮なく。
「『限定空間制御』!」
……おお、おお?後ろのものが見える。
どう説明したらいいかわからないけど後ろが見える。
あれよ、第三とか第四みたいな追加の目が後ろとか横についたかんじ。
これなら楽勝では?
そう思った次のタイミング。
急に後ろが見えなくなる。
え、なんで?と思考が回り出すもほぼ同時に何となく原因に思い当たる節がある。
~~~~
名前:?
種族:人類種
lv1(ボーナスポイント:+0)
職業:無職
hp…8/10
mp…0/10
str…5
vit…5
dex…5
agl…15(+10)
luc…2
「特殊技能」
【御伽之城主】lv2
「称号」
『唯一之取得者』
「固有魔術」
『限定空間制御』lv1
~~~~
予想通りだなぁ。
やっぱりmp切れてたか……っていうか私の魔法mpの燃費、基本的に悪すぎない?
戦闘ってそんな数秒で終わるものじゃないと思うのよ。
そんなごたごたは有ったけれど、別に苦戦する相手でもないので、無事に5分経つ。
目の前で飛びかかろうとしていたゴブリン達が消えていった。
「なんで攻撃しなかったんだ?」
「そりゃあ、攻撃手段がないからね……ってすみません普段の口調がでてしまって」
「冒険者同士なら基本誰にたいしても敬語はあんまり使わないから、わざわざ作らなくていいぞ。後何か武器貸してやろうか?新人歓迎キャンペーンってことで今なら無料でいいぞ」
「そもそも武器って何があるの?」
「そりゃあ短剣とか長剣とか弓とか杖とか色々あるだろ?」
「聞き方を変えて、私にあっている武器って何だと思う?」
「そこからかよ……そうだな、さっきの動きを見る限り短剣とかいいんじゃないか?」
「じゃあ短剣でお願いします」
武器選びは武器の専門家に任せるに限る。
いやまあここで鎌とか渡されても困るけど。
「わかった、持ってくるからここで待ってろ」
そう言うとギルマスはどっかに行ってしまった。
さて、何もできない。
さっきの『限定空間制御』を使おうにも、【御伽之城主】関係の魔法を使おうにもmpがないから検証もできない。
どうしようか……そうだ!
さっきギルマスが弄ってた機械を弄りにいこう。
えーと、確かこれだったはず、っと……
お、いけた、ふーん、ゴブリン、フォレストウルフ。
割りと種類はあるのね……ん?何これ何これ。
『ウェルファイドの分霊lv1』?
なんでこれだけレベル式?しかも分霊だし。
あと、レベル式なら何でlv2以上がないんだろう?
まあいいや押してみよ。
lv1なら私とレベルは同じだしいけるでしょ。
あれ?なんか出てきた。
《注意 この設定は高位階者推奨です 本当に実行しますか? 実行/拒否》
……やめよう。
高位階者が何かわからないけど少なくとも私でないことくらいはわかる。拒否を押してから離れとこ。
「持って来たぞ。ほい、これだ」
ギルマスが戻って来て、私に渡したものはまあまあ装飾が施された高そうな短剣だった。
「高いんじゃないですか?この短剣」
「ああ、高いぞ。確か白金貨3枚とかだったはずだ」
白金貨の価値はわからないけど高いことぐらいはわかる。
少なくとも私の今の全財産よりは高い。
「じゃあなんで新人冒険者にそんなものを?」
「今、これしか短剣がなかったからだ。はい、じゃあこれ」
そう言われて短剣を渡される。
手に短剣がおさまる。
《固有武器:クレルモンに認められました》
おっ、これは私にしか使えない武器で無双するパターンでは?
お、私の異世界無双物語始まる?
「ちゃんとクレルモンに認められたか?」
あっ……やっぱり違うか。
もう少し夢くらい見せてくれてもいいじゃん。悲しいなぁ。
「うん、認められたよ。これに効果とかあるの?」
「ああ、勿論あるぞ。確か武器自体にmpを貯められる代わりに武器を使って斬っても斬れない上に攻撃力が素手で殴った位というよくわからない武器だ。形が杖とかだったら良かったんだろうがな」
「今の私からしたらとてもありがたい武器だからそんなゴミを押し付けた様な目をしないで。それじゃあ今日はもう帰っていい?」
「ああ、勿論いいぞ」
帰りがけにそういえばギルドにはどんな依頼が来てるんだろう?
……そんなどうでもいいことが気になったから依頼掲示板を見たら、案外色々あった。
「Fランク向けは……っと『ゴブリンの討伐』『教会の掃除』『下級薬草の採取』『新職業の報告』『手紙の配達』。意外といろいろあるなぁ」
明日にでも何かの依頼を受けてお金稼がないとなぁ……
ギルマスに帰る許可をもらったので、ルフイエの宿に戻ってきた。
銀貨1枚を払い、夜ご飯を食べて、無一文になって落ち着いてきた。
さてこれからどうしよう……
お金も技術もレベルもmpもこの世界の常識もない。
無一文より酷いかもしれない。
まあ最悪ギルマスを頼れば何とかしてくれそうだけど、なるべくしたくない上に王都のギルマスって言ってたから忙しそうなんだよなぁ……
まあ明日ギルドで私でも出来そうな依頼を受ければ、暫くは自転車操業でも生きていけるでしょ。
実験のためにさっき貰ったクレルモンを側に置きながら、とりえず寝よう。
今日は異世界に飛ばされて疲れたなぁ……
偶には自分を労ることも必要だよね?
というわけで。
今日の私、お疲れ様でした。
それじゃあお休みなさい……
本編と作者についての軽いQ&Aと裏事情
Q1:何で書こうと思ったの?
A1:最初は飛行機の待ち時間で暇だったから。
Q2:書き貯めはあるの?
A2:一応後4万文字くらいはある…のでそこまではエタらないつもりです。
Q3:導入適当じゃない?
A3:作者の語彙力と文章力のせいです。
どうでもいい裏事情1
実は最初期は『舞踏城』ではなく【舞踏城】と表記していました。
気付いたら今の形になってたので修正が入りました。