172◇『無規狂想曲』・悪逆無道のルーラーウィザード
◇◆アリス視点◆◇
私はこの戦争での一番の激戦区へと向かう。
一見すると、ハナや皇帝のいるところが最前線に見えるかもしれないけれど……
「っ、覚悟!」
「『魔術-16-3-1』」
この通り、ここが一番混戦している。
私は『魔術-16-3-1』で雑兵を斬り捨てながらも前進していく。
まだ暇な今の内に『魔術-16-3-1』を準備……出来なかった。
仕方ない、mpの回復は諦めよう。
それにそこまでの問題にはならないはず。なにせ今回は正真正銘全力で対処する。
【大賢者】、改め【理断友】の力を誇示する機会にする。
「私は不思議の中心に巣食う者!」
残っていた剣を振りかざし、襲い掛かる雑踏を切り伏せる。
「未知を既知に、既知を未知に、叡智を我が手に収め…」
単純な身のこなしで遠方からの射撃を回避する。
「暴かれた世界の理を此の手で掴む!」
『新法技巧の双方剣』…ついこの間の激戦で入手した剣で敵を押し退ける。
「『法規星の世界演算』」
さて、ここからは私の番。
『不思議の国』の同時使用で杖を12本取り出す。
「な、何だ!?気を付け──」
慌てふためくなら結構。私の魔術の餌食になるだけ。
「『雷の帝怒』」
私の頭上を中心に一瞬で暗雲が拡がり、轟音と共に雷の結界が世界を包む。
一回あたりmpをぴったり5000使う魔術、そんな魔術が形成する12重の雷の結界によって雑兵は塵と化す。
『不思議の国』を再使用し、杖を取り替えながら私は周りを確認する。
まさかこれぐらいで終わるはずは……
「『轟焔之太刀』ァ!」
……それは流石にない、か。
「『魔術-3-4-1』『魔術-146-5-1』」
鎌鼬で相手の腕を狙い、軌道を逸らす。そしてそこから爆破雷撃で距離を離させる。
「……『魔術-6-5-1』」
そして気付かない間に後ろから迫っていた暫定槍使いに槍を撃ち込み、気付いているアピールがてらに攻撃する。
「『魔術-5-6-1』」
取りあえず相手の行動を阻害するために気温を下げ……
「『回廊保温』、です!」
……られない、か。
これで三人。剣使い、槍使い、魔術師。
……違和感。
「『魔術-16-3-1』」
背後に24本の剣を並べながらも周りへの警戒を続ける。
24本なのはそれが私の制御限界だからだけど……
「『魔術-6-5-2』」
剣使いを雷で牽制しながら、呼吸を整える。
「おいおい、これは当たり引いちまったんじゃないか?」
「第二王女がこんなに強いなんて聞いてない、です」
さて、私の正体もバレたし、あんだけ盛大に魔術を撃っていれば人も集まるもの。
『魔術-16-3-1《雷炎剣》』で飛んできた矢をはたき落としながら脳を集中させていく。
24本の剣をフル活用して、周りの雑兵を精鋭3人……弓兵を含めて4人を不利に追い込むように誘導する。
「おいクソッ、邪魔だ!」
「……『魔術-6-5-1』、『魔術-6-5-1』」
『魔術-16-3-1』の働きによって、敵兵の8割はこちらにこれていない。
しかし、逆に言えば2割は此方に接近できているということで……
「オラァッ!」
予備の剣はなく、体術で躱すと体勢が悪くなって弓に当たることになる。
なら素受けでもする?そんなことは勿論しない。
「『魔術-4-4-1』」
杖2つ分…つまりmp10,000を消費し、大量の手足を召喚する。
その内1組を目の前の敵の足を掴ませ、それによって敵兵を転ばせる。
だが、転ばせるだけなら優しい方だ。
「なっ…掴まれ……!」
4本の手によって投げられた兵士が『魔術-16-3-1』の軌道に入り、胸を切り裂かれる。
普段使う『願望薬効の天秤』…その劣化版である『薬毒自在職』を使い、先ほど突っ込んできた兵士…もとい死体に強毒を塗る。
そして切り裂かれた死体をそのまま『魔術-4-4-1』を使って撒き散らし、一次的な視界封鎖兼毒剤散布に使う。
一言で毒、といっても様々な種類があるわけで『薬毒自在職』ではその方向性は示せても細かい種類までは指定できない。つまり、だ。
「hpが…」「からだが、しびれ…」「目が見え…」
そうして弱った、もしくは動けなくなった兵士を『魔術-4-4-1』で掴んで……その繰り返し。
さて、『魔術-4-4-1』の使い方はこれぐらいだろうか。ハナが入ればまた別の使い方が出てくるかもしれないけど、いない人をねだっても仕方ない。
というわけでここからは『魔術-4-4-1』も勘定に入れて頭を動かしていこう。
まあこれで雑兵が突っ込んでくる機会が減って多少楽に───
「っ!『魔術-6-5-1』!」
私は杖二本分のmpを使い、複数『魔術-6-5-1』を撃つ。
それは目の前で蹲る雑兵に向けてではなく、かといって少し離れた地点で用心深く攻撃してくる精鋭達3人に向けてでもない。
遠距離も遠距離。最序盤から必要に私を狙って狙撃していて人がいた方向だ。
何故かと言われれば、そこから超高速で私に向かって巨大かつ何らかの魔術的加工がなされた矢が飛んできたからだ。
巨大なエネルギー同士がぶつかり、轟音を立てながら矢は落下する。
そしてその矢は着弾すると同時に敵群を巻き込みながら、大規模な爆発を引き起こす。
早めに対処していてよかった。
今までみたいにギリギリで対処していたら爆発が直撃することになるわけだから。
「……!」
「『聖壁創造』、『魔術-5-5-1』」
目の前の惨劇に目を奪われてばかりではいけない。
『聖壁創造』で槍使いの必殺の一撃の到着時間を数瞬送らせ、その間に『魔術-5-5-1』で命を奪おうとするが……やっぱり対処されるか。
雑兵は今、この瞬間にも剣で切られ、毒に犯され、腕に掴まれの大惨事で命を落としているというのに、この精鋭四人は中々倒れてくれない。
余裕を見て遠くの狙撃主にも槍で攻撃するが、流石に距離が遠すぎるためか回避される。
まあでもまだこれでも問題ない。雑兵を倒しているということは着実に相手の戦力を削ることに繋がるわけだ。
この調子で続いて、4対1になってもそれは戦略的勝利になる。
味方の兵士達は、この近くにいると毒や剣の巻き添えになると思ったらしく一切近寄らない。
近づいてきたら近づいてきたで剣は当たらないように対処できる自信はあるのに。
まあ毒がある以上仕方ないか。
つまり敵味方を区別しなくても良くなったというわけで……
「『魔術-16-3-1』」
『魔術-16-3-1』、6本追加。
今までは味方が来た場合の制御を考えていたから24本だったけど、敵味方を考えなくてもいいなら30本はいける。
「なっ、ここに来て増えるのかよ!?」
驚いて多少余裕が出来た今なら……いける、か。
50本の杖を空中に並べ、魔術名を唱える。
「お前ら、止めさせ──」
「『土の帝壁』『願望薬効の天秤』『魔術-4-5-4」
私のいる付近から遥か遠く、ハナの戦っている本陣よりも後ろにある補給部隊に向けて魔術を放つ。
『土の帝壁』は単純に土、もとい土砂を大量に作り出す魔術。
そこに『願望薬効の天秤』で毒を梱包…そう、毒を細かく指定できない『薬毒自在職』ではなく、『願望薬効の天秤』だ。
今回選んだ毒は、穀物などの食物に甚大な影響を及ぼす毒。
人が取り込んでも、多少の手足の痙攣や軽い腹痛だけで済むが、一度食べ物に紛れ込むと急速にそれらを腐らせる。そんな毒を補給部隊……つまり、帝国の食料庫に大量に放り込む。
一瞬で継戦不可能になるわけではないが……持って2日、というところだろう。
「なにを……手足が、!」
だから手足の痺れは本命の目的から目を逸らさせる役割が強い。
今の帝国兵にあの大量の土砂が何処に飛んでいったかを気にする余裕はない、だから自分達に起きた症状と大体の方角から被害を予測するだろう。
「お前、本陣を…!」
そう、ここからだと本陣と補給部隊はほぼ同じ角度に存在している。だからこいつらは本陣に痺れ毒を蒔いたとしか考えないし考えられない。
…無駄だとは思うけど、一応やってみるか。
もしかしたら奥の手の一つや二つ晒してくれるかもしれない。
「『魔術-6-5-1』」
精鋭3人に向かって槍を放つが、相殺、回避、逸らす、という多種多様な方法で無駄撃ちになる。
これだけ犠牲が出ても、まだまだ雑兵の流入はとまらない。




