144◇現代人類の極限を乗り越えて
というわけで(思考放棄)
40階層の前の扉についた私達一向。
後ろに積み重なるはイリーガルゴブリンや名も知らぬ雑踏の山…が所持してたドロップ品を回収しているセリア。
ごめん、このバッグにいれる?
あ、やっぱり重かったよね。
うわぁー、沢山あるねーこれは重かったのも納得。
…どうしようこれ。まあ後で売り払うんだけどね。
ポーションで若干金欠になりかけてる私にはありがたい話。
あ、もちろん折半だよ?
さて扉の先にいる敵は……っと。
ここまで…10、20、30層と同じ…数字部分が40になっただけの扉をアリスが開け、そして対面する。
そこにいたのはデュラハン…みたいな奴だった。
みたいなって付くのは…
「なんでこのモンスター首が2個あるんですか!?」
そういうこと。
…………戦闘開始。
アリスから事前に『追憶の世界』や『死帯享楽』は使わないで欲しいと言われてる。
やっぱりあれらは代償が大きいからね。
というかこの後に控えてる50層を見越してのことだろうね。
まあでも呪祟を使うのは禁じられてないからね。
丁度アリス達が散開してくれたので心置きなく使える。
「呪祟濃度4!」
デュラハン本体に当てようと頑張るけど動きがまあまあ素早いせいであんま当たらない。『舞踏城』の効果は技にはのらないからなぁ。
だから私の役目はあくまでデュラハンに移動制限をかけること。
蚊みたいにぶんぶんと呪祟をデュラハンの周りに飛ばす。
「…『魔術-16-3-1』」
アリスが雷と炎を纏う剣を複数出し、牽制に牽制を重ねる。
アリスが更に剣を増やし、私は呪祟を細かく分割して漂わせる。
逃げ場が失くなり追い詰められていくデュラハンモドキ。
「やっぱ大したことないね」
私が後は作業だと安心しきったその時。
「──『頑強一徹』」
その言葉と共に私と、アリス。そしてラスティリアまでもが斬られる。
hpが物凄い勢いめ減っていき0に近付いていく。
私やラスティリアはまだしもアリスは不味い。
簡単だと思い込んでいた自身の慢心を深く恥じる。
しかし驚きと緊迫は生まれるが私の中に焦りはなかった。
何故かって?
それは…
「『回復之姫』、です!」
私達には聖女がついているからね。
ここまでセリアを戦闘に参加させなかったのは一応だけど意図があった。
乱戦に参戦していたら今の攻撃でセリアも巻き添えを食らってただろうしね。
でも後方から観察し冷静に判断すれば致命傷も命に至る傷にならない。胴体か切り離されようと手足がもげようと聖女様が癒して、治してくれるのだから。
まあ喰らわないにこしたことはないけれども。
ともかく、だ。
即死以外はノーダメージ。
それが私達──『不滅の異世界探検隊』。
文字通り滅ばずの異世界探検隊。
アリスと二人の時は『夢幻の叡知』だし、私一人なら『夢幻空間』。
でも4人揃うなら……
さあ、4人揃って私達のパーティーは完成する。
その全力を見せてあげよう。
「神影より我が断章を紡いだ虚像を産み出せ!」
「…『魔術-6-5-2』」
アリスが私の詠唱時間を稼ぐ。
「『影姫の誕生』!!」
そう言ってる間にもラスティリアの射撃は続く。
私の分身4人も増え呪祟も纏わりつき…
「神域『科学支配世界』!」
追加に神域も増やす。
相手がデュラハン…機械製じゃないから効果が0…ってことはないと思う。
「…『魔術-3-4-1』…『魔術-5-3-1』」
「【射出変形:防衛拳銃】!そして…【領域生成:防御陣営】!もう不意討ちもさせませんよ!」
私が神域の影響を与え終わったと思い、解除すると同時にアリスの魔術とラスティリアの支援攻撃がデュラハンに飛ぶ。
これで一安心…
「後ろに下がってください!」
「──『頑強一徹』」
自分の目の前に剣先が道を作る。
セリアの指示のお陰で全員避けられたみたい。
あの技には回数制限があるのかそれともクールタイムがあるのか連続して撃ってこないので攻めに攻めを重ねる。
「【射出変形:防衛拳銃】からの…【射出変形:攻撃精射銃】!」
「『魔術-16-3-1』『魔術-146-5-1』『魔術-46-5-1』」
私も呪祟で攻撃に参加する。
4人の猛攻に遂に耐えきれなくなりデュラハンが膝をつく。
そして消えていき…後にはドロップが残る。
「アリス、これなにか、わかる?」
半分息を切らしながら私は質問する。
「………hp回復ポーション。2000回復…」
それは便利…な筈なんだけど…まず私は最大hpが1000ちょっとしかない。
それにそれを使うような大怪我はセリアが治してくれそうだし…4人で行動する時はあんま使わないかもね。
まあそれでも単独行動とかの時には重宝するのは間違いない。
それに最悪高値で売れるし丁寧に持って帰ろう…
まだ帰れないけど。
…帰れないよね?というより帰らないよね?
「ここで引き返したりは…」
3人の何言ってるのこいつみたいな目を浴びせられても、私は自分の意見を主張できる程強くない…うん。まだまだ続けていこう。
「あ、もう一つ落ちてますよ?」
「アリス…これは?」
「…mpが10000回復する…ポーション…」
それは…凄い便利。それだけのためにここを周回しようか悩む位には便利。
まあ今は急ぎだから周回しないけど。
というか周回できる程弱い相手じゃないのでは?
◇
というわけで所が変わりまして41階層。
雑魚敵は20階層のボスである地竜…より少し弱い位。
まあ要するにそんな強くないので…
「【射出変形:防衛拳銃】…いっけー!どっかーん!!」
うちのポンコツ幼稚園児IQ3 AIの出番。
それに『舞踏城』で馬鹿みたいに加速してるから一瞬で踏破していく。
「ボス階層以外は簡単ですね」
「……妙に簡単…ラスティリア…何か知ってる?」
「そうですね…あ、どっかーん!!…あ、思い出しました!」
「確か《詠歴》の初心者用フロアは新人訓練兵用のレジャー用施設も兼ねてたはずです…だからじゃないですか?」
つまり遊び用に作られたから…ずっと難しいとつまらなくなる…というより飽きるから…ってことか。
でも遊びで人が死にかねない様な物作るか?
……昔の、もとい科学文明の人達はイリーガルゴブリンはまだしも地竜やあの機械。それにデュラハンモドキなんかに殺される危険性が皆無な程強かった?
そんな馬鹿な。それだけ強いならAIにも完勝してるでしょ。
なら作られた当初は蘇生手段みたいのがあった?
…科学文明で死から蘇生が可能かは私にはわからないからその案は保留。
そうでないなら…
天整統さん達が逃げ込んだ後に設定を変えた…とか?
外部から変なのが入ってこなくなるように…みたいに?
うん、これが一番あり得そうかな。
そんなこんな言ってる間に50階層の扉の前に着く。
するとそこには勇者サマ率いる『光の踏破者』がいた。勇者以外は疲れ果てているのか寝てるけど。
「どうしたのですか?」
私は小声であの時の演技を継続する。
多分本性じゃないことはバレてるだろうけどまあやっておいて損はないでしょ。
「君達…本当にここまで来れたんだね。正直来れないと思ってたよ」
「それは私達への冒涜です!撤回してください!」
ラスティリアがなんかほざいて───
「…それはそうだな。すまない」
あ、意外と簡単に撤廃された。
「勇者様達は何故にここにとどまっているのですか?」
「…まあいいか。その中の敵…それに敵わないと解ったからだ」
「どうやって判断したのですか?」
「ここに来るまでの階層で罠や数で押してくる雑魚敵で大分消耗させられてな…この苦戦のしようじゃあ無理だと悟ったわけだ」
「なら私達が先に入ってもいいですか?」
「勿論構わない。うちのパーティーは皆寝てるからな…でも気を付けてくれよ?これで死なれると気分が悪いからな」
「ご忠告有り難う御座います…まあ先には行かせて貰いますが」
私は…いや、私達は勇者を超え、そのドアを開ける…




