表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『少女世界攻略記録』  作者: けゆの民
『全知の冠』
1330/1333

1257◇『時計の針は、機械的に進む』


さて、無事にアリスを負けさせた(・・・・・)ところで。

私は特に現状を理解出来ていない、という現実に向き合う必要があるんだよね。


「というわけで、どういうこと?」


お風呂から出て、髪を整えているアリスに後ろから抱き付きながら。そんなことを訊いてみる。一番手っ取り早いのでね。


「……いつか、刺されると思う」


「そんなことないと思うけどなぁ」


あえてオーバーリアクション気味に、眉をひそめてみる。心外だという意思を強めに伝えるために。


「そうやって人の脳を灼いていくの、本当に……」


「私は普通に生きてるだけなんだけどね。勝手に灼かれるほうが悪いまであるって」


「“観測”の裏にこれがあるなら、もう暫く“観測”制御に悩んでいてもいいかもしれない」


「酷くない!?」


どうやら私の“観測”じゃない部分は、あんまりお望まれじゃないらしい。少なくとも私の偉大かつ天才なる恋人はね。


「むしろ。“観測”の上からこれ(・・)を見つけた、花奈のクラスメイトは、すごいと思う」


「いやぁ、あの人達は単に病み病みで色々問題児だった私を心配してくれていた側面が大きいと思うけどね」


少なくとも、アリスみたいに脳を灼き尽くそうという意思は私側になかったわけで。普通に“観測”関連に囚われて周りを見る余裕なんてなかった。


「花奈……何か変わった?」


「そうかな。最近疲れ気味だったのが、セリアのおかげで解消されたぐらいじゃない?」


ユスティ関連にアリス関連に、と色々積み上がっていた疲労がいったんリセットされたというか。そんな感じかな、あるとしても。


「法国から帰ってきてから、あんまりちゃんとした休憩とか出来なかったからね。もちろん、全くしてないわけじゃないけと」


それと付け加えるなら。まあ多分、“忘却零落”がちょっとしたサービスをしてくれたという説はある。

あれの後からちょっとばかり気力メーターが高めなので。


「ああ、そうだ。それでこっちの話としてはね。まずどうでもいい(・・・・・・)話として、『横融病』対策のモノを取ってきたよ。これからいい感じにすれば、解決するんだよね?」


そういって、アリスに渡す。

とりあえずこれでユスティの建前的な使命は果たしたことに。


「流行病はこれで解決する。増殖や培養、製剤の手間はあるけれど──それは、私の方で済ませておくから。そういう細々(・・)したことは、私に任せて」


「ん、わかった。じゃあこれはついでの確認事項なんだけど」


鏡とにらめっこ──なんてことをせずに、ノールックで髪を整えているアリスは気負う様子もなく『なに?』と返事をしてくれる。いや、謎に可愛いな……


「スティヤニェトラーナって、今回の舞台(・・)においてどんな役割なの?」


少しだけ、アリスは固まる。

それは緊張や恐れというよりは、どう伝えるのが正確であるかを思案している様子で。


「……彼女は、他の貴族からの視線を集めるための存在。そして、もうひとつ大事な役割は──イメシオン公爵の継承者(・・・)、だから」


「え……?」


それこそ。特に気負う様子もなく告げられた言葉に驚いたのは、私のほう。

いや、え、あのスティヤニェトラーナが……?

ちょっと公爵って役目はあまりにも荷が勝ちすぎるんじゃないですかね。


「いや、確かに能力自体がないわけじゃないのは知ってるよ。話したことあるし、その時の雰囲気を見る限り思考能力的には大丈夫だとは思うんだけど」


ちょっとコミュニケーション能力には難があるというか。ちょっと公爵ってポジションに据えるのは無理があるような。


「勿論、公爵本人になるわけじゃない。イメシオン公爵──」


というか、そうだそうだ。完全に忘れてたけど。


「ごめん、アリス。もうちょっと遡るんだけど。イメシオン公爵の訃報をラスティ経由で聞いたんだけど、あれどういうこと?」


そもそも論として。

私がフロリアを誑かす悪い魔女になって遊びながら、迷宮を出た直後にラスティから連絡が来たんだよね。


『イメシオン公爵が死んで、帝国が滅んで、エネステラが出てきました。エネステラは私とリアで対処してますが、アリスさんも何かしら(・・・・)の用事があるのか忙しそうですから──花奈(マスター)の好きなように動いてください』って連絡。

で、まあとりあえず向かうならアリスかなぁと思ったわけで。


まあ、帝国が滅亡したってのはいいよ。

私があそこの皇帝と色々やったり、『A.I.』の被害を盛大に受けていたり、リルトンが大立ち回りしたり、セノアの影響が出ていたりで、よく耐えてるなって印象だったから。

だから、滅んだと言われても納得出来る。


どうせ細かい後押しとか余波の影響とかの調整は、アリスかユスティあたりの仕業なんだろうけれど……とりあえず、それはさておき。


ああ、それでエネステラもいいよ。

背後に隠れてる目的とか考え出すと難しいけれど、現象としてはシンプル。なんか面倒なのが出てきたってだけ。


だから、問題はイメシオン公爵がピンポイントで死んでること。


「花奈がいない間に、色々なことが終わったから」


「そんなに長い時間こもってたわけじゃないけどね、迷宮」


「花奈と会えなかった三日(・・)は、私にとってはかなり長かったから」


「はいはい、でもアリスはそれ関係なく私に会おうとしてなかった──うん?え、三日?」


冗談でしょ?

私はそんな長時間迷宮に引きこもっていたつもりはなかった。時計とかを正確に確認していたわけじゃないけれど、それでも体感時間としてはすごく長めに見積もっても24時間。


「花奈が迷宮に入ってから、三日。姉に言われなかった?三日(・・)ぐらいかかると。私は姉にそれぐらいかかると言われたから、色々進めたけれど……」


言われたけど。確かに言われたけれども。

あれって冗談とかじゃなくて?

え、あの。えぇ?

いいけども。別に急ぎの用事があったわけじゃないけど。


「ユスティ、私を嵌めたな……!」


まず、時間感覚が崩壊しているのは確実に“忘却零落”のせい。どこでその影響が確約的になったのかはわからないけれど、問題はそこじゃない。

あんな上位存在、あるいは超越存在に文句を言うだけ馬鹿らしいから。


これ絶対、ユスティは知ってたでしょ。

確かにおかしいとは思ったよ。妙に材料がすぐに手に入るし、至れり尽くせりだって。

ぐ、全部伏線だったわけか……あの二泊三日発言!


「うぐぅ……まあいいや。それで、イメシオン公爵が死んだってのは?」


「あの家は情報関係を得意とする家系だけあって、近親間での婚約が歴史的にとても多かった」


なるほどね。

情報部隊とかそういうのが多いから、おいそれと外部の血を入れられない。信頼出来る身内の血縁内で家系図を完成させたほうがいい、って話ね。

連続近親婚が第二のハプスブルグ家になるって知識がないなら、納得出来る理屈。


「あの家の四世代前は、兄妹間での結婚で生まれた子供同士の婚約、とかもあったから」


あまりにもじゃん。忌避感とかない感じ?

私は兄弟姉妹がいたことないから──ユスティとフロリアを除いて──だからわからないけれど。

天世(あまのとき)のサンプルもふまえると、本当に兄妹がいると兄妹をそういう対象に見られなくなる、って聞いたことがあったりなかったり。


「貴族間の婚約に本人の意思は、そんなに重要……?」


「ああうん、はい。そういえばそんな世界だったっけ、ここ……」


本人達が嫌がっていうようと、『国益』とやらのほうが何倍も重要。それで王国が発展するならば、人権だろうとプライベートだと投げ渡すっていうのが貴族だからね。

ちょっと私には難しいだけで。


「冗談。今ではそこまで酷いのはないから」


なら完全に安心、とはならない。

サナトフィとクライド君の話を聞く限り、まだ色々と貴族婚姻の闇は大量にあるっぽいから。


「ともかく。イメシオン家は昔からそういう家だっていうこと。近親婚を繰り返して、その影響で奇形や突然死も多い家系ということ」


それさえ覚えておけばいい、といいたげにアリスは締めくくる。



「ちなみに私が今からアリスの婚約者から降りるのは?」


「貴族間の婚約に本人の意思は、重要じゃないから」


「ア、アリスは王族だからまた別カウント、みたいな?」


冗談でそんなことを言ってみる。

もちろん本意ではない。というか、本意じゃないのにここまでしてたら、それは本格的に何かしらの罪に問われる。


というか、アリスだけじゃなくてユーちゃんやリルトンにまで命を狙われかねないから!


「別カウントだから──花奈の意思は、本当に関係なくなるかもしれない」


うーん。やっぱり、そっち方面の別カウントになるよね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ