第1章3話 『青い髪の美少女』との邂逅
──第4話、第5話視聴後
「可愛い女の子が二人…いや三人も追加されるとは……。しかも全員ツンツンしてやがるし。これはツンデレのフラグか…!? 最初はハーレムじゃないと思ってたが、ちっ、結局最後はそこに行き着く気がしてきたぜ」
そう残念そうな顔をしながらも、
「とはいえ、この三人に罪はない! 愛でよう!」
ナツメ・カケルは可愛いキャラに目が無い。
美少女の初登場時も「あぁぁぁぁ!! 俺も助けられてぇな〜〜」と嘆いていたほどである。
「それはさておきあいつ──働くなんていうとはな。てっきり金でも要求して装備整えるとかかと思ったが、つくづく欲がねぇ……いや、近くにいたいって話ならある意味欲深いのかもしれんが」
自分ならまず楽をしながら、美少女と仲良くなっていくだろう──いや、そもそもこんな平凡な奴があえて働く道を選ぶとは思ってもいなかったし、裁縫できたのとか衝撃すぎた……
「てか、また強キャラらしき奴らが増えたな……」
記憶を辿り、1話に一人は強キャラ追加されてるんじゃないか…? こんな序盤から何人も出てきて、インフレ大丈夫か…? と、あいつの身を案じてるわけではないが、益々置いてかれていって死ぬ回数増えるんじゃ……と心配になってた矢先、
「気がついたら死んでるとか……洒落になんねーよ…! 俺だったらもうほんとお金貰ってすぐ逃げるわ! 秒で逃げるわ! 美少女とのデートとか最高すぎるけどそもそもたどり着けんし、辿り着ける可能性あってもそれでも秒で逃げるわ!」
とひたすらにあいつの精神力やべーよ、なんでデートの為にそこまで頑張れんのと思いながら、自分と比較してみるカケル。
「結局のところ呪いかなんかなんだろうけど、それが無くても突然誰かに殺されるとか…流石に不憫すぎると言うか……理不尽すぎるだろこの世界」
いよいよ何回死んだんだっけ?──って分からなくなってきたわ。
「まあとりあえず、続き見るかー」
そう言いながら、次のタイトルを選択する──
──第6話、第7話視聴後
「──ようやくだらける道を選んだかと思えば、そんなことはなくて、まさかの敵を探る為とか……しっかしあのメイドたちも客人相手だとまともに相手にしてくれねーんだな。俺でもちょっと冷たすぎん?──って思ったわ」
美少女を救ってくれたすげー客人相手だからあえてそうしてるのか、元々身内以外に対して興味がないのか、よくは分からんが、あの扱いで何日もいるくらいなら俺でも「雇ってくれ!」と言いそうだ。
「だがまあそんな事より──衝撃の殺人犯でさすがに震えたわー」
思い出すだけで恐怖を覚える。
信じていた人間に裏切られる気持ちや仲間だと思っていた人間に嘘を吐かれたり罵倒される気持ち──ましてや殺されるなんて、心折れないわけがない。
しかも武器が武器だけに毒やらナイフやらでありふれた殺され方するよりもずっと怖いし痛いはずだ……
「どこ行っても殺されるなら、俺でもあのツインテ少女かピエロに助けを求めるだろうし、正直契約してくれるって言われたら感涙するレベルだろうなー」
乗り切れたら正直ガッツポーズしそうなところだが、そしたら今度はまさかの犯人が呪いでお亡くなりなんざもう訳分かんなすぎて、俺だったら絶望するわ。
だって敵がまだいるって事だぜ? 化け物みたいなパワーの女の子(しかも良くしてくれていて信頼してた相手)と未知の呪術師だぜ?
「結局最後まで姉の方には殺されそうになるし──誰かの命守ろうとして死んで、自分の命守ろうとしたら別の奴死んで姉に追っかけ回されて……」
それでも情緒不安定な時や最初の数回・数日一緒にいただけで、
「何で頑張ろうと思える!? 何で助けようと思える!? 何で自ら命を絶ってまで取り戻そうと思える!? 助けようとしてるそいつらにも何回も殺されてるし、何回も殺されそうになってるんだぞ…!」
優しいとか、お人好しとか、依存してるとか、そんなレベルじゃねぇ! そんな次元じゃねー!
分からない……分からない、分からない。分からない分からない分からない分からない! 理解ができない!
──こいつは……この男は、何故そこまで必死になれるんだ…!
考えても分からない。単に──安易に、アニメのキャラクターだからと言ってしまえばそれで終わりだ。
しかしあいつの人間性はどことなく俺に近い──いや、近くはないが、なぜか近く感じられた。直感的に無関係だと思えない。
きっと日の当たらない人生が転移の始点である以上、見過ごせないのだろう。
異世界での冒険を夢見る彼にとって、凡人が転移した結果を見せられて……絶望しかけている。あいつでさえ何度も死ぬ。あいつでさえ何度も病む。そんな世界にもし自分が行ったら何ができる…? そう自らに自問し「何も出来ずに何度も死ぬだけ。きっとあいつのように信頼される事もなく……」と自答してしまうのだ。
──少しの後……しかし彼にとっては深く長い時間の後に、立ち上がった。
「……見よう」
その顔には何度目かの決意の表情が窺える。
俺はこいつをもっと知るべきだ。こいつをもっと知って、俺に何が出来るか考えよう…
たしかに俺はこの男より精神も身体も弱い。でも……凡人である事に変わりはないんだ。異世界の人間にとっちゃ、俺もこいつも大差ねぇはずだ。それならこいつの生き様を見て、俺ならどうする? どう出来る? それを考えて実行するだけだ。
──だけって言うわりに、実際はすげー難しいだろうな。『0』から『1』を『2』を『3』を生み出すんだ。今の俺は異世界に行っても何も出来ねぇ。何も生み出ねぇ。ましてや現実でさえダメダメだ。──それでも、この男の軌跡を見て俺は強くなる。
別に強くなりたいわけじゃない──ただ今の『平凡なままの俺』で終わりたくねーだけだ。
誰かの英雄になれるような、誰かの心に残り続けられるような、代えの効かない『ナツメ・カケル』になる為に──
「自落の先、見させてもらうぜ『ナツ○・○○ル』!」
カケルはそう叫び、次のタイトルを選択する──
──第8話、第9話視聴後
「まさかあんな高らかに宣言しておきながら、空元気とは…」
また一つあの男の事がよく分からなくなったな、と感慨深く眉を細めるカケル。
「膝枕に癒され救われるってまた、特殊な話だよなー。たしかに癒されるのは分かるが、それだけであそこまで立ち直れるものなのか…?──俺も膝枕されてみてぇ………」
未知の癒しに想いを馳せる姿は、さながら少年のようだった──
「しかしまた、無茶をするもんだなぁ。呪い探しの為に死んだ原因の呪いをもう一度自分にかけさせるなんざ」
考えるだけで寒気がするわ。
「てか、何やかんやでみんな結局優しいんだよなー。まあ頑張りすぎな姿見てるからかねぇ…」
「そういや何回も繰り返してるとはいえ、ずいぶん家事スキル上がってるよなーあいつ。裁縫上手いわけだし、手先はけっこう器用なのかもしれんな──どんどん差が開いていくぜ……参考どころか、どんどん凡人からかけ離れていってねぇか…?」
凡人の軌跡を見て異世界生活を学ぶ会、発足して間も無く終了か?
「そういやかけ離れていくと言えば、青い髪の女の子角生えたらなかなかにクレイジーになるな……まあそこがカッコいいわけだが」
実はけっこう狂人キャラが好きな俺得であったわけだが、よくよく考えたらあいつあの子にぶっ殺されてるんだよなー。よくあんな近くに──ましてや、自分を殺した武器その物を持ち歩いてんのに大丈夫とか……あいつの精神力はどうなってんだ? それともこれも膝枕のパワーなのか…?
「そしてまさかの助けて噛まれまくって……また終了か?」
物語の盛り上がりどころ、途中ともあってさすがに次が気になる。
「よし、とりあえず次も見るかー。終わったらメシ買いに行くかな」
と言って、お腹の空きを少々我慢しながら(続き気になってしょうがない時ってあるあるだよな…!?)も次のタイトルを選択する──
──第10話、第11話視聴後
「……あぁ、俺は出会っちまった」
天使のような笑顔を見せる、しかし天使ではない…鬼がかった一本角の鬼『青い髪の美少女』に──