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強者だらけの世界で『モブ』は何を願う…?  作者: モブ男
第1章 始まりの試練の始まり
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第1章1話 始まりの『怠惰』




「ここは……どこだ?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺は住宅地に佇む何の変哲もない古いマンションの、特別新しく整備もされていない一室から、目覚めた時のジャージ姿(異世界生活をジャージで開始したという男のそれによく似た)のまま外に出た。


 徒歩5分圏内の小さなコンビニ。

 よく利用するからだろうか、商品の置き場所はだいたい把握出来てる。

 入ってすぐのところにレジ、右側にはATM、左側には商品棚が立ち並んでる。当たり前な話だがいつも通りだ。

 迷い無く左を向き、足早にカップラーメン(濃厚味噌味)とおにぎり(鮭)を手に取る。その後少し店内を見回してからお菓子(コーンポタージュ味)を手に取り、レジへと向かう。


 特別意気揚々としてるわけでもないが、やる事はやったぞというで気持ちで帰路『横断歩道』の方へと足を運ぶ。

 ──信号待ちで下を向きながら、


『今日はカップヌードル何分で開けようかな、と少し考えていた』


 しかしそれが悪かった。運の尽きだった。

 「よし『2分40秒』にしよう!」


 そして次の瞬間、


 見た事の無い景色が広がっていた──



 見渡す限りの広い草原、天高くそびえ立つ山々、美しい青い空。

 草原には足跡一つなくただただ同じ景色が広がり、山々は頂上を雲に隠されその大きさのほどが未知数ながらも見て分かる。青い空は言うまでもなく悠大でどこまでも美しく続いていた。

 そんな幻想的な世界が俺を待っていた。そう、俺を待っていてくれたんだ。

 俺はその無駄に自己中心的な不思議な感覚に心躍った。はしゃぎ回りたいとさえ思った。しかし同時に何もせずずっと黙ってその景色を見ていたいとも思った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



プルルルルル


 そんなライトノベルらしい序章を妄想していたところだが、すぐに現実へと引き戻されてしまった。


 会社の電話が鳴ったのだ。

 無論、自分には一切関係のない電話でありただただ妄想した世界を壊されただけで、実に寝覚めの悪い気分だ。


「──あぁ…せっかくいい景色が浮かんでたのによ。全部台無しじゃねーか」


 そう呟いたのは、ボサボサの尖った黒髪に先ほどの妄想と同様のジャージを着た男『菜津芽ナツメカケル』である。

 仕事の合間で妄想を繰り広げながらも、日夜この会社のデバッグ部で働いている。

 趣味はゲーム(あまり上手くはない)とアニメ鑑賞(本人曰く、地上波しか見ない)。


「またそれですか〜?

もう100回は聞きましたよその台詞〜」


 そうツッコミを入れてきたのは菜津芽の後輩『山下ヤマシタ順平ジュンペイ』。

 菜津芽と同様にゲームやアニメが好きなオタクである。


 とはいえ正直こいつの前では俺なんて『オタクもどき』『にわかオタク』『エセオタク』などと呼ぶ方が正解だろう。

 ──どうでもいいけど『エセオタク』って字面だけ見ると超カッコよくないか?



「まあ今時、ワンチャンそういう世界観に浸りたいならVRゲームっすよね〜」


 山下は何でも最近、VRゲームにお熱らしい。3Dの世界観を楽しむならやはり右に出る者、いや右に出る物はないとか。


「この際、何ちゃらアート・オンラインみたいなVRゲームができたらそれでも十分ありだよなぁー」


 そう言いながら某、黒い剣士のポーズを真似する俺。


「そしたら俺でもスーパーカッコよくなって、モテモテになれるし! 双剣もめっちゃカッコいいじゃん」


 呆れながら山下が、


「いやアバターだけカッコよくても、何ちゃらアート・オンラインレベルの操作性だったら、結局動かしてる人の動きもそれなりに良くないとダメじゃないっすか〜?」


 痛いところを突いてくる。そういや脳に直接信号送るとか何とか言ってた気もするし、そうなると俺の運動神経じゃまともな動きできない未来しかねぇ。


「しかし、まさか菜津芽さんが自分の事カッコ悪いっていう自覚があったとは驚きっすね〜」


 そりゃそうだ。両親とも平凡を絵に描いたような人達でそれを見てもなお、自分が劣ってるのが目に見えて分かるレベルだぞ。

 逆に唯一の妹はそんな両親から生まれたとは思えんほどに運動神経抜群、頭も良い、顔も良いときたもんだからより俺のカッコ悪さは際立っちまう。


 とはいえこれ以上カッコ悪い姿を見せたくない俺は、


「何言ってやがる! 俺はカッコよくて強いぞー! 何たってここでは二番目に偉いからな」


「──ここって言っても、タイトル内っすよね〜? 元々田中さん抜いたら僕らしかいないじゃないっすか〜!」


 そう、俺達が検証してるタイトルにはリーダーの田中さんとサブリーダーの俺と山下の三人しかいない。


 このままいくと面子が保てなそうなので、


「まあ、それはさておきさー。今日のノルマは終わったかー?」


 ニヤニヤしながら進捗を聞く。突然の進捗確認であたふたさせてやろう。

 これぞ『先輩面話しすり替え法』だ!


「分かりやすく誤魔化してきましたね〜。てか、今日のノルマならとっくに終わってますよ〜。進捗見てないんすか? もしかして菜津芽さん『怠惰』っすか〜?」


 おう、全然効いてねぇし。しっかりバレてやがる。しかもノルマ終わってんかよ……

 進捗見てなかったわ。ここはとりあえず、褒めて誤魔化しとくか。


「お、お前を心から信頼してるからよーー」


 動揺+棒読み。

 もはや目が泳いでる時と同義なレベル。


「いや、棒読みじゃないっすか〜!」


 当たり前な反応。


「う、うるせぇ。だいたい誰が怠惰だ」


 ここで短気爆発。ハートの脆さは一流である。脆さをカバーする術は『暴言』と『妄言』と『暴力』しか知らない。まさに野蛮である。クズである。


「おっと、そんな怒らないでくださいよ〜。キャラクターの台詞頭に染み付いてて、つい出ちゃっただけなんで〜」


 おい待て、どっちにしろ失礼だぞそれ。

 こいつは俺を友達かなんかとでも勘違いしてるんだろうかー?


「あ、そういえば菜津芽さんって、『ワイト』に似てるって言われた事ないっすか?」


 次々に失礼さを重ねていくスタイル。何つー後輩なんだこいつは…!


「言われた事ねーよ! だいたい『どこのワイト』だよ。このご時世、『ワイト』溢れてて分かんねーよ」


 全世界に『ワイト』ってキャラクター相当数いるけど、どの『ワイト』かバレたらもうカードに封印されちゃうレベルだからな!


「『ワイト』溢れてるご時世とか。それもう世紀末じゃないっすか……」


「もしそんな世紀末になったら俺はもう家から一歩も出ないで、全力で妹に養ってもらうがな!」


 堂々たる態度で妹に養ってもらうと宣言する姿勢。

 死地へと向かうであろう妹を見送った後、家でダラダラ過ごそうという最低極まりない発想。

 これが先ほど自分の事をカッコよくて強いと発言していた男と同一人物だと誰が思うだろうか…?


「菜津芽さんガチクズですね………」


 養ってもらう事に引き、それが妹である事にさらに引き、その上家事もしない事で引かれて完全完璧圧倒的に分かりやすく『ドン引き』された。


 昔からそうだ。

 ──俺は知っている。何かやらかす度に妹のせいにし、妹はそれを微笑しながら文句一つ言わずに受け入れる。そうして妹はいつも怒られるのだった。


 しかし妹の才覚が見え始めた頃から、俺のついた嘘はすぐバレるようになり、いつも怒られるのは俺になった。


 それでもどれだけ両親が俺の事をクズ呼ばわりしようとも、妹だけは違ったのだ。

 妹だけは俺の事を『お兄ちゃん』と呼び助けてくれる。「お兄ちゃんは天才」と褒めてくれる。「お兄ちゃんは悪くない」と庇ってくれる。

 それでも──いやむしろ、それだからこそ世紀末になんかなったらきっと妹に頼りっぱなしになる事だろう。俺の全てを受け入れてくれる妹なのだから──



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



キーンコーン、カーンコーン


 今日の仕事の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「おっと、もうこんな時間か」


 うわぁ……喋ったり感傷に浸ってたから終了報告何も書いとらん。

 こうやって仕事って長引いていくんだな、と少し社蓄の悟りを開いてしまう俺。


 チャイムが鳴り終え少し間を置いた後、山下が立ち上がった。


「それじゃ、定時なんで帰りまーす」


 仕事も早ければ片付けも早い!

 至極当たり前な話だが、なんやかんやどちらも遅くなりがちなもんで、チャイムが鳴り終わって数秒で帰れるなんて俺にとっては夢のまた夢だ。


 同じサブリーダーでありながら、この状況の差に完全なる敗北を味わう。

 どこぞの死刑囚じゃあるまいし、この身体と精神力じゃ既に数え切れんぐらい敗北してるんだが、それでもやはり堪えるもんだ。


「それじゃ、お疲れ様でっす!」


「お、お疲れさん」


 笑顔で手を振る山下と笑顔で手を振り返す俺。はたから見たら仲良しだ。

 いやまあ仲良いのは間違いないが、今の俺の笑顔は果たして笑顔に見えているのだろうか…?


「あっ!」


 と、ドアの前で山下が何かを思い出したように大声を上げ、こちらに走って来る。


「な、な、ななな…何!?(裏声)」


 笑顔のくだりを考えていて気が逸れていたのと、突然の大声からのダッシュに驚いてあたふたしてしまった。──これはカッコ悪い。


 なんて色々思っているうちに、気がついたら山下が隣にいた。

 ──こいつ足まで早いのかよ!


「そういえばさっきの『怠惰』のくだり。このアニメのキャラクターなんすけど〜。めっちゃ連発してたんで、つい言っちゃったんすよ〜」


『怠惰』とかなんかそういう大罪系? 古今はネタに上がる事多くてどれの事言ってんだか分っかんねーな。


「ほーん、それでそれってなんてアニメ?」


 ──勝ち誇ったかのような態度で、はたまた作品の沼に突き落とせたかのような態度で、フフンと鼻を鳴らしながら山下はそのアニメのタイトルを口にした。


「『Re:ゼロ○○○○○○○○○○』

って言うんですけど〜」


 はい出たーー! 圧倒的な伏字の多さだけど、色々バレバレだなーおい! ワンチャン下ネタかよー!って逆誘導も思いついたが…もはやそういう次元じゃねぇよ! 俺ですら名前聞いた事あるくらいの有名作だし! しかもしっかり略称見えてるしー!


 と心の中でこっちの中の作者にツッコミを入れつつ、


「それなら、名前は聞いた事あるな。実際に見た事まではないが。原作というか……元になってるやつラノベだよな?」


「そうっすね〜。ちなみに作者さんは速筆で有名で、Web版は500万文字を超えてるらしいっすよ〜」


 小説を読まない俺にとっては馴染みが無さすぎて、異次元とも言える桁数が耳に入ってきたんだが果たしてそれは多いのか? 少ないのか? 文庫本何冊分なのか? 一体どれだけの時間があれば書けるのか?


 湧き上がってくる疑問、沸き上がってくる思考でも察したのだろうか。少し考えた後で、


「だいたい小説の応募必須条件とか、実際の軽めの文庫本で10万文字くらいっすね〜。なんで、文庫本五十冊分くらいは少なくても書いてますね〜」


 ──五十冊!?

 ラノベにしてもそれ以外にしても、事の大きさがよく分かる。果たしてこれを書いてる作者はそんなに書けるのだろうか…?



神妙な顔をしている俺を見た山下が、


「何、難しそうな顔してんすか〜? 菜津芽さんって真面目に考えてそうな顔似合わないっすね〜」


 何だこいつは。俺を馬鹿にしてるのか…?


「あ、特に深い意味はないっすよ〜。ただ、菜津芽さんの頭じゃあ考えても答え出なさそうだなーって」


 しっかり明白に分かりやすく馬鹿にしてやがった! ぶん殴ってやろうか?──否、ぶん殴っても痛いのはこっちの方だ。

 山下という男は文字通り『デカい』。縦にデカいし横にもデカい。足もデカいし態度もデカい。仕事は早いしさっきの結果から足も早い。筋骨隆々という程ではないがその横のデカさからは想像できない筋力を内に秘めている。

 ──以前同じような場面で怒って、拳を固めてぶん殴った事がある。

 咄嗟の反応だったのだろう。──腕に力を込めてガードしてきた。


 ──俺の中指は骨折した。



「そうだ! 自分DVD持ってるんで、良かったら貸しましょうか? 菜津芽さんならきっとハマりますよ…!」


「めっちゃ面白いんで」と念を押し「明日持ってくるんで」とまで言ってきた。

 そこまで言われるとさすがに見ないわけにもいくまい。優しい後輩の誘いだからか。──否、アニメ好きの興味と勘だ。

 実は以前にもこの作品を勧められた事があるのだ。しかしその時は別のアニメを見るのや仕事に追われており、また別の時にはゲームのコラボだったりで興味こそあったが、アニメを見ようとはならなかった。


「──分かった。そこまで言うなら、見るから貸してくれ」



 ──そしてこのアニメを見て…彼は出会う。『青い髪の美少女』に。初めての敬愛すべき『彼女』に。

 そして何度も後悔するのだ。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……


『もっと早く見ておけば良かった』『もっと早く作品に触れていれば良かった』『もっと早く君に出会えていれば良かった』『もっと遅く自分が生まれていたら良かった』『もう嫌だ』『早く殺して』『死にたくない』『あぁ……君に出会わなければ良かった──』

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