第0章1話 決意表明
「おいおい、とんだ作品タイトルじゃねーか」
ナツメ・カケルはそう呟き、
「そもそも本編始まる前から主人公が『モブ』呼ばわりされてるなんざどういう了見だー! 最近流行りのアレか? モブハラか?』
「それならいいぜ。俺がこの数年分頑張ってきた成果を! 頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って強くなった俺の剣技を! 見せてやるよぉーー!!!」
そう言って、金色に輝く──否、気高き黄金色に輝く伝説の宝剣『エクスカリバー』 ──否、抜く鞘も無き『木剣』を両手で持ち、剣先を真上に向けて脇を締める。
「気高き黄金色に輝くは伝説の宝剣『エクスカリバー』」
そう高らかに宣言し、腕を伸ばして剣を振り上げる。
そして、
「いくぜ! 最強必殺剣! ゴールデン・マクスウェル・ファイナル・エンド・スラアアアァァァァァァッシュ!!!』
パキンッ…グシャア
しかし剣からは何も発しられず、振り下ろした剣は、正面に立つ異形の存在によって無情にも砕かれる。
──ほんの一瞬だった。異形の左手から放たれた手刀は瞬きする隙すら与えずに剣を横から真っ二つにした。
──続いて、ほとんど踏ん張らずに跳躍。そして右手を振り上げ指を内側に丸める。文字通り指を丸めるだけで握らない。丸めた四指の第一関節を『敵』すなわち『ナツメ・カケル』の脳天に振り下ろす。
跳躍にも、拳にも、指にも、ほとんど力は入っていなかった…入っていなかったはずだった──しかし、振り下ろされた四指から放たれた衝撃は脳天を貫き、頭蓋骨を粉砕して、目を、鼻を、耳を、口を、およそ頭部と呼ばれるその全てを、あっさりと、軽々しく、まるでトマトでも潰したかのように形残さず崩した。
説明にすれば長い。しかし実際には初めの一文で済むほどに早かったのだ。
それが彼『ナツメ・カケル』と最強『キサラギ・レイム』の圧倒的な力の差を示していた──
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「ほら、まともに説明しねぇからこうなんだよぉ」
ライムは呆れた様子でカケルに──カケルだったものに声をかける。
「おっと、もう息してねぇや。相変わらずおっかねぇなぁ。──あの人はぁ」
レイムのいる方は向かずにそう呟き、
「そもそも『モブ』って書いてあるだけでぇ、自分の事だと思い込むあたりしっかり自覚あんだよなぁ」
「憧れは良くも悪くも人を変えちまうなぁ。
その中には勝てないくせに何度も向かっていく。──あいつみたいな馬鹿な奴もたくさんいやがる」
「誰かに倣い、誰かに習い、そして誰かを超える。──そんな奴もいるだろうが、この世界じゃあそんな奴はほんの一握りだぁ。なんたって憧れの的が強すぎるからなぁ」
「まぁ、あいつは『憧れの人』の『隣に相応しい存在』を目指してるから、ちぃとばかし違ぇかなぁ。──おっと、そろそろ時間だな」
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「帰って、きたぜ」
ナツメ・カケルは死した後、『記憶』と『意識』を過去に飛ばされる。数十回の死を繰り返して、唯一知る事が出来た特別な『仕組み』である。
「何度でも帰ってくるぜ。──何度でも。何度でも。負けても終わりじゃねぇんだ」
諦めの悪さは『あの人』を超えるため。
強くなるのは『彼女』に相応しくなるため。
「何度やり直してでも、絶対に『あの人』を超えてみせる」
「何度やり直してでも、絶対に『彼女』に相応しい男になる」
───これから始まるのは、並以下の実力で、ちっぽけな心意気で、何度やっても同じ結果で、それでも諦めない男の勇気と絶望と少しの成長を描いた──俺の物語だ。
もう『モブ』なんて言わせねぇ……!!!