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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

突然だが、私の親友は優良物件だ

作者: 畑渚

 ピンポーン


 インターホンを押すと、待ってましたといわんばかりに扉が開く。


「おはよう、百合子」


「おはようございます、紗綾さん」


 やあやあ読者の皆さん。まあ聞いてくれ。

 突然だが、私の親友の大羽百合子は優良物件だ。わけがわからない?ならば結構。彼女の魅力についてお話しようじゃないか。


「紗綾さん」


「ん、なに?」


「今日は朝ごはんは食べましたか?」


「……うん食べたよ」


 まず気遣いが素晴らしい。朝ごはんをつい抜いちゃう話をしてからというもの、よくこうしてチェックしてくる。しかもしつこいわけではなく、私が朝を抜いたときに限って聞いてくるのだ。最初は隠し撮りでもされてるのかと焦ったけれど、百合子は私だけにこういうわけじゃない。学校の友達などにも同じようなことをする。


「嘘ですね。あがってください、私も朝食はまだなのでちょうどいいです」


 今日もこのように看破された。ね、スゴイでしょ。


 部屋にあがると、主張の激しすぎないアロマの香りが鼻腔をくすぐる。誕生日プレゼントに贈ったアロマディフューザを大切に使ってくれているのだ。


 このように、大羽百合子は贈り物を大事にしてくれる。もちろん私からのプレゼントだけではない。贈られたものは絶対に使ったり飾ってみて、感想を本人に伝えてくれる。そして彼女が贈る側になったときには、その何十倍も嬉しいプレゼントで返してくれるのだ。


「紗綾さん、コーヒーは飲みますか?」


 コンロに火を点ける音が聞こえる。軽く料理をするみたいだ。


「うん。牛乳は残ってる?」


「ちゃんとありますよ」


 さすがである。だいたい欲しい物が揃う部屋なのだ、恐ろしいまである。


「はい、できましたよ」


「フレンチトーストだ。いただきまーす!」


 大羽百合子は料理が上手である。おそらく彼女の手料理を一番食べている私が言うのだから、間違いない。ただおいしいというだけではない。まだまだだと謙遜して、練習を繰り返しているみたいなのである。そんな努力で裏付けされた手料理がおいしくないわけがない。


「ああ、おいしかった。ごちそうさま!」


「おそまつさまでした。あっ食器はそのままで」


「いいよいいよ、私がやるよ」


「……」


 黙りこくってしまった百合子から皿を取り上げる。ごちそうしてもらったんだから洗い物くらいはしないとね。


「あ、ありがとうございます」


 大羽百合子は感謝の言葉がでる人だ。しかも少し恥ずかしがるからもう可愛いのである。これで落とした男子は数しれず。だというのに本人にそういうつもりはないらしいから、残酷なものである。そのまま告白に踏み切り、玉砕した男子も数しれない。


「よし、じゃあ出かけよっか」


「はい。着替えますね」


 百合子はラフな部屋着を脱いでいく。

 大羽百合子はスタイルが良い。平均より若干低いくらいの身長に、驚くくらいの小顔。控えめではあるもののしっかりと主張する胸。適度な筋肉によってクビレを精製する腰。そしてモデルと見間違う下半身。私ならオール満点と採点するね。


「そういえばさ、百合子」


「何ですか?あらたまって」


「いつも講義室の右前の集団がいるじゃない」


「ええ、それが何か?」


「あのグループの身長高めのあの人、イケメンじゃない?」


「えっと、たしかに顔立ちが整ってますね」


「だよねー」


「きっと素敵な彼女さんが見つかるでしょうね」


 そうじゃない。


「あとそうそう。いつも窓際の後ろの方に座ってるさ、髪の毛染めてるやつ」


「すこし背伸びした感じの悪ぶりがかわいいですよね。あれで成績上位だというのだから驚きです」


「えっそうなんだ」


 自分より下だと思ってたから少しショックだ。ってそうじゃない。


「それと——」


「さっきから何ですか、紗綾さん」


「えっ?いやただなんとだくだよー」


 私がこうやって回りくどく話を振るのには理由がある。そう、そうである。ここまで優良物件だというのにである。



 大羽百合子には、恋人がいない。



 男が嫌いというわけではないらしい。ちゃんと評価はしているようだし、普通に接する。情報を仕入れるし、私にもたまに聞いてくるから興味がないわけではないらしい。ちなみに、同性愛の気があるようには見えない。誰が可愛いとか話しているところは見たことがない。


 つまりはなにかというと、そんな彼女の恋のキューピッドになろうとしているのが、私こと河浦紗綾なのである。






=*=*=*=*=






 ピンポーン


 インターホンが鳴るやいなや、私は扉を開く。


「おはよう、百合子」


「おはようございます、紗綾さん」


 ごきげんよう読者の皆さま。少し耳をかしてください。

 突然ですが、私の親友の河浦紗綾さんはとても愛おしい御方です。わけがわかりませんか?ならば結構。彼女の魅力について語らせていただきましょう。


「紗綾さん」


「ん、なに?」


「今日は朝ごはんは食べましたか?」


「……うん食べたよ」


 まずとても素直なんです。学問に微表情学というものがありますが、そんなものが必要ないほどに素直でまっすぐなんです。だからこのように嘘をついていたらすぐにわかります。


「嘘ですね。あがってください、私も朝食はまだなのでちょうどいいです」


 またかと思っていそうな表情をしていますね。その表情も可愛らしいです。


 部屋にあげると、アロマの匂いを嗅いでいるようです。先日香りを変えたときはいまいちな表情でしたが、どうやら今日のアロマは気に入ってもらえたようです。

 紗綾さんにアロマディフューザを貰ってからというもの、香りの科学を勉強し始めました。知っていますか?とても奥が深いんです。紗綾さんのプレゼントは、いつもこのように私に新しい刺激を与えてくれます。


 コンロに火を点けると、料理に気がついたようで私の隣に来ます。いつも何か手をだすわけではなく、じっと私の料理を見守っています。ええ、まるで餌を待つかのようでとても可愛らしいです。


「牛乳は残ってる?」


「ちゃんとありますよ」


 紗綾さんは朝はミルクを入れる派のようですので、牛乳はいわば必需品です。定期的に買って切らさないようにしています。


「いただきまーす!」


 河浦紗綾さんは子供らしさがあるます。もちろん精神年齢が幼いというわけではありません。しっかりと頼れる女性でありながらも、子供のような元気さが残っているんです。


「ああ、おいしかった。ごちそうさま!」


「おそまつさまでした。あっ食器はそのままで」


「いいよいいよ、私がやるよ」


「……あ、ありがとうございます」


 河浦紗綾さんは、このようになにか手伝おうとしてくれます。ちなみに家事はひととおりできるようです。普段から実家でも手伝いをしているらしいです。家では頼れる長女だと豪語していました。


「よし、じゃあ出かけよっか」


「はい。着替えますね」


 部屋着のまま外に出るわけにもいきませんからね。


「そういえばさ、百合子」


「何ですか?あらたまって」


「いつも講義室の右前の集団がいるじゃない」


「ええ、それが何か?」


「あのグループの身長高めのあの人、イケメンじゃない?」


「えっと、たしかに顔立ちが整ってますね」


「だよねー」


 そうじゃないです。


「きっと素敵な彼女さんが見つかるでしょうね」


「あとそうそう。いつも窓際の後ろの方に座ってるさ、髪の毛染めてるやつ」


「すこし背伸びした感じの悪ぶり方がかわいいですよね。あれで成績上位だというのだから驚きです」


「えっそうなんだ」


 紗綾さんはそこまで良い方とは言えませんから、ショックを受けているようです。可愛いですね。


「それと——」


「さっきから何ですか、紗綾さん」


「えっ?いやただなんとだくだよー」


 下手に回りくどく聞いてきますね。きっと有望株な男と私をくっつけようとしてくれているんでしょう。ですが、違うんです。



 私こと大羽百合子には、恋人がいらないんです。



 なぜなら、河浦紗綾さんが親友として側にいてくれる今こそが、私の望む幸せですから。

感想評価等ありましたら、よろしくおねがいします。

作者Twitter→@R_hatanagisa

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