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第一話 ダンジョン暮らしの少年

初投稿となります。

ぜひご試読頂きたく存じます。よろしくお願いします。

ここには光も音もない、あるのは暗闇だけ。そんな漆黒の世界で、


「これは・・・・・・・。私達にも【権利】は与えられているようですので。」


呟く声に反応する者は誰もいないーーーー



〜〜〜〜〜



〈神暦50年〉 


少年はダンジョンの壁にもたれかかり、座り込んでいた。空色の長髪はところどころ返り血で赤く染まり、細く小柄な体中には無数の傷跡、あちらこちらから血が流れ出ている。右の金色の眼は開いているが、左目は閉じている。息は荒い。


「はあ、はあ………どうして……自由に生きて……太陽の光を見てみたかったのになあ……はは……」


ルナの呟きに、隣に倒れているバンがかすかに答える。鍛え上げられた肉体の背中には、大きく切り裂かれた傷があり、真っ赤な血がとうとうと流れている。黒の短髪はボサボサだ。


「……この後に及んで……そんなことを言い出すとはな……お前らしい………げほッッッ」


この声に気がついたのか、同じく倒れていたエリスが呟く。華奢な体は関節が明後日の方向に曲がっており、息も絶え絶えだ。普段はきつい目をしている顔も、物憂げな表情をしていると綺麗なものだ。


「…本当ね……私たちに…自由な未来はない………そんな運命のもとで……生まれてきたのよ……」

「…自由に生きる…か……俺もそんな未来を…少しは夢に見ていたのかもな……」


バンが先ほどよりもさらに小さな声で答える。


「…あまり話さない方がいい。傷に響くよ……」


ルナが答える。


「……ふふっ…優しいのね……さすがの私達でも……この傷はすぐには塞がらないわ……村は壊滅……魔物達はまだ暴れているわね………」

「……仮に回復しても……倒すのは厳しいだろうよ……」


エリスとバンが声を振り絞る。ルナは朦朧とした意識の中、状況を整理しようとしていた。




〜3時間前〜




「ようルナ!晩飯用の材料は調達できたか!!」


バンが大きな声で聞いてくる。ルナが重いバックを下ろしながら答える。


「うん、今日はモスが大漁でさ。いつになく沢山狩れたから、近所にも分けてくるよ」

「あら、ルナは優しいわね」


ここはダンジョンの10階層にある〈ロストプレイス〉。ダンジョン内の大きな洞窟ごとに点在している住居区の総称だ。と言っても天井には無数の魔光石が埋まっており、常に結構明るい。僕たちが今住んでいる場所も、〈ロストプレイス〉に分類される1つの村だ。


通称【ゴミだめ】。地上に住んでいる『普通の』人間達は、この場所をそう呼ぶと聞く。

なぜこんな不確定な物言いをするのかというと、かく言う僕も地上に出たことがないからだ。地上に出れば即刻逮捕され、問答無用で処刑されるらしい。

まさに魔物同然の扱いってことだ。


「ルナ、今日は何階層まで行ってきたの??」


エリスが尋ねる。


「今日は初めて15階層まで降りてきたよ。さすがに魔物の数と強さが段違いだったから、すぐ戻ったけどね」


同じ人間であるはずなのにこんな扱いをされている理由ーーそれは、ここに住んでいると肉体的に少々人間とは異なるものになってしまうからである。

ここに住んでいる人々は魔物を食べて生活しているのだ。


「15階層とは、なかなか頑張ったなあ、おい!俺たちの最高到達階層じゃねえか!!それにしてもこんなにモスが狩れるなんて、ルナも強くなったもんだな!!」

「ふふっ、あなたはいちいち声が大きいわね。もう少し静かにしたらどうなの?」


無駄に勢いよく話すバンにエリスが突っ込む。見慣れた光景だ。


通常、魔物の肉は生臭くとても食えたものではないらしい。だけどダンジョン内には豚も牛もいない。米も小麦も野菜もない。あるものといったら時々生えている名前も知らない草と魔物の肉だけだ。

他に食べるものがないのだから仕方がない。まあまずいものしかないぐらいならいいのだが、魔物の肉を食べ続けていると肉体に少しばかり異常をきたす。

原因はわからないが、片方の眼の色が変わる。またステータスが全体的にちょっとだけ上昇し、マナの最大値が増える。たったそれだけだ。

けれどたったそれだけでも地上の人間達に恐怖を与えるのには十分らしい。魔物の血が入っているというのは、地上の人間にとってはいつ暴れ出すやも知れない恐怖の対象なのだろう。


「こんな生活だ、活気があるに越したことはないだろうよ!!」

「ったくもう……」


とはいえ出た瞬間に捕まるというのはどうなんだ??そこまでするべきことなのだろうか……。

確かにここには危険人物と言われてもおかしくないような人もいるけど……誰も好き好んでダンジョン内に住んでいる訳ではない。

罪を犯し国から追われてここにたどり着いたもの、かつて奴隷として貴族に買われ逃げてきた者、幼い頃に親に捨てられた者。理由は様々であるが、誰しも何らかの事情を抱えてここに住んでいる。


そこまで忌み嫌われるのは、何か別の理由がある気がするけど……。


「何か悩み事でもあったの、ルナ?」


狩ってきたモスの肉から、自分たちが食べる分を取り分けていたルナに、エリスが問いかける。


「ん?なんでもないよ」


そう言ってルナは近所に分ける分の肉を抱え、家を出る。


家と言っても、屋根があったりベットがあったりするわけではない。ただ周りに柵が立てられているだけの小さなスペースだ。この村ではいつ魔物に襲われるか分からないため、逃げやすい簡易的な家の方が便利なのだ。

また大体の人は数人で家を共有する『ホーム』を組み、交代で外を見張る。

ホーム以外の人とはあまり関わらない。いついなくなるやも知れないからだ。


「ああ、一度でいいから太陽の光を浴びてみたいなあ……」


ルナが家を出ようとそう呟いた瞬間、



『ドゴーーーーーーーーンッッッッッッ!!!!』



轟音が鳴り響いた。音源の方を見ると、信じられない光景が広がっていた。

分厚い洞窟の外壁が、木っ端微塵に打ち砕かれていたのだ。


「なんだあ!!??」

「今の音は何!?」


驚いたのは僕だけではなかったようで、音の発生源を見るや否や、その場にいる全員が唖然として立ち尽くしていた。


「洞窟の壁が破壊されたぞ!!戦闘態勢に入れ!」


誰かが叫び、それぞれに戦闘態勢に入る。

幸い、この村の住人は全員が日頃から魔物と戦い続けている手練れが多い。

また魔物を食らっていることにより身体能力は普通の人間と比べて高くなっているらしいし、マナの最大値が上昇していることにより魔法を少しばかり連発することもできる。

そのおかげか、【恵印】を受けている冒険者には遠く及ばないまでも、ほとんどがC級冒険者並みの実力を持っている。

襲ってきたのが10階層クラスの階層主なら、この人数で戦えば難なく倒せるだろう。


周りの住人達も同じ結論に至ったのか、


「撃退するぞ!!」

「化け物が!俺たちの安寧の地を破壊したこと、後悔させてやれ!!」


と口々に鼓舞し、一斉に襲いかかる。


「『炎よ焼き尽くせ…!⦅フレイム・バレット⦆』」

「『切り裂け、風の刃…!⦅エア・スラスト⦆』」

「『現れよ、二つの剣…!⦅デュアルソード⦆』」


皆が魔法やスキルを使って攻撃を仕掛けているようだ。短文詠唱の声が聞こえる。あの威力の攻撃を受けては、並大抵の魔物では太刀打ち出来ないだろう。


しかしどうしてか、ルナの中では一抹の不安が渦巻いていた。



『10階層クラスの階層主でも、あの洞窟の壁を粉砕するだけの破壊力があるだろうか……』



ふと視線を魔物の方へ向けると、炎が魔物を飲み込み、風は岩をも切断し、剣は確実に急所を捉えた………

かと思われた次の瞬間。



『グオオオオオッッッッッ!!』



咆哮で皆怯んだ刹那に、先頭にいた巨大な魔物のひと薙ぎで攻撃は全て振り払われてしまった。

同時に、初めて魔物の全貌を目にし、ただ呆然とした。



「まじかよ、おい……」


隣にいたバンがやっと言葉を出した。


あんな魔物は見たことがない。推定20メートルはあるだろうか。

巨大な猿のようなゴリラのような姿をしているが、腕は異常に肥大化しており、あれに殴られようもんなら一瞬で骨は砕け散り、即死だろう。


『なるほど、こいつが壁を壊したのか……』


ルナの不安は的中した、いや事態はもっと深刻だった。

巨大な魔物の影から、3〜4メートルほどの猿のような魔物が一斉に押し寄せてきたのだ。50体はいるだろうか。この村には200人ほどの住人がいたはずだが、総動員で戦っても勝てるだろうか?



不安は絶望へと変わった。



『グオオオオオッッッッッッ!!!』



巨大猿が地面をなぎ払ったかと思うと、10人ほどが洞窟の奥に吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられ動かなくなってしまったのだ。


周りを見ると、猿魔物もそこそこ強いらしく、1人、また1人と倒れていく。


「これはまずいな……」


そう呟いたバンに、エリスは頷きかけ、


「ルナ、私たちが魔物を引きつけるわ。あなたは逃げなさい。」


そう言った。エリスのこんなに思い詰めた顔は初めて見たかも知れない。


「ああ、あれは15階層ってレベルじゃない。もっと深い階層クラスの魔物だろうよ。どうしてこんな場所にいるかは知らねえが、全力で戦ったところで勝てる相手じゃねえ」

「ええ、ルナはまだ若い。あなたには未来があるわ。いつか私たちに…太陽を見せてね」


「!?」


その時、猿魔物の1体がこちらに向かって飛んできた。


『ガキンッッ!!』


猿魔物の爪を、バンが必死に盾で抑える。


「今だ!エリス!!」

「分かっているわ!!『無数の水槍、穿て……!⦅ネロ・ブラスト⦆』」


エリスが放った水の槍は確実に魔物を捉えた……が、効き目は薄いようだ。


「くッッッ!!」


『ガキンッ!カンッッ!!』


「くそ、なんて力だ……!!」


バンの重い剣が、爪でことごとく弾かれてしまう。


「ルナ!今のうちに逃げて!!」


2人は僕を逃そうとしてくれているようだが、逃げる気なんてさらさらない。


「2年前から決めていたことなんだ」



もう逃げるわけにはいかない……今ここで戦わなくちゃならないんだ……



「『魔双よ、血を持って我が道を開け……!!」


ルナは”唯一”使えるスキルを詠唱する。


「やめろ!!逃げるんだ、ルナ!!!」


構わずルナは指を噛み、そしてスキルを放つ。


「⦅ラ・デュナミス⦆』」


刹那、ルナの右目は蒼く染まり……


『ザシュッッッッッ!!』


猿魔物の懐に飛び込み、愛用の双剣で腹を切り裂く。

魔物の体は真っ二つに切り裂かれ、呻き声を上げたかと思いきや、その場に倒れた。


「おいおい、ここまで強くなっていたなんてな」

「いつまでも子供のままじゃないってことね」


2人に戦う姿を見せるのは半年ぶりだ。

ダンジョン内の魔物と戦い続けたことで、ルナは半年前より数段強くなっていた。


「僕がバンやルナと会ったのは2年前だったね。あの時から決めていたことなんだ。僕は君たちに……」


『ガコンッッッ!!』


ルナの背後から迫った猿魔物の攻撃をバンが盾で受け止め、そのまま剣をなぎ払う。


「久々に本気で戦うとするか」


バンが剣を強く握りしめ、力を込める。


「『轟器、岩砕の反撃…⦅カウンターショック⦆』」


何も起こらない。猿魔物は途端に攻撃態勢に入り、バンに斬りかかる。その時…


『バリバリバリッッ…ドゴーーーーンッッッ!!』


バンの周りにエネルギーが集まり、斬りかかった猿魔物を剣で粉砕した。


「いつ見てもすごい威力だね」


バンの必殺スキルはカウンターだ。

攻撃にかかってきた対象に対して不意にエネルギーを解き放ち、攻撃の威力もろとも破壊する強力スキルである。


「私も負けてられないわ、ちょっと頑張るかしら」


エリスが詠唱を始める。


「『顕現しなさい、大気の渦……放たれる魔力の根源……我が名はエリス…!!⦅サイコ・ブラスト⦆』」


瞬く間に猿魔物の周りに空気の渦が生まれ、飲み込む。


「私の得意魔法、覚えていたかしら?」


念動力である。今のは空気の渦を巻き起こし敵を細切れにしたのだ。

その後も協力して、周りの猿魔物を1体、また1体と倒していく。


「いてて……」

「骨は折れるが…俺たちなら、なんとか倒せるみたいだな……!!??」



『ブンッッッッッッ!!!』



突如として、バンが視界から消えた。何が起こった?目で追えない速度で消えたのか?なぜ?誰にやられた?

答えを出すのに時間はかからなかった。


『グオオオオオオオッッッっ!!!』


いつの間にか、巨大猿が目の前で拳を振りかぶっていた。


「くそっっ!!!」

「きゃあっっ!!!」


瞬時にジャンプして避け、エリスの方を見る。

自分の体を宙に浮かして回避した………ように見えたが、視界に姿がない。


『バコンッッッッ!!』


遠く後ろで衝突音がした。避けきれずに風圧でふっ飛ばされたのか……!?

なんで力だ。そして図体からは想像が出来ないほど俊敏に動きやがる。


「せやっっっ!!」


着地と同時に地面を蹴り、全力で斬りかかる。


『パキンッッ!!』


「え?」


刃が折れてしまった。硬すぎる。


『バコッッッ!!』


体中の骨が折れる音がした………と同時にぶっ飛ばされ、壁に叩きつけられた衝撃で意識が飛びかける。


「おい…さっき2年前って言ってたがよ……俺たちがどうかした………のか……?」


バンの声がする。横で倒れているようだ。


「ダンジョンで死にかけているところを……助けてくれた……僕は一人だけ逃げてきた……臆病者だったのに……」

「お前の過去なんざ……知らねーさ……」

「そんなこと言わずに……また聞いてくれよ………ぐふっ」


朦朧としているが、エリスも近くで倒れているのが見える。


『全員死ぬな……こりゃ……』


そう悟った瞬間、急に冷静に思考回路が回り始めた。


あんな化け物がこの階層に来るなんてことは滅多に起こらない。魔物は生まれた階層に留まり続ける習性を持っている。生まれ持った魔力に馴染む空間があるのだろう。

なのにあいつはこの階層に来て、〈ロストプレイス〉を襲った。これは偶然だろうか……?

いや、違うな。国直属のA級もしくはS級冒険者、恐らく【恵印】を受けたやつが従属させて連れてきたんだろう。

こんなことまでして〈ロストプレイス〉を潰したいのか。



似たようなことが前にもあったな………



「はあ、はあ………どうして……自由に生きて……太陽の光を見てみたかったのになあ……はは……」



ーーーーー



〜現在〜


「これは多分……国の陰謀だよ……余程〈ロストプレイス〉を潰したいらしい……」


ルナの声に、バンとエリスの返答はない。


しばらくして、


「お前が逃げてきたってのは……もしかして……前にも同じようなことがあったのか……?」


バンが声を振り絞る。


「うん……まあね……」

「そりゃ……逃げて正解だった……わね……」


エリスも声は出るようだ。


なんでだろう。死を目の前にしたからか、これまで以上に『自由』への渇望が湧き上がってくるのを感じていた。

同時に理不尽さを思い知らされ続けた人生を振り返り、自らが生まれた意味を求めていた。


人生最後に、出来る限り大きな声でも出してみるか、、、



「クッッッソオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!!」



「うる……せえ……よ……ルナ………」



バンが呟く。エリスは静かになってしまった。

最後の声を絞り出して、囁いてみる。


「神よ、僕の声が聞こえるか……?もし……本当にいるとしたら……聞いてくれ……なぜ……僕たちには力が無いんだ……!自由を求めて何が悪いんだ……!?この悲痛な叫びを……胸に噛み締めやがれ………」


〔ええ、聞こえますとも。〕


なっ…………!?


















しばらく更新が途絶えます。

別の拙作ノベルを読んで頂けると幸いです。

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