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3.記憶の扉

…暑いな…。

太陽が真上にあり、しかも片手に溶けかけつつある棒アイス。

そしてもう片方に自転車のハンドル。

なんのへんてつもない夏だったはずだった。

信号が変わり、進み始めた時隣にいた男の子が元気よく飛び出して行った。

それを俺は少し微笑ましい気持ちで見ていた。

しかし、車が少なかったせいか、信号無視のトラックが突っ込んできた。

溶けかけの残り少ないアイスも、汚くなっている自転車も放り出し、男の元へと駆け出した。…やばいな車が近づいて来ている。俺は前のめりになりながらも、せまりつつある車を呆然と見ている男の子を反対車道目掛けて男の子を押し、なんとかなったと思ったが、車が俺を目掛けて来る。キキーー。ドスッ。と鈍い音がしたと共に、俺は空中を…跳ねた。

そうだ。俺は…あの時に…。記憶のかけらがみつかったと共にふわっ。っと何かが解放された音がして気がつけば俺の体が光、透き通っていく。

「いやだよ…俺消えたくないよ……。綾香さん!!」

綾香さんの方を見ると、綾香さんの頬に涙が伝っていた。

「綾香さん!!」

腕を掴もうとしてみるも綾香さんの体を通り抜けるだけ。

「…っ」

なんでこんなになってしまったんだろう?

「…海斗君」

綾香さんは震えている声で俺の名前を呼んだ。

「…海斗君大丈夫だよ?平気だよ。恐くないよ」

綾香さんはそう言いながら触れられない俺の頭を撫でた。なんでこんなに俺って情けないんだろう?

「綾香さん!俺死にたくないよ!まだ生きてやりたいことがたくさんあるんだよ!!いやだよ…死にたくないよ…」

「…海斗君顔上げて?」

なんだろうと思いつつも顔を上げるといきなり額にキスされた。…といっても触れていない。

「…っ!?」

あまりにもいきなりの出来事に顔が真っ赤になってしまった。

「…海斗君。…必ず生まれ変わって!海斗君自信が忘れてしまったとしても、私は必ず海斗君を見つけるから!!…だから…だからお願い!!!」

あぁ…俺を必要としてくれてる。俺の存在が今、たしかにここにある。…愛しい…。俺は彼女に合わせてしゃがみ、触れることのできない唇に俺の唇を重ねた。その瞬間…俺は消えた。

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