プロローグ ~始まりは晴れた日の下で〜
初投稿です!お手に取って頂きありがとうございます!
ーーこの世界はヌルゲーだと思っていた。
高校の定期テストは毎回満点、どんな危機的状況でも回避出来るし、自分がこれからどんな人生を送るかも既に知っている。
それは、俺が産まれた時に神様から頂いた一つの能力のおかげだ。その能力とは……「未来予知」。
これから自分に起きるあらゆる事を知ることが出来る能力。この能力のおかげで俺の人生はとてもスムーズに進んでいた。
ーーはずだった。
ーーーーーー
「俺と、付き合ってください」
ある晴れた日の下、俺は一人の女性に告白をした。
その女性とは、高校の同級生で同じクラスの白鷺 由紀という名前の女性だ。
彼女はとても整った顔立ちで成績も良いのだが、目立つことが嫌いらしく、人の前には絶対に立たず、人との交流も最低限のもののみで、周りからは「雪の結晶」という二つ名が付けられている。
俺以外の奴ならここで心臓の鼓動はとてつもなく早くなるだろう、それも極限までBPMを上げたメトロノームのように。ただ俺は違う。なぜなら、この告白に対する返事を知っているからだ。答えは当然YESで、顔を赤らめ、右腕を左手で掴みながら。神様には本当に感謝している。この能力のおかげで意中の女性と付き合うことが出来たのだから。さあ、答えは知っているんだ。はやくへんーー
「ごめんなさい」
「うん、これからもよろし……」
……え? 今なんて?
何故か白鷺は謝り、校門を出て行った。その足は止まることなく、俺はただ呆然と白鷺の消えて行く背中を眺めていた。
「え……俺今、振られた……?」
少しずつ現状を理解して行く脳に、無意識に理解の停止を命令する。しかし、そんな事が出来るはずもなく、たった今、全てを理解した。
いや、そんなはずはない。予知では俺達は付き合っていた。それは間違いないはずなんだ! まさか、俺の予知が外れた? でも、そんなことこれまで一度も……いや待て。今は何も考えるな。とにかく家に帰ろう、これ以上考えたらこの場で倒れる気がする。そうだ……家に、かえ……れ……ば……。。。
ーーーーーー
目が覚めると、俺は自分の家のソファに横たわっていた。何故だろう、もう何日もずっと寝ていたきがする。……いや、そうしたいだけなのかもな。
振られたことを認めたくない。ただその事だけで倒れたわけじゃない。今の一番の問題は、「予知が外れた」ことにある。まあ、それもそうか。俺が今まで何不自由なく過ごせてこれたのはこの予知能力のおかげなんだから。
でも、俺は白鷺のことをまだ諦めていない。今までの俺なら出来ていたはずなんだ。だから、これからだって出来るはずだ。この能力さえあれば……俺は……。
そうして俺はまた、深い眠りについた。
ーーーーーー
ーー朝か。
カーテン越しに透ける朝日が俺の顔を照らし、無理矢理にも目を覚まさせる。
休日だって言うのにこんな時間に起こすなよ太陽。俺は土日の起床時間は午前十時半って決めてる。俺の中では遅すぎず早すぎずといい時間だと思ってる。
だが今の時刻は午前六時。これじゃあ平日と変わらない時間だ。
仕方なく起きることにして顔を洗い終えた俺は完全に目が覚めた。そして昨日だと思われる出来事が思い出された。
ーーごめんなさい。
ああ、最悪だ。でも、俺は絶対に諦めない。この能力に誓って、絶対に付き合ってみせる。自分の気持ちを強く思い、ふとある事が脳裏によぎった。
(次会った時、俺はどうすればいいんだろう……)
そうだ、正直振られた相手と話すのは結構キツい所がある。でも、俺には予知能力がある。次に白鷺と会う時の事を予知すればどうすればいいのかが分かるはずだ。だが、一度失敗している事実がある以上、この予知能力も信頼にかけてしまう。でも、俺はこの能力を信じる他ないんだ。これまでこの能力でしか物事を解決してこなかった俺に、今更選択肢があるわけがない。
そして俺は、未来予知を始めた。
未来予知をする時はいつも決まってある空間に飛ぶ。辺りは真っ白の世界が無限に広がっていて、その中を未来のピースのようなものがフワフワと浮いているような、そんな、夢の中にいるかのような感覚。そして、俺は白鷺と次に会う未来のピースを見つけた。
「お、これか」
その中には、自分もよく知るショッピングモールの中だった。
俺は白鷺に何かを渡している。これは……白熊のストラップか。どこで得た情報なのかは知らないが、少しばかり口角が上がっている。人と話すことがない白鷺の笑顔を見たのは、これが初めてだった。そして今見ていた未来のピースは湯気のように消えていった。
「まさか、今日そんな事が起きるのか。」
さっき見た未来のピースに映っていたスマホの日付と時刻は今日の午後二時だった。まさかこんなにも早く白鷺に会えるとは思わなかったが、もう一度関係を取り戻すためにも会うのは早いに越したことはない。そして俺は白鷺に会うために身支度を始めた。