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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第一章
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パートF 受け継ぐ者

 供花は走る。目の前の男を追って。

 その男は、坂下に襲われて絶体絶命のところに突然現れた。天井を破壊して。

 そしてレインをロープへと変化させて、私を屋上へと引き上げてくれた。

 そして、「ついてこい」と言って走り始める。

 私は、訳がわからずも、あの場に留まる選択肢は無かったので、この男を信じるしかなかった。


 訓練棟の屋上を端まで走ると、男はそのままジャンプをして地面に着地する。

 そしてこちらにも「お前も降りて来い」と目で促す。


 地面まで5mはある高さ。

 躊躇する私に向かって男は言う。


「嫌なら置いていくぞ、乳デカ」


「さ、さっきからなによそれ! それにあなたは誰なの?」


「そうか、じゃあな乳デカ。俺は先に行く」


 男は前を向くと、本当に私を置いて行こうとする。


「ま、まって。でも……この高さは、無理!」


「いいからさっさとしろ」


 男は呆れた声で淡々としゃべる。

 迷ってる暇はない。半分ヤケになって、覚悟を決めて飛び降りる。

 腰が引けた体勢で飛び降りたせいで、空中でバランスを崩してしまい、お尻から地面に激突しそうになった。


「きゃっ」


 着地の衝撃に悲鳴を上げる。でも痛くない。


 ゆっくりと目を開けると、私の体は、男のレインの上にいた。

 男のレインが、私の体と地面の間に入り、クッションのような形状になっていた。

 柔らかく弾力のある強度のおかげで、落下の衝撃を抑えてくれたことを理解する。


「あ、ありがとう」


「……さっさとしろ」


 男は私の無事を確認すると、先を走る。


「ま、まってよ」


 私は彼の後を懸命に追いかけながら、ふと疑問に思う。

 このまま彼はどこにいくのだろう?

 高校は高い塀で囲まれていて、唯一の出口は正面の正門のみ。

 でもそこには警備員が待機している。

 おそらく昨日の事件を受けて、正門はかたく閉ざされ、警備員も増員されているに違いない。

 もしかしたら、警察もいるかもしれない。

 とてもじゃないが、正門を突破できるとは思えなかった。


「ねぇ、どこへいくの? それにあなたは何者?」


「……黙ってついて来い」


「なによそれ! 助けてくれたのは感謝しているけど、あなたたち、この高校の関係者じゃないよね? そんな人の言うことなんて聞けない」


 私は男の後を追いながら、疑問をぶつけてみる。

 男は、正門には向かっていない。この先は、雑木林がある以外なにもない方角だ。


「乳デカ。お前、自分の置かれた状況がわかっているのか? お前は、エルフに目を付けられた。ここにはもうお前の居場所はない」


 私は言い返そうとしたが、言葉に詰まる。


 さっきのエルとのやり取りを思い出す。

 おそらく絶斗の失踪に、あのエルフは関係している。

 いえ、それどころか、エルが犯人の可能性が高い。


 でも、私がそれを警察に言ったところで、無意味だろうことは容易に想像できる。

 表向き友好を示して、人類に数々の恩恵をもたらしてきたエルフが、そんな事件を起こすはずがない、と判断されて信じてくれないだろう。

 仮に私の証言を信じてくれたとしても、警察が、日本政府が、エルフに敵対するだろうか?

 おそらく確実な証拠がない限り、エルフを疑ったり、敵対するなんて、できはしないだろう。

 下手をすれば、確実な証拠があったとしても、事件の真相をもみ消される可能性すらある。

 そして絶斗の失踪はエルが犯人、なんて言い出す私の立場が危なくなる。


 また黙っていたとしても、もはや私に平穏な日々は二度と訪れない。

 私が事件の目撃者で、絶斗のレインについてなにか知っていると、エルに認識されているからだ。

 あのまま高校に滞在していても、いずれ必ず接触してくる。その後殺されるか、もしくは祐がされたみたいに―――。


 もうこの世界に、私の居場所は無いのかもしれない。


 考えれば考えるほど絶望的な状況であることを悟り、青ざめる。


「……あなたは、私を助けてくれるの?」


「そうだ。だから迎えに来た」


「……どうして助けてくれるの?」


「詳しくはここを抜け出してから話す」


 それ以上の問答を拒絶するかのように、男は走る速度を上げる。

 私は置いて行かれないように、力を振り絞って付いていくしかなかった。


 雑木林の中に入り、走りづらい道をひたすら進む。

 やがて終着点へとたどり着く。

 高い塀が目の前に広がり、これ以上先には進めない。

 男はこちらに振り返って、小さな袋を私に渡してきた。

 手渡された袋の中身を確認する。中には文庫本サイズにまで折り畳まれた布が入っていた。

 その布を広げると、携帯用レインコートだった。


「……なにこれ?」


「いいから、広げて身に着けろ」


「どうして? 雨なんて降ってないじゃん」


「これを着れば、敷地外のセンサーに引っ掛からなくなる」


「え、どうして? どういう原理なの?」


「……面倒な女だ」


「むっ!」


 塀の外にはセンサーが張り巡らされている。

 これは3種族から提供された技術を応用したものであり、人類よりも遥かに優れた技術を利用しているため、絶対的な信頼性がある。

 そのため学校側も正門のみに警備員を配置している。


 もし、こんな物でセンサーを誤魔化せるなら、現在のセンサー頼りである安全神話は、足元から崩れるだろう。

 昨日の事件のせいで普段以上に警備が万全のはずの高校に、この男が侵入できた理由が理解できた。


 でも、そうなると新たな疑問が湧いてくる。

 宇宙人が提供した技術すら超えるモノを、どうしてこの男は持ってるの……?



「フロイト」


 後ろで女性の声がした。

 振り返ると、小柄でフードを被った女性が、こちらにむかって走ってきていた。

 私から少し距離をとった所で立ち止まると、フロイトと呼ばれたこの男と言葉を交わす。


「里香。つけられてないか?」


「振り切った。でも、近くまで来ていると思う」


「そうか。では急ぐぞ」


「うん」


 里香と呼ばれた小柄な女性は、私が渡されたレインコートと同じ物を取り出して、身につける。

 私も急いでレインコートを制服の上から羽織る。


 全員がレインコートを身につけると、フロイトはレインを起動展開する。そして、塀の上に飛ばした。

 フロイトのレインの形状は、フック付きロープに変化し、フックが塀の上に引っかかる。


 しっかりと固定されているのを確認したフロイトは、その長身をものともせずに、壁を登っていく。

 塀を越えて敷地外に出たフロイトは、今度はこちらに向かってレインのロープを伸ばす。


 私は嫌な予感がしながらも、ロープをしっかりと握る。

 するとロープの先端が伸びて、私の腰に巻き付いた。


「ぅぅ…いたいよぉ」


「落ちていいなら緩めるぞ」


「……このままでお願い!」


 ロープにしがみつきながら、壁に足をつけて塀を登る。


「……重い」


「うっさいわねっ! さっさと引き上げてよ!」


 フロイトが、わざとらしくため息をつく。


 私はそんな態度にイラッとしながらも、なんとか塀を越える。


 最後は里香の番だったが、私とは違って、いとも簡単に塀を越える。

 その身のこなしは、猫のように身軽だった。


「あなた、すごいわね」


「……アンタが重いだけ」


「な、なにぃー」


 里香は怒る私を無視して、スタスタと先にいってしまう。


 フロイトは私に振り返る。


「いくぞ乳デカ」


「んもう、さっきから『乳デカ』とか『重い』とか……。た、確かに、可憐は出てるところ出てて、引っ込んでるところは引っ込んでるし。雪は、スレンダーで、モデルさんみたいでカッコイイけどさぁ。わ、私は普通よ! 普通!」


「なにを言ってるんだ……? 追手はセンサーに反応が無いことから、まだ俺達が敷地内に潜伏していると判断するだろう。その間にここを離れる。ぐずぐずするな」


「……わかったよぉ」


「それと、お前の持つ端末は、今ここで破壊しろ。それで探知されないためだ。そもそも―――もうお前には必要ないだろ?」


 フロイトはそう言って、私を残して先に行く。


 私は端末を握り締めたまま、最後にもう一度、高校を見上げる。

 塀の向こうには、いつもの日常があった。代わり映えしないけど、失って初めて気づく、大切な日常。


 可憐、雪、隼人、それに祐と絶斗。

 いつも一緒にいたメンバー。みんなとの楽しい日々を思い出す。


 さようなら。


 端末を空中に放り投げる。

 左腕のレインを起動展開する。そして放つ。


 大きな弧を描くブレードが、端末を両断する。


 さようなら―――――日常の私。


 レインを左腕に戻し、右太ももにあるもう1つのレインに触れる。


 行こう、絶斗。


 私は2人の後を追って走り出した。

 もう後ろを振り返らずに。



《登場人物紹介》

あさひ 可憐かれん

17歳、女性、日本人、158cm

レインランク:E+

パッチリとした大きな瞳が特徴的

純粋で活発な性格からムードメーカー的存在


持たざる者

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