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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第一章
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パートE ドワーフ

 時間は少し遡る。

 供花、可憐、雪、隼人が分かれた後、雪と隼人はカフェテラス「クロワッサン」に2人で残っていた。


「……雪、いったい絶斗はどこにいったんだと思う?」


 隼人は椅子の背にもたれかかり、空を見上げながら呟く。


「……わからない。なぜこんなことに―――」


 雪は手元のコーヒーカップを見つめながら、元気のない声で答える。


「俺たちの知らないところで、この高校になにかが起きている。おそらく、絶斗はそれに巻き込まれた。そして―――何者かに連れ去られた」


「連れ去られたって……国が管理している高校で、そんなことありえるの?」


「わからない。でも、人が一人行方不明になったんだぞ。そうとしか考えられない……」


 なにかが起きている、という隼人。

 その言葉に雪は、1つ思い当たる節があった。


「ねえ、もしかしてエルフが原因?」


「……あのエルが関わっている、と思うのか?」


「だって、エルがこの高校に赴任してきてから、祐がおかしくなって、絶斗もいなくなって―――なにも関係ないとは到底思えないじゃない!」


 普段冷静な雪が、一際大きな声を張る。

 雪のコーヒーカップの中身が、大きく波打つ。

 隼人は、カップを持つ雪の両手に、手をそっと重ねる。


「……ごめんなさい。いつもの私じゃないわね」


「こんな状況なんだ、仕方ないさ」


 落ち着きを取り戻した雪から、カップをゆっくりと受け取って、テーブルに置いた。


「エルが関係している、か。だけど、それを言うなら、エルを襲ったフォースウルフの方が怪しくないか?」


 隼人は、エルが直接の原因だとは考えていなかった。

 だが、無関係というわけではなく、間接的な原因はありえるとも思った。

 つまり、エルを狙ったフォースウルフの仕業。

 絶斗はそれに巻き込まれた可能性。


「ねえ、この前のあさひ園に行った日、隼人はフォースウルフがエルを襲撃する現場を見てたのよね? その時のこと、もう1度話して」


「ああ、俺と祐と絶斗は爆発音がした後、外に様子を見に行った。そこでフォースウルフの集団が、エルを襲撃していたんだ。結果は知っての通り、エルがフォースウルフを返り討ちにした。エルのレイン操作は圧倒的だった―――」


「その時、隼人たちも戦闘に巻き込まれたんでしょ?」


「そうだ、生き残ったフォースウルフの2人が、こっちに向かって逃げてきたんだ。仕方なく応戦することになって―――正直言って危なかった。相手は戦闘慣れしてた。俺たちも模擬戦は何度かしてるけど、実戦は初めてだったしな……」


「その時の『生き残り』が、いるのよね?」


「確か、俺たちと戦ったうちの片方は、逃げ延びたらしい。俺たちとの戦闘中に、仲間の男がエルに殺されたのを見て、そいつは逃げていったよ。エルも興味が無いみたいで、追いかけなかったしな。そのまま逃げ切ったんだろう」

 隼人はその時のことを思い出したのか、苦虫を噛み潰したような顔になる。


「そのフォースウルフが絶斗の失踪に関わっていると? 警備が厳重なこの高校に侵入なんて無理よ」

「まあ、そうなんだが―――」


 ゴオオオン


 2人の間に沈黙が訪れた頃、訓練室の別棟がある方角から轟音が鳴り響き、煙が立ち上がる。


「隼人!」


「また事件か! この学校にいったいなにが起こっているんだ!」


「絶斗の件となにか関係があるかも?」


「そうだな。昨日の今日だ。到底無関係とは思えない……お、おい、雪、まてっ」


 雪は、隼人の制止を振りきり、訓練棟に向かって走り出す。

 隼人も急いで立ち上がり、雪の後を追う。


 昨日の事件を受けて休校中の高校。敷地内に全校生徒の住む寮があり、それらを覆い囲むように塀が設置されている。

 唯一外へと繋がる校門は、現在閉鎖されており、敷地外への外出は認められていない。


 カフェから訓練棟は目と鼻の先で、朝早くだったので雪と隼人が駆けつけるまで人影は見当たらなかった。

 とはいえ、訓練棟から轟音と煙が立ち上っているのだ。そう遅くないうちに警備員などが駆けつけてくるだろう。


 2人が訓練棟に到着すると、状況を理解した。

 平屋建ての屋上に人影があり、天井に穴が空いているようだ。

 各訓練室につながる廊下が瓦礫で埋もれている。


 隼人は、棟の中に入ろうとする雪の肩を掴んで止める。


「まて、今入るのは危険だ」


「で、でもっ…でも、中でなにかが起こっているのは間違いないのよ! もしかしたら絶斗が―――絶斗がいるのかもしれない」


「落ち着け雪。昨日絶斗はここで血痕を残して失踪した。今いるわけないだろ!」


「で、でもっ」


「わかってる。昨日のことと無関係とは思えない。それに、中に人がいるのが聞こえるだろ?」


 雪は隼人の言葉を聞いて、はっとする。そして耳を澄ます―――――。


 聞こえる。


 別棟の中で、金属と金属がぶつかり合う音がする。

 この音は―――「レイン」だ。

 誰かが、天井が崩れた建物の中で、レインによる戦闘を行っている。


「隼人、誰かが戦闘している」


「ああ、そうだ。雪、レインの準備をしろ。警備員が到着するまで、ここで様子を見るぞ」


 隼人はレインを起動展開させる。

 隼人の左腕からレインが零れ落ち、地面に流体金属の水溜りを形成する。


 雪も起動展開させようとした瞬間、入り口から人影が飛び出してきた。


「きゃっ」


 飛び出してきた人影が、雪に迫る。

 突然の状況に驚いて、雪はその場で尻餅をついてしまう。


「雪っ」


 隼人は雪を庇うように前に出て、人影に向かってブレードを放つ。


 飛び出してきた人物は、後ろを気にしていた。

 そのため、目の前に人がいるとは思っていなかったらしく、雪を見て身体をビクリとさせる。

 その合間を縫って、襲い掛かる隼人のブレード。

 相手は体を捻って回避する。が、間に合わずにブレードが腕を掠める。

 腕を押さえながら後ろへと下がる人影。

 そこで隼人と目が合う。


「なっ、お前は!!」


 隼人は相手の姿を見て驚愕する。


「あの時のフォースウルフ―――」


 別棟から出てきた人物は、数日前にエルを襲撃したフォースウルフの生き残りだった。

 小柄で、フードを深く被り顔はよく見えない。しかし、あの時と同じ格好をしているため、間違いない。

 一方。フォースウルフの方は、隼人のことを覚えていないようで、反応は薄い。


「なぜフォースウルフのお前がここにいる? ここでなにをしている!」


 傷口を押さえながら、反応の無い構成員に対して、隼人は激昂する。


「フォースウルフって―――あなた、絶斗になにをしたの? ねえ、絶斗はどこにいるのっ!」


 雪は立ち上がって、構成員に向かって叫ぶ。


 なにも答えず佇むフォースウルフの構成員。

 そこに、別棟の屋上から声がかかる。


里香りか、離脱するぞ」


 砂煙が舞っているせいで、屋上の様子がよくわからない。

 だが、今の呼び掛けは、目の前の構成員に向けてだろう。

 ぼんやりとだが、屋上の人影が2つ見える。


 それに気を取られていると、目の前の構成員は、隼人たちに背を向けて走り去っていった。


「ま、まてっ」


 慌てて追いかけようとする隼人と雪。

 しかしその直後、またしても別棟の天井が崩れる轟音が響く。

 その轟音に驚き、とっさに身をかがめる隼人と雪。

 隼人たちに被害は無かったが、その間にフォースウルフの構成員は遠く離れてしまった。


 瞬く間に距離を離し、小さくなっていく後ろ姿。

 隼人は急いで後を追おうとするが、それを雪が止める。


「おい、早く追わないと」


「まって、なにか聞こえない……?」


 雪の言葉を受けて耳を澄ます隼人。


 確かになにか聞こえる―――ガンッ―――ガンッ―――ガンッ―――崩れた瓦礫の中から、音がする。


 不気味なリズムを刻む打撃音が不意に止まる。

 その直後、一際大きな衝撃音と共に瓦礫の一部が吹き飛んだ。


 収まりかけていた砂埃が、再び大きく舞い上がる。

 その砂埃の中から3つの人影が浮かんだ。


「―――後を追いなさい」


「はっ」


「……」


 透き通るような声が響き渡り、2つの人影が動く。

 姿を現した2つの人影。一人は、坂下竜也。有名な3年の主席。

 そしてもう一人は―――――。


「祐!」


 雪が祐を見つけて叫ぶ。


「……」


 祐は立ち止まり、首だけを隼人と雪に向ける。

 祐の無機質な目は、2人を視界に捕らえても微動だにしない。

 そして視線を前に戻して、そのまま走り去ってしまう。


「えっ、まって」


「お、おい、祐」


 雪と隼人の戸惑いの声にも、祐は最後まで反応しなかった。



「あなたたちは―――ここでなにを見たのかしら?」


 残った人影が、こちらに向かって歩いてくる。

 砂埃が晴れてその姿を現すと、雪と隼人の動揺は極限にまで達した。


「エ、エル!?」


「なんであなたが……」


「聞いているのは私よ。あなたたちは、なにを、見たのかしら?」


 エルの表情は以前に見たときと同じ。

 薄く微笑み、見る人を虜にする美しさはまるで天使のようだ。

 にもかかわらず、隼人と雪は指一本動かすことができない。まるで石化する魔眼で見られたかのように。

 エルの美しくも鋭いその眼光は、針のように心に突き刺さり、その胸の内まですべて見透かされている感覚を覚える。


「―――――仕方ないわね。半分は八つ当たりよ。ごめんなさいね」


 エルはそう呟くと周りを見回す。

 つられて隼人も周りを見る。まだ誰も来ていない。

 あと数分もすれば人が駆けつけてくるだろうが、今この場にいるのはエルと隼人、雪の3人だけだった。


 エルは、右手を顔の位置まで挙げ、親指と中指を重ねる―――――それは、指を鳴らそうとする動作。

 隼人はその動作を見て、思い出す。あの指がパチンと鳴った後、フォースウルフがどうなったのかを。

 軽く右手に力を込めて、今まさに指を鳴らそうとする。


 その瞬間、トゥルルルートゥルルルーと、雪の制服のポケットから電子音が鳴った。


 雪は自分の端末からの呼び出し音を聞いて、困惑した状況から我に返る。

 音を止めようと、反射的に端末を取り出しながら、隼人を見る。

 隼人は目だけを雪に向けながらも、小さく震えながら固まっていた。今まさに捕食されようとしている小動物みたいに、恐怖と絶望の顔を浮かべながら。

 雪は隼人がなぜそんな状況に陥っているのかわからない。エルが意味深なことを言いながら指を鳴らそうとしただけなのに、なぜそんなに怯えているのかと。


 雪は取り出した端末に目を落とす。誰かから電話がかかってきたようだ。

 端末の画面を見て、雪は驚く。


 画面には「死にたくなければ出なさい」と写し出されていた。


 当然こんな連絡先を登録した覚えはない。

 誰が自分に電話をかけてきたのか? どうやってこの文字が写せるのか?

 雪は電話に出るべきか迷う。


 着信音が鳴り続けるなか、電話に出るわけでもなく、着信音を止めるわけでもない。固まって動かない雪を見て、エルは少し興が削がれたのか、呆れた声で言う。


「でたらどうですか?」


 雪はエルに促され、電話に出る決意をして端末を耳に当てる。


「……もしもし―――誰ですか?」


「初めましてお嬢さん。突然ですが、私の言うとおりにしなさい。今ここで―――死にたくはないでしょう?」


「死ぬ?」


 死という言葉を聞いて、隼人は体をビクリとさせる。

 エルは感情の読めない凍った笑顔で、雪を見つめる。


「ええ、今対応を間違えれば、あなたと隣の彼は死にますよ」


「………どういうこと? あなたは何者?」


「詳しい話は後にしましょう。まずはこの言葉をエルに伝えなさい。『3協定による優先権を行使する』と」


 雪は戸惑いながらも、言われるがままにする。


「3協定による優先権を行使する」


 その瞬間、エルの顔が驚愕に変わる。


「それを渡しなさい!」


 エルが声を発すると同時に、エルのレインが瓦礫の中から飛び出す。

 ものすごい速度で地を這い、雪が持つ端末を奪う。

 エルは、奪った雪の端末を自分のもとへ届けると、耳に当てた。


「あなたは―――どっち、かしら?」


 エルと電話の相手が会話を始める。


「そう、いいわ。あなたがこの子たちに興味を持つなんて、意外だわ。『どちらがお目当て』なのかしら? ふふ、そうね―――フェアにいきましょう」


 エルが通話相手と会話を続けるにつれ、次第に緊張した空気が和らいでいく。

 そして電話を終えると、エルはこちらに温かな笑顔を向けてきた。


「急に端末を取ってごめんなさい。返すわ」


 エルはレインを解除して、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 雪の手に端末をそっと渡すと、肩に手を置いて、雪の耳元でなにかを囁く。

 そして、そのまま去っていってた。


「雪、大丈夫か?」


「……」


 緊張を解いて雪に話しかける隼人。

 遠くには警備員の姿が見える。ようやく駆けつけてきたようだ。

 雪は焦点の合わない眼で、呆然としている。


「おい雪、どうしたんだ。エルは最後になんて言ったんだ?」


 雪の両腕を掴み、しっかりしろと揺さぶる。

 隼人と目を合わせた雪は、一言だけ呟く。



「―――――ドワーフ」



《登場人物紹介》

エル

女性、エルフ

レインランク:不明

人類を超越する美しさを持つ

現在エルフ族代表としての地位に就いている

とある目的により日本の高校を訪れている

最愛の妹がいる

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