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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第二章
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死の宣告

「あの女を殺せ!」


「あそこだ! 逃がすな!」


 正門前にて人質を取る神聖アールヴ教団の教徒たちが叫ぶ。


 教徒らの人だかりに、単身突っ込っこむ あさひ供花。

 供花のみが可能とする能力―――2つのレイン同時操作。

 供花は自身のレインを足に纏い、機動力を強化させて縦横無尽に駆け回る一方、もう一つのレインである絶斗のレインが、供花を守りつつ周囲の敵へ攻撃を繰り返していた。

 その機動力と攻防を兼ね備えた戦闘スタイルは、乱戦となっていた戦場においても一際目立つ存在。


 それもそのはず、この状況は供花自身が自ら望んで作り出していた。


(よし、私に注意が向いている。可憐、井上さん、今のうちに人質を解放して!)


 供花のこころみ通り、可憐と井上をはじめとする予備生たちは、人質のもとへと向かう。

 供花の撹乱が功を奏して、人質の周りにいる教徒らも浮き足立っていた。


「やああああああ」


「ブレード!」


 予備生たちが果敢に攻め入り、教徒たちを後退させる。

 後ろへ下がっていく敵を尻目に、捕らえられていた人質を次々と解放していった。


 供花の奮闘もあり、予備生たちは教徒らを徐々に退け、人質の救出に成功しつつあった。



 そんな教徒と予備生が入り混じるなか、正門の方から凄まじい破壊音が生じた。


「なっ、なに?」


 供花は驚いて足を止める。


「くらえええええ」


 その隙を背後から教徒が狙おうとする。

 しかし教徒が供花に攻撃を仕掛ける寸前、絶斗のレインがそのさらに背後から教徒を急襲した。


「ぐわああああ」


 崩れ落ちる教徒、だが供花は意に介さない。


 大きな破壊音の生じた先を見る。


 砂埃が舞うなか、1人の人影が現れた。


「あれは……?」


 その人影が大声を発する。


「突撃!」


 その号令を受けて、無数の人影が現れた。


「「「うおおおおおおおおおおお」」」


 大声あげてこちらに向かってくる。

 その者たちが誰であるかは明白だ。


「やった! 警察が動いてくれた!」


 正門に設置されたバリケードを隔てて集っていた警察の増援部隊。

 それが供花たちの行動に合わせて突撃してきたのだ。



 こうなっては長居は無用。

 供花は後を警察に任せて立ち去ることにした。


 供花の本来の目的は、祐の救出。

 その途中で偶然にも可憐と出会い、可憐を安全な場所へ逃がすことを優先していたが、これでもう大丈夫だろう。

 それに現在の供花の立場上、このままここにいると今度は自分が警察に追われる可能性がある。


 供花はチラリと可憐を見る。

 可憐は人質の拘束を外している最中であり、こちらに気づいていない。


「可憐、祐のことは任せて―――――必ずまたみんなで会いましょ」


 供花は前を向いて駆け出す。

 そしてまた施設内部へと1人で戻っていった。






 再び施設内へと戻る供花。

 本館のエントランスを抜けて、今度はその奥へと向かう。


 しかし、さっきは無人だったエントランスに―――教徒と思われる人物が待ち伏せていた。


 その数は5人。今の供花では、正面から一度に相手にするには厳しい人数。

 どうするべきか迷う供花に対して、中央にいたリーダーらしき者が声をかけてくる。


「お前は―――さっき映像に出ていた女か。確かレインを2つ同時に使っていたな。噂の特異体って奴か?」


 小柄ながらも筋肉で覆われた体。値踏みをするかのような眼光でこちらを捉える。


「さぁどうかしら。表では既に人質が解放されているわ。ここに警察がやって来るのも時間の問題。あなたたちはそんなに呑気にしてていいのかしら?」


「ふんっ、あんなのはただの時間稼ぎだ。それにまだ人質は腐るほどいる」


 吐き捨てるように言うリーダー格の男。

 供花は「人質はまだいる」との言葉に敏感に反応した。


「人質!? 他の人質はどこ? 帰国してきた学生たちは無事なの?」


 供花の問いに、男はニヤリと笑う。


「さぁどうだろうな。それよりも、今は自分自身の心配をするべきじゃないのか?」


「……あんたらに構ってる暇はないんだけど」


「お前の事情なんて関係ねえ。お前は誰だ? 死ぬ前に名を名乗れ! この俺自らが、お前に信仰のなんたるかを教えてやる」


「あんたなんかに名乗る名はないわ。それに、名前が知りたいなら自分から名乗りなさいよ狂信者」


「ほう小娘が一丁前の口を利くじゃないか。いいぜ、冥土の土産におしえてやろう。俺は神聖アールヴ教団光臨派、ナンバー2だ!」


「なんばーつぅ?」


「偉大なる教祖様によって選ばれた神の使い! 神聖なる戦士! 栄光のナンバーを与えられし者よ」


 ナンバー2と名乗る男は、両手を広げ天を仰ぐ。


 そんな様子を見て、供花は呆れたように言う。


「あっそう……。はいはい、今回の襲撃事件の教団幹部ってことね。ナンバー2ってことは2番手かぁ。ねぇ、ナンバー1はどこ? そいつ倒せば解決する?」


 供花の物言いに、ナンバー2の態度が豹変する。

 さっきまでの陶酔した表情はつゆと消え、怒りをにじませた顔へと変わる。


「て、てめぇ。この俺を2番手だ…と…。ナンバー1を倒せば解決するか、だと。舐めやがって、このアマァぶっ殺してやる!!」


 怒り狂うナンバー2とお供の教徒たちが臨戦態勢に入る。


 避けられない戦闘が始まることを察知し、供花はある決意をした。


 それは―――――特異体能力者として、全力で戦う決意。


 決して今までの戦闘で手を抜いていたわけではない。

 フォースウルフのもとで訓練に明け暮れる日々を送り、心身共に成長著しい供花だが、所詮はつい最近まで学生として気楽な生活をしてた17歳の少女。

 実戦経験は乏しく、レインの実力も未だ発展途上。

 結局のところ、2つのレインを同時操作できるという特異性をうまく利用して騙し騙しやってきたに過ぎない。


 そう、先程までの戦いは、

 デュアルマインドという異名を与えられた特異体能力者

 ―――あさひ供花の『本来の戦闘方法』ではないのだ。


 通常のレイン使いとは一線を画す存在、特異体。

 あの伝説のシュバリエ、クロウをして「あの子に世界の常識は通用しない」とまで言わしめた真性の化け物。


 そのあさひ供花が、ついに本来の戦い方を見せる。


 供花が右太ももをスカートの上から触る。その下には絶斗のレイン。

 そして―――――宣言する。


「絶斗! あいつらを殺しなさい! ―――殺すまで、戻ってくるな!!」


 ただの独り言、くだらない呟き、ナンバー2は最初にそう感じた。


 供花のスカートが大きくはためき、右の太ももからレインが零れ落ちる。

 そのレインは地を這ってナンバー2へと向かっていく。

 双方の距離は20mほど。

 その距離をものともせずに、絶斗のレインはナンバー2に攻撃を仕掛けていく。


「はっ、その距離から攻撃を仕掛けられるのか。射程の長さは一級品だな」


 驚異的な射程の長さを目の当たりにしても、ナンバー2の顔は余裕に満ちていた。

 難なく絶斗のレインを弾き返す。しかし、すぐに2撃目、3撃目がナンバー2を襲う。


 それらを悉く弾き返しながら、ナンバー2は供花の様子を伺う。

 この程度でやられるナンバー2ではない。他の教徒も同様だ。

 気をつけるべきは、先程のテレビ中継で見せたように、もう1つのレインの存在。つまり本体の供花とそのレイン。

 絶斗のレインを捌きながら、本命の攻撃へ備える。


「この程度じゃ、俺は倒せないぞ。俺のレインランクを知れば絶望するぜ? 俺のランクは―――Cだ!」


 レインランクC、それも実戦経験豊富なレイン使い。

 たしかな実力に裏打ちされた強者としての自信を持つ、ナンバー2。



 そんなナンバー2を前にして、供花は―――――もう用は済んだとばかりに気にも留めず、去っていった。


 その不可解な行動にナンバー2と教徒たちは唖然とする。


「はっ? お、おい、どこへいく?」


 そんな問いかけにも供花は耳を貸さない。

 エントランスの横道へと走り去ってしまった。


「………あのヤロウ、逃げやがったな!?」


 怒りに燃えるナンバー2。

 すぐに追いかけようとするが、横から攻撃を受ける。


「なっ、これは?」


 その攻撃を避けながら、ナンバー2は愕然とした。

 攻撃をしてきたのは―――絶斗のレインだ。


 今や、使い手の供花の姿は通路の先。当然、こちらからも、あちらからも見えない位置。にもかかわらず、攻撃が継続されているのだ。


「どうやって、攻撃してきたんだ……?」


 理解できない。

 使用者が見ていない状況で、なぜ攻撃ができるのか?

 使用者からこんなに距離が離れているのに、なぜこのレインが動いているのか?

 ―――――理解できない。


 絶斗のレインは止まらない。

 次々と軌道を変え、右から左から、前から後ろから、上から下から、と変化に富んだ多彩な攻撃を仕掛けてくる。


「くっ、くそっ、ど、どうなってんだよ!?」


 混乱の境地に陥るナンバー2。

 その動揺は周りにも伝播し、他の教徒も慌てふためく。

 そんな教徒に向かって絶斗のレインが襲い掛かる。


「ぎゃあああああ」


 教徒が崩れ落ちる。が、絶斗のレインは止まらない。

 縦横無尽に襲い掛かる攻撃に、教徒が1人また1人と倒れていく。そして残るは、ナンバー2のみ。


 ナンバー2はさっきまでの余裕など既に消え失せ、心が恐怖に満ちていくのを感じていた。




 それから10分が経過した。


「お、おいっ、出てこいよ! いるんだろ? 近くに隠れてるんだろ? ……女ぁあ、出てこい、正々堂々と勝負しろっ!」


 ナンバー2が大量の汗を流しながら叫ぶ。


 絶斗のレインに永遠と追いかけられ、逃げ惑う。

 ナンバー2は供花の去っていった通路の後を追い、自分が今どこにいるのかも分からずに走り続けていた。


「ひぃいいいい」


 懸命に絶斗のレインを弾く。しかし、また襲い掛かってくる。

 これで何度目だろうか。数百を超える一方的な攻撃を、ひたすら防ぐしかない。

 ナンバー2のレインは、疲労から精度を欠きはじめている。

 今や攻撃を防ぐのもギリギリになっていた。

 精神的な影響も大きい。あのレインは、自分が死ぬまで攻撃を止めないのではないか―――そんな恐怖がレインの操作を鈍らせる。


「た、頼む……助けてくれ! 誰か……助けてくれえええええええ」


 ナンバー2の心からの叫びが響き渡る。


 しかし、その叫びを聞く者は誰もいなかった。




 30分後、施設内に突入した警察によって、1人の教徒が発見された。

 その者は、小柄で筋肉質の体つきをしていた。


 発見した警察官は不審に思う。

 なぜならその教徒は、滝のように流れる汗をかいており、心底恐怖に怯えた表情で、鼻水とよだれを垂れ流しながら死んでいたからだ。


 どうすれば、こんな状況になるのだろうか?


 体には無数の傷があり、レインによる戦闘で死亡したと思われる。


 だが、一体どうやればこんなにも悲惨でむごい死に方になるのだろうか?


 ―――――彼はナニと戦っていたのだろうか。




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