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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第二章
42/45

長野宇宙センター襲撃事件 4

可憐かれん!」


供花きょうか!」


 別館内にいた教徒を倒し終え、2人は再会を果たす。

 同じ孤児院で育ち、兄弟同然の2人。

 かつては毎日顔を合わせることが当たり前であったが、絶斗ぜっとと供花が行方不明になって以降、実に半年ぶりの再会となる。




 抱きしめ合う2人。

 再会の喜びを噛み締める私だったが、疑問が絶えない。

 それは可憐も同様だろう。

 ゆっくりと体を離すが、両手は繋がったまま。

 見つめ合う体勢で、私は疑問を口にする。


「どうして……どうしてここにいるの、可憐?」


 問われた可憐は、高まる感情を抑えきれずに涙を流しながら胸に顔をうずめてくる。


「よかったぁ、よかったよぉ~。供花ぁあああ」


 そんな可憐の様子に、私も目に涙を浮かべながら、よしよしと髪を優しく撫でてあげる。


 可憐との再会と無事にほっとしたが、これじゃあ話が進まない。

 状況は予断を許さず、いつまた教徒たちが襲ってくるか分からない。


 そんななか、可憐とともに戦っていた警察官がやって来た。


「あのー、すみません。さっきのレイン、あなたのですよね? 助けてくれてありがとう。私は可憐の友人で、井上紀子と言います。あなたは―――?」


 泣きやまない可憐の背中をさすりながら話し掛けてきた、井上紀子と名乗る女性。

 その顔を見た私は、引っ掛かりを覚える。


 小柄で短髪のボーイッシュな印象

 左耳に緑色の石を埋め込んだピアス


 私はこの女性を知っている……。


 そう、そうだ、この人は―――――


「あっ、あなたは、ブレザーを届けに来た―――」


 絶斗が行方不明になった翌日、私の部屋に訪ねて来た女性だ。

 確か祐と同様にエルの選抜試験に合格して、同じピアスを付けていた。


「ブレザー……?」


「そうブレザー。あなたは、あの日に私の部屋に来た人でしょ?」


「あの日? それって、いつ? 何の事ですか?」


「えっ?」


「えっ?」


 互いに疑問符を頭に浮かべる。

 そんな時に、可憐が落ち着いてきたのか赤い目を擦りながら会話に加わってきた。


「紀子、この人が前に言った供花よ。あさひ供花」


「ああ、あの行方不明の―――。でも、どうしてここに?」


 当然の疑問を投げかけられる。

 可憐もハッとして、こちらを見る。


 さて、どうしたものやら。

 特に可憐には1から全て話したいけど、いろんなことがありすぎて時間が足りない。

 他の生き残った警察官は怪我人の手当てをしているが、私の事を不審に思ってか、さっきからチラチラとこちらを見てくる。


(可憐はともかく、他の警察官にフォースウルフの話をして信じて貰えるかなぁ……)


 私は一旦説明を棚上げすることにした。


「時間が無いから説明は後で。それより、どこか安全な場所に移動しましょ。ここにいては危険よ」


「供花……?」


「……そうね、分かったわ。とりあえずこれだけは教えて。この襲撃者は誰? 供花さんとの関係は?」


 頭を切り替えた井上さんが話を進める。


「あれは神聖アールヴ教団。エルフ教過激派よ。今日ここで行われている日本人学生返還のタイミングで襲撃してきたの。襲撃の目的は不明。私はこいつらの敵よ。返還予定だった祐を助けるためにここにいるの」


「祐! 祐がここにいるの!?」


 可憐が驚いた表情で叫ぶ。


「え、ええ……。可憐はどうしてここに? それにその格好―――」


 この疑問は井上さんが答えてくれた。


「私と可憐は予備生試験中だったの。それで実地訓練でここの警備をしてた。そしたら急に襲われて―――本部と連絡も取れなくなって何が何だか分からないまま………」


「なるほど……そういうことだったの……」


 ということは、他の人たちもみんな予備生か……。

 可憐の反応から、こんな大事な日に事情を知らされずに予備生に警備をさせていたのね。


 つまり、今回の襲撃は思っている以上に相当根が深く、また計画的であったということだ。


 他の予備生も、皆一様に途方に暮れた表情をしながら会話を聞いていた。

 祐のことも心配だが、ここに可憐がいる以上放っておけない。


「このまま宇宙センターにいては危険よ。まずは安全な所まで逃げましょう」


「待って! 祐は無事なの?」


「……わからない。でも可憐、まずは自分の安全を考えて」


「そうね……、次ここでまた襲われたらもう助からない。可憐、みんな! 負傷した人を敷地外へ運びましょう」


 井上さんの呼びかけに応じて、手の空いている者が負傷者の元へと向かう。

 以前のこともあって井上さんに対しては正直言っていいイメージは無かったが、この状況において彼女の機転の良さと行動力は心強い。



 私はパラシュートで降下した時に見た地上の地形を思い出しながら脱出ルートを考える。

 敷地外へ行くなら、正面玄関を抜けるのが一番近いと判断する。


「井上さん、あなたのさっきの戦いは良かったわ。私が先頭になって道を切り開くから、フォローを頼んでもいいかしら?」


「え、ええ了解よ。今いる別館の警備には複数のグループが配置されてて、私の所属しているグループはレインランクD+以上なの。彼らもきっと役立つわ」


「そうなの!? それは助かる。じゃあ、あなたのグループは戦闘に備えて。それ以外は負傷者を運びましょう」


「わかった。みんなに伝えてくる」


 井上さんが指揮を執って移動の準備をする。


 準備が整うまでの間、私と可憐の2人になった。

 可憐と見つめ合いながら、声を掛ける。


「可憐、平気?」


「うん……」


「どうしたの? 本当に平気?」


「供花……なんだか強くなったね」


 可憐が悲しそうに言う。


 離れ離れになってから半年、色々あった。

 可憐には私が別人になってしまったと感じたのかもしれない。

 私は可憐をもう一度ぎゅっと抱きしめ、優しく髪を撫でながら言う。


「私……エルを殺したの。エルは祐を、他の人も精神支配していたの。でももう大丈夫よ、祐は戻ってくるわ」


「えっ」


「ごめんね、後で全部話すから」


「うん……。ねぇ、絶斗は?」


「絶斗は―――わからないの。でも、エルが死の間際に言ってた『絶斗はオークに』って。絶斗も必ず見つけるから。必ず救い出すから。もうちょっとだけ待ってて!」


 抱きしめる力をちょっとだけ強める。

 可憐の方も力を込めて抱き返してきた。


「わかった……ねぇ、供花は? 供花は帰ってくるのよね?」


「―――――ええ、もちろんよ」


 心の底からそう答える。

 そうありたいと心から願う。


 でも、わかってる。

 本当はわかってる。


 私は―――――もう戻れないところにまで来ていると。


 フォースウルフにその身を寄せて、

 エルという宇宙人を殺し、

 世界中が探している特異体。


 そんな私に平穏な日常はもう訪れないだろうと。

 だったら突き進むしかない。


 せめて、絶斗と祐、そしてここにいる可憐を救うために!!






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