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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第二章
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長野宇宙センター襲撃事件 再会

 供花はパラシュートで降下しながら、手頃な着地地点を探す。

 中央の本館は三角屋根なので降りるにはちょっと危険と判断して、東にある屋上付きの別館に向かうことにした。


「よっと」


 無事に着地すると、まず最初にやるべきことをする。


 それは―――――ズボンを脱ぐことだ。


 別館の屋上で周囲を確認しながらいそいそとズボンを脱ぐ。

 もちろん露出癖があるわけではなく、下にはスカートを履いている。

 スカートの長さは、太ももを十分に隠しつつ、膝は露出させる。このたけが重要だ。

 そしてスキーなどで履く厚めのソックスに、簡素だが丈夫なスニーカー。

 これが供花の戦闘服である。

 ちなみに上半身は動き易かったらなんでもいい。大事なのは下半身。


(まずは―――状況確認ね)


 パラシュートの形状を解除して足元に待機させてあるレインを左腕に戻し、下へ降りる階段へと向かう。

 別館の中に入ると、耳をすまして様子を伺う。

 レインによる戦闘は金属同士がぶつかる音がするため、遠くからでもわかりやすい。


(ここら辺では戦闘は無いみたいね)


 それとも、既に戦闘が終わっているか。

 いずれにせよ金属音どころか足音すら聞こえないので階段を降りることにした。


 2階に降りて、中の様子を見る。

 フロア内は展示室だった。

 人の気配を感じないので、フロアに入ってみる。

 まず目に付いたのが、中央に置かれた看板。


「火星開拓計画の歴史……あー、授業で習ったっけ」


 今から50年近く前の話だ。

 2030年代、人類は資源と居住地を求めて第2次宇宙開拓競争が行われていた。

 このフロアは、その当時の状況を示す展示品が並べられていた。

 ロケットのエンジン、軌道エレベーターのパーツ、植物工場の写真、ドーム型居住地区の模型…………。


「昔はこんな技術があったのね……」


 これらの技術は正統進化することなく時代の遺物となる。

 理由はもちろん―――宇宙人の出現だ。

 2050年に現れたエルフ・オーク・ドワーフの宇宙人によってもたらされた高度なテクノロジーにより、人類は大きく進歩した。

 その進歩により資源不足や食糧難は解消され、宇宙開拓の必然性が消失した。

 それ以外にも、大規模な宇宙開発プロジェクトを立ち上げたあの国が、とんでもない事故を起こして―――。


 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオン


 下の階から大きな爆発音がした。

 建物全体が揺れている。いくつかの展示品が倒れるほどに。


 爆発音と揺れが収まると、微かにだが―――金属音がする。


(レインの戦闘音! 下で誰か戦ってる!)


 正面の奥から音が聞こえるため、走って展示室を通り抜ける。

 展示室の先は1階と2階が吹き抜けになっていた。

 2階の天井から当時のスペースシャトルが吊るされており、1階からも見上げられる造りになっていた。


 2階の手すりから下の階を見下ろす。

 そこには、爆発による激しい破壊の後と、多くの倒れている人、そしてそこかしこで戦闘が繰りひろげられていた。


 2つの勢力が争っている。

 服装はバラバラだが狂気の目をして襲い掛かる勢力と、警備服を着て防戦を強いられている勢力。

 つまりは、襲撃側と防衛側。

 神聖アールヴ教団と宇宙センターの警備している警察か。


(どうしよう、警察に加勢する? でも……)


 この場に介入すると、状況がややこしくなるのは目に見えていた。


 教徒を倒した後で警察から「お前は誰だ?」と聞かれても答えようがない。

「フォースウルフです。助けに来ました!」と言った瞬間逮捕される。

 政府とフォースウルフの繋がりを知っているのは、政権内のごく一部の者のみ。

 一般的にはフォースウルフこそが反政府テロ組織としてお尋ね者の存在だ。


(一旦加勢して、片が付く前に逃げよっかなぁ。ん~逃げられるかなぁ……)


 警察側が優勢なら何もしないで立ち去ってしまうのがベターだけど、上から見てる感じ劣勢に見える。というより、このままだと全滅しそう。


 私の目的は祐の救出だけど、この状況を見過ごすほど非道になれない。


 これからやることをフロイトあたりに知られたら、「馬鹿やろう、無駄にリスクを負うな!」と怒られそうだけど―――――ええい、知るかっ! いいのよ、上手くやれば。


 私は近くの柱まで移動し、見つからないように陰に隠れる。

 そして、スカートの上から右太ももを軽く叩いた。


(絶斗―――お願い、行って!)


 絶斗が行方不明になったあの日から、私とともにある『絶斗のレイン』―――――私のもう1つのレイン。


 使用者の『意思の力』で動かすレイン。

 レイン操作時は意識を集中させる必要があるため、構造的に1人に1つのレインしか扱えない。

 しかし、そんな絶対的なルールを逸脱する者がいる。

 それが『特異体』と言われる存在。

 特異体とは、通常のレイン操作では不可能なこと若しくは不可能に近いことをできる存在を指す。

 つまりは、ルールの埒外らちがいにいる者、トランプに例えるならジョーカー。


 私本来の左腕に巻かれているレインとは異なる、もう1つのレイン。


 ―――――その絶斗のレインを起動させる。


 右太ももに巻かれたレインが、その形状を崩し床に零れ落ちる。

 私の意志に従い、絶斗のレインが床を伝い、手すりを越える。そのまま1階に落ちて、水溜りを形成した。

 柱の陰からチラッと顔を覗かせ、近くの教徒に狙いを定める。


(まずは、あれを倒して!)


 絶斗のレインは、教徒に向かって地を走る。

 警察と戦闘中だった教徒の背後に回りこみ、突如襲い掛かる。


「ぐわぁ」


 教徒は不意打ちにより倒れた。

 対峙していた警察官は絶斗のレインを見つけると、驚いた顔をして周囲を見回し、その後首をかしげる。


 誰かの援護により助かったと理解したが、その援護者の姿が見えず不思議に思ったのだろう。


 自分の存在がバレないように気をつけながら、次々と教徒を打ち倒していく。





 5人目を倒したところで、教徒たちの怒鳴り声が聞こえてきた。


「誰だ! あのレインを操っている奴は!!」

「相当射程が長いぞ! 持ち主がわからない」

「くそっ、やりづれえ」


 イラついた声が複数上がる。

 彼らからすれば、目の前の警察官以外に戦場を駆け巡る使用者不明のレインに気を配らなければならない。

 本体の居場所が分からないため元を断つこともできず、常に背後を取る動きをしながら執拗に攻撃を仕掛けてくる絶斗のレインに手を焼いているようだった。


 警察官側も当初の劣勢を徐々に押し返し始め、各所で教徒を返り討ちにしていった。


(このままいけば勝てそうね。後は―――あの辺りか)


 瓦礫が積み重なっている場所で、人が集まっている所がある。

 どうやら怪我をしている味方を庇いながら戦っているようだ。

 血まみれの肩を押さえながら壁に背を預けている者や、足を怪我して片膝をつく者、地べたに横たわり動かない者など。

 それらを背にして守っている警察官が2人。

 そこに襲い掛かる教徒は3人。

 数的に不利であるにもかかわらず、片方の警察官は巧みなレイン操作によって攻撃を捌いていた。

 もう片方の警察官も、多少押し込まれながらも懸命に戦っている。


 私は絶斗のレインを向かわせる。


 あと少しでレインが到着しようかというタイミングで、異変が起こる。


 ―――――絶斗のレインが突然、加速した。


「えっ?」


 私のコントロールを離れ、猛スピードで警察官と教徒の間に割って入る。


 丁度同じタイミングで教徒側の動きに変化があった。

 巧みなレイン操作をしている警察官が教徒2人を相手にし、もう片方の警察官と教徒が1対1で戦っていた。

 だが、このままではらちが明かないと判断したのか、1対1で戦っていた警察官に対して3人の教徒が同時に襲いかかったのだ。


「――――逃げて!」


 誰かの叫ぶ声と、固まって動けない警察官。


 一瞬の隙を突いて迫る3本のランス。


 もはや回避も防御も間に合わない。


 そんな絶体絶命のピンチを予見していたのか、絶斗のレインが、3人の教徒を凄まじい速度の1振りのブレードで斬り伏せた。


 3人の教徒は同時に倒れ、

 3本のランスは到達する前にその形状を保てず液体へと変化する。


 狙われた警察官は腰が抜けたのか尻餅をついていた。


(よかった……危なかった~。でも、どうして? 絶斗のレインがあんな動きをするなんて……)


 間に合ったことに安堵しつつも、おかしな挙動をした絶斗のレインに疑問を抱く。


 そんな私の目に、ありえないものが映った。


 それと同時に、絶斗のレインが不可解な動きをした理由も理解する。


 あれは―――――


 今まさに危機に陥り、

 絶斗のレインにより助けられ、

 腰をぬかして座り込んだ女性は―――――


「可憐!!」


 我を忘れて大声で叫ぶ。


 1階から多くの視線が自分に向けられるのを感じた。

 せっかく隠れて援護していたのに、自分から位置を晒してしまった。


 だが、もはやそんなことはどうでもいい。


 心を満たす感情は、安堵、そして感謝。



 ―――――絶斗、可憐を守ってくれて、ありがとう。






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