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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第二章
38/45

エルフ教

 今から34年前の2050年。

 人類の前にエルフ・オーク・ドワーフの宇宙人が現れた。

 それ以降、劇的な変化が起こった。いや、今もなお変化し続けている。

 そんな激動の時代の最中、いつからか一つの集団がちまたに浸透し始める。


『エルフ教』


 正確にこの教団が発足したのがいつなのかは不明だが、気がつけば人々の間に認知されていた。

 一般的に『エルフ教』とは「エルフを信奉する者たちの団体」と捉えられている。

 エルフ教という名の一つの宗教団体が存在するのではなく、エルフを信奉する大小さまざまな団体を総称しており、その実態は誰にもわからない。

 エルフを偶像化すると言っても、それこそただのファンクラブの延長線上のような団体もあれば、エルフを神として人類の導き手と考える団体も存在し、その熱量には差がある。


 前者なら問題ない。そもそもエルフを含む3種族の宇宙人との良好な関係を築くことは、現在の人類にとって主流な考え方だ。

 フォースウルフの様な宇宙人を敵視する組織こそ異端であり、平和を乱す存在とみなされている。


 しかし、後者のエルフを神格化する団体は潜在的な危険を孕んでいる。

 なぜなら神と崇められるエルフは現実に存在するのだ。


 であれば、国家という枠組みは必要なのか?


 人々の上にエルフが立つことによって、人類にとって真の平和と安寧を実現できるのはないか―――。


 こういった現在の秩序を乱しかねない思想が、徐々にだが確実に人々の間に浸透している。


 この問題の難しいところは、曲がりなりにも「エルフ」を信仰の対象としているため、政府もメディアも表立って批判することができない点にある。

「人類をエルフが支配することは認められない」と公に声を上げれば、その人物はどういう扱いを受けるか。

「人類に数々の恩恵をもたらしたエルフを否定する恩知らず」と罵られるだけならまだ大人しい方で、フォースウルフのようなテロリストまたは過激派、人類の敵といったレッテルを貼られる恐れすらある。

 そのためエルフ・オーク・ドワーフの3種族を否定する意見は、今日の社会においてタブー視されている。


 このことがエルフ教を増大させ、また国家などの権力組織内部に浸透・波及し、よりエルフ教をアンタッチャブルな存在とさせてしまっている。







 神奈川県の沿岸地区。

 巨大なビルが立ち並び、夜にもかかわらずネオンに溢れ、多くの人が行き交う眠らない街、『横浜みなとみらい』。


 人口増により東京を中心とした首都圏の再開発が進み、この地もまた急速な発展の途上にある。

 主に若者の町と称されるみなとみらいは、伝統よりも進化を好み、かつて小説や映画などで想像された近未来都市のイメージを体現させようという意思にあふれていた。


 そんな活気に満ちた街の象徴『新ランドマークタワー』。

 別名『不夜城』。

 以前存在した「横浜ランドマークタワー」という世界有数の高層ビルの跡地に建てられた新ランドマークタワーは、そのスケールをさらに増大させ、周辺のビル群を地上のみならず空中及び地下をも連結させて、巨大な一つの城と称されている。

 新ランドマークタワーを中心に大小合わせて140を超えるビルが連結され、それらの中には居住施設・商業施設・クリアビル・その他各種の生産施設やリサイクル施設・下水処理施設などの人々が生活するうえで必要なものがすべて揃っている。

 その様相はさながら王城を中心とする城下町と同様であり、けして不夜城という名が偽りでないことを示している。



 そんな不夜城の86階。

 このフロアの占有者の名義は『神聖アールヴ教団』。

 端的に言えば、エルフ教過激派の一つだ。

 その教義は「エルフを中心とするユートピアの実現」。

 数あるエルフ教の中でも、有数の知名度を誇り、信者の数も公表されていないが相当数いると思われている。

 この神聖アールヴ教団が過激派とされているのは、その教義の内容のみならず、もう一つの側面があるからだ。


 それは「レインによる完全実力主義」を掲げているためである。


 エルフ(実際はエルフを含む3種族)からもたらされた「レイン」を絶対の価値基準とし、レインの技能に秀でている者こそ「エルフから選ばれた者」としている。

 よってレイン戦闘を神聖な行為と捉え、レイン戦闘での勝者は称えられ、敗北して死ぬことはエルフのもとに召されるとしている。

 その考えに従い、今まで表に出ているだけでもかなりの死亡事件が発生している。


 このような戦闘狂の集団であっても、エルフを信奉しているため表立って批判されることはほとんどなく、むしろ政府や行政関係者、各分野の著名人、そして警察官の中にすらその信者は多数存在する。






 エルフによる日本人学生返還の日の前日。

 不夜城86階、神聖アールヴ教団内で礼拝堂と言われる一区画。

 その礼拝堂には、3mは超える大きな像が設置されていた。

 美しき女性が両手を広げている姿をかたどっており、その女性の耳は当然長い。

 そのエルフ像のもと、200人を超える教徒が集結して祈りを捧げていた。

 教徒たちはエルフ像に向かってひざまずき、左腕を肩の高さまで挙げて、手のひらを自身に向かって広げている。

 これはレインを起動展開させる時のポーズであり、彼らにとっては祈りを捧げるポーズでもある。


 教徒たちの眼前、エルフ像を背にして立つ一人の男。

 その男は教祖の一人であり、その姿はローブを身にまといフードにより顔を隠している。

 教徒と同様に左腕を挙げ、目の前の教徒たちに向かって厳格さをまとった声で語りかける。


「我ら偉大なるエルフ様を信奉する信徒達よ。我らの祈りは通じた! 我らの願いは成就した! あの御方が、皆を代表して私にお声を掛けて下さったのだ! 我らの神はおっしゃった。『決して許すな、不忠者を成敗して世に知ら示すのだ』と……。これより始まるは力が支配する世界。オリンピアにて示すは、エルフ様の絶対的優位。そのために我らは神に己の力を示し、不届き者どもの血を神に捧げるのだ!!」


「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


 教祖の呼びかけに応じて、教徒たちが一斉に声をあげる。

 中には涙を流しながら、あらんかぎりの声を張り上げる者までいた。

 教徒の割れんばかりの声が礼拝堂内に響くなか、教祖がさらに宣言する。


「そして、あの御方が約束して下された! 明日の聖戦によりその力を世に示した者は、オリンピアへの道へと続くだろうと。皆の者よ! 命を賭して戦いに望め! 魂の輝きをレインに灯せ! 不忠者と我らを邪魔する者を全て殺し尽くせ!!」


「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


 教祖は、教徒たちの反応に満足すると、静かに礼拝堂を去ってく。

 礼拝堂を後にし、通路を歩く。

 その背後では教徒たちの声が止むことは無かった。






 長く続く通路の先、アールヴ内でも限られた者にしか入ることの許されない区画へと到達する。

 そこで教祖を待っていたのは、4人の腹心。

 教祖自らが教徒の中から選び出した一流のレイン使い。

 教祖を待っていた彼らに対して、声を掛ける。


「では、明日の聖戦についてはお前たちに任せるぞ」


 その言葉に各々応じる。


「はっ、お任せを」


「よゆーよゆー。全員俺が殺してやるよ」


「………」


「教祖様、お願いです。考え直して下さい。こんなことはアル様もお認めにならないはず。どうかお願い―――」


「くどい! ナンバー4よ、私に逆らうのか? あの御方より直に天啓を賜った私に逆らうのか……?」


「そ、それは―――」


「事を成せ……。さすればお前の姉の死もまた浮かばれよう」


 ナンバー4とよばれた女が押し黙るなか、先ほどから無言であった男が用は済んだとばかりに立ち去ろうとする。

 その後ろ姿に教祖が声を投げかける。


「ナンバー3よ、お前もよいな? 失敗は許されないぞ」


 立ち去ろうとした男は立ち止まり、振り返らずに返答する。


「……あ? お前らゴミがこの俺に意見すんじゃねーよ」


 その尊大な物言いに腹心の一人が激昂する。


「貴様っ! 教祖様に向かって―――」


 それを教祖が止める。


「よいナンバー1よ……。ナンバー3、新参者とはいえお前の実力を私は高く評価している。その才能をエルフ様のために存分に生かせ」


「言われるまでもねーよ。俺は俺でやる。せいぜい俺の邪魔だけはするな」


 ナンバー3はそう言い残すと、改めて立ち去る。


 長く伸ばして金色に染め上げた髪をなびかせて去っていくその後ろ姿は、まさにエルフそのものだった。




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