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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第二章
34/45

もう一つの特異体、そして――

 6年後に控えるオリンピアに向けて、エルフ・オーク・ドワーフの3種族及び各国政府が動き始めた2084年4月。

 ドワーフは海に浮かぶ人工島アトランティスを拠点とし、将来のオリンピア出場者の発掘・育成に勤しんでいた。

 独自の技術によりレインの才能を判定し、世界中でスカウト活動を展開させ、スカウトされた若者をアトランティスに招き入れる。

 アトランティスでは優遇された衣食住が提供され、ドワーフが作り上げた専用のレイン訓練施設「ダンジョン」を用いてその才能の育成が行われていた。


 あさひ隼人とあさひ雪は、ドワーフのカザドからのスカウトを受け入れ、今日もアトランティスにてレインの訓練を行っていた。






「来るぞ! ウルフ4、プラント2」


 マイクが叫ぶ。


 ダンジョンでは4人以上でチームを組み、チーム毎のレベルに合わせて、ダンジョン内の構造及び出現するモンスターの種類と数が決定される。

 ウルフとは自動戦闘人形レベル2の略称であり、プラントは自動戦闘人形レベル3を指す。

 ウルフは、レベル1のスライムに比べて動きが活発で、攻撃パターンも多彩だ。


「うわー数多すぎっ」


 キャシーがゲンナリした声を上げる。

 隼人・雪・マイク・キャシーのチーム4人はレインを起動展開し、臨戦態勢に入った。


「まずはウルフの数を減らそう。コピーさせて!」


 隼人が指示を飛ばす。


「了解~。ほら、マイク。さっさとしてよー」


「オーケー、僕の華麗なレイン捌きを見て惚れるなよ」


「うるさーい。早くしろ~」


 キャシーに突っ込まれながらも、マイクはレインを巧みに操作する。

 向かってきたウルフ4体に対し、マイクのレインが横から攻撃を仕掛け、分断に成功する。


 マイクはレイン大国イギリスの出身で、シュバリエを目指す才能豊かな仲間だ。

 現在18歳でレインランクはC-。

 シュバリエとは、イギリス国内でもごく僅かな者にしか与えられない最強のレイン使いの称号。

 その称号を持つ父親の才能を受け継ぎ、ドワーフからスカウトされていた。


 ウルフ4体のうち3体が、マイクのレインに気を取られ足を止める。

 残った1体のみが単独でマイクに襲いかかる。


「まっかせてー。いくよ~、ショット!!」


 マイクに迫るウルフをキャシーが間に入って迎撃する。

 キャシーのショットガンと呼ばれるレイン攻撃が炸裂し、ウルフは蜂の巣にされその活動を停止した。


 キャシーはアメリカ合衆国出身のチーム最年少の仲間だ。

 現在16歳でレインランクはD+。

 アメリカはレイン導入が他国より遅れ、かつての地位を失いレイン後進国に位置している。

 その遅れを取り戻すためにレインの普及・発展を目指しており、その過程で生まれた独自の攻撃方法がショットガン。

 その名の通りレインを散弾銃の弾に見立てて、レインを無数の小さな弾に分け、それを同時に打ち出すというものだ。

 射程の短さや攻撃後の隙の大きななどのデメリットがあるものの、回避や防御の難しい一撃必殺の攻撃方法である。


 キャシーの攻撃によりコアを損傷して活動を停止したウルフに隼人が駆け寄る。

 残骸に触れた隼人は自身のレインを起動させる。

 隼人のレインが変化する。

 使用者の意思の力で操作する流体金属「レイン」。

 マイクのようにレインを球体に変化させて遠距離からの飽和攻撃で翻弄するスタイルや、キャシーのようにショットガンとして打ち出すスタイルと様々だ。


 しかし、隼人のレインは他の扱い方とは一線を画す。


 隼人のレインはその形を徐々に変化させ、4足歩行の獣へと姿を変える。

 大型犬ほどの体躯に鋭い2本のキバ。

 それはまさに自動戦闘人形レベル2「ウルフ」そのものだった。


「よし、いけっ」


 ウルフと全く同じ見た目となった隼人のレインが指示を受けて疾走する。

 マイクが相手をしていた残り3体のウルフに向かって、隼人のウルフが飛び掛る。

 そのうちの1体にのしかかり、首筋にキバを突き立てた。

 断末魔の声を上げて、さらにもう1体のウルフの活動が停止した。


 隼人は先月行われた世界会議にて坂下竜也と出会い、望まずも戦闘に及んだ。

 レインランクがE+でしかない隼人は、レインランクC+でレインの天才との呼び声も高い坂下に全く歯が立たなかったが、その戦いをきっかけに才能を開花させつつあった。


 その能力とは、『触れた物をコピーする』というもの。

 隼人が触れた物と全く同じ姿かたち・質感・性能を持つコピーを、自身のレインで再現できるのだ。

 見た目をただ似せるだけなら誰でもできる。

 しかし、対象と同一の性能を備えたコピーを作り出すことなど隼人以外の誰にもできない。


 マイク・キャシー・雪、そして隼人自身も薄々と気づいている。

 こんなレイン操作は常識の埒外らちがいにあるということを。

 つまり、隼人は―――――特異体ではないかと。



 ウルフの後ろに控えていたプラント2体が赤く光る。

 これは種を打ち出す予備動作だ。

 プラントとは、植物型の自動戦闘人形で、2本の触手と大きな口を有するモンスター。

 息を吸い込むように口を大きく広げる動作と同時に赤く光る。

 その予備動作の終了後、口から種をマシンガンのように吐き出す大技を使ってくるのだ。


「まずい、プラントが光った。くるぞ!」


「えっ、ショットガン打った直後だよー」


 キャシーはレインのコントロールを取り戻せてない。


「俺もウルフを戻せない!」


 隼人も防御が間に合わないと叫ぶ。


「よし、みんな僕に集まれ! シールド!」


 マイクの呼びかけに応じて、隼人とキャシーがマイクの元へ駆け寄る。

 マイクはレインを戻し、前面にシールドを展開した。


「おい、雪!」


 隼人は後方で待機していた雪に呼びかける。

 雪はその場から一歩も動かずにゆっくりと上着を脱ぎ捨てていた。


「雪も早くこっち来てー」


「……大丈夫よ」


 上着を脱ぎ捨てた雪の体は、レオタードのみの姿。

 大事な部分は隠されているが、体のラインが浮き彫りとなって、艶かしい。


 雪のレインが移動を開始して、自身の体を覆っていく。


 足から腰、お腹から胸、腕へと広がり、首から下に広がっていく。

 雪の首から下は、自身のレインで薄くコーティングされていた。


 その状態を維持したままプラントへと走り出す雪。


 その直後プラントから大量の種が吐き出された。


ガ、ガ、ガ、ガ、ガガッ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガッ


 無数の弾丸がマイクのシールドに激突する。

 突然の豪雨が地面に打ちつけられたような轟音が響き渡る。

 しかし、シールドは傷一つ付かずに種の弾丸を防ぎきった。


 プラントへ一直線に向かう雪にも種の弾丸が襲い掛かる。

 迫る弾丸を、雪は横に跳躍して回避する。


 プラントの元へと到達した雪は、左腕を下から上へとすくい上げた。


 左腕を覆うレインの強度が増し、左手の指先は鉤爪かぎづめのように変化する。

 その鉤爪によりプラントの1体が引き裂かれ、活動を停止する。


 もう1体のプラントが雪に狙いを定め、触手を伸ばした。


 雪は瞬時に2m近くのジャンプをして、触手から逃れる。

 跳躍時に、雪を覆うレインのうち、足の部分が強度を上げてジャンプ力を強化したのだ。


 着地した直後、すぐに反転して残りの1体も撃破した。



 あさひ雪も隼人と同じく、坂下竜也との戦闘を経験してから自身のレイン能力を開花させていた。

 カザドから受け取ったブレスレットに入っていた赤い液体を飲んだことにより、スーツ形態と言われるレインの操作方法を得ていたのだ。


 スーツ形態とは、全身をレインで覆い、攻撃時や防御時に強度を高めることにより、攻防一体の戦闘方法を実現させる。

 移動の際にも、足の強度を上げることにより高い瞬発力を有し、身体能力を強化させている。


 雪のレインランクはEとかなり低いにもかかわらず、なぜか細やかなレイン操作を必要とするスーツ形態を難なくと使いこなせていた。

 これにより、雪の戦闘能力は今やチーム内でも屈指のもの。


 雪の活躍もあって、その後残ったウルフもあっけなく倒し終えた。






 戦闘が終了し、ダンジョンを後にするチームの4人。

 隼人と雪の成長がめざましく、ここ最近のダンジョン攻略は順調に進んでいた。


「さーて、この後はご飯~ご飯~」


 キャシーは夕食が待ち遠しいようで、スキップをしている。


「キャシー、大事な話があるんだがいいか……?」


「ん? どうしたのマイク」


「この後の夕食、よかったら僕と食べないか?」


「んーいいよ」


「おっしゃあああ」


「じゃあ、6時に集合ねー。場所は……隼人と雪のお家でいいかなー。大丈夫、隼人?」


「ああいいよ。リアさんに伝えておくから」


「ありがとう~」


「えっ、ちょっと待って……僕と二人きりじゃ……」


「は? なんであんたと二人きりで食事しなきゃいけないのよ。みんなでご飯でしょ?」


「くっ……い、いや、考えてみればこれでいいんじゃないか!? キャシー・雪タンと3人で食事なんて……最高だろ!!」


「俺もいるからなマイク。それにリアさんもね」


「ああもちろん、わかってるよ親友!」


 あいもかわらずの会話を続けるチームの面々。

 そのなかで、黙っていた雪が足を止める。

 それに気づいた隼人が声を掛けた。


「雪、どうかしたか?」


「この後、病院に行く予定なの」


「そうか……その……大丈夫か?」


「ええ大丈夫よ。いつもの検診だから。夕食には間に合うと思うわ」


「ならいいんだが……。何か困ったことがあったら相談してくれよ」


「うん、わかってる。ありがとう、隼人……」



 雪が新たに手に入れた力。

 その『強さの代償』を仲間は知らなかった。



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