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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第二章
33/45

帰還6

 アルは祐と別れ、宮殿に戻る。


 時刻は夜7時。もっと祐と一緒にいたかったが、急な呼び出しを受けて仕方なく別れたのだ。


 宮殿の入り口、広々とした玄関では10名の使用人が通路の左右に分かれ列をなしていた。使用人は当然エルフ。


「お帰りなさいませ、アル様」


 後ろから声が聞こえた。その声を受けて使用人が一斉に頭を下げる。

 アルが振り返ると、そこにはアルよりも一回りほど年上のエルフの女性がいた。


「ただいまー。リーヤもご苦労様。でも護衛なんていらないのに」


 アルは声を掛けて来たエルフに応じる。


「それはできません。アル様の護衛が私の役目、ましてやあのアースと2人きりになど……」


 リーヤを呼ばれたエルフは、表情を変えずに答える。

 リーヤは護衛の役目を果たすため、アルが外出し祐と2人でいた時も遠くからずっと見守っていたのだ。

 祐はそのことに気づいていない。アル自身も実際どこにいるのか分からないほどリーヤの気配の消し方が上手いため、気にはならなかった。


「祐は私のナイトなんだから大丈夫だってば」


「アース如きをナイトになどと……あの男には分不相応かと」


「そんなことないもん。エルお姉様だって認めてくれたのよ。祐は私がピンチの時には必ず助けてくれるんだから!」


「まだあの時のことを……あれはただの偶然かと」


「違うわ。お姉様の支配はそんなやわなものじゃない。あれに対抗できるのは、強大な意思の力を持つ者だけ。祐は特別なんだから」


「確かにエル様の支配から逃れられるアースがいるとは思いもしませんでしたが……」


「でしょ?」


 アルはまるで自分が褒められたかのように得意げな表情を浮かべ胸を張る。

 そんなアルを見てリーヤは説得を諦め、本題へと移す。


「……グラー様がお見えです」


「また来たの? 何の用かしら」


 アルはうんざりとした顔をする。

 エルと事ある毎に衝突していたグラーを好ましく思っていないのは明白だ。


「言わなくてもおわかりかと」


「もう、仕方ないなぁ。何度言われたって止めるつもりはないのに」


「応接の間にてお待ちです」


「わかった、行くわ」


「ではまずお着替えを」


 リーヤに従い、アルは会見の準備をすることにした。






 きらびやかな純白のドレスを身に纏ったアルは、グラーの待つ応接の間へと入る。

 髪をアップにセッティングし、薄い化粧と様々なアクセサリーを身につけたアル。普段のあどけなさの残る容姿から一変し、本来の美しさをより際立たせていた。


 アルが入ってくると、ソファーに座っていたグラーは優雅に立ち上がりアルを迎える。


「突然の来訪に応えてくれて感謝する」


 グラーはそう言うと優しく微笑む。

 アルはその言葉を無視してグラーの対面のソファーに座った。

 いつもの素っ気無い対応に、グラーも気にはせず座りなおす。


「それで、わざわざ何の用なの?」


「相変わらずつれないな。用件は言わなくても分かるだろう?」


「どうせ明日からの事でしょ? 今更止めるつもりなんてないんだから」


「そう言わず考え直して欲しい。君の大事な姉はアースに殺されたんだぞ。しかも日本人にだ」


「そんなこと分かってるわ。でも、だからこそお姉様が連れて来た日本人を無事に返還するのは妹の私の役目よ」


「日本人が憎くはないのか?」


「……お姉様が死んだのは、お姉様のなさろうとしてた事を止められなかった私のせい。止められなかった時点で遅かれ早かれこうなってた。日本人は被害者、彼らを責める気はないわ」


「それは本心かな?」


 グラーは優しげな表情を崩さずに尋ねる。

 表面的に見れば、アルのことを心から心配しているように見える。


 しかし、対面するアルにはその態度の裏に不気味な気配を感じていた。


「……本心よ。そもそもあなただって日本を一番に重要視している筈よ。違う?」


「まあ、確かにそうだな。オリンピアの候補者探しは世界中で行われるが、日本人が鍵になるのは間違いない。オーク・ドワーフも同様だろう」


「ならなおさら日本政府との関係を悪化させるわけにはいかないでしょ。エルお姉様の妹の私が直接会って、関係を改善してくるわ」


「あちらはそう受け取らないかもしれないぞ。最悪、お前も狙われるかもしれん」


「そうはならないわ。日本政府だってこれ以上エルフと事を構えるつもりは無いはずよ」


「アースを信用できるのか?」


「信用するわ。私たち3種族と人間は敵じゃないもの」


「……考えを変えるつもりはないか?」


「ないわ」


 アルは即答する。

 その決意の固さを見て、グラーはゆっくりと立ち上がり部屋から出て行こうとする。

 そして扉の前で立ち止まり、最後にアルに向けて振り返る。


「アル、気をつけてな」


「ふんっ、もう用は済んだでしょ」


 アルの素っ気無い態度にも最後まで嫌な顔を見せず、グラーは部屋を後にする。

 部屋から出て扉が閉まろうとする直前、グラーはアルに聞こえない小さな音量で一言口にする。


「さようなら、愚かな姉妹よ」


 グラーは醜悪な笑みを浮かべていた。






 翌日、エルによりエルフの月に連れて来られた日本人の学生のうち、帰還を希望した156名が出発する日がやってきた。

 その中にはあさひ祐の姿もあった。


 祐及び他の帰還希望者たちはエルフに先導され、普段は立ち入りを禁止されていた通路を歩く。

 途中でいくつもの分かれ道を越えて30分程歩いただろうか、辿り着いた先は大きな広間だった。

 広間に通された学生たちはしばらく待つよう告げられ、エルフが退出する。

 広間には飲食物と席が用意されており、自由にしていいと言われていた。


 祐は辺りを見回す。

 皆緊張した面持ちで飲食物には一切手をつけず、不安げな表情を浮かべていた。

 ここはどこだろうか?

 自分たちは本当に無事に帰れるのだろうか?

 そんな空気が場を支配しているようだった。


 そんな居心地の悪い状況が10分ほど経った頃、広間の扉がおもむろに開いた。

 広間に入ってきたのは先程とは違うエルフ。

 きびきびとした動きで広間の中央までやってくると、皆の注目を浴びるなか口を開いた。


「はじめまして。私の名前はリーヤ。今現在、エルフの月を離れ地球に向かう途上にあります。二日後の日本時間でお昼頃に到着予定です」


 リーヤと名乗るエルフの言葉を受け、会場がざわつく。

 既に宇宙船に乗っていたのだ。

 しかももう出発もしているという。出発時の揺れや騒音など全くしなかった。

 しかも月から地球まで二日で行けるらしい。

 衝撃的過ぎて、リーヤのした話が全部嘘かもしれないとさえ思えてくる。


「え、本当なの?」


「いつ宇宙船に乗ったんだ?」


 そんな声がそこかしこから聞こえてくる。

 リーヤは戸惑う人々を無視して話を続ける。


「これより、今回の皆様のご帰還に際しまして、我々の代表を務めます女王様からのご挨拶がございます」


 そう言うと、会場の扉が大きく開け放たれた。

 その扉から大勢のエルフが現れる。

 それらのエルフはパッと見では見分けが付かないほどそっくりの顔立ちと服装をした女性たちだった。

 それらが二手に分かれ列を作る。

 物々しい雰囲気におされ、一瞬で静寂が場を支配する。


 すると、遅れて1人のエルフの少女が美しい純白のドレスを身に纏いゆっくりと姿を現した。

 人類とはかけ離れた美しさを持つエルフ。

 その中でもさらに輝いて見えるこの世のものとは思えないほどの美しさ。きらびやかさ。

 全ての美の象徴とも言え、神々しさまでも感じられる少女が、他のエルフを引き連れて広間の中央で止まる。


 その様子に圧倒され固唾を呑んで見守るなか、少女が口を開く。


「皆さん、こんにちは。私の名前はアル。エルフ族4王家の1つフレイ王家の女王を勤める者です。皆さんが無事に日本へ戻れることを私が責任を持ってお約束します。道中何か困ったことがありましたら、遠慮せずに言って下さいね」


 緊張した場の空気が一気に和やかになる。

 その美しさと親しみのある口調がそうさせたのだ。

 不安を覚えていた学生たちを魅了したと言ってもいい。

 皆一様に安堵したことだろう。


 俺ことあさひ祐以外は。


「はぁ?」


 間抜けな声をあげてしまった俺。

 アルがなんでここにいるんだ?

 というか、アルが女王?

 そんな話、聞いてないぞ……。


 俺の声が聞こえたのか、アルが俺の方を見る。

 そして目が合う。

 あちらも俺を見つけた途端、口を開け目を見開いて固まる。


「はぁ?」


 あ、俺と同じこと言ってる。


 そんなことを考えながらお互い数秒固まっていた後、同時に声を上げた。



「「はぁあああああああああああああああああああ?」」




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