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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第二章
31/45

帰還4

 アルに一日中振り回された日の翌日、俺はいつものように起床して顔を洗い、コーヒー片手にソファーに腰掛ける。


(アクセス)


 メニューウィンドウを立ち上げ、今日の予定を確認する。


 7:05~21:00 アルと一緒


(クローズ)


 俺は速やかにメニューを閉じた。

 今のは見なかったことにしよう。


「今日で最後か……」


 ソファーの背もたれに身を預け、呟く。

 明日には日本に帰るための宇宙船に乗る予定だ。

 約2週間前に意識を取り戻してからしばらくは病院のベッドにいたため、この部屋で過した期間はもっと短い。

 僅かな期間ではあったが、エルフの月に滞在したというのはすごい事だ。俺の知る限り人類では初めてじゃないか。

 すぐにでも帰りたい気持ちが強かったが、多少の名残惜しさもある。


 エルフの月における最後の日……今日は一人でいろいろ探索してみるか。

 俺はそう思い立ち、出掛ける準備をすることにした。

 ああ……一応アルに断りのメールをしておこう。勝手に組まされた予定とはいえ、あいつも無視されたら困るだろうしな。




 どこに行こうかと考えながら部屋を出る。

 この道を真っ直ぐ行けば食堂へと繋がるが、別の場所に行きたいと思った。

 朝食はまだだが、あの不味い料理はできるだけ避けたい。

 さすがにお腹が空けば食べないわけにはいかなくなるが、1食くらい抜いても大丈夫だろう。

 俺は食堂へは向かわず、途中にあった別の道に入る。

 周りは木々に覆われ、舗装されたタイルの道にはゴミが1つも落ちていない。

 想像していたエルフの月とは全く違う。まるで管理された自然公園の中にいるみたいだ。

 整備された自然の中を歩くのはとても気持ちがいい。

 人類とは異なる存在、宇宙人、エルフ。

 しかし、こういった価値観は同じなのだろうか。

 それともエルフだから森が好きなだけか?

 いやその考え方はおかしい。物語で語られるエルフは人間が作り出したファンタジーでしかない。

 たまたま宇宙人の容姿がエルフそっくりだっただけだ。

 ファンタジーのエルフと実在のエルフを同一視するのは馬鹿げている。


 そんなことを考えながら歩いていると、広場らしきものに到着する。

 芝生が生い茂る開けた場所だった。

 ベンチが所々設けられていて、何人かが座っている様子が見てとれる。

 座っている人物を遠くから眺める。

 耳が長くない。同じアジア系の顔立ち。なら、俺と同じ境遇の人たちか。

 俺は広場をそのまま真っ直ぐに進んだ。

 どうやらこの辺りは俺と同様にエルに連れて来られた日本人の学生が利用している場所らしい。

 連日アルに振り回されていたせいで、俺は周囲の地理に疎く、他の日本人ともほとんど交流できていなかった。


 広場の終点まで進むと、そこには大きな円形のベンチが設置されていた。

 そのベンチに10人程が向かい合って座っており、何か話をしているようだ。

 そこに近づくにつれ、声が聞こえてくる。

 まだ距離があるため内容は分からないが、なにか言い争っているようだ。

 俺はその集団に興味を持ち、もっと近づいてみることにした。



「だから、なぜ理解しないんだお前たちは。エルフだぞ! あのエルフからスカウトされたんだ! 断るなんて愚か過ぎる」


 集団のうち1人が興奮した様子で立ち上がり、周りを罵るように大声を上げている。

 よく見ると、ベンチに座る集団は2つのグループに分かれて座っていた。

 さっきとは別のグループの女性が、激昂する相手に向かって冷静に反論する。


「私たちは洗脳されて無理やり連れて来られたのよ。宇宙人なんて信用できない。ここにいたらまた何をされるか……」


 その発言を受けて、双方のグループからそれぞれ声が上がる。


「その問題は解決したでしょ」


「してないかもな。お前らを見てると、まだ洗脳されているように見えるぜ」


「そ、そんなわけないだろ! 俺だって最初は不信感を覚えたさ。でも冷静に考えてみろよ。オリンピアに出場してエルフ陣営の勝利に貢献すれば特権的地位が与えられるんだぞ。こんなチャンス二度と無い。断ったら一生後悔するに決まってる」


「オリンピアのルール見ただろ? あれは宇宙人が人間を殺し合わせて楽しむショーだ。あんなのに参加したいなんて気が知れない」


「それこそ浅はかな考えだわ。きっとエルフ様や3種族は、人類のガス抜きをお考えになられたのよ。人類の歴史は戦争の歴史、3種族が現れてからは戦争が収まったけれど、きっといつかは戦争が起こる。そうお考えになられ―――」


「あんたエルフ信者か? 頭の中腐ってんな」


「ちがう、そうじゃな―――」



 どうやら「エルフの月に残る人」と「日本に帰国する人」で言い争っていたらしい。

 双方譲らず、議論がヒートアップしていく。

 罵倒する声も上がり、険悪な空気になっていた。

 そこに俺がやってきたのを見た残留派の1人が声を掛けてきた。


「おい、あんた確かアル様とよく一緒にいる奴だよな。この分からず屋たちになんか言ってやってくれよ」


 他の人も一斉に俺を見る。

 俺とアルが一緒にいた事は他の人も知っているようだ。

 残留派の連中は俺を仲間と見ているようで、帰還派は敵視する視線を向けてくる。

 注目が集まってしまい、発言しないわけにはいかなくなってしまった。


「えっと……悪いが、俺は日本へ帰るぞ」


 その発言を聞いて皆一様に驚いた表情をする。

 そしてすぐに残留派から怒鳴られた。


「おい、お前! アル様と親しくしておきながら、帰るってどういうことだ?」


「ありえない……アル様を裏切るつもり?」


「アル様にお声を掛けてもらえる立場で、よくそんなことが言えるな!」


 怒りを向けられて思わず一歩たじろいでしまう。

 残留派からすれば、エルフと行動を共にしながら帰国を希望するのは信じられないことらしい。


 残留派の男性2人が怒りが収まらない様子で立ち上がり、俺に詰め寄ってくる。


 そこに一人の女性が割って入ってきた。

 その人は帰還派側に座っていた女性で、手を広げて俺を庇うようにして立つ。


「待ってください。何のつもりですか? ここはエルフの月ですよ。ここでの暴力行為はエルフも黙ってないと思いますが」


 そう言うと、詰め寄ってきた男たちはばつが悪い表情をして距離を離す。


「そ、そんなつもりは無かった……。とにかく、考え直すなら今のうちだ。今スカウトを断って帰国したら、今後オリンピアに参加したくても受け入れてくれる保証なんてどこにも無いんだからな!」


 捨て台詞を吐いて去っていく。

 ここで解散となり、他の人も各々立ち去っていった。



 残ったのは俺と、俺を庇ってくれた女性だけとなり、その女性が俺に向き直ると頭を下げてきた。


「すみませんでした。今日は一段と熱くなってしまったみたいで……」


「いや、君が謝る必要はないだろ。むしろ助けてもらって感謝してる」


 女性は頭を上げると、少しだけ微笑む。

 先ほどの勇ましい様子とはうって変わり、大人しく朗らかな印象を受ける綺麗な黒髪の女性だった。


「あのぉ……あさひ祐先輩ですよね?」


 目を合わせず、遠慮がちに聞いてくる。


「ああそうだけど、なんで俺の名前を知ってるんだ?」


「私……同じ高校の後輩で、1年1組の服部さやかと言います」


「そうなのか! うちの高校から俺以外にもここに連れて来られた人がいたのか……」


「ええ……そのぉ……記憶にありませんか……?」


「すまない、連れて来られた時の記憶が無いんだ。うちの高校で連れてかれたのは俺と君以外にもいるのか?」


「はい。3年の坂下竜也さかしたたつや先輩もです」


 坂下竜也という名前は知っている。レインの天才として有名だったな。


「ああ、考えてみればそうか。レイン使いの有望株を集めていたらしいからな。あの学年主席も呼ばれて当然か」


「はい。そ、それでですね……もし宜しければ……少し私とお話できませんか……?」


 だんだんと声が小さくなりながら尋ねられる。

 思った以上に気の弱そうな子だ。

 上級生の異性と話すことに緊張しているのだろうか。

 俺はお腹が空いていたので了解がてら提案することにした。


「もちろんいいよ。よかったら食堂で話さないか? まだ起きてから何も食べてなくてね」


 それを聞いた服部は胸に両手を合わせ、大きく頷いた。

 そして俺の横に並んで食堂へと向かう。



 食堂では色々な会話で盛り上がった。

 ここの食事が不味い事からはじまり、エルに精神支配されて記憶が無い前後の話、ここでの生活、さらには高校での出来事やお互いの幼い頃の話にまで及ぶ。

 会話が進むにつれ服部の緊張もほぐれてきたのか、時折笑顔を見せていた。

 俺自身も、エルフの月という見知らぬ地で、同じ高校で同じ境遇の後輩に出会えたうれしさから、服部との会話を心から楽しんだ。



 お昼過ぎに服部と別れ、部屋へと戻る。


 リビングに入ると、そこにはアルがいた。


「ヘンタイ」


 出会い頭、罵られる。



 ………はぁ?




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