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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第二章
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帰還2

 反政府テロ組織フォースウルフ。


 その名は、エルフ・オーク・ドワーフの3種族の宇宙人が人類と接触して10年ほど経過した頃から広がりはじめる。

 接触当初は世界中が混乱のなかにあったため、宇宙人に対する反発や不信感も大きく、フォースウルフ以外にも敵対姿勢を見せる国家や団体も多かった。

 しかし、宇宙人の技術レベルの高さが知れ渡り、それらを用いて侵略が可能であるにもかかわらず友好を示した態度と、積極的な技術供与により人類が進歩する過程を目の当たりにした人々は次第に考えを改める。

 当初の反発は好意に変わり、不信感は信頼へと変化する。


 そうして友好的な世論が形成されていく過程のなかで、僅かに残った猜疑心を持つ者たちが寄せ集まり生まれたものがフォースウルフと呼ばれる組織だと言われている。


 フォースウルフとは宇宙人と人類の間を引き裂こうとする共通の敵なのだろうか?

 もしくは、人類の救世主たりえる存在又は人類最後の防波堤となる存在なのだろうか?



 世界中に存在すると言われているフォースウルフ。

 その中の1つ、フォースウルフ関東支部は東京の郊外にあるクリアビル郡の地下深くに存在した。

 地下に巨大な半円型のドーム状の空間が広がり、通称「アンダーリゾート」と呼ばれる都市を形成していた。

 アンダーリゾートでは、インフラが整備され、建物が立ち並び、外周部分は空を模したホログラムが映し出される。

 地上の時間に合わせて朝には日が昇り、夕方には日が沈む。

 そんな地上と全く変わらない生活ができる施設は、一般の人々に知られることなく今日も稼動していた。




「ふわぁああ」


 あさひ供花は腕を広げて背を伸ばし、大きな欠伸あくびをする。


 供花のいる場所はフォースウルフ関東支部のあるアンダーリゾート内の建物の1つ、その2階で営業している喫茶店の店内だ。

 店内はこじんまりとしていて、テーブル席が6つとカウンター席が7つしかない。

 窓から日差しが差し込み店内を明るく照らし、コーヒーを炒るほろ苦い香りが漂う。

 曲名は知らないが聞いたことのあるジャズが店内で流され、つい読書でもしたくなるような居心地の良い空間だった。


「あら、供花ちゃん寝不足? お肌に悪いわよ」


 私の欠伸を見て、カウンターの向こうから沙希さんが笑いながら話し掛けてきた。


「ちゃんと寝てますよ~」


 私はカウンター席に座り、沙希さんが入れるコーヒーを楽しんでいた。


 店内に他の客はおらず、今は私と沙希さんの2人きり。

 アンダーリゾートに来てからの私は、すっかりこの店のコーヒーに嵌り常連客になっていた。


「あらそう?じゃあ疲れが溜まっているのかしら」


「ん~どうですかね。最近色々とありましたから……」


 今から2週間ほど前、私は初めての実戦を経験した。

 しかも相手はあの宇宙人。エルだ。

 予想外の変身までしてくる難敵だったが、見事倒すことができた。

 その際に師匠と里香が負傷してしまう。

 それ以外にも事後対応など色々あって忙しい日々を送っていたが、ここ数日はようやく落ち着いてきた。

 2人の怪我も完治し、今は平穏な日常を満喫している。


「そうね。本当にご苦労様」


 沙希さんがそう言うと、カウンター越しに私の頭を撫でてくる。

 この歳になって頭を撫でられるのは少々気恥ずかしかったが、沙希さんの微笑む顔を見るとなんだかほっとする。

 私にお姉さんがいたら、こんな感じになるのかなぁ。


「沙希さんって、なんだか私のお姉さんみたい……」


「あらっ、お上手ね。私の年齢を聞いたら驚くわよ」


「ええっ、そうなんですか?25歳前後に見えますけど……?」


 本当は30前後に見えるが、ちょっとだけお世辞を使う。

 でも綺麗で若く見えるのは本当だ。


「もう供花ちゃん大好き。これからは沙希お姉ちゃんって呼んでもいいわよ」


「ははは……それは遠慮しておきます」


「あら残念。ふふふっ」


 2人して笑い合う。

 沙希さんはフォースウルフ関東支部のリーダーと呼ばれる立場の人だが、気さくで話上手の聞き上手だ。

 私の知らないことを沢山教えてくれるし、私の身の上話も真摯に聞いてくれる。

 ここに来た当初は不安でいっぱいだったが、沙希さんがいてくれたお陰でだいぶ馴染めた。沙希さんには本当に感謝している。


「ところで……供花ちゃん。これからのこと、決めた?」


 沙希さんが撫でていた手を離すと、尋ねてきた。


「すみません……まだ……」


「焦らなくて良いわ。私たちも情報を集めているけど、複数の政府がデュアルマインドと呼ばれる特異体の存在を把握しているのは事実みたいね。でも、それがあなたのことだとはわかっていないみたい」


 私はフォースウルフに一時的に保護されている立場で正式には加入していない。

 私がここにいる理由は、自身の身の安全と絶斗の捜索、そして祐を取り戻すこと。

 それが達成できたら皆のところに戻って、また一緒に普段の生活を送りたいと願っている。

 沙希さんもその考えを理解してくれていて、組織の人員をさいて手伝ってくれる。

 エルを倒して祐の精神支配は解かれたと予想しているが、未だ解決には至っていない。絶斗に関しても依然不明だ。

 一応、エルが死の間際に『祐はエルフの月に、絶斗はオークに』と言っていたが、それだけではどうしようもない。


 ただし、私を狙っていたエルがいなくなったことで一応の安全は確保され、高校に戻ることはできるようになった。

 そのことを沙希さんに伝えられ、「戻りたいか?」と聞かれていたのだ。

 戻りたいか? と聞かれれば、当然戻りたい。

 でも状況は変化した。

 私の二つ名「デュアルマインド」、これは私が2つのレインを使いこなすという特異体能力からちなんで師匠が名付けたものだ。

 このデュアルマインドという名称がどこからか漏れて、いくつかの国が調べているらしい。

 高校生として普段の生活に戻っても、影ながらフォースウルフが支援してくれると言ってくれたし、日本政府も私を守ってくれると保証したらしい。


 しかし、それでいいのだろうか。

 絶斗と祐の件も解決はしていない状況で、私だけ皆に守って貰ってばかりで……。

 私が本当に特別な力を持っているのなら、その力を使って皆の役に立てるかもしれない。そして、私自身の力で絶斗と祐を取り戻せるかもしれない。

 そんな感情がふつふつと沸いてくる。

 でもそれと同時に、不安も押し寄せる。

 もう戻れないところまで来ているのかもしれない……と。

 そんな気持ちが渦巻いて、沙希さんの提案を保留させてもらっていた。


「わ、私……」


 結論が出せないでいるところに、突然扉が開く音がした。

 扉に目を向けると、里香とフロイトだった。


「供花! ここにいたのか、探したんだから!」


「里香、どうしたの?」


「どうしたのじゃないよ。純にぃが、祐が帰ってくるって!」


「えっ!!」


「いいから、テレビ付けて!」


 里香の声を受けて、沙希さんがテレビを付ける。

 スクリーンに映し出された先には、アナウンサーが慌しく原稿を読み上げていた。


「―――繰り返しお伝えします。本日、エルフ族から日本政府に対して通達がありました。その内容は『不当に勧誘した日本人の学生156名を返還する』とのことです。この件について日本政府は『事態の把握と受け入れ態勢の確保を至急行う』と表明しました。ここで専門家のご意見を伺いたいと思います。こちら―――」


 不当に勧誘した日本人……祐! 祐だ! 祐が帰ってくる!


「里香、よかったね!」


「ああ、やったな!詳しい情報が本部に来ているみたい。師匠もそっちにいる。ほら、行くよ」


「わかった!」


 私は沙希さんに「ごちそうさま」と告げ、里香と供に喫茶店を後にする。





 店内に残る沙希とフロイト。スクリーンでは報道番組が続いていた。

 沙希がフロイトに声を掛ける。


「フロイト座って、今コーヒーを出すわ」


 コーヒーの準備をしている間、フロイトは沈黙したままカウンター席に座る。


「はい、どうぞ」


「……」


「これで一つ解決したわね」


「……さぁな。エルが集めた学生は将来有望なレイン使いだろ?そのまま何事も無く返すとは到底思えん」


「今のエルフ族はエルに代わってグラーが仕切ってるんじゃないかしら。あの二人は元から仲が悪いわ。グラーはエルの遺産を引き継ぐことを毛嫌いしてるんじゃない?」


「……つまり、グラーのくだらないプライドのお陰で無事返還されると?」


「そうね、そう願っているわ」


「そうか……。それで、供花はどうするつもりだ?」


「どうするつもりって?」


「あいつに高校に戻る事を提案したそうだな?どうゆうつもりだ?」


「そのままの意味よ。供花ちゃんはフォースウルフの一員じゃないもの。あの子には選択権があるわ」


「特異体に平穏な日常などありえない。誰よりもお前がわかっている筈だ」


「そうね、デュアルマインドの名が世界に知れ渡ってしまったしね。今頃、各政府の諜報機関が血眼になって探しているんじゃないかしら」


「そもそもなぜデュアルマインドの名が流出した? それは我々の中だけで呼ばれていたものだ」


「さぁ、なぜかしら?」


 沙希は報道番組に目を向けながら小さく笑う。


「まさか……お前が意図的にやったのか?」


「………そんなこと、私がすると思う?」


「……」


 沙希とフロイトの目が合う。互いに一言も喋らず見つめ合い、店内は重苦しい雰囲気に支配された。


「ふふっ、やめましょ。私はそんなことしていないわ」


「……どうだかな。では、本当に供花を普段の生活に戻す気があるのか?」



「それはありえない」



 沙希は断言した。


「私が、特異体を手放すと思う? アレはマザーへと続く鍵よ。フロイト、邪魔をするならあなたでも容赦しないわ」


 沙希の目は、赤く染まっていた。




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