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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第二章
28/45

帰還1

 2084年4月某日。

 先月行われた世界会議にて、エルフ・オーク・ドワーフの3種族が行ったオリンピア開催宣言は、世界に波紋を広げた。

 6年後の2090年に行われる、3種族主導によるレイン競技会。

 いや、形を変えた代理戦争とも言うべき舞台。

 3種族毎に各陣営100名の出場選手を迎え、レインによる集団戦闘。

 優勝陣営の参加者個人には特権的地位の保証、さらにその個人が所属する国家にはその人数に応じて格別の配慮が約束された。

 この宣言が行われた直後から、各国家はその対応に積極的に乗り出す。正確に言えば、乗り出さざるをえなかった。




 日本にて開催された世界会議を無事に終え、本来ならその余韻に浸りながら平穏な日々を期待していた日本政府関係者。

 しかし現状はそれを許さず、オリンピアの対応に追われる。

 世界会議終了直後から、日本国首相 小林健二は「オリンピア対策チーム」を結成し、政府の役人や軍事専門家などを招集する。


 そして、今日も対策会議が行われていた。




「―――以上が、現在判明している各国家の対応です」


 スタッフの報告を受け、静まりかえる会議室。

 小林総理は資料に目を通しながら溜息をつく。

 世界会議の開催国という重責から解放され、さらにエルとの戦いを辛くも勝利で収めた彼に、休まる事なく更なる難題が押し寄せる。


「つまり、レイン後進国はエルフ・オーク・ドワーフ内のいずれかに絞って協力をして行く方針を決め、逆にレイン先進国は3種族それぞれに分散させる方針か………」


「はい、我が国も早々に方針を決める必要があります」


 ――――――――――


 オリンピアに対する各国家の対応は大きく2つに分かれた。

 レイン後進国と言われるレインの導入・発展が遅れている国は、Bランクのレイン使いが存在しないか又は少数しかいない。

 これらの国家は3種族のいずれかに絞って協力姿勢を示し、その陣営を勝たせる動きを見せていた。

 一方、レイン先進国と言われるBランクの使い手の多い国は、全ての陣営に自国民が参加する事を望む。

 この場合ならどの陣営が勝利しても一定の利益は享受できるからだ。


 日本はレイン導入が比較的早かったお陰で、レイン先進国側に属するが、けしてその地位が安定しているほど強大ではない。

 現在、各国家はBランク到達者(B-以上の者)を公表するルールが存在する。

 日本のBランク到達者の公表人数は7名。世界で合計すると約100名ほどが存在する。

 この公表数がその国の軍事力を示し、政治の力関係をも左右している。

 ただし、これはあくまで公表している人数であって、実際はどの国も公表していないBランク使いをある程度保有していると考えられている。当然日本もそうしている。


 ――――――――――


「わが国としては、やはり他の先進国がしているように分散させるのが妥当かと思われます」


「しかし、その場合は勝利陣営に属していた後進国と立場が逆転する可能性があるのではないか?」


「……その可能性はある。だが、我々が一極集中して、万が一にもその陣営が敗れた場合こそ、深刻な事態になる」


「基本的には分散させつつも、比重をどこかに偏らせる方法もあるのでは?」


 会議の進行中、小林総理は発言せずに議論の行方を見守っていた。

 そこで、会議に参加していた軍事関係者の1人が小林総理に質問をする。


「総理はどうお考えでしょうか?」


 皆の注目が集まるなか、小林は口を開く。


「……その前に確認したいことがある。まず、最大のレイン大国イギリスはどういう方針を打ち出している?」


 シュバリエに代表されるイギリスは、現在最強のレイン国家だ。そのBランク公表者数は37名に及ぶ。次点の中国が12名である事からも、これは圧倒的な数値である。


「イギリスは現時点で対応を表明していません。諜報員からの報告も未だ挙がっておりません」


「あの国は例外だ。他の先進国がリスクを嫌って分散せざるをえないのと違って、イギリスはいずれかの陣営に集中させる選択肢があるんじゃないか?」


「………おっしゃる通りです。仮にイギリスが一つに絞った場合、その陣営が勝利する可能性は非常に高いです……」


「だろうな」


 それが最大の懸念事項だと小林は考える。


「次に、3種族は何か行動に出たか?」


「現在のところこれと言っては……公表しているBランク到達者に各陣営からの勧誘が届いているだけです」


「それは当然か。我が国の7名にも、3種族全てから勧誘が来ている―――で間違いないか?」


「はい。その件については7名全員から『日本政府の判断に従う』との確認は取れています」


「それはありがたい」


「しかし一応の希望を聞いたところ、エルフに所属したい者がほとんどでした」


「それも仕方ないか……」


 これは今までのメディア露出の差とも言える。

 3種族の宇宙人が人類と接触して30数年。

 これまではエルフが主に公式の場に姿を現すことが多く、その人類を超越した美しさは各メディアが散々報じてきた。

 ちまたには「エルフ教」と呼ばれるエルフを信奉する者たちもいる。一部では組織化して政治的な影響力を保有している団体すら存在し、国によってはエルフ教が実質支配しているところもある。

 一般人の人気もオーク・ドワーフよりエルフの方が圧倒的に高い。

 オリンピア開催宣言後の各メディアも連日特集番組を放送し、事前予想ではエルフ陣営の優勢が伝えられていた。


 ただし、これは早計な見方である。


 参加者にしか優勝の恩恵がないのであれば、確かに人気のエルフに有力者が多く集まり、そのまま優勝もありえただろう。

 しかし、『参加者の属する国家』にも恩恵があると明言された以上、これは国家間の争いに他ならない。


「いずれにせよ、すぐに立場を決定するのは危険だと私は考えている。各国の情報を少しでも多く収集し、最終的な結論を出すべきだ。特にイギリスの動向が最も重要だ。イギリスへの諜報員の増員を検討してくれ」


 小林はそう会議を締めくくった。




 会議を終えて執務室に戻る小林。

 その途中で一人の女性が待っていた。

 その女性は 五条 麗華れいか。総理の護衛主任である。

 麗華は小林に一礼して報告をする。


「総理、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。これより護衛の任に復帰します」


「おお麗華君、もう大丈夫なのかい?」


「はい、万全です」


「それはよかった。これからも宜しく頼むよ」


「はっ!」


 日本の最大戦力にして、日本唯一のレインランクB+である五条麗華。

 エルとの激戦の際、負傷こそ無かったものの身体に大きく負荷が掛かり、療養を必要とした。

 その療養が終了し、護衛の任に復帰したのだ。


 執務室へと続く廊下を歩く小林と麗華。

 久しぶりの再会に安堵する小林は、道すがら麗華と会話を交わす。


「ところで、エルの件も含めて、麗華君はどこまで把握しているのかな?」


「はい。最終的に護衛部隊の殉死者は5名。狼側は無しと聞いております」


 狼とはフォースウルフのことだ。

 世間的にはフォースウルフは宇宙人に敵対する反政府テロ組織と認識されている。

 しかし実際は日本がそうであるように、世界中の多くの政府との間で、一定の協力関係にある。

 これは宇宙人が人類に対して侵略の意思を示した時の保険と成り得るからであり、ある種の必要悪とも言えるからだ。

 この事実を知る者はごく少数であり、フォースウルフのことを「狼」と表現して人目を避ける。


「そうだ。あれを相手にしたにしては少ない犠牲で済んだとも言えるが……優秀な者たちを失ってしまった」


「はい……」


「クロウ氏の負傷は軽症で済んだそうだ。それに―――デュアルマインドも無事だ」


「それはよかったですね。あの子……デュアルマインドは、オリンピアにどう関わって行くのでしょうか?」


「それはなんとも言えんな。3種族が優秀なレイン使い、特に特異体を探していた理由は、オリンピアを計画していたからだと理解できたが………狼に所属する特異体に対して、3種族がどうゆう対応をするのかは想像できん」


「現状、デュアルマインドの存在は3種族にバレていないのですか?」


「それもわからんな。宇宙人の諜報能力が我々を遥かに超えているのは間違いないだろうが、デュアルマインドの情報を掴んでいるのかは不明だ」


「……彼らが対処に乗り出て、拉致又は殺害される前に、政府が保護をして公表するべきでは? デュアルマインドは……あさひ供花の実力は本物です。彼女を失うわけにはいかないと思います」


「彼女の存在が重要との考えには同意だ。が、そうも簡単にはいかん。世界で未だ公表例の無い特異体能力者。それを公表して保護するという方法が、本当に正しいのかどうか……。一旦公表してしまえば、もう隠すことはできない。正式に宇宙人から調査などの名目で引き渡し要求をされた場合、断るのが困難になる。それに、敵は宇宙人だけではない。他国も当然特異体に興味を持っているだろう。それら全てからデュアルマインドを守りきれるかどうか……。特にオリンピアの件もあるしな。特異体の強大さが知れ渡れば、世界中でなにが起こるか想像も出来ない」


「なるほど……」


「それに、狼側もそう易々と貴重な特異体を手放すとは思えんしな。しばらくはあちらに預けておく方が、最も安全かもしれない」


「おっしゃる通りですね」


 そんな会話をしていた小林たちのもとに職員が血相を変えた様子で走ってくる。そして、慌てて小林に報告する。


「そ、総理。エルフから日本政府に通達がありました!」


 小林は後ろに控えていた麗華と目を合わせる。

 先程の会話もあってか、二人の表情は重い。


「わかった。とにかく内容を聞こう」



 オリンピア開催宣言後の世界は、大きく動こうとしていた。




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