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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第一章
21/45

パートU 覇道の始まり

 

 先行したクロウ隊長のレインは、エルとの距離が5mほどまでになった瞬間、弾けるように浮かび上がり、球体へとその形状を変化させて、速度を上げながら襲い掛かる。

 突然の形状変化と凄まじい速度、普通の人間なら反応することは困難な攻撃であるが、目の前のエルは表情も変えず微動だにしない。

 エルは迫りくる高速のレイン弾に対して、足元に待機させてあったレインを緑色の枝のような形状に変化させ、さながら鞭のように大きくしならせて弾く。


 バチーン


 鞭に弾かれた衝撃で、クロウ隊長のレインは大きく軌道を逸らしエルの横を通り過ぎていく。

 しかし、エルを通り過ぎたレインは、突如その進路を変える。

 本来ならエルを通り過ぎて遠く離れてしまうところだが、その進路を変えたレインは、その形状を球体に維持したまま、再度エルを背後から襲い掛かったのだ。


 ――――――――――


 シュバリエ。

 それは現在最も強大なレインの軍事力を誇ると言われているイギリスにおいて、極一部の者にしか与えられない称号。


 イギリスのレイン操作技術は日本のそれと大きく異なる。

 日本はブレード・ランス・シールドの3つの型を重視し、それらを組み合わせることによって臨機応変に戦うというものだ。

 これはこれで合理的であると世界的にも評価が高く、他国でもその一部が模倣されているほど。


 しかし、大国イギリスは違う。

 イギリスの戦闘方法は至極単純だった。

 それは「遠距離飽和攻撃」。

 イギリスで採用されているレイン操作は、まずレインを『球体』に変化させて宙に浮かべる。

 そして、その球体を保ったレインを相手の射程外から一方的に攻撃し続けるというシンプルなものだった。

 1撃目がガードされるなり避けられても、すぐさま軌道を変えた2撃目、3撃目が相手を襲う。

 対戦相手は四方八方から迫り来る攻撃に防戦一方となり、反撃も許さずにそのまま倒しきるというものだった。

 当然そんなことができるのは、相手よりも支配可能距離が長いことが前提で、さらに相手が防戦一方とならざるを得ないほどの強度と速度を持つ攻撃を間断なく仕掛け続けられる技量が必要だ。


 使用者とレインの距離が離れれば離れるほどその強度と速度は落ちる。

 これはレインの特性として覆すことのできない常識である。

 にもかかわらず、最低でも10mは離れた相手に対して、一つも無視することができないほどの攻撃を継続し続けなければならない。

 それができるのであれば、理論上は最強の戦闘方法といわれているが、使用者の技量に依存したこの戦い方は限られた者にしか採用できない。

 そして、それができる極一部の者が栄誉ある称号を授けられる。

 シュバリエという名の称号を。


 ――――――――――


 イギリスにおいて伝説とまでうたわれたクロウ。

 かつての名を捨て、公式には死亡したことになっている伝説のシュバリエは、その力を存分に発揮して、エルを攻めたてる。


 ガン、ガン、ギンッ、ガン、ガン!、ガン!


 弾かれても弾かれてもその度に軌道を変えて様々な角度から攻撃を継続するクロウ。

 それに対してエルは鞭状に変化させたレインで一つ残らず迎撃する。

 エルは余裕を持って防げてはいるが、クロウの方もエルが反撃を行う余地を与えていない。


 激しさを増す攻防のなか、慎重にエルとの距離を詰めていた里香と供花。

 距離が5mを切ったところで里香が走り出す。

 里香は姿勢を低く保ち、小柄な体をさらに低く身をかがめ、さながら地を走る野生動物のような身のこなしでエルに接近する。

 その速度にエルが対応できずに1mまで接近すると、突然里香はエルの目の前で大きく跳躍した。

 跳躍に合わせて里香は体を180度回転する。その回転に沿うように里香のレインがエルに襲い掛かる。

 小さいながらも鋭い斬撃。

 里香のブレードはエルの肩を切り付けることに成功した。

 里香はそのまま立ち止まらずに真っ直ぐ駆け抜ける。

 エルの肩から血しぶきが舞うなか、里香はエルから反撃を食らうことなく離脱に成功した。


 続いて供花がエルに接近する。

 里香とは逆の方向から勢いよく走り、距離が3mほどになるまで近づくと、横一線のブレードを放った。


「ブレード!」


 気合の入った叫びと同時に大振りのブレードがエルに迫る。


「………」


 エルは里香に傷つけられた肩を物ともせず、供花のブレードを冷静に弾き返す。


 ガギーン


 一際大きい金属音が鳴り響く。

 供花の放ったブレードはエルのレインに迎撃され、その衝撃から形状を崩し、液体へと変化して床へ落ちる。


 供花は自身の攻撃が失敗したことを悟るが、驚いた顔を見せることなく後ろへ後退する。


 が、エルはその供花を逃さなかった。


 エルは供花のブレードを迎撃した直後、すぐさま軌道を変化させ、後ろに下がろうとする供花に向けて追撃を仕掛ける。


 ガンッ


 供花に迫り来るエルの追撃に対しては、クロウの球体を維持したレインが横からぶつかり、勢いを相殺する。

 そしてそのままクロウは攻撃を再開し、エルがそれをさばく流れが継続された。


 ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ギンッ




 一連の攻防を観察していた五条麗華は、感心するとともに疑問を浮かべる。


(シュバリエによる遠距離飽和攻撃でエルの身動きを封じてからの、仲間からのヒットアンドアウェイによる連携。あのエルですら手を焼いているように見える)


 クロウとエルの激しさを増す攻防が継続されるなか、後ろから再度飛び込むチャンスを伺っている里香。

 エルもその動きを無視できないのか、クロウのレインを捌きながらも、チラチラと里香に目を向けている。


(里香と呼ばれていた小柄な女の子。あの子の動きが特に素晴らしい。あの若さにしてレインの速度と強度はかなりのものだった。ランクCか、C+はあるのだろうか。少し近づきすぎで危なっかしさもあるけど、仕掛けるタイミングが素晴らしかったおかげで、エルに反撃を許さずに攻撃を成功させている)


 日本が誇る最大戦力と言われている五条麗華ですら、里香の才能とセンスを高く評価した。


(それに比べて―――――)


 麗華は、クロウの指示で攻撃に加わっているもう1人の少女に視線を向ける。


(もう1人の子……。供花と呼ばれていたこの子は……。確かに年齢を考えれば良くやっている方だとは思うが、なんというか……このレベルでエル討伐に参加するには荷が重過ぎるとしか……)


 今回のエル討伐作戦は、事前に小林総理とフォースウルフにより決定した一大決心の作戦だ。

 あのエルフに、宇宙人に、弓を向けるのだ。

 やるからには必ず成功させなければならない。

 そのための人員も慎重に用意した。

 公には人気の高いエルフだ。そのエルフを倒すことに賛同してくれるほど小林総理に忠誠を誓っている、かつ、十分な実力がある者にしか頼めない。

 その結果、総理付きの護衛部隊のみにせざるを得なかった。

 本来、総理付きの護衛部隊ともなれば、警察署内のトップエリートで構成される。そのレインの実力は国内でも折り紙つきだ。

 しかし、そんな護衛部隊の隊員ですら全く歯が立たなかったのだ。


 フォースウルフだって、エルを倒すことの難しさがわかっていないはずがない。

 だからこそ伝説のシュバリエであるクロウが率いる特殊部隊を投入したのだから。


(エルもさっきから、クロウのレインと、里香の位置には気を配っている。でも、直近の攻撃後から供花の方には目を向けなくなった。供花は脅威にならないと判断されたのね……。ああ、もどかしい! 私の体調が戻れば、供花のポジションに私が加われば、今度こそやれるかもしれないのに……)


 麗華は未だ頭痛が治まらずふらつく体を抑えながら、懸命に深呼吸を繰り返していた。




 クロウが間断なく続ける攻撃、その攻撃のリズムが一際ひときわ激しさを増す。

 それに合わせて里香と供花が、前後から同時に再度仕掛けた。


「はあああぁ」


「ブレード!」


 里香がエルの背中を斬りつけようと飛び上がる。

 同じタイミングで供花がエルの正面からブレードを放つ。

 クロウのレインは、エルの頭上に移動する。


 エルにとって対応の難しい三方同時攻撃。

 その最中さなか、エルは薄っすらと笑みを浮かべた。


「ま、まずい。供花さん、下がりなさい!」


 この後の展開にいち早く気づいたのは麗華だ。

 供花が狙われる。

 そのことを察知した麗華は、あらん限りの声で叫ぶ。


 エルは笑みを浮かべたまま、前方へと突如跳躍した。

 攻撃を仕掛けるために近づいていた供花の歩みが止まる。

 エルと供花の距離が、一瞬で2mまで縮まる。


 供花の放ったブレードは、胸の前で両腕をクロスさせて身を守るエルの腕を浅く傷つける。

 ただそれだけ。供花の扱うレイン程度では致命傷には至らない。

 エルはそう判断して、供花のブレードによるダメージを無視したのだ。


 驚いて立ち竦む供花に対して、エルの攻撃が容赦無く繰り出される。


「まずは一人!」


 供花に迫るエルのレイン。

 その形状は太い枝を真っ直ぐに伸ばしたもの。

 先端は鋭く尖っており、ランスに似ている。


 その先端が供花を貫こうとする刹那、供花は叫ぶ。


「絶斗―――――――――――」


 その叫びに合わせて、供花の右太ももがスカートの上から大きく膨らんだ。


 ギィィィィン!


 凄まじい衝撃音が室内に木霊こだまする。

 供花の右太ももから、絶斗のレインが躍動するように飛び出したのだ。

 そして即座に形状を変化させ、エルの迫り来る攻撃を弾き返した。


「え……?」


「なっ……」


 エルと麗華は、同時に間の抜けた声を上げる。

 一瞬の出来事に理解が追いつかない。


 1人の人間にレインが2つ……?


 人類がレインを扱うようになってから30数年余り。

 数々の操作方法が編み出され、国家によって、個人によって、進化発展をとげたレイン。


 そんな常識が目の前で覆された瞬間だった。


「今だ! ディス・インテグレート!!」


「はあああああああああああああ」


 驚き思考停止をしているのは、エルと麗華だけだった。

 フォースウルフのクロウと里香は止まらない。


 エルの頭上へと移動していた、クロウのレインが光り輝く。

 これは―――――銀光だ。


 頭上から一筋の光が地に解き放たれる。


 その光は、その強度と速度は、先ほどまでの戦闘で見せていたものとは一線を画す。


 シュバリエが渾身の力を込めて放つフィニッシュブロー。

 その天から降り注ぐ一筋の矢がエルの左肩を打ち抜く。


 ゴオオオオオオオン


 エルの左肩を打ち抜き、レストランの床に穴をあける決死の攻撃。


 エルは抵抗することができずに体をふらつかせる。


 そこに背後から迫る里香のレイン。


 里香の小ぶりながらも鋭いブレードは、エルの首筋を切りつけた。



「ぁ…ぁああ…ぁぁ……」


 左肩を失い、首筋から大量の血を噴出すなか、エルは言葉にならない声を上げていた。

 その目は、自身に起こった惨劇よりも、目の前にいる不可解な存在に釘付けになっていた。


 供花の左足に待機する、供花のレイン。

 そして、右足の足元に着地して待機する、もう一つのレイン。


 供花は、迷いの無い目をエルに向ける。



「エル、私はあなたを倒すわ! 絶斗とともに!」




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