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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第一章
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パートT フォースウルフ

 世界会議中の日本にて偶然にも出会い、そして戦闘が繰り広げられ、一つの決着を迎えた隼人達と坂下。

 両者にとって予想外な出来事ではあったが、そこから1kmと離れていないとあるレストランにおいても今まさに今後の人類の歴史を大きく左右するであろう戦いが行われようとしていた。



 五条麗華。4年毎に行われる「世界レイン競技会」という個人だけでなくその出場国の威信をもかけた大会において世界3位の実力を世に示し、名実ともに日本最強のレイン使いと言われている。

 その麗華は、彼女自身の特性により短期戦に特化していて長くは戦えないという欠点を持つ一方、全力を出した2・3分間は他のBランクですら追随を許さないほどの実力の持ち主だった。

 そんな彼女の「銀光を纏わせたレイン」は、人類とは異なる存在であり卓越したレインの技量を持つエルを両断するにまで至った。


 しかし、エルという宇宙人は人類とは別次元の存在である事を如実に示す。

 両断されたはずの体は、気づけば神秘的で美しい姿のまま傷一つ無く元に戻っていた。

 絶望の空気が漂う小林総理とその護衛隊達の前に、フォースウルフの面々が到着する。


 その中にはかつてエルに目を付けられて絶体絶命のピンチだった所を、フォースウルフのフロイトによって救い出された供花の姿もあった。






「あさひ供花……フォースウルフ……。私になんの用かしら?」


 エルは突然の状況にもさほど驚く様子を見せず、うっすらと笑みを浮かべて問う。


「言われなくてもわかってるんじゃないのか? 君の存在は人類に仇をなす」


 駆けつけたフォースウルフの中から一人の男が前に出て答える。

 その男は高齢と言っても差し支えない見た目をしていた。

 60歳? いや70台80台でもおかしくはない。

 年齢相応のしわだらけの顔つきをしているが、その眼光の鋭さと、屈強な体躯は若々しさを感じさせる。

 その容姿に見覚えがあったのか、エルの眼が見開く。



「あなたは!? なるほど、そういうことだったのね……。死んだと公表されていたけど、まだ生きていたのね」


「この老いぼれの身なれど、まだやるべきことがある。それまでは死ねないさ」


「それで……? レイン黎明期のイギリスの英雄が私の相手をするのかしら? あなたが当時ランクB-だったのは覚えているわ。まだレインのレベルが世界的にも低かった頃なのに、Bランクに到達した貴方はまさに英雄。でも、それは当時の話。今の貴方はかつてよりも強くなっているのかしら? 私にはむしろ……」


「衰えているさ。さすがに全盛期は過ぎた。そこにいる五条麗華の方がわしよりもよっぽど上だろうな」


「……なら結果はやるまでもないと思うわ。五条麗華ですら私を倒せなかった。私が無傷で立っているのに対して、五条麗華は力尽きて立つことすらできないでいる。それとも……あなたには切り札でもあるのかしら? 小さな小さなアースが精一杯知恵を絞って私を倒せるなんて勘違いをするのだから」


 フォースウルフの面々は、エルと麗華の戦いを見てはいないので具体的にどうだったのかは分からない。

 だが、血塗れのドレスの残骸が散らばっているものの、エル本人は無傷で立っているのに対して、麗華は怪我らしきものこそ見当たらなかったが息も絶え絶えの様子で膝をついている。

 そして小林総理の護衛部隊もほぼ全滅に近い状況であった。


「さて、どうだろうな」


 クロウ部隊の隊長は不敵な笑みを浮かべる。


 その態度が気に入らなかったのか、エルは表情を消して目を細めた。

 そして指をパチンを鳴らす。

 するとエルの足元に散らばっていた血塗れのドレスから、血の部分だけが緑色の液体へと変化する。

 その液体は吸い寄せられるようにエルの素足にへばりつき、まるでそんな物など無かったかの如く吸収されて消えていく。


 変化はそれだけではなかった。

 エルの体から光が溢れる。

 そして体が一瞬膨らんだような錯覚を覚えると、光が消えた。

 そこにはチャイナドレスのような胸元が大きく開いていて深いスリットの入った深紅のドレスを身にまとったエルがいた。


「なんだこれは!? どうやった……?」


 麗華は未知の物に対する恐怖を隠し切れないといった表情で呟く。

 言葉にこそ出さなかったものの、他の者も同じだろう。

 人間とは異なる存在、宇宙人、エルフ。



 理解できないということは、ただそれだけで恐ろしい。



 静まり返ったレストラン内で、まるで舞台のスポットライトが当たっているかのように中央にたたずむエルは、独り言を発する。


「取るに足らない存在と思っていたアース。でも、それは間違いだった。五条麗華のような見るべき存在はある。例え一瞬であったとしても、私たちを凌駕できる存在。アースが扱うレインには無限の可能性がある。だからこそ……私が管理しなくてならない。他の3種族に任せてはおけない。私でなくてはならない。もしそれを阻む者がいるならば―――――」


「その存在ごと否定する!!」


 決意の炎を目に灯したエルがそこにはいた。



 今まさに戦端が切って落とされようとする直前、クロウ部隊の隊長は独白するかのように語り始める。


「……あの御方はこう仰られていた。『エルは可哀想な存在』だと……。そしてこうも仰られていた。『ほんの、ほんの少しだけ違っていれば、エルは人類にとって救世主になりえた』と……。だが、賽は投げられた! 過去は変えられない! 今ここで、エルを倒す!!」


「いいえ、過去は変えられるわ……あなたも知っているでしょう?」


「変えられないさ……。だがな、例え破滅の道を進むとしても、その暗闇の中を足掻いて、足掻いて、足掻いた末に光を掴む! それが人間だ!!」


 隊長は拳を握り、腕を掲げ、「起動展開」と叫ぶ。

 レインが液状に変化して地面に零れ落ちる。

 零れ落ちたレインはその場に留まらず、エルに向かって地を走った。


「わしと、供花、里香の3人でやる。隊員たちはわしと小林総理の護衛につけ! 麗華君たちは下がっていなさい!」


「「はいっ」」


「「はっ」」


 フォースウルフの面々が配置につく。

 供花と里香は起動展開を済ませ、それぞれの「レイン」を()()()()足元に待機させてエルに接近しようと慎重に歩みを進める。

 クロウ部隊の他の隊員4名は、起動展開と同時にクロウ隊長とその隣にいる小林総理を囲むようにして配置についた。



「いくぞっ!!」



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