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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第一章
12/45

パートL 宇宙人の目的

 人工島アトランティスにて行われるダンジョン訓練の日々。

 そんな留学生たちにとって、今日は久しぶりに羽を伸ばせる日。

 2084年の年が明け、ドワーフ主催の新年パーティーが行われる日だった。



 隼人、雪に、マイク、キャシーを加えてチームを組む4人。

 今日はダンジョン訓練を早々に切り上げ、新年パーティーの準備に取り掛かる。

 雪とキャシーは、ドワーフが用意したレンタルドレスの試着会場を訪れていた。





「うわ~、雪……綺麗よ……」


 ドレス姿の雪を見て、キャシーがうっとりとした表情で言う。

 キャシーに勧められ、高校生には大胆すぎるドレスを試着した雪は顔を赤くする。


「さすがに、これは恥ずかしいわ……」


 黒がベースの生地に、星のように輝く刺繍が施されているドレスだった。

 胸元の露出は控えめだが、その代わりに背中が腰までぱっくりと開いていて、後ろから見ると体のラインがはっきりとわかってしまう。


「えー、せっかくのパーティーだよ? これくらい普通だって! 髪もさ、いつものロングストレートも素敵だけど、今日は後ろでまとめてアップにしてさっ」


 キャシーは躊躇する雪を無理やり説得し、手続きを進めてしまう。

 言い出したら聞かないのは、短い付き合いのなかで既に理解している。

 雪は小さくため息をつくと、鏡に映る自身を見る。


 映る姿は、女性にしては長身で、肩幅も広い。

 女性としての魅力が全くないなぁ、と常々思う。

 可憐のような、ほわわんとした人目を引く笑顔で、お人形さんみたいな可愛らしい容姿も。

 供花のような、出てるところは出ていて引っ込んでいるところは引っ込んでいる、女性なら誰もが羨むスタイルも。

 自分には無縁だな、と雪は思った。


「最近、気持ちが落ち込んでるなぁ……」と思わず呟いていた。


 元気が無い理由はわかりきっている。

 ダンジョンでレインの実戦訓練を行っているが、その状況が芳しくないためだ。


 キャシーとマイクに問題は無い(マイクの性格については少々問題があるが)。

 あの2人はレインランクも高く、傍目はためから見ても才能がある。

 きっとその才能をこの島で大きく開花させることだろう。


 問題は残りの2人。雪と隼人だ。

 キャシーとマイクが軽々と倒す自動戦闘人形ですら、2人にはギリギリ倒せる程度で、レインの実力差に大きな開きがある。

 隼人のランクはE+、雪に至ってはEなので、この島に集められるたエリートたちと比べると大きく見劣りする。

 今はまだなんとかなっている。

 ダンジョン攻略が始まったばかりなので、相手にする自動戦闘人形も弱い。

 でも今後ダンジョンの難易度が上がれば、いずれ足を引っ張る。

 その懸念は、決して遠い未来の出来事ではないだろう……。


 雪は、ドワーフにスカウトされてアトランティスに留学した際、希望があった。願いがあった。


 祐がエルフに連れて行かれ、絶斗と供花は行方不明。

 その状況を打開し、また皆で以前のように過ごしたい。

 ―――――そのためには『力』が必要だ。

 『力』が欲しい……。


 希望を抱きながらも、結果が出ないことに焦りと苛立ちが募る。


 遠くでキャシーが呼ぶ声がする。

 どうやら自分のドレスを見て欲しいようだ。

 雪は暗い感情に蓋をして、キャシーのもとへと歩きだした。






 ドレス選びとメイクを完了させた雪とキャシーは、隼人・マイクと合流し、パーティーの会場へと向かう。

 パーティー会場は、島の中央に位置する浮遊しているお城だった。

 浮遊しているとは比喩表現ではなく、本当に浮かんでいるのだ。

 地表から50mは浮かんでいるだろうか、近くで見るとその迫力に圧倒される。

 リア曰く、この城にドワーフが住んでいるらしく、普段は立ち入り禁止らしい。


 浮遊城の真下に到着する。

 そこには、リアと同じ人種と思われる案内係が待機していた。


 身元確認が済むと、案内係は「そのままここでお待ちください。その際、絶対に動かないでください」と言い、離れていった。


 しばらくすると、4人が立っていた場所の床がゆっくりと浮き上がり、上へ上へと上昇していく。



「うわっ、こうやってあの浮かんでいる城に入るのか」


 隼人は驚いて体をびくりとさせる。


「すご~い。というかいつも思ってたけど、あのお城ってどうやって浮かべてるんだろうね~?」


「そりゃあ、今僕たちが乗ってる床と同じ原理だろ」


「だーかーらー、それがどうやって浮かぶのか、って話!」


「そりゃあ、ドワーフだからな。あいつらなんでもアリなんだよ」


「もういい! マイクは黙ってて! ねぇねぇ、隼人。このドレス似合う~?」


「あ、ああ、よく似合っているよ」


「ふふっ、ありがとう~」


 キャシーは、あれもいい、これも捨てがたい、とドレス選びが難航し、結局彼女の髪の色に近い真っ赤なドレスを選択した。

 胸元が大きく開いたドレスは、ただでさえ大きな胸がドレスによってより強調され、隼人は目のやり場に困っている。


「あ、その……雪も、そのドレス、とても似合ってるぜ……」


「そう? ありがとう隼人」


 隼人が雪のドレス姿を見て、頬をかきながら褒める。

 小さい頃は一緒にお風呂にも入った仲なのになにを今更照れているんだろう、と雪は疑問に思ったが、悪い気はしていなかった。


「あーやべぇ……マジやべーわ……両手に花とはこのことかっ! 今日の僕どうなる!? いくとこまで行っちゃう!? うはっ」


 そんな独り言をぶつぶつ言うマイクに、雪は呆れる。

 ああいう時のマイクとは会話が成立しない。

 そんなマイクでもレインを扱っている時はとても頼もしく、チームメンバーとしては頼りにしているし信頼もしている。

 最近は彼の扱いも大体わかってきた。

 基本無視! これに限る。

 勝手に触れてきたりはしないので、意味不明な言動さえ無視すれば無害だった。



 4人を乗せて上昇していた床が浮遊城に到着する。

 着いた先は、豪華な内装の広間だった。

 これまたリアと同じ人種の案内係が待っていて、会場へと誘導される。

 通路には様々な調度品が配置されていて、歩くだけでも緊張する。


 やがて通路の終点に到着した。

 目の前には高さが3mはある巨大な扉が見える。


「この先が会場になります。ごゆるりとおくつろぎ下さいませ」


 案内係が、扉をそっと開く。


 扉の向こうには―――――光が溢れていた。







「はぁ~おいしい……この島に来てよかったぁ~」


 キャシーが料理をものすごい勢いで頬張りながら言う。

 パーティー会場は巨大なシャンデリアを中心に光り輝いていた。

 野球ができそうなくらい大きいホールに、ピカピカで傷一つない床。

 この島にこんなに人がいたんだ、と驚くくらいの人がドレスやタキシードで着飾っていたが、まだまだキャパシティには余裕があった。

 ホールの中央では音楽に合わせてダンスを楽しむ人々、その周りにはいろんな国の料理が並べられ、バイキング形式となっていた。


 4人がいるのは、ホールの端で壁沿いに用意されているテーブル席。

 マイクからダンスをしきりに誘われる雪だが、ダンスなんて踊ったことがないと断る。

 結局4人はホールのすみっこで雰囲気を楽しんでいた。



「キャシー、それ何皿目? さっきからずっと食べてるけど……」


「大丈夫~大丈夫~。それよりこのフライすっごいおいしいよ! 中身はなんだろう? ま、いいや~。後でまた取りにいこーっと」


 食べているのを見ているだけでお腹がいっぱいになりそうな雪だった。



 パーティーが開始してからだいぶ時間が経過した。

 食事を楽しむ者も十分に食欲を満たしてお腹をさすりながら一息つき、ダンスを楽しんでいた者もほどよい疲労感を顔に浮かべながら談笑に切り替え始めた頃、ドワーフが会場に姿を見せる。


 皆の注目を集めながら会場の中央へゆっくりと歩くドワーフ。

 そのドワーフは、雪と隼人を勧誘しに来たドワーフだった。


「雪、あのドワーフ」


「ええ、わかっている」


「んー? カザドがどうかしたの?」


 キャシーが山盛りのポテトを頬張りながら言う。


「あのドワーフ、カザドって言うの? 私と隼人は彼に勧誘されたのよ」


「え、知らないの~? カザドがこの島を統括しているのよ」


「そうなのね、知らなかったわ……」


 カザドが中央で止まると、波が引くように会場に静寂が訪れる。

 皆の注目を一身に浴びたカザドは、周りを見回して1度大きく頷くと、声を張り上げているわけでもないのによく通る声で話し始めた。


「みんな! 今日はよく来てくれたね。みんなに楽しんでもらって僕もうれしいよ。僕の名前はカザド。この人工島アトランティスの責任者さ。今日みんなに来てもらったのは他でもない。あることをみんなに伝えようと思って呼んだんだ」


 初めて出会った時の、ハイテンションで人をおちょくるような素振りはなく、まるで母が我が子に接するかのように慈愛に満ちた様子だった。


「これから話すことは、今から3ヵ月後、今年の3月に日本で行われる世界会議で正式に発表する予定なんだけど、みんなには先に伝えようと思ってね! なぜかって? それはまさに、みんなをこの島へ連れてきた目的だからだ」


 その言葉に、集まった人々は固唾を呑む。


 そして、張り詰めた緊張の中、カザドは『ある計画』を語りはじめた―――――。



 その計画は壮大で、途方もなく、そして人によっては心躍らせるものだった。




 カザドが説明を終えると、会場は一瞬の静寂の後、ダムが決壊したかの如く大きな歓声に包まれる。


「「「うおおおおおおおおお」」」


「やるぞ! 俺はやるっ!」


「俺もだ! ドワーフを勝たせるぞ!」


「ああ、6年後が待ち遠しい!」


 ある男は目を輝かせながらその場で絶叫し、ある女は叫びこそしなかったが自信に満ち溢れた目をしながら口元に笑みを浮かべていた。

 反対に気乗りしない様子の人もちらほらと見かけられたが、ほとんどの人にとっては好意的に受け入れられているようだった。


「そういうこと……だったのね……」


 今まで起きた出来事のうち、いくつかの謎が解けたと雪は感じた。

 特にエルフが祐を連れて行った理由は、おそらくこのためなんだろうと……。


「ははは……。なるほどな! これはチャンスだ! 僕はやるぞ。やってやる……」


「そう? 私はあまり気乗りしないなぁー。だって、これ……殺し合いだよ?」


 マイクとキャシーの反応は対照的だった。

 マイクは歓喜に震えているのに対し、キャシーは冷めた様子でパンを一口サイズにちぎり口に運んでいた。


「雪、ちょっといいか?」


「隼人……」


 隼人は目で促すと、席を立ってバルコニーへ歩き出す。

 雪はマイクとキャシーを置いて隼人の後を追い、一緒にバルコニーへと向かった。


 会場の隅に設けられていたバルコニーへ出る。

 すっかり日も暮れ、綺麗に輝く星々が夜空いっぱいに広がっている。

 バルコニーの手すりから、下を見おろす。

 眼下には夜空の星々と同様に、暗闇の中にぽつぽつと家の明かりが見える。

 浮遊城から見る景色は絶景だった。


 風がほどよく身体を通り過ぎていく。


 ホール内の熱気は未だ冷めやらぬようで、時折「わぁああ」という歓声が巻き起こっていた。



 雪と隼人は、バルコニーで向かい合う。

 しばらくの間、互いに一言もしゃべらず時間が過ぎていく。

 やがて、隼人はおずおずと口を開いた。


「……祐は、エルフ側についたということだな。俺たちはこのまま、祐と戦うことになるかもしれない」


「そうね……。6年後の2090年、3種族にそれぞれ選ばれた人たちが、レインで戦い合う。そのために宇宙人は今から人材確保に動いていたのね」


「俺たちの年齢で言えば6年後は23歳だ。まさに全盛期だな」


「レイン使いとしては30代前半くらいが全盛期じゃないかしら?」


「そうだろうけど、レインの習得ノウハウは年々向上している。10年前の20歳と今の20歳の平均値じゃ、後者の方が圧倒的に上だろ」


「確かにそうね。若い世代の方が才能を開花させ易い。そういう意味では、私たちくらいの年齢の人を残り6年間鍛えるのが一番って考えね」


「専用の広大なフィールドで100人対100人の集団戦……。どの勢力もとにかく人材を集めたいんだな」


 会話が途切れたタイミングで、一際大きな風が吹く。

 雪は肌寒そうに自身の体をさする。その様子はただ寒いだけではなく、不安に押しつぶされそうになるのを必死に堪えているように隼人には感じられた。

 隼人は思わず雪を抱きしめようと手を伸ばしかけたが、その手は途中で止まり、ぎこちなく手を降ろした。

 そして、「中に入ろうか」と言うだけだった。



 2人がホールに戻ろうとした時、予想外の人物に出会う。


「やあ、やあ、やあ、やあ! こんばんは~。君たちを探してたんだよぉ~。でも、お邪魔だった? 僕お邪魔虫? ごっめんねえええ~」


 高校のカフェで初めて出会った時のように、妙なハイテンションで声をかけてきた人物は、ドワーフのカザドだった。


「い、いや、俺たちは丁度戻ろうとしてたところなんだが……、俺たちに何か用か?」


「いやぁ~、君たち最近どうかなって思ってね~。どう? レインの調子は?」


 カザドはなにが面白いのかケラケラと笑いながら問いかける。


「……正直言って、レインの実力は向上していない。そもそも、俺も雪もレインランクは平均かちょっと下くらいの成績だった。この島に集められた他の人みたいにはいかないな……」


 隼人も雪と同様に、レインの実力が足りてないことについて悩んでいた。


 雪は、思い切って気になっていたことを尋ねる。


「ねえカザドさん。チームを組んでいる仲間が言ってたんだけど、『特異体』って人を探しているの?」


「へぇ~特異体を知ってるんだ。ズバリ、ズバリ、ズバ~リ、その通り! 特異体は可能性の塊だからね~。実はね~、僕たちドワーフは特異体になれる可能性を秘めている人間をサーチする技術を持っている。これはエルフやオークには無い技術だね~」


 予想外にも、カザドは特異体についてあっさりと認めた。


「そうなのか、すごいな。いや、すごいですね。もしかして、俺と雪は特異体の可能性があるんですか? なんというか、ここに集められた人よりかなりレインランクが低いのに呼ばれたから……」


 隼人が少し恥ずかしそうにしながら問う。

「ちがうよ」といわれたら赤っ恥だからだろう。

 その問いに、カザドは満面の笑みで返す。


「そっのとお~り! 僕は期待しているよ。その才能をぜひ開花させて欲しいってね~」


「そ、そうなのか!? 俺に才能が……」


 隼人の顔が、希望に満ち溢れる。

 祐や絶斗と違い、隼人は伸び悩むレインランクにずっと悩んでいたことを、雪は思い出した。


「ん~そうだ! 雪ちゃん、君にこれを渡そう」


 カザドは手をポンと叩き、雪にブレスレットを渡す。


「これは……?」


「そのブレスレットは普段から身につけておくといい。そして、もしも本当に『力』が欲しいと思う時が来たら、そのブレスレットを壊して中の液体を飲みなさい。え? 怪しいって? そんなの飲みたくないって? ごっめんんねええええ。でも、君にはきっと必要になる時が来るんじゃないかな~」


 手渡されたブレスレットは、金色がベースのシンプルな作りだったが、中には液体が入っているらしい。


「……なぜこれを私に?」


「さっき言ったでしょ。きっと君にはそれが必要になる時が来るからって。でも注意してね! その液体を飲めば君はとてつもない力を得る反面、代償としてきっつ~い反動もあるから。だ か ら ! 本当に力が欲しいと思った時だけそれを使うといい」


 雪は底知れぬ不安を覚えたが、それと同時に『力を得ることができる』という魅力に心惹かれていた。

 この島に来てからずっと悩んでいた力不足。無力感。

 雪は、このブレスレットを使わないと心に決めながらも、いらないと言ってカザドにつき返すこともしなかった。

 不安気な表情の隼人が見守るなか、雪は「わかりました」と言ってブレスレットを左手首にはめる。

 中に液体が入っているせいか、ブレスレットはひんやりと冷たく、そして重かった。






 カザドは会場から引き上げ、浮遊城に設けられた執務室に戻る。


 パーティーはカザドが去った後も続いており、カザドがもたらした3種族の目的を受け、人々のボルテージは最高潮に達していた。

 当初は懐疑的な感想を持った者ですら次第に考えを改め、気分が高揚していく者がほとんどだった。

 ドワーフに自身の才能を評価され、ドワーフ側の代表として出場できるのだ。

 そこで活躍すれば、莫大な名誉が得られる。

 人々の生活が向上し、飢えや貧困の無くなった現在では、富は意味をなさない。

 地位や名誉が重要視されるのだ。


 この3種族対抗レインバトル、通称「オリンピア」に出場し、そこで勝利を収めれば、ドワーフから最大級の名誉と特権的地位を授けられると保証された。

 要は何でも望みが叶うと言い換えてもよい。

 こんなチャンスは2度とありえない、と人々は口々に言い合っていた。




 そんな浮かれ気分が蔓延した会場をよそに、カザドは執務室で訪問者を迎え入れる。


「久しいわね。パーティーはもういいのかしら?」


 その相手とはエルだ。

 エルはカザドに微かな笑みを浮かべ、美しく輝く髪をなびかせながらカザドの正面まで歩き、向かいのソファーに座る。


「あれくらいで十分じゃ。アースの言葉に、猿もおだてりゃ木に登るということわざがあってのぅ。あの中から幾人かは、使い物になるじゃろう」


 カザドは真っ白い豊かな髭をさすりながら言う。


 その姿は、物語に出てくるドワーフのイメージ通りというべきものだった。

 低い背にずんぐりとした体、顔の大部分を占める立派な髭を蓄えながら、月日を感じさせるしわくちゃな肌。

 これこそ本来のカザドの姿であった。

 さっきまでの少年の姿は仮の姿であり、共通点は背丈だけでしかない。


 エルはスラリと伸びる足を組み、カザドを探るような目で問う。


「それで……あの時、あなたは3協定を持ち出して確保したアース……名前はなんと言ったかしら? あの男女はどうしているの?」


「ほっほー、あれのことが気になるか? あれは『隼人』といってのう、お前さんが予想しての通り、わしが見つけた特異体よぉ」


「そう……。あなたがあそこまでして彼を手に入れたから気になっていたの」


「用はそれだけか? わざわざここまで来て確認するとは、よほど特異体が手に入れられなかったことが悔しいとみえる」


 カザドは大げさなまでに高笑いをして、エルに対して優越感に浸る目を向ける。


 エルはそれを無視して、もう1つ尋ねる。


「もう1人。女の方はどうなのかしら? あれも特異体?」


「あぁ? ……ああ、雪の方か。いや、あれはゴミじゃ。何の才能もない。だがの……隼人があれを好いておるからのぉ。使い道は考えてある」


 カザドは自慢の髭をさすりながら、嬉々とした表情で思いを馳せる。


 エルはそんなカザドに冷ややかな目を向ける。

 そしてもう興味を失ったのか、そっと立ち上がり、背を向けて立ち去ろうとする。


 エルが部屋を出る直前、カザドが声をかけた。


「エルよ。気をつけるがよい。フォースウルフがお前を狙っているぞ」


 エルは振り返り、カザドに向けて言い放つ。


「そう……エルフ族全体じゃなくて、『私個人』が狙われているのね。知らなかったわ……。それはそれは、楽しみね……」



 エルは美しいとも醜悪ともとれる満面の笑みを浮かべていた。




《登場人物紹介》

マイク・ファラデー


18歳、男性、イギリス人、180cm、75kg

レインランク:C-

金髪、黙ってればイケメン

チャラ男、やるときはやる

父親が有名なシュバリエ

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