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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第一章
11/45

パートk チームとダンジョン

「ラアアアアンス」


「はっ」


「んもぉー数多すぎぃーっ、ショット!」


「ピアス!」


 今日も今日とて自動戦闘人形タイプ1(通称スライム)を狩る4人。



 年も変わって2084年を迎え、世界中で新年を祝う行事が行われている。

 だが、ここ人工島アトランティスに留学している学生たちには関係ない。

 留学生たちはドワーフの期待に応える為、厳しい訓練をこなす日々を送っていた。


 ドワーフが用意した「ダンジョン」という訓練施設に今日も通う隼人と雪。

 そんな2人に、ダンジョン攻略のため新たな仲間ができていた。

 それが、『マイク』と『キャシー』だ。

 今日も、隼人、雪、マイク、キャシーの4人でチームを組んでいた。



 スライムの大群を片付けると、いつものようにマイクが雪にからむ。


「ねえねえ雪タン。どうよ、俺のレイン。さすがはシュバリエって思うだろ?」


「まだシュバリエじゃないでしょ、あなた。それにその雪タンってやめて」


「ははは、雪タンは今日もシャイだな。なあキャシー?」


 今度はキャシーに話を振るマイク。

 だが、そんなマイクを無視するキャシー。


「隼人、雪、おつかれ~。私疲れたよ~。2人は大丈夫?」


「ああ大丈夫だ。スライムの動きにもだいぶ慣れてきたよ」


「私も大丈夫。今日は新年を記念してのパーティーがあるし、さっさとノルマをこなしましょ」


「うん。パーティーかぁ、楽しみ~。帰ったらドレス選ばなきゃ! ねぇ雪、後で一緒にドレス選びに行こうよ!」


「そうね。ドレスの貸し出しだけじゃなくて、専用のメイクさんも用意されてるらしいよ。楽しみね」


 マイクを無視して雪とキャシーは、今日のパーティーの話題で盛り上がる。

 そのまま、マイクを置いて先に進んでいってしまった。

 隼人は相手にされなかったマイクの肩に手を置く。


「マイク、俺たちも行こうぜ」


「あ、ああ、そうだな隼人。まったく……うちのチームの女性陣はみんなシャイだよな? でも知ってるか隼人、ああいうのをツンデレっていうんだぜ? 本当は好きなんだけど、表向きはツンツンしてるのさ」


「……おう、本当にそうだったらいいな」


 どこまでもプラス思考のマイクに圧倒される隼人。


「だろ? 流石は隼人だ。よくわかってるな。さぁ進もうぜ。早くしろよ」


 マイクはそう言って、雪とキャシーを追いかける。


 そうして1人残る隼人のため息が、ダンジョン内に漏れるのだった。


 ドワーフの誘いに応じて、隼人と雪は人工島アトランティスに留学する。

 2人は、ひょんなことからマイクとキャシーに出会い、チームを組むことになる。



 この新たな仲間との出会いは、アトランティスに訪れた日の翌日にまで遡る―――――。











 雪はアトランティスに来てからはじめての朝を迎え、自室からリビングへとやってきた。


 滞在2日目にして既にお気に入りとなったリビングのソファーに座り、ぼーっと眠たい目を擦りながら目の前に広がる庭を眺める。

 用意されたベッドは豪華で、マットの柔らかさとシーツの肌触りがとても心地よく非常に満足だったが、立派すぎて緊張してしまい、逆に目が覚めてしまった。

 その結果、昨日は早めにベッドに入ったにもかかわらず、一向に寝付けないまま朝を迎えてしまった。


 雪の元にリアが姿を現す。


「雪様おはようございます。ホットミルクはいかがでしょうか?」


「おはようリアさん。ありがとう、いただくわ」


 リアからほんのりと湯気が立つマグカップを受け取り、そっと口をつける。

 カップに満たされたミルクは熱すぎず温すぎず完璧な温度で、胃の中を心地よい暖かさが満たす。


「はぁ……おいしい」


 ソファーでゆっくりしている雪の横で、背筋を伸ばして直立するリア。


「朝食は、ご飯とパンをご用意できます」


「……リアさんって日本食も作れるの?」


「はい、基本的なものはおさえております」


「すごい……」


 昨日の夕食にリアが作ったのはビーフシチューだった。

 お肉の柔らかさに感動し、シチューのコクのある味わいに頬がとろけ落ちそうになるほど。

 リアの料理が上手なのは昨日のシチューで疑いようのないほど理解したが、まさか日本食まで作れるとは驚きだ。

 リアの容姿から、おそらく出身は東南アジアだろうか。

 そんな彼女がなぜドワーフに従い、自分たちの世話をしているのだろう? ふと、そんな疑問が雪に湧いたが、それを問う前に隼人が姿を現した。


「ふわぁああ。おはよう2人とも。なんか豪華なホテルにいるみたいで、緊張して眠れなかった」


 隼人が欠伸を噛み殺しながら言う。

 緊張して寝れないところが自分と一緒だな、と雪は思い、クスリと笑う。


「おはよう隼人」


「おはようございます。隼人様もホットミルクをお召し上がりになられますか?」


「じゃあ、お願いします」


「かしこまりました」


 リアがお辞儀をしてキッチンへと向かう。

 隼人はソファーに身体を大きく預け、今にも寝そうな姿勢になる。


「雪どうだ? よく寝れたか?」


「私も目が覚めちゃってあんまり寝れなかったわ。でも寝心地は良かったし今日はぐっすりと寝れそう」


「たしかにそうだな。むしろ今からでも2度寝したいくらいだ」


「だめよ。今日はダンジョンを案内してもらうんだから」


 昨日リアが口にした「ダンジョン」という言葉に隼人と雪は驚いた。

 なんでもダンジョンとは、この島のレイン訓練所のことを指すらしい。

 リアが「詳しい内容は、明日担当の者から聞いてください」と言っていたので、まだ詳細はわからない。


 隼人にホットミルクを持ってきたリアは、朝食の準備に取り掛かる。

 昨夜のシチューでリアに胃袋をがっつりと掴まれた2人は、朝食を楽しみにしながら、ダンジョンについてあれこれと想像の翼を羽ばたかせるのだった。










 朝食後、隼人と雪はダンジョンに案内してもらうため、リアとともに家を出る。

 外出する際に、リアからチョーカーを渡された。

 リアもつけているそれは、宇宙人からもたらされた技術が用いられ、言葉の壁を越えられるものだ。

 これは一般的にも流通しており、2人とも言われるままに身につける。


 人工島全体が、動く歩道で整備され、それに乗って目的地へと向かう。

 5分ほどで目的地に着いた。

 そこは周囲と比べても一際大きな建物だった。

 そして案内された建物の中で、1人の女性に迎えられる。


「おや、いらっしゃい。初めて見る顔ね。私の名前はフレア。よろしくね」


「はじめまして。俺はあさひ隼人です」


「あさひ雪です。よろしくおねがいします」


 挨拶を交わすと、フレアは受付のパネルを操作する。

 その後操作を終えると、微笑みながら頷いた。


「ええ、リストにあなたたちの名前があったわ。2人は兄弟? それにしては似てない気がするけど」


「いえ、違います。えっと同じ孤児院出身―――」


「ああ、わかった! もう結婚してるのね? 若いのにやるわねぇ~」


「「違います!」」


 そんな2人の様子に、フレアは吹き出して笑う。


「あはははは、ごめんなさい。でも、お似合いよ、ふふっ。では、こちらにどうぞ。ダンジョンについて説明をします」


 フレアは建物の中を進み、個室に案内する。

 テーブルと椅子だけがある狭い部屋で、少人数用の会議室だった。


「隼人様、雪様。私は外で待っています」


 リアはお辞儀をして去っていく。

 隼人と雪は横並びに座り、正面に座ったフレアがダンジョンの説明を始めた。



 色々と注意事項も多かったが、内容はいたってシンプルだった。

 ダンジョンとは今いる建物の地下に設置されている空間のことだ。

 ダンジョン内では、自動戦闘人形というものと戦闘を行う。

 この自動戦闘人形とは、ドワーフがレイン訓練用に作った機械らしい。

 自動戦闘人形には様々な種類があり、段階的に強くなっていく。

 挑戦者の実力に合わせて、実戦さながらの状況でレインの操作能力を鍛える。

 それが、ドワーフの用意した訓練施設だった。


 説明が終わると、2人はやる気をみなぎらせたが、ここで問題が生じた。


「チーム……ですか?」


「ええ、ダンジョンへはチームを組んで挑んでもらいます。1チームは3人から6人までと決められているわ」


 チームは最低3人必要……。

 最低でも後1人は誰かを誘わなければダンジョンに挑戦できないようだ。


「どうする……?」


 隼人が困った顔をして、雪に相談する。


「そうね……あ、そうだ! リアさんを誘ったらどうかしら?」


「あーそっか! それがいいな!」


 リアの返答次第だが、それでもなんとかなりそうだと思い、2人は安堵する。


 しかし、その会話を聞いていたフレアは首を横に振った。


「リアってあなたたちの世話係りのことでしょ? それはダメよ。あの子はね……いえ、あの子たちはね、レインが使えないの」


「ええ!? どうして……?」と隼人。


「信じられない……。レインを使えない人がいるなんて」と雪。


 そこで2人は、リアにはレインを装着している人特有の腕の膨らみが無かった、と思い至る。



 ――――――――――


 現在の服装は、スーツにしても制服にしても袖の部分は大きめに作られている。

 理由はもちろん「レインを装着すること」を前提としているからだ。

 そして服を着ている状態だと、右腕か左腕のいずれかの腕に「膨らみ」ができる。


 戦闘では、どちらの腕にレインが装着されているのか確認することが重要だ。

 なぜなら上級者ともなれば、起動展開と同時に攻撃することができるからだ。

 つまり、攻撃の直前までレインの場所を隠せば、それだけで有利に立てる。

 また、単純なやり方だが、レインを装着していない方の腕にもアームバンドをつけて、服の上からでは両腕とも膨らみがあるようにするテクニックも存在する。


 なんにせよ、リアがレイン使えないというのは、衝撃的なことだった。


 世界中でレインの導入が進み、既にレインが普及していない国は存在しない。

 日本では30年前から導入が始まり、導入時点で40歳を超えている者(現在の70歳以上の者)には義務化されなかったので、高齢者の中にはレインを扱えない者はいる。

 つまりリアの年齢なら出身国に限らず、必ず導入されているはずだ。


 レインが下手な人というのは当然存在する。

 だが、『レインを使えない人』というのは理論上ありえない。

 少なくても、隼人と雪の知識の及ぶ範囲ではそれが常識だった。


 ――――――――――


 雪はフレアにおそるおそる尋ねる。


「えっと、その……リアさんはどうしてレインが使えないのですか?」


 その問いかけに対して、今まで饒舌だったフレアは口ごもる。

 そして、数秒の沈黙の後、拒否を示した。


「……ごめんなさい。私が答えることじゃないわ。とにかく彼女たちはレインが使えないからダメよ。そもそもダンジョンに挑戦するのは、ドワーフからスカウトされてアトランティスにやってきた人たちだけ。そうゆう人を誘ってね」


「うーん、困ったな。俺たちは昨日来たばかりで、知り合いもいないしなぁ……」


 隼人はうーんと言いながら腕を組む。

 すると、フレアが待ってましたとばかりに口を開く。


「ふふっ、じゃあいい所に連れてってあげる。酒場にね!」


 酒場……?

 未成年なんだけどなぁ、と2人は首をかしげた。









「ここが酒場……ですか?」


「ええ、そうよ。ダンジョン待機室っていうのが正式名称。でもみんな酒場っていうから私もそう呼んでいるの。ここで仲間を見つけられるわ」


 ダンジョンについて説明を受けた後、フレアに連れて来られたのは、中庭だった。

 外からはわからなかったが、この建物は中庭を囲むような造りをしていた。

 広い中庭には、ぱっと見て30人以上はいるだろうか。

 中央にはフードコーナーがあり、飲食もできるようだ。

 奥にはレインの訓練ができる施設も併設されており、幾人かがそこでレインを扱ってカカシを相手にしていた。


「入る前に、コンソールで登録をしてもらうわ。そうしたら後は自由。中にいる人は、あなたたちと同様にドワーフに勧誘された人たちよ。気の合いそうな人を探してチームを組んだら、あそこの受付に行ってダンジョンの申請をすれば準備完了」


 フレアの指示に従い、まずはコンソールに向かう。

 そこでは名前と、ダンジョンの探索暦、そしてレインランクを入力する必要があった。


「えっと――あさひ雪。ダンジョン探索暦は――0。レインランクは――E。これでいいかしら?」


「E? ……え、ええ、そうよ。それでここの完了ボタンを押して。うん、そう。それで完了ね。そうしたらコンソールから専用の端末が出てくるから、それを必ず持って入ってね。その端末は、酒場にいる間は常に持ち歩くこと! それでこれが端末の取り扱い説明書よ。はい、どうぞ。中で読むといいわ。今日はとりあえずダンジョンに入らなくてもいいから、酒場でしばらく過ごして他の人と交流してみてね。帰る時はまた私に声かけて。じゃあ、また後で」


 フレアは最後に「がんばってね!」と言って去っていった。


 隼人も登録を終え、2人は端末と説明書を手に持ちながら、中庭に入る。

 とりあえず、空いていたテーブル席を見つけ腰を下ろした。


「まずは、この説明書を読むか」


「そうね、飲み物を取ってくるわ」


「あ、いいよ、俺が取ってくる。なにがいい?」


「ありがとう。じゃあアイスティーとかあるかしら?」


「たぶんあると思うぜ、いつものシロップなしミルク2つでいいか?」


「ええ、お願い」


 隼人は席を立ち、フードコーナーへ向かう。


 雪はフレアから渡された説明書をパラパラとめくりながらざっと目を通す。


「へぇ……この端末を相手に向けると、その人の名前とダンジョン探索暦、そしてレインランクがわかるのね」


 だからさっき登録したのかと納得する。

 酒場で端末を使い、実力が近い人を見つけて、相手と意気投合すればチームの出来上がり、といった流れか。


 雪は説明書から顔を上げ、周りを見回してみる。

 周りの何人かが、雪に向かって端末を掲げていた。

 つまり、雪をチェックしている。


 雪としては、盗撮されているみたいで、あんまりいい気はしなかった。

 でも、ここでは当然の行為なのだろう、と割り切る。


 雪も試しにやってみようかと思案していた時、突然横から声がかかった。


「うわっ、くっそ可愛い! いや可愛いというより美人? ん~、あさひ雪ちゃんか~! なあ雪ちゃん、俺とダンジョントゥギャザーしない?」


 ハイテンションの主は、20歳前後の若い男性だった。

 短く整えられた金髪に西洋系の顔立ち、黙っていれば美男子と言えなくもない。

 すらっとした体型で、アイロンで綺麗に折り目が付いたズボンを履き、Yシャツにベストと気品のある格好をしている。

 ただ残念なのは、先ほどの会話でもわかるチャラい雰囲気だ。

 それが全てを台無しにしていて、雪は苦笑いを浮かべる。


「………あなたもダンジョンに挑戦するためのチームメンバーを探しているの?」


 内心では無視した気持ちでいっぱいだったが、雪は確認も含めて尋ねる。

 そんな雪の気持ちを知ってか知らずか、チャラ男はさらに暴走する。


「うっは! 声も超かわいい! やっべ、めっちゃアガッテキタアアアア。そうそう俺もチーム組むために酒場にいるの。ねえ、雪ちゃん! これって運命の出会いだと思わない?」


 雪は心の中で、頭を抱える。

 隼人に助けを求めようと目で探すが、まだフードコーナーにいて、こちらの状況に気づいていない。


 チャラ男は勝手に雪の隣に腰を下ろし、ニヤけた顔をしながら話を続ける。


「雪ちゃんはダンジョン初心者なんだね! オーケーオーケー、ならこのマイク・ファラデーにお任せあれ! 僕はあの『シュバリエ』なのさ。君も知ってるでしょ?」


「シュバリエ!?」


 半分聞き流していた雪は、聞き捨てならない単語を聞いて驚いた。


 ――――――――――


『シュバリエ』とは、世界最強のレイン大国イギリスにおいて、ごく一部のレインの達人に対して授与される称号である。

 その知名度は絶大で、よく聞く話に「シュバリエとは、絶対に1対1で戦うな」というものすらある。



 2050年にエルフ・オーク・ドワーフの宇宙人が現れた。

 そして宇宙人からもたらされた数々の技術のうち、『レインの取り扱い』だけは、当時の国家間で対応に温度差が生じた。

 どの国家も、軍隊への導入は歓迎した。

 その一方、『全国民への普及』には多くの国家が二の足を踏まざるをえなかった。

 それは銃社会の弊害を理解していたからで、二の舞になることを懸念したためだった。


 しかし、イギリスはいち早くレインを全国民に普及させることを決める。

 なぜなら、イギリスは経済的・軍事的にもかつての勢いを失って世界情勢のなかで立場が低下し、国内は移民問題や高齢化問題、独立問題などを抱え、閉塞感が漂っていたため、それらを打開するための劇薬を求めていたからだ。

 そして、その劇薬に『レインの全国民普及』が選ばれたのだ。


 その賭けは―――――凄まじいまでの大成功を収める。


 他国が軍人のみにレインを導入する一方、イギリスは全国民に普及させた。 

 その差は2、3年ですぐに現れる。

 イギリス国内の一般人から才能あふれる者が多数現れたのだ。

 そしてこれらの一般人は、そこらの軍人を圧倒する実力を持っていた。


 これが意味するところは、『順番が逆』ということだ。

 つまり、軍人を募ってレインを教えるのではなく、全国民の中からレインの才能がある者を軍人にするということ。

 でなければ、各国のパワーバランスに大きく遅れをとることに世界が気づいたのだ。


「他国より先にレインを普及させる」ということは、「才能のある者の発掘」及び「育成ノウハウの確立」で優位に立つということ。

 このアドバンテージをイギリスは得たのだ。

 その優位は今なお健在で、イギリスは現在世界最強の国家として世界に君臨している。


 その最強国の象徴たる存在が『シュバリエ』。

 つまりはシュバリエの称号を受けている時点で、イギリス国内だけではなく、世界有数のレインの達人であり、敬意と畏怖の対象となっている。


 ――――――――――


「あなた、本当にあのシュバリエ?」


 雪が驚きを隠せずに問う。


「………まあ、そういうこと」


「若いのにすごいのね……」


 マイクに対して苦手意識を感じていた雪ですら、その実力は認めざるをえなかった。



 そんな雪とマイクに、別の人物が割って入ってきた。


「あんたねぇ~、私の次はこの子? いい加減にしなさいよ! 彼女困っているじゃない」


 マイクに向かって怒鳴り声をあげるのは、赤毛の女性だった。


「あ゛……いやーキャシー、今日も美しいね! ははは、誤解しないでくれよ! 僕は君に夢中で夜も眠れないくらいさ」


「あっそ。ぐっすりと眠れるように私が叩きのめしてあげよっか? そのまま永眠すればいいのに。ねえ、あなた。どうせこいつがシュバリエとでも言ったのを真に受けちゃたんでしょ~? その端末でこの馬鹿を見てごらんなさい。そうすればわかるわ」


 キャシーと呼ばれた赤毛の女性に言われるまま、雪は端末をマイクに向ける。


「マイク・ファラデー、ダンジョン探索暦5回、レインランクC-。あれっ……C-?」


「ねっ? わかったでしょ~。嘘よ嘘。あのシュバリエがランクC-なんてありえない」


 雪はマイクに騙されたと知り、冷ややかな目を向ける。


「ま、まってくれ。将来シュバリエになるのは間違いないんだから、今から名乗っててもいいじゃないか。僕の父がシュバリエで、その血を受け継いでるからね」


 どうせそれも嘘でしょ? という顔をする雪。

 そんな雪に、キャシーは言う。


「まあ、こいつの姓がファラデーだから父親がシュバリエなのは事実だと思うよ。お父さん有名だからね~。それにこんな奴だけど、この歳でランクC-なのは才能ある証拠だし。あっ、そういえば自己紹介がまだだったね。私はキャシー、ダンジョン探索暦は3回、レインランクはD+、よろしくね~」


 キャシーは、雪と同年齢くらいで赤毛のショートに大きな瞳が特徴的だった。短パンにTシャツとラフな格好で、露出も多い。スラリとしながらも肉付きがよく、軽く日焼けした肌と相まって、健康的な色気があった。

 また、小さめのシャツが胸の大きさを強調していた。


(供花と同じくらいかしら、羨ましい……)と思いながら胸をまじまじと見ていた雪は、自分の自己紹介がまだだったことに気づく。


「あ、そうだごめんなさい。私はあさひ雪、ダンジョン探索はまだ無いわ。レインランクはE。自己紹介ってこれでいいのかしら?」


「うん、おっけ~。それにしても………ランクE? 雪はドワーフにスカウトされたんだよね? えーっと、んー、ごめんね! そのぉ、なんでかなって……?」


 雪はキャシーが何を言いたいのか、すぐに理解できた。

 ランクE。最低ランクがE-なので、なぜスカウトされたのか疑問なのだろう。

 それは本人もずっと疑問に思っていたくらいで、雪には答えられなかった。


 返答に困っていると、隼人が飲み物を持って帰ってきた。


「雪、お待たせ……で、この人たちは?」


「くそがっ! 雪ちゃん彼氏持ちかよっ!」


 マイクが隼人を見て叫ぶ。


「違います! 隼人は彼氏じゃない!」


「そ、そうだぞ……」


 雪の否定に、隼人も複雑な笑顔を浮かべながら否定を重ねる。

 そんな隼人の様子を見たキャシーは、なるほど、といった表情で隼人の肩に手を置く。


「まあ、キミも大変だね……。とりあえず、みんなで自己紹介しない?」






 全員の自己紹介が終わると、4人で情報交換をすることになった。


「ふーん、2人とも昨日着いたばかりでダンジョン未経験なのか~。私も3回だから詳しくはないんだけど、ダンジョンではドワーフが作った自動戦闘人形ってのがいてね、それを倒しながら最奥まで到達するのが目的ね。それでその自動戦闘人形ってのが―――――」


 キャシーがダンジョンでの出来事を詳しく説明する。

 それを隼人と雪は熱心に耳を傾けていた。

 途中途中でマイクが茶々を入れるが、キャシーは華麗にスルーしながら説明が続く。


 説明が一通り終わると、キャシーは好奇心を目に浮かべながら、質問する。


「それで疑問なんだけど、雪はランクEで隼人はランクE+なのよね? ぶっちゃけて聞くと、どうしてドワーフにスカウトされたの?」


 隼人と雪は互いに顔を見合わせる。

 両者とも返答に困っていた。

 やがて、雪はそのまま正直に答えることにした。


「……それについては私もわからないわ。なんで私たちに声が掛かったのかしら」


「2人の学校には、もっと上のランクの人っていたでしょ~?」


「ええ、いたわ。同学年で一番は祐……彼はC-だったわ」


「その子はスカウトされなかったの?」


「いえ……祐はエルフに連れて行かれたの」


「へぇ~、確かにエルフも才能のあるレイン使いを集めてるって噂で聞いたことがあるけど、本当だったみたいね。私たちの年代でランクC-ならスカウトされるのは納得できる。でもこう言っては失礼だけど、2人がスカウトされた理由がわからない。私にしても、そこのバカにしても、同年代の中では高ランクで目立つ存在だったの。だからスカウトされた。あなたたちには、なにか特別な理由があるんじゃないかな~?」


 キャシーは、2人を低ランクだから見下すというのではなく、純粋に理由を知りたがっているようだった。


 一方マイクは、さっきまでの軽薄さが今は無く、顎に手を当ててなにかを考えていた。

 そして、真面目な表情で話に加わる。


「もしかしたら……君たちはあの『特異体』って奴かい?」


「とくいたい?」


 隼人は聞き慣れない単語にハテナマークを浮かべる。


「あくまでも噂なんだが、特異体という特殊な能力を持ったレイン使いがいるらしい。3種族はそれを探しているとも聞く」


「あー、それね。私も聞いたことあるわ。特異体はレインランクでは測れない特殊な力を持っているみたいよ~」


 キャシーにも心当たりがあるらしい。


「ドワーフはスカウトをする際、独自の測定器を使って才能の有無を調べるらしい。もしかしたら隼人と雪タンは特異体としての適正があると判断されたのか」


(ん? 雪タン? それ私のこと?)と、雪は首を傾げる。


「へぇ~なるほどね~。確かにそれなら納得できるかも。ねぇねぇ~、もしよかったら私とチーム組まない? ダンジョンに挑戦するには3人以上のチームが必要でしょ? 私、雪と隼人にすっごく興味あるの!」


 キャシーからの提案を受け、隼人と雪は目を合わせた。

 雪が頷くのを見て、隼人も心を決める。


「わかった。こっちもチームを組んでくれる人を探していたから助かるよ。キャシーよろしくな!」


「やった~隼人よろしくね! 雪もこれからよろしく!」


「ええ、キャシーと一緒にチームを組めて、私もうれしいわ」


 隼人と雪とキャシーで、にっこりと微笑み合う。


「おいおい、ちょっと待ってくれ。僕もチームに入れてくれよ! こんな美女2人と一緒にダンジョン探索なんて………うはっ、最高じゃないか!?」


「マイク、俺もいるぞ」


「わかってるよ、親友! ちなみに、どっちを狙ってるかだけ、後で教えろよ?」



 こうして隼人、雪、マイク、キャシーの4人でチームを組むことになり、ダンジョンでの訓練が始まった。


 4人は自然と馬が合い、固定メンバーとなるのに時間はかからなかった。


 隼人と雪にとっては、絶斗、祐、供花、可憐以外ではじめての親友とも言える関係。



 そんな関係が長く続くと思っていた。


 あの日までは―――――。



《登場人物紹介》

あさひ ゆき


17歳、女性、日本人、168cm

レインランク:E

長身スレンダー

胸が小さいことを気にしている。

クールで普段は口数も少ないが、愛情深い

祐のことを密かに思っている

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