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エルフ・オーク・ドワーフは宇宙人だった  作者: ふじか もりかず
第一章
10/45

パートJ アトランティス

 船の汽笛が鳴る。

 隼人と雪はデッキに上がり、外の様子を見る。


 地平線の先には―――――大陸があった。

 正確には人工島。

 しかし、人工島と呼ぶには広大で、見渡す限りの大地が広がっていた。

 港が見える。そして併設された巨大な建物。

 さらに奥には、遠くて小さくしか見えないが、お城のようなものが高いところに建っている。

 それ以外は人工島ゆえに平坦に続く陸の地平。


 そう、ここが目的地の―――――。



「ここが―――アトランティス」


「すごい……未来都市みたいね」


 ドワーフに招待され、隼人と雪は太平洋に浮かぶ人工島「アトランティス」の地に足を踏み入れようとしていた。



 数日前2人の前に突然ドワーフが現れて、半ば強引に勧誘され、留学という形でこの島へと行くことになった。

 本当は留学なんてよく考えてから決めるべきこと。

 だが、カフェで勧誘を受けた直後、すぐに校長に呼び出される。

 そして、あれよあれよという間に手続きが進んでいってしまい、途中から「やっぱりやめます」なんて言えなくなった。

 エルフほど交流が活発ではないドワーフが、わざわざ日本人の学生を指名したのだ。

 学校としても日本政府としても大歓迎。

 当事者の2人そっちのけで、満面の笑みを浮かべた校長に「光栄なことだ! よかったですね! じゃあ難しい手続きとかはこっちでやっておくので、君たちはすぐにドワーフのもとへ向かいなさい」と祝福される。

 その祝福という名の無言の圧力を前にして、2人に抗う術などあるはずもない。

 そしてドワーフと出会ってから3日後には船に乗せられ、今日この地に到着した。


 とんでもなく用意周到すぎる。

 おそらくドワーフが裏で手をまわして、事前に準備していたのだろう。


 落ち着いて考える間もなくここに来てしまった2人だが、決して嫌だったわけではない。

 なぜなら、あの時ドワーフが言った『言葉』が気になっていたからだ。



「ここに来れば、『宇宙人たちの真の目的』がわかる……か」


「そうね。それを知ることで、絶斗と供花それに祐に、なにが起こったのかわかるかもしれないわ」


「そうだな。結局はじっくりと考える時間があったとしても、俺たちはここに来ることを選んでいたと思う。ただ気がかりなのが可憐だ。あいつは一人で大丈夫か?」


「ええ、出発する前に会ってお別れできたし、今朝もメールでやり取りしたわ。ちゃんと連絡とれるだけましね」


「隔離されて連絡とか取れなくなるかと思ったが、そこら辺は大丈夫なんだな」


「今のところはね。さぁ隼人、ここにいても仕方ないし行きましょ」


 船を降りた2人は、目の前の建物へと向かう。

 目的の人物に会うためだ。


「迎えをよこすって言ってたけど、どんな人なんだ?」


「さぁ? 見ればわかるって言ってたけど―――あれっ、もしかしてあの人?」


 建物に入ると、空港にある金属探知機のようなゲートが設置されていた。

 その先で1人の女性がこちらを見ていた。


「そうかもな。とりあえず行ってみよう」


 巨大な建物の中なのに、その女性以外に人はいなかった。

 隼人と雪はゲートを通過し、女性に近づく。

 近寄ると、その女性が深くお辞儀をして出迎える。


「ようこそお越し下さいました、隼人様、雪様。私は御二人のお世話係りを担当する、リアと申します」


 待っていた女性はリアと名乗る。

 どうやら、目的の出迎えの人物はこの人で間違いないようだ。

 見た目は2人と同年齢かそれよりも少し若いくらいで、肌は浅黒く、東南アジア系の顔立ちをしていた。

 背丈は年相応で雪よりも低く(雪はスレンダーなモデル体型をしている)、白いワンピースに首元にはチョーカーをつけている。

 美人というより可愛い系で、笑顔一つ見せずに真面目な表情をしているが、表情のわりに冷たさを感じなかった。


「えっと、リアさん。よろしくな。じゃない、よろしくおねがいします」


「よろしくおねがいします、リアさん」


 挨拶を交わした後、隼人はとりあえずこれからの予定を聞くことにする。


「それで、俺たちはこれからどうしたらいいんですか?」


「はい隼人様、これから人工島アトランティスにおける皆様の御住居へご案内させて頂きます」


「わかりました。リアさん、私のことは雪と呼んでくれないかしら? 様付けはいらないわ」


「あ、俺も。俺のことも隼人で頼む」


「いえ、それはできません。私はこれから御二人に仕え、身の回りのお世話をする身。私のことはお気になさらず、どうぞなんでもご自由にお申し付け下さいませ」


 神妙な顔をしたままリアはそう言うと、再び深いお辞儀をする。


 隼人と雪は、困惑して互いに顔を見合わせる。

 そして、「しょうがないな」と判断して、話を先に進めることにした。


「あー、わかりました。じゃあ荷物を置きたいので、とりあえず家へ案内してもらえますか?」


「かしこまりました。お荷物をお持ちします」


「大丈夫よ、ありがとう」


「そうはいきません、私は―――」


「あー、じゃあ雪のだけ持ってください。雪、いいな?」


 雪も埒が明かないと悟り、渋々頷く。


「では、こちらに」


 リアは雪からバッグを受け取ると、静かに身をひるがえし、背筋を伸ばしたまま歩き始めた。

 それに続く隼人と雪。

 隼人は、横を歩く雪に小声で話しかける。


「なんだかメイドみたいだな」


「……メイドってなに?」


「ああ、メイドってのは主人に仕える使用人の女性で、メイド服っていう特別な衣装を着ていたらしい」


「へぇそうなんだ。よく知ってるわねそんなことを」


「まあな、以前祐が映像を見せてくれたんだ。昔の男性はメイド服を着た女性が大好きだったらしい」


「……変態」


「え、いやっ、そういう意味では―――」


「……不潔、ぱやと」


「いや、だから違うって! 祐がそう言ってたんだ! 変な意味じゃなくて、主人に仕えるかっこいい女性のことだぜ……たぶん。っていうか、ぱやとってなんだよ!」


「頭パッパラパーの隼人。だからぱやと。供花が名付け親」


 雪は汚いものを見るような目をして言う。


「なんだそれ! っていうか、供花の奴―――」


 隼人は供花に文句を言ってやりたくなったが、その相手は会いたくても会えない……。

 たかぶった気持ちが一瞬で沈んでいく。


 そんな隼人を見て察した雪は、慰めようとする。


 だが、雪が言葉を発する前に、リアがピタリと止まって振り返った。

 そして、とんでもないことを言う。


「隼人様は、メイド服というものが好きなのでしょうか?」


「は? あ、いえ、そういうことじゃなくて……そう、王様に仕える騎士が立派な鎧を着るでしょ? メイドのメイド服っていうのはそういうものだと思うなぁ……。そうだよなっ、雪?」


「……知らない。ね、リアさん、ぱやとなんて置いて先いきましょ」


 雪は蔑んだ目で隼人を睨みつける。

 そして、リアの横に並ぶと、隼人を置いていく。


「お、おいっ、ちょっと待ってくれぇぇえええ」


 隼人の情けない声が、建物内に響き渡っていた。








 船の発着所から10分程歩いたところで、アトランティスで滞在する家に到着した。


 道中、色々と驚くことが多かった。

 特に『お城が浮かんでいる』のには唖然としたが、リア曰く「あのお城にはドワーフが住んでいる」らしい。

 人工島ゆえに土地は平坦で、高い建物もほとんど見えない。

 移住している人がまだ少ないらしく、綺麗に清掃された歩道には人の姿がほとんど見られなかった。


 そこで紹介されたのがこの家だ。


「こ、ここが俺たちの家……?」


「はい、こちらになります」


 大きな庭付き2階建ての一軒家で、1階は100㎡は優に超えるリビングになっていて、リビング内の階段から2階へと上がることができる。

 いわゆるメゾネットタイプの造りで、1階と2階が吹き抜けになっている。2階にはダイニングとキッチンがあった。

 リビングの壁1面がガラス張りになっていて、1階のリビング及び2階のダイニングの両方から庭をのぞむことができる。

 家具類は既に配置されていて、広々としたリビングには4人掛けの真っ白なソファーがV字型に2つ置かれていた。

 ガラス張りされている一面からは、溢れんばかりの日差しが差し込み、真っ白なソファーに反射して光り輝いていた。


「リアさん、本当にここに住んでいいの……?」


「はい、雪様。こちらが雪様と隼人様のお住まいになります」


 当然とばかりに頷くリア。


「こ、こんな立派な家に―――えっ、うそっ! ね、ねえ、隼人、このソファーすごい。ふかふかでぴかぴかよ」


 雪はソファーに座ると同時にうさぎのように飛び跳ねた。いつも冷静な雪にしては珍しい。


 隼人もソファーに腰を下ろすと、驚いた。

 柔らかく弾力が適度にあり、まるで自分専用に作られたかと思うくらいお尻にフィットする。

 このまま横になって寝ってしまいたくなるが、リアがなにか言いたそうな顔をしているので我慢する。


「ああごめんリアさん。2つのソファーを占領しちゃって。どうぞ座って」


「いえ大丈夫です隼人様。それで長旅でお疲れのところを申し訳ありませんが、いくつかご報告したいことがあります。まずこのリビングの左右にある扉からは、それぞれの寝室になります。私は2階に部屋を与えられておりますので、御用がありましたらなんでもお申し付けください」


「えっ、それはリアさんが住み込みで私たちの世話をしてくれるってこと?」


 ソファーに体をだらりと預けていた雪は、リアの話を聞いて、口をぽかんと開ける。


「はいその通りです。私は御二人の専属のお世話係りとなります。つきましては本日の御夕食のリクエストなどはございますか?」


「………」


「………」


 俺と雪は互いに顔を見合わせ、今日何度目になるかわからないくらい驚いた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺たちは留学生としてここに呼ばれたんだ。たかだか一介の学生にすぎない俺たちに専属の世話係りなんて……。そもそも、こんな家に住めってことからしておかしくないか?」



「隼人様、それが『ドワーフ族に選ばれた』ということです」



「……この家は、いえ、この島はすべてドワーフが所有しているの?」


「はい」


「私たちのようにドワーフからスカウトされた人が、この島に住んでいる。そしてドワーフの管理のもとで、レインの修行に励んでいるってことかしら?」


「はい。世界中から選ばれた人々がここに集められ、日夜レインの訓練に明け暮れております。もっとも、今現在集められている方は、用意されている住居の半分にも満たない数です」


「そ、そう……。じゃあ他の人にも、リアさんみたいにお世話をしてくれる人がそれぞれ付くのかしら?」


「そう聞いております。基本的には1人用の住居とお世話係りが用意されます。しかし、雪様と隼人様には夫婦用の住居にせよ、とのご命令があり、その場合には専属のお世話係りが1人つきます」


「「夫婦!?」」


 俺と雪は、叫びに近い声を同時に張り上げた。


「ちがうわよ! 私と隼人は結婚なんてしてないわ!」


「そ、そうだぞ! なにか勘違いしてないか?」


「はい、婚姻関係にないのは存じております。ですが、そうせよとのご命令です」


 雪は顔を真っ赤にしながら隼人を睨む。

 隼人は、首をぶんぶんと振った。



 隼人は思う。

 この家に男女2人で……いやリアも含めて男女3人で暮らすのか……。

 雪とは同じ孤児院出身で、そりゃあ子供の頃は孤児院の大部屋で男女かまわず大勢で寝ていたが、それは子供の頃の話だ。

 あさひ園で同じ年齢だったのは、俺と祐、絶斗、可憐、供花、そして雪の6人だった。

 だからこそ俺たち6人は、同年齢なのでちょっと表現が変だが、互いを兄弟のように思い一緒に育ってきた。

 いつも一緒だった6人は、今は離れ離れになってしまい、俺と雪の2人だけでこの島に来たが、今でもその気持ちに変わりはない。

 ただし俺は、雪のことを―――――。

 そう、兄弟に対する感情とは少し違う気持ちを、雪に対して抱いていた。

 そんな雪と一緒に暮らす……。



 思いがけない状況に複雑な思いの隼人。

 そして、そんな隼人を顔を赤くしながらじろっと睨む雪。


 そんな2人に、リアは聞き慣れない単語を口にした。


「それでは、本日はこのままごゆっくりとお疲れを癒してください。私は夕食の準備に取り掛かります。なお、明日は『ダンジョン』へご案内させて頂きます」



 ん? ダンジョン?



《登場人物紹介》

あさひ 隼人はやと


17歳、男性、日本人、170cm、60kg

レインランク:E+

美術部に所属する

雪に思いを寄せる

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