私、あなたのことが好きなの。
「私、あなたのことが好きなの。」
あら?もしかして驚いてる?
ふふっ。
あなたのそんな表情初めて見たわ。
「・・・嘘だ。」
嘘?
私があなたを''好き''だということが?
まあ、酷い人。
私の気持ちをあなたが否定するなんて・・・。
嘘なんかじゃないわ。
たしかに私たちの婚約は政略のためのものだけど、私はちゃんとあなたのことが好きよ?
出会った時から、ずっと。
「・・・まさか。・・・そんな、信じられない。」
ふふっ。
そんな表情しないで?
大丈夫よ。
私の気持ちを、あなたに押し付けるような真似はしないから。
だから、
「少しだけ、私の告白を聞いてくれないかしら?」
あら、そんな真面目な顔しないで?
それじゃあ、私まで緊張してしまうじゃない。
「私、あなたのことが好きよ。」
私は彼の目を見て、もう一度言う。
「あなたの笑顔が好きよ。」
もう何年も私の前で笑ってくれたことは無いけれど。
「あなたの素直なところが好きよ。」
素直すぎるのも問題かもしれないけれど。
「あなたが剣の練習をしているところが好きよ。」
剣の天才だなんて言われているけれど、実はとっても努力をしているということ、知っているんだから。
「あなたの全てが好きよ。」
信じられないと思うけど。
私、頑張ったのよ?
あなたに釣りあえる女性になれるように。
大嫌いな勉強だって、学園のテストで上位に入れるくらいには、努力したわ。
美しいあなたの隣に堂々と立っていられるように、美容にも気を遣ったし、淑女レッスンだって、完璧になるまでしたもの。
あなたが幼い頃、私の手料理を食べたいと言ったから、たくさん料理を練習したわ。
あなたが何を食べたと言ってもそれに応えられるようにって、異国の料理まで作れるようにしたのよ。
せっかくなら、「美味しい」って言って欲しいもの。
けど、全部無駄だったのね。
私の努力は、一人の少女と過ごした、たった少しの時間に負けてしまうのね。
その少女は、最近彼とやけに親しくしている少女他国からの留学生。
二人の仲は、一部から''実は彼の恋人なのでは?'とまで言われるほどだ。
その理由は分かっている。
あまりよく笑わない彼が彼女にだけ微笑んだり、女性との会話を好まない彼が、自分から積極的に彼女に話しかけているからだろう。
彼女の姿を思い浮かべる。
肩まで伸びた柔らかそうなブラウンの髪。
パッチリとした大きな瞳。
ぷっくりとした唇と、すっきりと通った鼻筋。
ドレスも化粧も決して派手ではないのに、可憐な少女。
彼女の仕草や表情は相手に愛嬌を感じさせ、どこか小動物を思わせる。
いつか聞いた彼の理想通りの女性。
それに対して私は、重そうに見える腰まで伸びた黒髪。
美容に気を遣ってはいたので肌は綺麗だが、釣りあがった目はキツイ印象を与え、話し方はどう頑張っても、偉そうになってしまう。
自分で言うのもなんだけど、可愛げなんてカケラも無い女性だわ。
彼女と私はまるで正反対。
皮肉だわ。
私の想い人の愛している相手が、私とは正反対の少女だなんて。
結局はいくら頑張っても、私はあなたの理想にはならないということじゃない。
けれど私は彼の理想に近づけるように頑張った。
とっても頑張ったわ。
それは、私がどうしようもないくらいーーーー
「あなたのことが好き。」
だから。
「・・・けれど、もういいの。」
彼の肩が揺れ、彼の動揺がこちらへ伝わる。
「もう、違うの。」
彼の瞳が、私を映しながら揺れる。
「なぜ?」
そう彼が問う。
「あなたを好きでいることに疲れたのよ。」
・・・。
「私はもう、あなたのことが好きじゃないの。」
・・・嘘、
「さっきの告白は、私が過去と決別するためのものなの。本気にしないでちょうだいね?」
・・・嘘よ、
「人への気持ちって、案外簡単に冷めるものなのね?知らなかったわ。」
・・・嘘っ。
「今後のことなら安心して?婚約はこちらから解消しておくから。あなたも私もこれで自由よ。好きにするといいわ。」
「それじゃあーーーー、さよなら。」
''彼女とお幸せに'' とは言えなかった。言ったら泣いてしまうと思ったから。
最後は、別れの時は意地でも笑顔でいたい。
彼の記憶に残る最後の私は、一番素敵な姿でいたいから。
私はこの場を去ろうと彼に背を向け、歩き始めようとしたーー
が、
ーーーグイッ
それは、彼が私の手を引いたために出来なかった。
「・・・何をするのかしら?」
一瞬状況が呑み込めずに呆けてしまったが、慌てて平静を装い、彼に問う。
「・・・なぜ泣いている?」
「・・・は?」
そう言われて初めて、自分の頰が濡れているのに気付く。
「君は何か大きな誤解をしているようだ。」
少し困ったようにそういう彼に、私は堪らず言う。
「誤解ですって? 私があなたを好きじゃなくなった、あなたも私とは別の想い人がいる、だから婚約を破棄する!何も誤解なんてしてないわ。」
「いや、だからそれが・・・」
「それに、さっき私があなたを好きだと言ったら、''嘘だ''
って、''信じられない''って!私の気持ちを否定したじゃない!!」
「確かに言ったが・・・。」
「ほら!」
「いや・・・、だからだな、その、・・・君が私を好きでいてくれたことが嬉しくて、夢かと思ったんだ。」
「・・・・・・は?」
「私も、君が好きなんだ。」
・・・・・・。
「・・・・・・・・・分かったわ。これは夢ね。そう、きっとこれは夢だわ。・・・なんて都合のいい夢なの?我ながら呆れるわ。・・・あら?だとしたらどこまでが現実で、どこからが夢なのかしら?」
「安心するといい。全て現実だ。」
「あり得ないわ。」
「何がだ?」
「あなたが私を好きだと言うことが。」
「なんだ、君だって僕の気持ちを否定するじゃないか。」
「それは・・・・・・っ!」
「・・・それは?」
「・・・あなたには、素敵なご令嬢がいるでしょう?」
「素敵なご令嬢?」
「留学生の・・・。」
「・・・・・・彼女は、私の母の妹の娘だが?それに、彼女にはすでにラブラブな婚約者がいるぞ?私と彼女の関係は、ただの親族にすぎない。君が疑っているような関係ではないぞ?」
「嘘よ!だってあなた、彼女と一緒にいる時とっても楽しそうじゃない!」
「そうか?」
「そうよ!彼女にだけ微笑むし!自分から話かけるし!」
その光景を思い出すだけでも、胸が痛い。
「それは・・・嫉妬か?」
「なっ///・・・!ちっ、違うわ!!」
「違うのか?」
「違うわよっ!」
な、何よその微笑みは。
「〜〜〜!! と、とにかく、私たちの婚約は解消よ。」
「なぜだ?私たちは相思相愛だったのだから、何も問題はないだろう?」
「あ、あるわ!私は、もうあなたのことが好きじゃないのよ。忘れたのかしら?」
「だって、あれは嘘だろう?」
「う、嘘なんかじゃないわ。」
「あんなにあつい告白を私にしたのに、''好きじゃない''は無理があると思うのだが?」
「だから、過去との決別のためって言ったでしょ!」
「では、そのあと泣いていた理由は?」
「そ、それは、・・・目に・・・ゴミが入って・・・。」
「流石にその言い分はないと思うぞ?」
「・・・っ!いいでしょ別に!あなたがなんと言おうと事実なんだか・・・んっ!?」
その言葉の続きを、彼は私に言わせてはくれなかった。
唇に何か柔らかいものが触れる。
「・・・っ・・・・・・んぅ!?」
彼が深く私を求める。
私はもう、どうすればいいのか分からなくなって、彼になされるままだ。
「・・・・・・ぷはぁっ・・・」
解放された時には、私は立っているのもやっとの状態になっていた。
「・・・な、何するのっ!?」
返せたのは、その言葉。
「 '' 何 ''って、分かるだろう?」
こんな時でも余裕な態度の彼に、少しムッとする。
「・・・っ/// 分かるけど!!」
「なら、それが答えだ。」
「な、なんでこんなことするのよ!?」
「君が認めないから。」
「認めないって、何をよ?」
「君がまだ私を好きだということを。」
「 なっ/// !?」
「な?」
「何を言ってるのよ!」
「事実だろう?」
「違うわ!」
「違うのか?」
「違うわよ!」
「でも、好きだろう?」
「好きじゃないわ!」
「僕は好きだ。」
「・・・っ!」
「君が好きだ。君のその艶やかな髪も、綺麗な瞳も、素直に自分の気持ちを言えないところも、全てが愛しい。」
彼が私の前に跪き言う。
「私と、結婚してくれないか?」
差し出された手を見て私は言う。
「・・・あなた、自分が今何を言ったか分かってるの?」
「私は本気だ。」
「・・・私、面倒くさいわよ?嫉妬深いし、偉そうだし、疑い深いし・・・。」
「ああ。」
「・・・あなたを一生離さないわよ?」
「ああ、本望だ。」
「本当かしら?」
「ああ。」
彼が微笑む。
温かいものが私の頰を濡らす。
「私も、・・・私もあなたを愛してるわ。今までも、これからも、ずっとあなただけを愛してるーーーー。」
そう言って私は差し出された手をとった。
作者は屍となりました・・・まる
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この小説を見つけて、更には読んでくださいまして、ありがとうございます。
上記については作者が何故そうなったのか、その理由が気になる方は、活動報告を見てくだされば分かるかと・・・。
くだらない理由ですよ。
自業自得です。
*「 "目立たずひっそり''が私のモットーです」
*「初恋は実らない」
の方もよろしくお願いします。