J氏の自由
A~Zまで悪人を並べ立てようとしててやろうと思っています。
自分の中の悪を並べ立てれば、書いている本人の私は毒が抜けきって真っ当になれるかも知れません。
そう願を掛けながら、意外と悪が出てこないことに焦りながら、Jです。
あっちこっち、有名な言葉を並べています。
俺は犬に食われないほどに不自由で、祭りの日に印を結んで死ねるほどダンディーでもない。
俺は、Nothing。何にも無いんだ。
いっそ、インドにでも行けば良いのだろうか。インドに行って、喧嘩もコミュニケーションだと分かって、死ぬことは生きることの延長で、ただの状態の変化であって、特別なことじゃないって分かれば、俺は自由になれるのだろうか。
想像すれば、俺はこのままタガメ女に血を吸われ続ける蛙男であり続け、楽しくもない事務職をこのまま続けて、会社にしがみつき、若い奴からは老害とウザがられ、何の達成感もなく干からびて死ぬんだ。
残ったものは、こだわりの金属パーツを付けて作りまくったガンプラくらい。売れるほどの腕でもなければ、そこから友人が出来たわけでもない。定年後はテレビで相棒の再放送を延々と見続け、最期はきっと、雑居房のような病院の片隅で、忘れ去られたように死んで、繋がれた機器がピーピー鳴って、ようやく死んだって気付いてもらえるんだ。
で、棺に花の代わりにガンプラ詰められて、きっとこの人もこれで幸せよねとか言われて、窯で焼かれる。もう目に見えたような下らない人生。
結婚した時も、子供が生まれた時も、人生にこれほどに美しい瞬間があるものかと思った。神がいるとすれば、俺は今この瞬間、祝福を受けているに違いないと。
それが気が付けば、嫁には稼ぎが少ないと始終罵られ、子供達にはあれを買ってくれ、これを買ってくれと金をむしられるか、ウザイ、五月蠅い、キモイ、死ねと罵られる。
会社では主任様だ。部下は誰も居ない。俺達が書類を作る時には、右肩に作成、検討、承認とハンコを押す欄がある。俺は延々作成欄にハンコを押し続けている。肩書きだけは、検討のところに判を押すことになっているのだが。
良い会社に入った。最上級ではないにしろ、誰でも知っている会社だ。妻を貰った。子供が出来た。これ以上に良い人生が、あるものか。
ああ、俺は何を求めて乾いているのだろう。チープな夢ならば、幾つか手に入れたけど、眠れぬ魂が、何かを求めてる。
じゃあ、それって何?何を求めているの?分かんないよ。四十が不惑?孔子先生ほどの偉い方ならいざ知らず、俺の様なド凡人には、サッパリ。
死にてえ、殺してえ、生き抜いてみてえ。
いっそ戦争でも起これば俺はハッピーか?ああ、でも今時の戦争はダメだ。飛行機で爆弾落とされて丸焦げになるのが落ちだ。戦えるのは、高度な武器を扱えるエリートだけ。この国じゃゲリラ戦も続きやしねえ。
確かに金はねえ。働けど働けどなお我が暮らし楽にならざり、じっと手を見る。近頃じゃ働こうにも仕事がねえ。残業したくても、サッサと帰れと課長に睨まれる。家に帰ってもすることはねえ。飲みに行くにも、ゴルフをするにも金がかかる。そんな金があれば、子供の何かに化けちまう。
女遊びするにも金がかかる。不倫するにも金がかかる。金だよ金。金さえありゃあ、俺はハッピーなのか?
もう答えは出ている。あるだけ剥ぎ取られて、俺には回ってこねえ。ああ、俺の親父もこうだったのかな?惨めなものだ。蛙男。タガメ女とゲンゴロウ子供に血を吸われるだけの憐れな存在。
生きてて、楽しいか?
若い子を見ていると、肌の美しさが眩しい。俺は眠る前、いつも若い女の子の体をむさぼることを夢想する。そして、立ちもしないチンコをいじりながら眠る。
俺の夢の中では、俺は今の俺じゃない。おっさんが若い子をいじくってウヒウヒ言うことを夢見ているわけじゃない。
俺も若くて、目と目があっただけで鼓動が激しくなって、俺は卑怯にも女の子の目から逃げるんだ。それを、女の子がそっと俺の腕を取って止める。俺は振り向く。俺はお前よりもっといい女をゲットするんだと思う。でも、女の子の目が真剣すぎて俺はそっとキスをする。そんな感じだ。
仕事に邁進している奴は、人生楽しいのだろうか。俺は残念ながら、能力がなくてエリートコースからは外れちまって、残念なことに他人様のサポート係に徹している。周りは俺のことを下水道くらいにしか思っていない。雑用を何でもかんでも投げ込んでくる。俺は、それをただひたすら流す。
仕立ての良いスーツを着て、ゴロゴロと邪魔なコロの付いたトランクを転がして、颯爽と飛行機に乗って英語も喋れもしねえくせにアメリカへ。そんな奴らが羨ましいか?
厚顔無恥を派手なスーツでサランラップして、どや顔で子会社の通訳連れてアメリカ企業の靴底に付いた犬の糞をなめに行く。どうだ、俺は犬のウンコをなめてきたぜと社内でこれ又どや顔で報告。俺はそこまでバカじゃない。テレビ会議で済ませろよ。会社の金で旅行してきてんじゃねえ、くそバカども。
バイオハザードの再放送を見ていた。子供達は初めて見るようで、いつゾンビが出てくるかビクビクして楽しんでいた。怖がっていたのだが、俺から見れば楽しんでいる。俺はもう、この手の映画を見ても怖がったりはしない。だいたい分かるし、グロさを追求したホラーでなければ目を背けることもない。エイリアン2をスクリーンで見た衝撃に、バイオハザード如きがかなうはずがない。ミラ・なんとかビッチの乳が見えるかどうかだけが楽しみだ。
ラブストーリーにイライラハラハラすることもなく、アクションものに血がたぎることもない。見慣れた光景でしかない。だから、相棒のようにマンネリの権化を俺は定年後見続けるんだ。
人間の情も、電子化が進んで薄っぺらくなった。最近じゃ訃報もメールでぴろんだ。生前のご厚情を感謝し・・・。ああ、死んだという情報は、紙になる価値も無いのか。
付き合ってよ:良いよ。好きだよ:ゴメン無理。俺今飯食ってる、近くに誰か居ない?いるいる、後でダーツやろうぜ、俺達ここに居るよ。
最初は便利だと思った。仕事の用事なんて、電話だと一々自分の仕事が中断される。かける場合は、相手の仕事を中断させる。心苦しい。それがメールだと、手が空いた時に対応すれば良いんだ。コピペで挨拶も定型化。
良い。良いんだけど、薄っぺらい。
給料も明細さえも電子化だ。現金では支払われねえ。だから、誰も俺に感謝しねえ。俺の口座に振り込まれた給料は、その日のうちに一円残らず嫁の口座に移動される。曰く、一つの口座で管理した方が便利だからだと。俺はその口座から引き出される小遣いを、嫁に感謝して受け取る。
きっと、離婚の時には、共有財産なんてものは一銭も無くて、綺麗に嫁に全部持って行かれるんだ。飛ばしの口座でも作って、移されちゃおしまいだ。きっと、こそこそと長年やり続けているに違いない。
柔肌の、熱き血潮に触れもみで、寂しからずや道を説く君。道は説かねえけど、熱き血潮に飢えているのか?かつての嫁のように?ああ、ダメだ。俺のような何にも熱中していねえ人間に、誰も熱き血潮をたぎらせてはくれねえ。それに、血潮をたぎらせてくれても、結局はタガメに変身だ。俺は憐れな蛙。
そうだよ、結局は俺次第なんだよ。
だけど、雁字搦めなんだよ。体中に鎖がくっついていて、あっちにもこっちにも繋がってて、身動きが取れねえ。
自由じゃねえ。自由がねえ。息をするにも許可が要る。
そうだよ、結局は俺次第なんだよ。その鎖をぶっ千切るかどうか。切らねえよ。めんどくせえ。そんなエネルギーもねえよ。
だけど、乾くんだよ。虚しいんだよ。何なんだよ、俺の人生。
生きてて、面白いか?何か、良いことあったか?
何が不満なんだ?自由って、何だ?じゃあ自由をやるから好きにしろよって言われて、何をするんだ?豪華客船でクルーズか?高級車を乗り回すか?どうでも良いこった。
働いて、給料を家に運ぶ役目。年老いて、口ばっかりの両親を介護する役目。バカで、ウスノロで、要領が悪くて、口の利き方も知らないで、整形した方が良さそうなアホ面をした子供にエサをやる役目。
役目だけを期待されて。
働き蜂だ。そうだ、働き蜂だ。働いて、働いて、働いて、朽ちてゴミとして捨てられる。
じゃあ、俺をゴミとして捨てる奴らはどうなんだ?同じゴミなんだけど。
きっとホームレスの連中は、自由なんだ。ゴミを拾って生きているあいつらが、河川敷で寝ているあいつらが、自由なんだ。俺が持っていない自由を持っている。
社会に参加しない自由、社会に奉仕しない自由、社会からかまって貰わない自由。ああ、分かった。俺は社会ってものがウザイんだ。税金納めて、年金払って、医療保険払って嫁子供食わせて、俺に残ったものは?ガンプラだ。俺は俺のために生きていない。誰にも尊敬されないただの働き蜂。そして、ゴミとして捨てられる。
ゴミとして捨てられるのはホームレスも同じだ。じゃあ、俺に自由がなくて、奴らにはあるってのはどうなんだ?俺の方が不幸なのか?そうさ、俺の方が不幸なんだ。
じゃあ、俺もホームレスになるか?無理だな。初日に風邪引いて、そのまま死ぬわ。
ダメなんだ、俺はどう頑張っても。ダメなんだよ。
ああ、生きていくって、かなり苦痛だぜ。




