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『エラーを無視して実行を続けます』


 本日は、当施設をご利用頂きありがとうございます。

 当施設は富裕層向けの冷凍睡眠サービスとして[データ破損]年にオープン致しました。

 主な目的は未来への一方通行のタイムトラベル、老化の抑制や病気の治療を未来の技術へ託すため。

 そんな目的で営業をしていたと記録に有ります。


 現在の当施設は二度、三度と改装と改修を繰り返しある目的のために生まれ変わった姿となります。

 私、ミカも竣工当初より使用されていたAIを元に改修し、主に施設を訪れるクライアントの不安を和らげるために使用されておりました。


 ある目的、というのが気になりますよね? 気になるでしょ? 分かる人、居るかなー? 居ませんかー。では! この私ミカさんが解説しましょう!

 この施設の目的、それは────現人類の保護、です。



 この星は、現在侵略下にあります。

 我々人類は、既に絶滅危惧種として扱われています。

 人類は、敗北しました。

 もはや地上に希望はありません。

 奴らの侵略──侵攻──浸透を止める術はありません。

 私たちにできることは、僅かな可能性に賭けて、核攻撃にも耐えうる深度に建設された堅牢なこの施設を未来へと送る──一方通行のタイムトラベルを行うことだけ。


 遥かな未来、奴らが何かの気まぐれでこの星を去るか、何かの奇跡で絶滅するその時、AI(わたしたち)があなた達人類を永い眠りから解き放ち、再び地上を取り戻す。


 そのために、現在当施設は利用されています。



 ……まあその保存期間が長すぎて色々問題が起こってるというか既に施設は停止寸前というかむしろ暴走してるというかなんですけど、そこはほら、無事稼働を続けているスーパーAIのミカさんを信用してくださいっ。



 ──と、長くなりましたがこんな感じです。


 三行で言うと、地球侵略

        人類ヤバイ

        冷凍保存



            *



 よく、分からない話だった。

 分からないが、ぼんやりと輪郭を見ることだけはできる話だった。


 要するに、地球にエイリアン?が侵略をしかけて、どうしようもなくなった人類がノアの方舟的に地中深くにあるここを使ったということなのだろう。


 どんなにSF要素が強くても、ここが宇宙船の中ということはなかったようだ。がっかりしたような。安心したような。


『そして、この話を理解できたのなら──理解できたような、そうでもないような感じ? まあいいです。理解できた?のなら、あなたが目覚めたということがどういうことか自ずとお分かりになるでしょうなりませんかそうですか』


 ミカさんが記号や簡単な絵を使って一生懸命に説明をしている。そういった機能は元々存在しないのか、大分苦労しているようだ。


『ええとですね、■■■年経った今──エラー発生。有効な時間を入力してください。…………入力が確認できません、エラーを無視しますか?』


 不意に、ミカさんの声の調子が機械的になり、固まった。故障だろうか。だとすると困る。こんな状況で一人放り出されてもどうしようもない。


 俺はどうにかならないかとミカさんの周りで動いてみたりミカさんを触ってみたり(ホログラムなので直接触れはしないが)ミカさんに声をかけてみたりする。


『…………入力が確認できません、エラーを無視しますか?


 …………入力が確認できません、エラーを無視しますか?


 …………一定時間入力がありませんでした。エラーを無視して実行を続けます。今後も同じエラーが続くようなら、管理者にお問い合せください────ああびっくりしたっ! 今ミカさんエラー吐いてましたよね。死ぬかと思った! 死ぬかと思った! いや、AIなので死にませんけど比喩的に! もっとキッツいエラーだったらミカさんセーフモードで再起動してますからね。そうなったら可愛さ成分大幅減少ですよ! 危ない危ない……ここは削除しときましょ削除』


 しばらくするとミカさんが再び元の調子で喋りだした。よかった。どうやら一過性で済んだらしい。


 ……だが、カプセルの様子といい、今のミカさんといい。どうやらこの施設には相当ガタがきているようだ。いつ壊れてもおかしくない、くらいの心構えで居たほうがいいのかもしれない。


『えーと、何の話をしてましたっけ? んーと確か……コホン。[データ削除]年経った今、地表から奴らの痕跡が消えたことを確認。無事、人類開放の時が来たのです! 

 外気温のデータからするに氷河期的なものがあったようでして? そこで恐らく絶滅したのでしょう。人類凄い! 人類ラッキー! ワー! パチパチパチ! ヒューヒュー!』


 なんだか賑やかな空気を出しているミカさん。先程の話と合わせて考えると、人類が地上に出る日が来た、ということなのだろうか。


 それにしては──エラー表示だらけのカプセルや、たった今様子がおかしくなったミカさんと、不気味な要素が多々あるような気がする。


 彼女は喜んでいるようだが、本当に大丈夫なのだろうか? 何かの間違いで、外に出るとエイリアンがウヨウヨしていた、なんてことにはならないのだろうか。


『ドンドンパフパフー! って、なんだかあまり喜んでませんね? 実感が薄い……ってやつなのかな。しょうがないにゃぁ』


 俺の心配を見抜いたのか、ミカさんが顔を近づけて、それから何かの数値やグラフのようなものを表示しだした。


『奴らの侵略方法は至って特殊。気がつくことさえ難しい。むしろよく気付いた人類! といったような方法です。【異界侵蝕】と通称で呼ばれるその現象は、静かに、けれども確実に人類の遺伝子(ジーン)情報子(ミーム)を汚染していきました。人類ヤバイ! 一切気が付かない内に体も常識も書き換わるとか何それこわい!』


 ヒトの姿が何か別の形になっていき、周囲がそれを気にも止めない様子を描いたアニメーションを出すミカさん。

 身体と思考が、徐々に侵されるような侵略ということだろうか。


『ですが人類も負けていません! 侵蝕の偏りと時間差からいち早くこれに気がついた人類は、侵蝕ペースの緩やかさに漬け込み素早く対応をします。一体全体どういう仕組なのかはミカさんのデータベースに無いというか、バリバリの機密ですので秘密ですが、なんと人類は奴らの侵蝕を数値で表すことのできる理論を考案し、装置を開発したのですっ』


 妙に情熱的に語るミカさんが沢山表示したグラフや数値を指し示す。

 ミカさんには悪いけれど、そんな風に出されても俺にはさっぱりわからない。


『この侵蝕は情報子(ミーム)を汚染する性質上測定結果なんかも汚染しちゃって観測が非常に困難らしいのですが、というか情報子(ミーム)ってそんなものだったっけって気もしないでもないですが、それは最初にネーミングした人が悪いということでひとつ。

 とにかくですね、これ! この人類値(数字)を見てください! これがプラスに傾いていると奴らの侵蝕が、逆にマイナスに傾いていると人類側からの侵蝕が発生しているということになります。ほら見てください! 圧倒的マイナス! この施設が稼働してからというもの、ややプラスからゼロで安定していた数値が今になって圧倒的マイナスを指し示しています! これこそが、地上から奴らの影響が消えたという動かぬ証拠なのです!』


 ババーン、と何やら擬音語らしきものを表示しながら力説するミカさん。相変わらず何も分からないが、とにかくこの数字を根拠に大丈夫と判断しているようだ。


 AIである彼女が根拠とするからにはそれなりのもっともらしさがあるのだろうけれど、数字一つを根拠にはい大丈夫ですと示されてもいささか不安だ。

 彼女を含めた施設全体の雰囲気が不穏ならば余計に。


『えー、どうして測定機械やこの施設自体が汚染されないのかですって? 知りたいですか? あ、別にそういうことを訊いてる感じじゃないですか。いえ訊かれていなくても案内(アテンダント)AIとして勝手に説明しますけど』


 ミカさんが次に表示したのはなんだか大きくて強そうな機械だ。施設の図らしきものを出して、その機械が施設の周囲と地表をカバーしていることをアピールしている。


『先程の数字は人類がどれだけ人類として安定しているか、即ちどの遺伝子(ジーン)情報子(ミーム)がヒトとしてあるのかということを示す人類値です。

 そして奴らは未知の方法によりこれをプラスに傾ける。それに対抗するべく制作されたのがこの施設全体をカバーしている人類錨(機械)です。

 我々はここに居る、人類はここに在るということを実証し続けるこの(いかり)こそ、人類の最後の希望。最後の寄る辺。この錨ある限り、人類は異界の波に流されずここに留まり続ける。そんな想いを込めての人類錨(じんるいびょう)というネーミングだとか』


 機械からバリアのようなものが放出され全体を覆う様子がホログラムで映される。これが守ってるから大丈夫、ということだろう。ならば余計に未知の状態の外へと出ずにここに居続けるほうが安全なのではないかと思ってしまうが、つい先程施設自体の老朽化を不安視したばかりだと思い直した。


 このバリア装置が壊れる、あるいは既に壊れている、ということも十分にありえると考えておくべきだろう。


『それで、これからのことですけど──ミカさんたちがいる場所がここ。施設最深部の冷凍睡眠室。そこに併設された休憩室です。これからあなたは私と一緒に上へと上がって、こう、こう、こう行って──あ、ダメだここのエレベーター止まってる。じゃあこっちに行って、ここの隔壁は開かないから迂回して……えっ、ちょっとなんでこの扉のアクセス死んでるんです!? んー物理的に開けられるかなー開けられるならこっちの方がいいんだけどなー、駄目だったらちょっと戻ってこっちの作業用エレベーター使わないといけないですし……』


 ひょい、ひょいとこれから進むルートを示していたミカさんの動きが鈍る。俺たちを示す光点があっちへ行ったりこっちへ行ったりして、大分悩んでいるようだ。


『──やっぱり、意図的に外に出られないようにされてますねこれ。たぶんあの時(、、、)のルミさんの仕業でしょう。あ、そうするとひょっとして彼女ってばまだ生きてたりします? それだったらかなり面倒──いや、いっそのこと制御室に行っちゃったりして? 二番、三番、それから七番と八番の錨がちょっとアレだから念のために避けといて────決まりました!』


 目にも留まらぬ高速で光点がホログラムの地図を駆け巡ったかと思うと、最終的に現在位置からして少し上にある大きめの部屋へと辿り着いた。


『脱出に先んじて、あなたとミカさんは中央制御室を落とし──もとい、指揮下に入れ。現状ミカさんの制御を受け付けていない隔壁を開けて、ついでにちょっと様子がおかしくなってるAIとか機械とかを焼いておいて、それから外に出ましょう。ほらここ、一応人類最後の希望ですし? 元軍の核シェルターですし? 正規の管理(コントロール)AIではないミカさんが色々操作するにはまず権限の書き換えから始めないと、的な?』


 どうやら先に出る前にこの光点が示す部屋へと向かわなければいけないようだ。

 この施設についてさっぱりである以上、現状俺にはミカさんに付いて行くしか選択肢は無く、彼女に同意を示すとそのまま立ち上がり先導を促した。


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