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『ミカ。ミカです。ミ・カ』

『~というわけで、現在この施設の管理?掌握?はこのミカさんが行っています。知ってますよねミカさん? なんですその反応は、一世を風靡したバーチャルアイドルのミカさんですよ? ってあら、ひょっとして言葉がお通じになっていらっしゃらない感じ?』


 なにがしかを早口でまくし立てるアニメアニメした女の子。というかこれアニメだ。トゥーンシェーディングとかした3Dモデルだこれ。

 左右から見回し、手をかざして女の子が何か凄い技術を使って空間に投影したバーチャル映像であると認識する。


 となれば彼女が案内なり管理なりを行っている人工知能的なモノなのだろう。そう判断し現状を伝えようと思うも、ここで互いに言葉が通じないという事実に行き当たった。


『おかしいな~、登録上の情報では確かに……■■■■さんですよね? ってあれ、何今のおかしい。■■■■さん──■■■■さん……あちゃあ、これ言語ライブラリが壊れてるとかそういう系だ。下手するとデータベースからおかしくなってる、かも?』


 向こうもそれに気がついたようで、何やら悩むような表情をしている。

 それにしても凄いな未来。二次元の女の子が普通に廊下に立ってて動いてるよ。

 よく小説に出てくるような二次元がそのまま三次元になったかのような~の境地に至らなかったことが玉に瑕だろうか。いやまあ普通に考えて無理だったんだろうけど。


『えー、何らかの重大なエラーによりミカさんが今何語を話しているのかもあやふやですが、まあ細かいことは気にしないでいきましょう。ミカさんこれでもここの案内(アテンダント)AIですし? 外国の方なんかも支障なく案内できるよう、ボディーランゲージは完璧──いえ、普通はその方の言語に合わせますがそこはそれ。手話なんかもできるので応用編でどうにか致すことにしましょう』


 なにやら手を忙しなく動かしているがよく意味はわからない。

 分からないよ、伝わってないよというニュアンスを込めてじっと見つめていると、やがて女の子は諦めたかのように動きを止めた。


 そしてゆっくりと、右手を自分の胸に当てる。


『ミカ。ミカです。ミ・カ』


 どうやら名前を伝えているようだ。目の前の女の子はミカと言うらしい。そういえば、そんなキャラクターを知っているような、知らないような気もしないでもない。


『おやおやあなたも胸に手を当てて、ははあ、それはあなたのお名前でしょうか。うーん……駄目ですね。音声認識が逝ってるかミカさんの頭からあなたのお国の言語がすっ飛んでるか、どちらにせよ今の私にはあなたの言葉は認識できないようです。データが無い、あるいは特定出来ない以上発音も無理ですし、便宜上あなたのことは「あなた」とお呼びしますね。

 別にそこだけあなたの発声を録音して使いまわしてもいいんですけど、ミカさんの小さくてキュートなお口からその身に合わないヴォイスが飛び出しちゃったら嫌でしょう?』


 それにしても彼女はよく喋る。アニメっぽいキャラクターを利用しているということは接客なり案内なりの担当だったりするのだろうか。なんだかこちらが出した情報の3倍は喋っている気がする。


 ……っと、そんなことよりもカプセルだ。俺のカプセルを含め部屋の中のカプセルは見た限り全てエラーのような表示だった。あれは何かしらの良くない事態だろう。


『んー何ですか? 中? 戻ると言ってもですね、現状新規のサービスは受け付けていない──じゃなくて、ミカさんを押してる? イヤンそこは倫理規定に反します……じゃなくて、今は控えてくださいミカさんの倫理規定プログラム。

 んー中に、ミカさんを入れたいと。申し訳ないんですけどねーそこは管轄が違うと言いますかーリアルに直接人命を預かる場所ですし、案内(アテンダント)AI如きがアクセスできる領域じゃ無いと言いますか』


 中を見せたい、という意図は伝わったようだが、彼女は困った笑顔で笑うだけだ。


『非常事態に伴いまともに稼働してる現存AIであるミカさんの権限は大幅に拡張されてますけどー、全部は無理って言うかー、ミカさんには遠隔でちょっとした操作をするくらいしかできない、みたいなー? 大丈夫ですよ。たぶん中のエラーのことを言ってるんですよね? 把握してます把握してます』


 彼女は指差したり困った顔をしてみたり丸を作ったり中で見たエラーっぽい文章を空中に表示して頷いてみたりしていた。どうやら俺の言いたいことは伝わっていたようだ。


『ええ、ええ大丈夫です。大丈夫。侵蝕率を基準にした(、、、、、、、、、)取捨選択は完了(、、、、、、、)しておりますので(、、、、、、、、)。無事基準をクリアしたあなた以外は全て殺処分済みですとも』


 少女は中を指差し、全体をスッと指し示して、笑顔でOKマークを作ってみせた。把握済み、もしくは対処済みということだろう。それならば安心だ。


 そうすると次の問題は俺自身か。何がどうなっているのかは相変わらずさっぱり分からないが、今後どうすればいいのだろうか。ひとまず、このミカさんに頼ることにするのが無難か。


『心配なくなりました? ってまあどう答えられてもミカさんにはあなたの様子から察するしかないんですけどね、まあその様子なら大丈夫でしょう。それならほらほらいつまでもこんな廊下に突っ立ってないで、向こう行きましょう向こう。冷凍睡眠に入る前の休憩室がありますので、ひとまずそちらへと。ささススーっとどうぞどうぞ』


 アニメチックな少女にアニメチックな動きで促され、廊下を進む。

 どこまでも続くかのような通路は清潔で、まるでSFの世界のようだ……いや、冷凍睡眠とかが出てくる時点で既に俺にとってはSFのはずなのだが。


 記憶の混乱が気になるので、ミカさんに尋ねてみることにする。言葉が通じない以上伝わるか不安ではあったものの、誠に遺憾ながらクルクルパーのジェスチャーで伝わったようだ。


『記憶が混乱してるんですね? それは起床時によくあることなので心配ありませんよ。症例としては、一部記憶の喪失、夢と現実の区別がつきにくい、言語障害、人格障害などがありますけど、まあぶっちゃけ時間経過で全部治ります。コールド・コールド社の冷凍睡眠プログラムは、安心、安全! 常に安全第一を志して──って静まれミカさんのPRプログラム! うぅ、これが悲しき案内(アテンダント)AIの(さが)……! 身体が勝手に……持ち主様には逆らえない──悔しい、でも宣伝しちゃうっ! 冷凍睡眠明けにこちらの栄養ドリンクはいかがですか?』


 俺の質問に大丈夫、という趣旨のジェスチャーをしていたミカさんが急にCMのようなものを始めた。恐らく俺との会話か何かが条件に引っかかったのだろう。


 言葉は通じなくともミカさんの様子はかなり人間的に見えていたが、こういう部分を見ると、彼女も人の作ったものなのだと改めて認識する。



 ミカさんが一方的に話す様子や宣伝を見ながら歩いていたら、やがて清潔なイメージの廊下をそのまま広げたような大部屋についた。ここは待合室や休憩室の類だろうか。


 ミカさんが座ったので俺も同じようにすると、やがて円筒形のロボットが食べ物と飲み物を載せてやってきた。


『こちら、初起床サービスになります──ということにしてミカさんの中でプログラム的納得をしました。どうぞ召し上がってください。ぐぐぐ、ミカさんの中の資本主義的要素が無償の提供に仄かな拒否感を示して……これはサービス。これはサービス。べ、別に口コミとかそういうのが目当てじゃないんだからね! と、ツンデレメソッドを実行して迂回成功。さすがミカさん。別に褒めてもらっても構わないんですよ?』


 食べていいようなので頂く。一瞬、あれどうやって食べたっけとなって焦ったが、少し考えると無事に思い出すことが出来た。先程のミカさんは時間が解決するようなことを言っていたが、今のは流石に少し不安になった。


『起き抜けですのでペースト状の味気のないものですけどねー。くっ、この体に実態があれば料理が作れるのに──っ! などと言いつつも食料庫にはもはや保存食以外残っていないという事実を冷静に受け止めるミカさんなのでした』


 ミカさんの話をBGMに食事を摂る。パックに包まれた宇宙食みたいな食事だった。冷凍睡眠後、ということもあって胃に負担をかけないような食事になっているのだろう。


 ゆっくりと食べながら、ミカさんに話を振る。今の現状、何年で、何があって、外はどうなっているのか。伝えるのに少々苦労したけれど、やがて理解した様子のミカさんが記号を織り交ぜてゆっくりと話し始めた。


『んー。ぶっちゃけ言ってることの半分も分からないんですけどねー。まあ、何か色々気になるようなのでここは案内(アテンダント)AIの本分を発揮して説明をすることに致しましょう』



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