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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第二部
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6 モロクへ向けて

 明朝。五人はギンジロウ宅の応接間に揃っていた。今後の方針を相談するためであるが、その前にクリームヒルデから話があるということで呼び出したのだ。彼女は緊張した面持ちだが、昨日のように思い詰めている様子はなかった。


「急かすようで悪いが、俺たちに話があるんだろう?」

「はい。私の過去についてです」


 ヤスケの問いに返事をしたところでクリームヒルデはアレシャに視線を送る。アレシャがそれに笑顔でGOサインを出すと、クリームヒルデもまた小さく微笑み、ゆっくりと話し始める。

 内容は昨日アレシャと話したものと同じものだが、クリームヒルデは整然と語っていく。話を聞くアステリオス、ヤスケ、ギンジロウの三人はただ静かに聞いていた。しかし、誰もが顔を険しくさせていた。


「……というわけですわ。昨日はお話しできずに申し訳ありませんでした」


 クリームヒルデが話終え、一息つく。するとそこで、ヤスケが頭を下げた。


「……いや、むしろこっちがすまなかった。そんな事情があったとは」


 彼は昨日疑いを向けたことを再び謝罪するが、クリームヒルデは気にしないでくれと首を振った。ヤスケは苦笑しつつ頭を上げるが、そこに小さく嗚咽が聞こえる。


「ぐ、ぅぐすっ、お嬢ちゃん、苦労してんだな……。俺、自分のことは関係なく、『アンブラ』の連中を許すことができねえよ!」


 ザ・男泣きをしているギンジロウは叫びながら立ち上がった。そしてクリームヒルデの両肩を力一杯叩いた。アレシャはその勢いでクリームヒルデの身長が少し縮んだ気がした。


「ど、どうされましたか?」

「どうも何も、決めたぜ!『アンブラ』とかいう連中の尻尾を掴むんだろ?俺も全力で協力させて貰う!何でも言ってくれ!」

「それは有り難い話だが、ギンジロウさんはそれで構わないんですか?」


 アステリオスが確認するようにそう尋ねるが、ギンジロウは自分の胸を叩いて勿論だと示す。


「勿論品評会の準備を優先させて貰うが、使える時間は協力すると約束しよう。どのみち『アンブラ』を何とかしないと俺も死ぬわけだしな!」


 ギンジロウは豪快に笑いながら今度はヤスケの肩を叩く。お前はどうするんだと言いたげだ。ヤスケは「仕方ない」とため息をついて答える。


「わかった。俺も協力しよう。『アンブラ』の連中のことは俺も放っておけないしな」

「お前も素直じゃねえなあ?お嬢ちゃんのこと、助けたいんだろ?」


 ギンジロウがニヤニヤと笑いながらそう言い、ヤスケはそれを心底鬱陶しそうに払いのける。思春期の親子によくある光景みたくなっていたが、どうやら二人とも協力してくれるようだ。


「当然のことだが一応言っておくと、わたしも協力するぞ。守りならば任せてくれ」


 最後にアステリオスがそう宣言すると、クリームヒルデは感謝の言葉とともに優雅な所作で頭を下げた。誰もクリームヒルデのことを否定などしない。それは当たり前のことなのだが、彼女にはそれがとても嬉しかった。


「さて、無事に話がついたとことでこれからの話をしようと思うんだけど、どうしようか」


 アレシャがそう切り出し、クリームヒルデに視線を向ける。待ち構える敵の名は『アンブラ』と判明した。しかし、それについての情報がろくにないので彼女の知識が頼りになるのだ。クリームヒルデもそれを承知しているので、顎に手をあて頭を絞る。


「……そうですわね、私に少し考えがありますわ。『アンブラ』を撃退して、あわよくば捕まえる策です。しかし、それにはギンジロウ様の協力が不可欠になるのですが……」

「さっき言っただろう。俺にできる限りは協力を惜しまん。策ってのを聞かせてくれ」

「いえ、私はモロクの街の構造を詳しく知らないので詳細は街に着いてから練ろうと考えています。なので、詳しい話はモロクについてからお話します」


 クリームヒルデの言葉に全員が納得し、『アンブラ』についての話はそこで終わりになった。未だギンジロウが狙われていることへの不安こそあるが、これで本当に一行の間にわだかまりは無くなり、ようやく一つの目的に向けて行動することができるのだ。

 ロマノフ王国首都モロクでギンジロウを『アンブラ』の魔の手から守り抜き、同時に『アンブラ』の尻尾を掴む。そして、ギンジロウが品評会で結果を残し賞金を手に入れる。事態がどう転ぶかは誰にも分からない。しかし、アレシャは自分たちなら何とかできるはずだという自信に満ち溢れていた。


 何にしてもモロクに到着しなければ始まらない。五人は早速旅の準備を始める。アレシャは買い出しでやらかした前科があるのでそれはクリームヒルデとヤスケに任せ、彼女はギンジロウとアステリオスとともに荷物をまとめていた。これまでの旅では中々なかった大荷物だ。


『こんな荷物で移動は大丈夫なのか?もう少し減らした方がいいと思うんだが』


 ダレイオスはアレシャにそう提案するが、アレシャは首を横に振って否定した。


「ロマノフ王国は北の果てにある国だから、一年通して気温が低いんだよ。準備をしすぎて悪いということはないよ。今の季節はまだましだけど、冬になったらそれはもう極寒の地と化すからね、ほんと。……死ぬからね、ほんと」

「まるで体験したような口ぶりだな。……ああ、アレシャちゃんはロマノフ王国の出身だったな」

「うん。子どもの頃に冬を舐めて、それはもうえらい目にあったことがあってね……」


 アステリオスにそう答え、アレシャは遠い目で窓の外を見つめる。その姿からはまたしても年齢に似合わぬ哀愁が漂っていた。ダレイオスは『アレシャも大人になったのだな』と若干見当違いの感心をしつつ、旅の準備が進むのを見守る。

 防寒用の装備が一通り準備できたところで買い出し組が帰ってきた。勝ってきた品を確認して荷物と一纏めにし、これでようやく旅の準備は完了だ。身体が衰え始めている年齢であるギンジロウと、それほど筋力のないクリームヒルデ以外の三人で荷物を分担して持ち、五人はバルバロスを出発する。

 ガザから北へいったところにある転移魔法陣まで約十日。そこから国境まで転移し、ロマノフ王国へ入国。そしてモロクに一番近い場所にある転移魔法陣まで転移し、そこから徒歩で目的地へ向かう。旅の行程はこういった具合だ。

 敵が襲ってくるのはモロクに入ってからと予測を立てているが、道中も気を抜くことはできない。アレシャは頬を叩いて気合いを入れ直すと、先頭に立って歩き始めた。


街の名前を間違えていたので、バルバロス→ガザに修正しました。情けない……。

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