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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第二部
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3 再びガザの街

 アレクサンドリアを出た一行がまず向かうのはガザの街だ。一度ガザにあるギンジロウ宅へ戻り、そこで準備を整え直してから再びロマノフ王国へ発つという予定になっている。


「ガザへ向かうだけでもかなりの長旅だが、ヤスケさんの実力の程はどれくらいなんだ?頼りにしてもいいのか?」


 海沿いを歩いてるとき、アステリオスがふと尋ねる。旅が始まってから未だ魔物との接触はなかったが、今のうちに確認しておこうと思ったのだ。そしてその問いに対するヤスケの答えは「当然だ」という力強い肯定だった。


「俺は冒険者ではないが、Bランクくらいの実力はあると自負している。余程攻撃の通らない相手でなければ十分に力になれるはずだぜ」

『私も一度手合わせしたが、それだけの実力はあるだろうな。頼りにさせてもらっていいだろう』


 ダレイオスの言葉にアレシャも頷き、今のヤスケはどんな武器を持っているのかを尋ねようとする。どのような連携ができるかを確かめておこうと考えたのだ。

 しかし、そこに狙い澄ましたように低いうなり声が届く。一行が警戒する中、茂みの中からのそのそと姿を現したのは二頭の魔物だった。筋肉の盛り上がった大きな狼で、灰色の体毛の所々が赤黒く汚れている。


「これは、フィアスウルフだね。つがいで行動するCランクの魔物。ヒルデちゃんはギンジロウさんに着いていて」

「了解しましたわ」


 アレシャが指示を出してからアステリオスは二頭の魔物の前に出て斧を構える。するとその横にヤスケも並び、その手に槍を構えた。


「槍を扱うのか」

「一通りの武器は扱える。それを状況で使い分けるのが俺の戦い方だ」

「なるほどな。団長!援護は任せたぞ!」

「り、了解!」


 未だに団長と呼ばれると戸惑ってしまうアレシャをよそに二人の男は駆け出す。獲物の様子を窺っていた魔物もそれに反応して動きを見せた。

 まず一頭が跳躍してアステリオスに飛びつく。アステリオスは斧を振るってそれをなぎ払うが、魔物は咄嗟に空中で身体を捻ってそれを避けた。すると、その魔物の背後からもう一頭が飛び出し、アステリオスの腕へ食らいつこうとする。しかし、その側方から飛び出したヤスケの槍が魔物の脇腹に突き刺さった。横から衝撃が加わり魔物はそのまま地面に落ちる。それと同時に、最初に飛び出した魔物が地面に着地し、間髪入れずヤスケに飛びかかった。しかしアステリオスがそれを許さず、魔物を正面から受け止める。魔物はアステリオスに頭を抱えるようにして抑えられ、身動きがとれない。アステリオスは腕に力を入れると魔物を上空へ勢いよく放り投げた。


「今だ、アレシャちゃん!」

「はい!『紅蓮鳥(ブレイズクリロ)』!」


 アレシャのかけ声と共に鳥の姿を象った、燃えさかる火炎が放たれた。それは空中で着地の体勢をとろうとする魔物に着弾し、激しく炎上させる。悲痛な呻き越えを上げながら魔物は落下していき、直に動かなくなった。

 ヤスケの攻撃で地に伏していたもう一頭はそれを見て起き上がり、アレシャを目標に定めて走り始める。そこにヤスケが両手に両刃のナイフを手にして立ちふさがった。迫る魔物にめがけてそれを投擲すると、見事に魔物の両目に命中した。突然の痛みと消えた視界に魔物は戸惑い、のたうち回る。ヤスケがそこへ真っ直ぐに駆けだし腕を振り抜くと、いつの間に取り出したのか、どこから取り出したのか、その手には魔物の脇腹に突き刺さったものとは別の二本目の槍が握られていた。足を踏みしめ、大きく振られる魔物の頭部が目の前に来た瞬間を狙い澄まし、するどい突きが放たれる。槍は魔物の額のど真ん中に深々と突き刺さり、一度大きく痙攣してそのまま動かなくなった。

 ヤスケは軽く息を吐いてからアレシャへ向き直る。


「さすがにCランク相手なら何という事は無かったが、どうだ?この実力なら文句ないだろう」

「それは勿論!……それより、さっき武器がいきなり現れたように見えたんですけど……」


 誰もが気になっていることをアレシャが代表して尋ねる。ヤスケが答えの代わりとして得意げに両の掌を突き出すと、そこには小さな魔法陣が刻まれていた。それを見たクリームヒルデが興味深げに唸る。


「それは、もしかして転移魔法陣ですか?ずいぶんと小さいですわね」

「え、ほんとだ。……でも、かなり簡略化されてるよね」

『転移魔法陣……なるほどな。武器は出現したのではなく、別の場所から転移してきたということか』


 ダレイオスのその推理をアレシャがヤスケへ伝えると、ヤスケは「その通りだ」と頷く。

 彼によると、ギンジロウの家の武器庫の床にはこれと同じ転移魔法陣が描かれており、人間は不可能だが武器くらいの大きさの物体なら容易に転移させることができるらしい。多数の武器を使いこなし使い分けられるヤスケにとってこれほどに有用な魔術はないだろう。転移魔術は人を転移させるためのものであるという当たり前の事柄を上手く利用した柔軟な発想にダレイオスは舌を巻く。


『既存の魔術も使い方を変えれば全く別の効果を生み出すというわけか。やはり魔術というのは面白いものだな』

「そうだね。わたしも折角魔術が上手く使えるようになったんだから、こういう自分だけの何かっていうのを見つけられたら良いな……」

『ふっ、そうだな。なんてったってお前は『魔導姫』だからな』


 ヤスケが魔物に突き刺さった武器を全て武器庫へ転移し返したところで、一行は魔物の死骸を燃やして処理してから再び足をガザへと向けた。

 海岸線に沿って進みながら、アレシャは以前バルバロスへ行ったときのことを思い出す。『黄金の魔物』の襲撃など色々と面倒ごとがあったが、あのときはペトラも一緒に旅をしていた。ペトラとは定期的に手紙のやりとりをしているが、別れて以来一度も会っていない。今は修行に専念したいというペトラの気持ちを優先したのだ。アレシャは自信を持ってペトラを迎えられるようにギルドを盛り上げていかなければと決意を新たにするのだった。


 時折魔物の襲撃に遭いつつも危なげなく進む一行は、無事にガザへ到着した。以前に訪れたときと同じく入り口でチェックを受けてから街の中へと足を踏み入れる。

 ガザの街は『黄金の魔物』によって壊滅的な被害を受けたが、一年の時間が経った今では元の暮らしを取り戻していた。笑顔の戻った街の姿にアレシャは安心する。


「『黄金の魔物』の件は余り後を引いてないみたいですね。よかったです」

「まあ、そうだな。アルマスラ帝国から例の魔物は偽物だったと告げられて、アリア教徒たちも帝国を信じて良いと思ったみたいだな。あんな化け物に本物も偽物ないだろうに、宗教とかは俺にはよくわからんよ」


 ギンジロウはそう言って笑う。それにはアレシャも同感だった。本物か偽物かの判断ができるのは千九百年前のことを知っているダレイオス以外にいないのだから。偽物だと言ったのは、大方民衆の不安をおさめるための方便というやつだろう。もっともアリア教徒の信仰する『英雄』が偽物であるというのに本物かどうかなどどうでもいいと思い、アレシャはそれ以上考えるのをやめた。

 ギンジロウについて歩き、直に彼の家にたどり着く。ギンジロウはドアのノブに手をかけるが、何故かすぐにドアを開かない。ヤスケが一つ頷くとギンジロウも頷きを返し、そこでようやくゆっくりとドアを開けた。

 家の中は相変わらず薄暗い。当然人の気配もなく静まりかえっていた。そこでヤスケはふっと息を吐いてアレシャら護衛を招き入れる。三人は今の一連の動きに違和感を覚えつつもそれに応じた。彼らが準備を終えるのを待つ間、商談用の応接間でお茶を頂く。ギンジロウの国ではよく飲まれているらしい、綺麗な薄黄緑色をしているお茶だった。


「……で、どう思う」


 甲冑を着ているが故にお茶を上手くいただけていないアステリオスがアレシャとクリームヒルデに尋ねる。


「私には何かを警戒しているように思えましたが。自分の家に入るときにあのような動きを見せるのは少々妙ではありますわね」

「うーん、確かに変ではあるけど、ただそれだけって感じだけどね。気になるなら聞いてみてもいいかもしれないけど、どうする?」

『聞くだけならタダなのだから聞いてみればいいだろう。もし何か隠しているのなら、力になれることもあるかもしれない』


 ダレイオスの意見を二人へ伝えると、二人ともそれがいいと賛成し、アレシャも同じように賛成だった。簡単に相談を終えたところでお茶を一度口に運ぶと、丁度いいタイミングで荷物を抱えたギンジロウとヤスケが部屋に入ってきた。あれが品評会に提出する武具なのだろうが、今はそれより気になることがあるのだ。団長の役目としてアレシャがズバリ尋ねる。


「ギンジロウさん、ヤスケさん、わたしたちに何か隠してることないですか?今後の依頼を遂行するためにも事情は全て離して置いて欲しいんですが……」

「すまんかった!」


 アレシャの言葉を聞くが早いか、ギンジロウが三人へ向けて頭を下げた。あまりに早い展開にアレシャは逆に戸惑いを覚えつつも、どうやら彼は何かすまないことをしてしまったようなので詳しい事情を聞くことにする。

街の名前を間違えていたので、バルバロス→ガザに修正しました。情けない……。

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