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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
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エピローグ とある深夜の一室

連続投稿3話目

 女は今日の仕事を終え、服の襟を緩ませると自室の椅子に深くもたれる。後ろで一つに束ねた髪をほどくと、綺麗な黒髪が肩にかかった。女の職場は規律が厳しい。勤務中はいつも胸のつまる思いをしていた。

 だから、こうして仕事終わりに自室で月を眺めることだけが女の唯一の安らぎの時間であった。しかし、生憎今日の空は見事な曇天だ。苛つきを隠そうともせずに女は立ち上がる。

 気を紛らわせるために、女は紅茶を淹れることにした。少しすると湯気が立ち上り、茶葉の香りが鼻孔をくすぐる。今日は上手くできたのではないか、そんな期待を持って女は紅茶を一口含む。だが、それは彼女の求めている味ではなかった。乱暴にカップを置くと再び椅子にもたれかかる。


『どうした、えらく苛ついているではないか』


 艶のある女の声がした。その声に黒髪の女は舌打ちする。


「当然だろう。あれだけ手を回したのに、あの男を捕らえることができなかったんだよ?冷静でいる方が難しいさ」

『確かに、わらわも意外ではあった。あの男にまだあれだけの力が残っているとは。ヘリオス程度の実力でも十分対抗できると思ったのだがな。ふふ……やはり、そうでなくては』


 艶のある声が嬉しそうに呟くと、女はまた舌打ちした。


「キミと違って、わたしはあの男が憎いんだよ。本当なら殺してやりたいくらいだ」

『それはいかんぞ?わらわはあの男を手に入れたいのだ』

「分かっているよ。だからこんなに苛ついているんじゃないか。あの男が野放しになっているのが許せないんだよ」


 女がそう口にすると、艶のある声は愉快そうに笑う。それに気分を害した女の表情が更に険しくなった。その蒼い瞳が気持ちを反映するかのように濁りをみせる。


「……一応、力を貸してくれるのは有り難いと思っているよ。もう少し私の意志をくんでくれれば更に有り難いのだけどね」

『わらわはお前のことを良きパートナーだと思っているのだが。それに、わらわがその気になればお前から一切の自由を奪うこともできるのだぞ?』

「私がいなければキミも存在できないというのに、少しくらい感謝しれくれても罰は当たらないと思うけどね」

 

 そんな女の言葉も相手には届いていなかった。艶のある声はなおも愉快そうに笑う。これ以上話をしていてもなんの利益もないと思った女はシャワーも浴びずにそのまま仮眠をとろうと目を閉じる。

 しかし、そのとき部屋のドアを叩く音が耳に入った。小さく悪態をついて入室を許可すると、軽装の鎧に身を包んだいかにも真面目そうな男が姿を現し、敬礼する。女が手を軽く振ると敬礼を止めて姿勢を正す。


「副団長殿、失礼いたします。……誰かとお話し中だったでしょうか」

「いや、キミが気にすることじゃない。それより報告を頼む」

「はっ!団長殿が、明日の警護についてもう一度打ち合わせをしたいとのことです。至急、第三会議室までご足労願います」

「そうか、ご苦労だったな。キミも今日の仕事は終わりだろう。もう行っていいぞ」

「はっ!失礼いたします」


 男は再び礼をすると、部屋を後にした。

 女は大きく息を吐くと、身だしなみを整え直し始める。


「全く、あの男に警護など不要だろうに。一個師団クラスの数の刺客を送り込んでも、自分で対処しかねんぞ」

『そう言うでない。地位には責任が伴うものだ。与えられた仕事はこなさなければいかんぞ』

「そんなこと、キミに言われなくても分かっているよ」


 女は衣服の上から胸当てをし、マントを羽織るとドアに手をかける。そこで一つ気になったことを確認する。


「しばらくは行動を起こす気はないんだよね?」

『ああ。たかが商会だけを相手にして、この結果だ。わらわたちも力を蓄える必要がある。……次であの男を確実に手に入れるためにな』

「……わかった。それでは、私はその時まで自らの職務に励むとするよ」


 女はドアを開け放ち、堂々とした足取りで長い続く廊下の向こうへ消えていった。

第一部完!

次回投稿は9月中になります。それまでお待ち頂ければ幸いです。

この後、一話目から文章の見直しをして、ある程度書きためてからの再開になります。

文章の見直しによって描写の追加などはあるかと思いますが、ストーリーに関わるものではありませんのでご了承頂ければと思います。

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