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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
83/227

83 VSヘリオス

 地面に多数の魔法陣が展開する。そしてそこから巨大な氷柱が突出した。槍のように鋭く尖ったそれをかわし、ダレイオスはヘリオスへ向けて駆ける。その手に展開した魔法陣から火球が飛んだ。ヘリオスも火球を放ちそれを相殺する。爆炎にヘリオスが顔をしかめていると、その中からダレイオスが飛び込んできた。白光を放つガントレットを装着した手を握りしめ、拳を振り抜く。ヘリオスはそれを掌で受け流した。


「ダレイオス様の拳はもっと重かったはずですが、私の記憶違いですかね」

「ほざけ!」


 ダレイオスは身体をひねり、こめかみを狙った踵落としを繰り出す。ヘリオスはそれを僅かな足裁きでかわすと、ダレイオスの腹へ向けて肘をたたき込んだ。ダレイオスは風魔術の推進力を用いてそれを避け、魔法陣を展開する。ヘリオスも同時に魔法陣を展開した。


「『クララアルマ』!」

「『クララアルマ』」


 両者とも光の剣を出現させ、相手へ向けて放った。威力の程は互角。どちらの剣も相手へ届くことは無く相殺された。


『うわ、ヘリオスって人、本当に強いじゃん……。ダレイオスさんと互角とか……』


 アレシャがそう呟く。それはダレイオスも思っていたことだ。ヘリオスは彼が想定していたより厳しい相手だった。魔術の威力は互角。接近戦に持ち込んでも、ダレイオスの体術に同じく体術で対抗してくる。

 その魔術も体術も、昔ダレイオスが仕込んだものだった。皮肉なものだとダレイオスは苦笑する。


「ダレイオス様。あなたはこんなものではないでしょう。少なくとも、この程度の実力ではフンババを倒すこともままならないはずです。加減など無用です」

「買いかぶりすぎだ」


 ダレイオスはそう言うが、事実彼は思うように力が出せていない。彼はヘリオスへの攻撃を躊躇っている自分がいるのを感じていた。大きく啖呵を切った癖に無様を晒している自分に腹立たしささえ覚える。しかし、その迷いを払うことができない。そして、迷いは戦いにおいて禁物だ。

 ダレイオスが逡巡している内に、ヘリオスは魔法陣を展開する。


「燃やしつくせ、『ルーベルメルム』!」


 魔法陣から深紅の火炎が放たれた。火というよりも血を彷彿とさせる色をした炎が周囲を飲み込みながらダレイオスへ迫る。

 ダレイオスは少し反応が遅れるが、大きく跳躍して魔法陣を展開した。そこから凍てつく冷気が放出され、炎を氷の彫像へ変貌させた。ダレイオスはその上に降り立つ。


「やはり素晴らしいですね。炎を凍らせるなんて芸当、そうそうできるものではありませんよ」


 ヘリオスがダレイオスを褒め称えるが、ダレイオスはそれを鼻で笑いとばす。


「お前がそうやって人を褒めるのは何か後ろめたいことがあるときだ。余計な世辞はよせ」

「素直に賞賛しただけなのですが……まあ、そうおっしゃるなら余計なことは抜きにしましょうか」


 ヘリオスが、氷の上のダレイオスへ向けて跳ぶ。ダレイオスは雷を走らせそれを撃ち落とそうとする。しかし、ヘリオスは出現させた氷塊でそれを器用にはじき、ダレイオスの元へたどり着いた。そのまま魔力をこめた掌底を打ち抜く。胸を狙ったそれをダレイオスはガントレットで防御した。強烈な一撃に骨が軋む。

 ダレイオスは突きだしたヘリオスの腕をつかんで力任せに放り投げ、氷へ叩きつけた。ヘリオスは痛みに顔をしかめながらも、追撃させまいと火炎を放つ。ダレイオスがそれを突風で散らせると、炎の向こうから光の剣の群れが飛来した。氷から飛び降りてそれをかわすが、その内の一本が左肩に突き刺さる。地面に下りたったダレイオスは剣を引き抜いて魔術で止血しようとするが、次いで『クララアルマ』の魔術によって生み出された光の武器が雨のように降り注いできた。反射的に転がり氷の裏へ身を隠す。

 ダレイオスは改めて傷を癒やすと、巨大な魔法陣を展開し始める。その顔には焦り、それに何かに怯える色が見える。ダレイオスの不安定な心を察したアレシャが優しく声をかける。


『ダレイオスさん、大丈夫?なんか思い詰めてる感じだけど……』

「否定はできんが、お前の心配することじゃない。私があいつを、救ってやらないと駄目なんだ」

『救う?それって……ちょ、ダレイオスさん、上!』


 アレシャの言葉で視線を頭上へ向けると、巨大な氷塊が落ちてくるところだった。慌てて駆け出しそれを避け、ダレイオスは魔法陣を掲げる。


「面倒だ、全部吹き飛ばしてやる!風よ!聖なる光を纏いて邪なる火を払え!『ニルヴァーナ』!」


 魔法陣から剛風が噴出した。それは部屋の中央で荒れ狂う竜巻となり、周囲の氷塊を粉々にしていく。しかし、次いで出現した竜巻によってその二つは相殺される。

 ダレイオスがそれに驚いていると、風が止んだ向こうからヘリオスがゆっくりと歩いてきた。その手には火球が浮かんでいる。ヘリオスがそれを放ち、ダレイオスが障壁を張って防ぐ。ヘリオスがそのまま炎弾を乱射し、ダレイオスは防御に徹するしかない。


「ちっ、鬱陶しい!」


 ダレイオスの手から眩い光が発される。ヘリオスが一瞬目を細めた隙にダレイオスはヘリオスへ駆けより、上げ突きを放とうとするが、ヘリオスは上体を反らしてそれをかわした。そのまま返しでダレイオスの腹が思い切り蹴り飛ばされる。ダレイオスは大きく飛び、壁にぶち当たった。さらにヘリオスが一瞬で距離をつめ、ダレイオスの首を掴み締め上げる。


「ぐ、あぁっ!」

「私の炎を凍らせたときは期待したのですが、先ほどの『ニルヴァーナ』といい、目くらましといい、やはり今のあなたでは『魔王』と呼ぶには値しないようですね。それでは、困るんですよ……」


 ヘリオスが眉間を狭ませて呟く。ダレイオスを追い詰めているにも関わらず、その声音は弱々しいものだった。

 ダレイオスは自分の首をしめる力が僅かに緩んだ時を狙ってヘリオスを蹴り飛ばす。痛みに低く声をもらし、ヘリオスは膝をつく。そこへ回し蹴りで追撃し、ヘリオスを地面に転がした。そこでダレイオスも大きく咳き込む。そして、むくりと起き上がったヘリオスを睨みつける。


「くそ、お前もお前だ。私に全力で戦って欲しいならそんな顔をするんじゃない。努めて悪になろうとしているつもりなんだろうが、下手くそなんだよ」

「何をおっしゃっているか、分かりませんね」

「お前と、何年一緒にいたと思っているんだ。お前を見れば、全部分かるんだよ」


 二人はヨロヨロと立ち上がった。

 ダレイオスは分かっていた。目の前にいる自分のかつての臣下、その男は完全な洗脳状態にあるわけではないと。直接会い、言葉を交わして実感した。発する言葉や仕草、戦い方や考え方も昔と何一つ変わっていない。それが、ダレイオスが戦いを躊躇している原因だった。いっそ敵に染まっていてくれれば、どれだけ楽だったか。ダレイオスはそう考えずにはいられなかった。

 ヘリオスはそんなダレイオスの目を真っ直ぐに見つめる。それで、眼前で苦しげな顔を浮かべる主が何を思っているのか察したようだ。そして僅かに微笑む。


「ダレイオス様。“死人”である私にとって、主の命は絶対です。ですから、私にはこれ以上どうすることもできません。あとは、あなたにお任せするしかないんですよ。……どうか臣下の我が儘を聞き届けては貰えないでしょうか」


 ヘリオスの言葉がダレイオスへ響く。彼が何を求めているのか、ダレイオスは理解していた。それを行動に移そうと、魔法陣を構え多数の光の剣を出現させる。ヘリオスは障壁を張ってそれを防ごうとするが、攻撃は飛んでこない。何をしているのかとヘリオスがダレイオスを注視すれば、ダレイオスは光の剣を一つにまとめ上げていた。より鋭く強い輝きを放つ大剣が生成される。


「『カエルムアルマ』!」


 高速で飛来するそれを防がんと、ヘリオスは更に分厚く障壁を張る。しかし、光の大剣の重量はヘリオスの想定を越えていた。大剣と相殺され、障壁は粉々に砕け散った。その反動で大きくのけぞったヘリオスにダレイオスが肉薄する。そして震えるほどに握りしめた拳を振りかぶった。だが、一瞬苦悶の表情を見せると、彼はヘリオスを遠ざけるように蹴り飛ばした。振りかぶった拳は力一杯、地面へ叩きつけられる。


『ダレイオスさん……』

「すまない、アレシャ。あまり大丈夫ではないようだ。本当に駄目だ、私は……」


 ダレイオスはもう一度拳で地を叩く。しかし、その手に力はなかった。


「あいつは、ヘリオスは何も変わっていない。昔のままだ。そんなやつがこんな非道な行いを進んでするはずが無い。あいつは苦しんでいるんだ。あいつは、私に助けを求めていた。私しかあいつを解放してやれないんだ。……だが私に、あいつを殺すことなんて、できない。あいつを、救ってやれない」


 千九百年前、力及ばず自分の国を、友を失った。その失った男は再び自分の前に現れ、今度は助けを求めてきた。しかし、またしてもその男を救うことができない。己の弱さ故にだ。ダレイオスはそう嘆く。

 ダレイオスはヘリオスと戦いが始まってからずっと悩んでいたのだ。ヘリオスを殺すことが自分の使命だと。苦しそうな表情を浮かべ、自らの所行を話すヘリオスの姿に彼は囚われてしまっていた。

 それを聞いたアレシャは、少し強い語調で話はじめる。


『ダレイオスさん、今から色々言いたいこと言うけど無視してくれていいから』


 なんだ、と耳をかたむけるダレイオスの頭に声が響く。


『殺すってなにさ!なに勝手にそんなことしようとしてるの!?』


 頭痛がするほどの音量でアレシャが叫ぶ。耳をかたむけたことをダレイオスは後悔した。アレシャはそれも気にせずしゃべり続ける。飛んでいったヘリオスが戻ってこないかがダレイオスは気がかりだったがお構いなしだった。


『わたし言ったじゃん!殺さない方法を見つけるって!それなのに一人で勝手に殺そうとして苦しんでって馬鹿でしょ!私も色々策とか考えてたのに、なんで相談とかしてくれないのさ!あ、無視しなきゃなんだっけ。じゃあ、どうやって相談すんの!』

「…………」


 本当に言いたいことを好き勝手に話しているだけだった。ダレイオスは音量とは別に頭痛がしてきた。だが、ダレイオスはアレシャの信条をねじ曲げようとしてしまっていたことを恥じる。彼は目の前の臣下のことに意識を持っていかれ、重要なことを見失っていた。


『まだ何もしてないのに殺すしかないって馬鹿じゃん!全部やれることやらないと絶対後悔するに決まってんじゃん!それくらい分かってよ!怒るよ!』


 もう怒っているだろう、とは口を挟めなかった。ダレイオスはただ黙って話を聞き続ける。


『……だいたい、そんなことしたらダレイオスさんは救われないでしょ?そんなのわたしは嫌。わたしの信条どうこうよりもそれが嫌だよ』


 アレシャの声音が優しいものに変わった。そのアレシャの一言にダレイオスは僅かに驚きをみせる。

 この少女は救える可能性があるもの全てを救おうとしている。それをやはり甘々の理想だと思ったが、その理想を語ることができる人間がどれほど居るだろうか。ダレイオスには、その理想はとても尊いものだとも思った。


『色々言ったけど、ダレイオスさんに戦って貰わないとわたし、死んじゃうしね。わたしはまだまだ死にたくないんだから頑張ってよ!……まあ、ダレイオスさんは『魔王』様なんだから、全部できるよね?』


 最後に身も蓋もない本音が飛び出した。ダレイオスはそれに微苦笑をこぼしながら立ち上がる。

 『魔王』だから全部できるとは買いかぶりもいいところだ。だったらこんな状況になってなどいない。だが、そんな風に言われてしまってはダレイオスも立ち上がらざるを得なかった。

 丁度そのとき、腹を押さえたヘリオスがゆっくりと歩み寄ってきているところだった。ダレイオスは正面からその顔を見据え、拳を握りしめた。

 ヘリオスを殺さずに解放するなんて都合のいい方法をダレイオスは知らない。そんな方法は存在しないだろうとダレイオスも分かっていた。だが、相棒を信じて、その甘々の理想に乗っかってみるのも一興だと思った。

 ダレイオスは小声でアレシャへ語りかける。


「私は本当に駄目だ。いや、駄目になるところだった。ありがとう。……それで、お前は策があると言っていたがどうするつもりなんだ?」

『策?えっと、ヘリオスさんを捕まえるのはできると思う。けど肝心のその後のことはダレイオスさんに任せてもいいかな……?』


 ダレイオスはついため息がこぼれてしまう。結局ヘリオスを救えるかはダレイオス次第だということだ。しかし、ダレイオスはそれを承諾した。


「立ち上がってしまった以上、もはややるしかないだろう。それで私はどうすればいい」

『ヘリオスさんを消耗させてほしい。失敗しちゃったら終わりの一回しか使えない策だから、絶対に逃げられないようにしたいの。でも、殺しちゃ絶対駄目だよ!』

「分かってるさ」


 ヘリオスがその手に魔法陣を展開する。やはり、その表情は憂いを帯びているようにダレイオスには感じられた。この表情を清々しいものにできればどれだけ嬉しいか。ダレイオスはそう思った。

 全ては彼自身にかかっていた。だが、『魔王』に迷いは無い。その手をかざし魔法陣を展開する。


「いい光を持つ魔法陣ですね。それでこそあなただ」

「ヘリオス、私にお前を殺す気はない。だが、お前を救ってみせる。だから安心してくれ」


 ヘリオスはそれに小さく微笑むと、目を閉じた。それが開いたとき、彼の表情から憂いが消えていた。

 両者はにらみ合い、そして魔法陣を発動させる。

これから連日投稿します

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