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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
68/227

67 頑張っていきまっしょい

『そうだ、その調子……今だ!』

「はあぁっ!」


 力の入った声とともにアレシャの手から火球が放たれる。

 勢いのまま訓練場に設置された的へ一直線に飛び、爆音をあげて炸裂した。的は粉々という表現意外で形容できないほどの粉々になって吹き飛ぶ。その結果にアレシャがつい歓声を上げた。


「おお!今のよかったんじゃない?よかったよね!」

『ああ。下手な魔術師よりもよっぽどいい一撃だった。これを安定して使えるようになれば十分実戦にも使えるだろう』

「よっしゃ!」


 ごうごうと燃えさかる炎の前でアレシャは小躍りする。

 昨夜の決断から数時間後の早朝、アレシャは商会本部の訓練場で魔術の特訓をしていた。これまでの地道な練習が実を結び、ついに魔力の調節が上手くできるようになったのだ。

 つまり、アレシャもようやく魔術師の仲間入りを果たしたというわけだ。アレシャは拳を握りしめ、その歓喜に打ち震えるが、そこにダレイオスが口を出す。


『とりあえず、この火を消した方がいいんじゃないか?焦げるぞ』

「あ、そうだった!よし、じゃあここもいっちょわたしが……!」


 アレシャが再び魔法陣に魔力を注ぎ込み始め、先ほど上手くできたときの感覚を思い出しながら魔法陣を解放する。アレシャの頭の中には激しい水流が炎を消す光景が浮かんでいた。が、現実の魔法陣からは、人に浴びせると良い嫌がらせになるだろう程度の水しか出てこなかった。それで炎を消すことなど当然できず、清々しいほどに焼け石に水状態であった。


「……あれ?あれ!?全然できてない!熱い!炎が熱い!」

『落ち着け。私が消火する』


 ダレイオスがため息をついてアレシャと交代しようとすると、突如として激流が巻き起こり炎は見事に消火された。それが放たれた方へアレシャが視線を向けると、そこには美しい銀髪の女性が手を振っている姿があった。


「さっきの炎はよかったけど、やっぱりまだまだってところみたいね」

「あ、お母さん!」

『ほう、今のはフェオドラの魔術だったのか。中々やるじゃあないか』


 フェオドラはアレシャの方へ歩み寄ってくる。仕事は問題ないのかとアレシャが尋ねるが、丁度これから休憩をとるところとのことだ。フェオドラは「それよりも」と切り出して訓練場にやってきた目的を果たすことにする。


「昨日の答えが出たか聞きに来たんだけど、その様子じゃ答えは出たみたいね」

「うん。わたしは……冒険者を続けていきたい。でも、人を殺す気はないよ。難しいかもしれないけど、そうするって決めたんだ。だからそれには強くならなきゃって思って、早速特訓してたの」

「なるほどね。……アレシャなら絶対そう言うと思ってたわよ」


 アレシャはまたしても母に自分の考えを予測されていたと知って驚きつつ、どうして分かったのか尋ねるが、フェオドラの答えは至極簡単なものであった。


「それは、あなたのお父さんも同じことを言ってたからよ。『俺は誰も殺したくない、殺す気もない!』ってね」

「え、そうなんだ!?」


 その父の台詞は、まさに昨晩アレシャが言ったものと同じだった。アレシャもダレイオスも刹那驚きの表情を見せた後、クスリと笑いをこぼした。

 ただ、アレシャと父の目指す冒険者のあり方が同じというならば、アレシャは一つ気になることがあった。


「それで、お父さんは人を殺さないって思いを突き通すことはできたの?」

「……残念だけどできなかったわ。でも、いつだって人を助ける道を探して、自分の信念を貫いていたわ。あなたの選んだ道はきっと難しいことでしょうけど、頑張って。昨日も言ったけどお母さんもついているし、何よりあなたはお父さんの娘なんだから、きっと頑張れるわ」

「うん!ありがとう、お母さん!」


 にっこりと微笑むアレシャにフェオドラも笑顔を返し部屋を出て行こうとするが、ふと立ち止まって何か考え込む。少しするとくるりと振り返ってアレシャの元へ戻ってきた。


「あなたのそのカチューシャ、お父さんから貰ったものよね?」

「え、うん。そうだよ。お父さんがお土産に買ってきてくれたの」

「……じゃあお母さんもこれ、アレシャにあげるわ」


 そう言ってフェオドラは自分の耳につけていたイヤリングを片方だけ外し、アレシャに手渡した。

 どこか幻想的な青い輝きを放っているそれを、アレシャは興味深そうに眺める。


「そのイヤリングね。アレシャは会ったことないけど、あなたのお祖母さんがくれたものなのよ」

「そうなんだ……。お母さん、昔からずっとつけてたもんね。でも、そんなもの貰ってもいいの?」


 少し申し訳なさそうにアレシャが尋ねるが、フェオドラは勿論という風に頷いた。


「アレシャに貰って欲しいの。片耳ずつならお母さんとお揃にできるしね。どうかしら?」

「お揃いか……。うん、貰うよ。ありがとう!」


 アレシャは受け取ったイヤリングを右耳につけ、軽くはじいた。キン、という透き通る音が心地良く響く。アレシャも気に入ったようだ。


『しかし、不思議な色をしているな。最初はラピスラズリかと思ったが違うようだ。いったい何の宝石何だ?』

「うーん、わたしも見たことないな……。ねえ、なんて宝石なの?」

「……さあ、お母さんも知らないわね。お祖母さんだったら知ってたかもしれないけど、お母さんが子どもの頃に死んでしまったから聞くこともできないわね。けど、綺麗でしょ?アレシャの眼の色にそっくり」

「うん。お母さんの眼の色にもね」


 親娘でもう一度笑い合ってから、フェオドラは仮眠をとるために訓練場を出て行った。よく見てみると、その足取りは些かおぼつかないものであった。長時間の仕事で疲労が溜まっている中、娘を励ますために態々やってきたのだろう。アレシャは自分の我が儘にも優しく付き合ってくれている母に感謝した。


「へへ……もらっちゃった。イヤリング」

『よかったな。……そういえば、お前の目の色は瑠璃色をしてたんだったな』

「うん。それがどうしたの?」

『いや、個人的に蒼い目の色をした女にいい思い出がないんだ』

「何それ……」


 ダレイオスの極めて個人的な話にため息をつく。そしてもう一度イヤリングを指ではじき、アレシャは気合いを入れ直した。母からのエールは確かに受け取った。なら、自分もそれに答えたい。アレシャは「よし!」と一言呟き、ダレイオスの手ほどきの元、再び魔術の特訓に戻るのだった。

どちゃくそ忙しくて、二週間ほど更新が止まります。

それを越えれば更新速度は寧ろ上がる模様ですので、見捨てずにお待ち頂ければ幸いでございます。

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