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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
66/227

65 嵐の後

 嵐が去った会議室に残っているのは、アレシャ、ランドルフ、フェオドラの三人だ。オズワルドは一階の鎮圧に向かい、元古参冒険者の“死人”たちは例の如く砂のようになって死んだので、この三人だけである。


「お母さん!無事で良かった……」

「アレシャ、ごめんね心配かけて。でも、やつらを取り逃がしてしまったわね……」

「まあ仕方ねえよ。次会ったときに叩き潰せればそれでいい。あいつら、剣をつきつけた程度で俺を人質にとった気でいやがったからな。俺をなめてかかったことを後悔させてやらねえと」

「『頼もしい限りだが、それよりもあの黒い蛇はなんだったんだ。ランドルフの策ではないのか?』……ってダレイオスさんが聞いてるけど」

「ん、そうだったな。おい、ヒルデ!出てきていいぞ!」


 ランドルフが何者かに呼びかけると、部屋の隅にある影から人の形が浮かび上がった。それはやがて確かな輪郭を持ち、完全な人間の姿となる。その人間は、黒い髪に黒い瞳、黒いゴシックドレスを身に纏った一人の少女だった。スカートの裾をつまみ、アレシャへ向けて優雅に礼をする。


「お会いできて光栄ですわ。私はクリームヒルデと申します。これでも、Aランクの冒険者を務めさせていただいておりますわ」

「お、おおお女の子が出てきた!えっと、ど、どうもアレシャと申します」


 混乱しつつもアレシャも深々と頭を下げた。どうやら、この少女がランドルフのとっておきだったようだ。ダレイオスがランドルフに詳しい説明を求める。


「臑かじりどもが連れてきた護衛がチェックを通ったとはいえ、どうしても気になってな。会議の直前にそいつに声をかけたんだ。会議室に潜んで、何かあったときはよろしく頼むってな。で、事実その護衛は“死人”が化けていて俺の采配は見事的中!ってわけだ」

『なるほど。つまり、この少女がいなければかなりマズかったというわけだな』

「そりゃ凄いね!えっと、クリームヒルデ……さん?」

「それほどでもありませんわ。あと、私のことはもっと気楽に呼んでくださってかまいませんわよ?」

「そう?じゃあクリームヒルデちゃんで」


 仲良く話す二人を見て、てっきり自分の采配を褒めて貰えると思っていたランドルフは少し寂しくなるが気を取り直して今後の話をすることにする。


「さて、一階の騒ぎはもう鎮圧された頃だろうな。早く“死人”への対策を練りたいところだが、その前にやらなきゃならねえことがある」


 ランドルフは部屋の隅に寝かされた遺体へ目を向ける。どうしようもない輩ではあったが、何も死ぬことはなかった。その死の原因の一端は商会にあるとも言えるので、ランドルフも責任を感じているらしい。


「とりあえず、こいつらの死についてこいつらの家の者への説明と、『冥界術式』による大量死事件の後処理をしなきゃならん。特に『冥界術式』事件の方は、今も多くの人が不安にかられているだろうからな。早く詳しい情報を与えてやりたい。“死人”についての対策はそれからになる」

「そうだね。それが先決だと思う」

『奴らも準備が整うまで攻めてはこないだろう。焦りすぎる必要は無い』


 ランドルフは頷き、早速行動に移す。フェオドラに遺体の管理を任せて執務室へ戻り、アレシャとクリームヒルデには一階の後始末を命ずる。この非常事態でも冷静に行動できるあたりは、さすが商会長ということなのだろう。

 少女二人が階段を駆け下り商会の一階ロビーへ到着すると、そこにあったのは何とも悲惨な光景だった。

 壁や床の至る処に血痕が残り、多くの人間が地に伏せている。ヴェロニカたちなら大丈夫だと思っていたアレシャも、それを見てとたんに不安になる。しかし、それも杞憂であった。既に怪我人の治療に当たり始めている仲間たちの姿をすぐに見つけることができたからだ。

 駆けよってくるアレシャの姿を見たオズワルドが声をかけてくる。


「アレシャちゃんか。上はもういいのかい?」

「うん。おじさんもお母さんもやらなきゃいけない仕事があるからって」

「そうか。あいつらも大変だな」

「で、オズワルドさんは大丈夫だった?」

「ああ。儂が来たときにはもうほとんど片付いていたよ。彼らがよくやってくれたみたいだ」


 オズワルドはそう言ってヴェロニカの方へ視線を向ける。彼女もそれに気づき、同時にアレシャが来ていることにも気づいた。彼女は自然と笑顔になり、二人の方へ駆けてくる。その瞬間、アレシャの横っ腹に弾丸の如くメリッサが突っ込んできた。


「アレシャちゃん!無事でよかったです!」

「ダ、ダレイオスさんが頑張ってくれたから……。それより、メリッサさんの方こそ大丈夫だったの……?」

「多少手こずりましたけど、怪我も大したことないですし、問題ないです!」

「そっか、それはよかった……」


 脇腹をさすりながらアレシャが立ち上がり、苦笑するヴェロニカがアレシャの頭をぽんぽんと叩く。メリッサの言う通り、彼女にも大した傷はなさそうだった。この様子ならヘルマンとアステリオスも大事ないのだろう。となると、気になるのはその他の人だ。


「えっと、他の冒険者の方は……?」

「“死人”たちとの実力は劣りはしないもののそれほど勝っているわけではなくてね。死者もそれなりに出てしまったわ。……正直、自分の力不足を感じるわね。私がもっと強ければ誰も死ななかったかもしれないのに」


 そう言ってヴェロニカは歯がみする。強敵との戦いが続く中、彼女も色々と思うところがあるのだろう。

 安直に慰めの言葉をかけることもできず、アレシャは黙ってしまう。

 その空気を察してか、後ろで静かにしていたクリームヒルデが話題を変える。


「それで、“死人”は全滅したのですか?」

「ん、お前か。さっきはご苦労だったな。“死人”は全員始末したが……まあ、気持ちのいいものではないな」


 そこらに横たわる遺体に目を向けたオズワルドが苦しげに呟き、アレシャもそれに同意を返す。


「言ってしまえば、この人たちも被害者なわけですもんね」

「そうだな。儂が斬った男も、前に一度会ったことのある人物だった。だが、そう考え始めてしまってはまともに戦えなくなる。難しいかもしれないが、割り切ってくれ」

「いえ、大丈夫です。できる限り殺しはしたくないですけど……わたしの周りの人が危険な目にあってるのに、あまり甘いことも言ってられませんから」


 アレシャがそう口にするが、ダレイオスはアレシャがそんなことを口にすることを以外に思う。アレシャなら、もっと人の死に敏感だと思っていたからだ。

 それが気にかかりつつも、彼はそれより自分のことを心配しなければならなかった。かつて自分の臣下であり友であった男を殺せるのか、いざその時になると躊躇してしまうのではないか。ダレイオスの内にそういった不安が頭をもたげる。実際、先ほどナイフを振り抜いたとき、反応しようと思えばもっと早くできたはずだ。それは自分の躊躇いによるものだとダレイオスは考えていた。決戦の時はそう遠くはないだろう。それまでにこの迷いを断ち切らねばと彼は心に刻んだ。

 そうして話をしていると、ヘルマンがオズワルドに駆けよってきた。


「人手が足りなくて時間がかかりましたが、怪我人の治療、無事に終わりました」

「ご苦労だったな。それじゃ、死者たちを地下室に運ぶのを手伝ってくれるか」

「はい、分かりました」

「あ、わたしも手伝います」


 アレシャたちは商会の職員たちによって布でくるまれた死者たちを台に乗せて運び、地下室に一人一人寝かせていく。アレシャはただ無心で仕事をこなしていた。しかし、アレシャが一つの遺体をかついで下ろしたとき、その布が少しはだけてしまう。死者の顔が露わになる。


「……あ」

『どうした、アレシャ』

「この人……冒険者の登録試験のときにお礼を言ってくれた人だ。救ってくれてありがとう、って。……でも、死んじゃったんだ」

『……早く仕事を終わらせよう。疲れているときは色々と考え込んでしまう』

「……うん、そうだね」


 アレシャはそっと布を元に戻し、作業を続ける。

 先ほど割り切って戦うと決心したばかりだというのに、彼女の心には迷いのようなものが生じ始めていた。

 アレシャは、そんな自分のことがたまらなく情けなく思えた。

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